本日から、生まれて初めての沖縄に行って来る。初めてだというと結構びっくりされるのだが、本当にこれまで沖縄には縁がなかった。
コーディネートしてくれたのは、大学の同期であり、食い倒れ日記読者であり、沖縄出身の卓である。こいつとは付き合いも長いし、仕事も一緒にしたことがあるし、嫁さんも僕の知り合いだし、何かと縁がある。
「ヤマケン、まだ沖縄行ったこと無いんだろ?行く時は俺がコースを組んで、アテンドしてやるよ!」
と言ってくれていたのである!
それが成就する。彼が組んでくれた旅程は怒濤のように食い倒れるコース満載だ。一日何食食べるんだろうか、、、
沖縄でも日々アップロードするぞ!お楽しみに!
沖縄に来た!空港に着くやいなやモワッという熱気に包まれる。ロビーに出ると、帰り便をのキャンセルを待つ人々で一杯である。こりゃ大変だ、、、台風を心配してくださったみなさん、どうもありがとう。全然大丈夫です。俺はですね、強烈な晴れ男なのですよ。
外に出ると、親友の卓と、その沖縄時代の親友であるキッペイちゃんが迎えに来てくれている。
「ようこそ、沖縄へ!」
「いやぁ 熱いねぇ!」
「二人とも運がいいよ。台風一過で、明日からは完璧に晴れるよ。」
そう、台風は行ってしまった。
さて
県の公務員であるキッペイちゃんは、卓と俺と加賀谷の沖縄ツアーのために、3日間も休みを取ってくれた。彼の勤め先はなんとあの高級リゾートであるブセナリゾート開発である。今は97%の稼働率らしい。俺は食い倒れが目的なのでそんなのは必要ないのだが、、、
「まず早速、沖縄のそばを食べてもらおうと思って。」
やった!望むところである。
「旅程を組んだ時には、有名な首里そばという店にしたんだけど、実は正統な味ではないんで、もっと地元の人が行くような店にしようと思って。」
といって彼が来るまで連れて行ってくれたのが「淡水」という店だ。空港から車で15分くらいか。全くの住宅地にポツッと建っているプレハブ作りの質素な構えである。
この「すば専門店」というのがいい味出してる。
そう、琉球語では「お」という母音は存在していなかったそうで、正式にはソバではなく「スバ」なのだそうだ。
店内は簡素ながら綺麗な作り。労働者ばっかりというイメージではない。まだ11時なので、開店したてで混んでいない。
メニューは当たり前のことながら沖縄そばしかない。
じゅうしいというのは混ぜご飯だそうだ。
「まあこっちの人にとってソーキはご馳走ですから、ソーキソバがいいでしょう。」
という説明が。ちなみに下写真の右がキッペイちゃん、左が卓である。
ということで僕はソーキソバ大盛りとじゅうしい、みんなは普通盛りのソーキソバという注文を。最初からガツンと行っておくのである。
程なくして出てきたのがこれだ!
じ、実に旨そう! 淡い色の出汁に、美しい平打ち太麺がタップリだ。このドンブリが運ばれてきた時、3人から「おおっ」という声が。普通盛りと比べて2倍くらいの麺量なのだ。すげぇ。
出汁をすする。昆布出汁と豚かなにかの出汁が混じっているのか、じっくりと地味ながら深い味わいだ。かなり旨い。これは、毎日食べられる健康的な味である。
麺を啜る。太く噛み応えタップリの麺だ。卵の風味はあまりないが、非常にしっかりとした小麦の香りがする。
「こっちの麺は、内地のそばと違って噛んで楽しむ麺なんですよ。」
たしかにそうだ。がっちり噛みしめて旨い!
「これに、お好みでこのコーレーグースーをかけてください。島とうがらしを泡盛に漬けたモノです。酒の匂いつきますけど、旨いんですよ」
コーレーグースーを少しまぶして麺を啜ると、強い刺激感と泡盛の風味が出汁に合わさり、鮮烈な風景が眼を通り過ぎた。こいつぁイイ!
ちなみに「じゅうしい」も旨い。しいたけが沢山入っていて、旨味だしタップリである。
しかし、いきなり極太倍量の麺はなかなかにハードだ。けど旨い!てことで、汗をダラダラ流しながら完食。最初からハードな出だしだが、これだけ旨い料理なら大歓迎である。
勘定を済ませ、外に出る。
この店、地元民イチオシのすば屋である!最初からこんなディープな店でよかった。ぜったいに観光客は分からない店だわ。
その後、天ぷらを食べる。
こっちの天ぷらは、衣がやたら厚くもちもちしており、かつ味が付いている。一つ45円とバカ安である。
これをつまみながら車を走らせる。甲イカの天ぷら、弾力が最高。
正体不明のもずくの天ぷらもなんだかふんわりして旨い。
大丈夫だろうか?もうハラがパンパンだ、、、
そして今、ホテルにて休憩中。これからすぐ、沖縄ダチ連中との夕べに行くのである。
そばを食べた後は、観光農園で熱帯植物を眺めつつパッションフルーツワインを一本あけ、ドラゴンフルーツ2つを4人で食べる。ドラゴンフルーツの苗、というかサボテンだから挿し木でどんどん増えるのだが、500円でどっさり入った苗が売っている。持って帰りたいが、関東では無理だなぁと思い、やめておく。
観光村に行き、プロのエイサーを観て楽しんだ後は、ホテルで一瞬休憩をした後にすぐさま飲み会である。
居酒屋「音」に卓、キッペイの仲間がワイワイと集まってきた!皆、最高にいいヤツである。ビールはほんの一杯だけ、すぐさま泡盛の水割りに。こちらでは泡盛のことを「しまー」という。島の酒だからだろう。この「しまー」を、「お通り」という作法で飲むのが宮古島の伝統文化だそうだ。
「お通り」は、座の中の一人が親となり、挨拶の口上を述べて杯を干す。そして、座の一人一人に杯を一杯ずつ親が注いで回していく。この杯には親の気持ちが入っているので、これをきっちりと飲み干し、「ありがとう」と返す。そして一巡すると最後に親がもう一杯干して、次ぎの親を氏名する。この連続である。とにかく皆、強い!きっちりと飲み干していく。日頃はそれほど飲まない僕だが、成り行き上ガンガン飲んでいく。しかし、限りなく陽性のエネルギーに満ちた場なので、全く負担にならない。
そういえば、沖縄の居酒屋は安い!ビールやチューハイが100円とかで飲めて、つまみの料理も350円均一という安さだった。350円のつまみ類と言ってもきちんとした料理だ。
■スクガラス豆腐
このスクガラスというのは、小魚の塩辛みたいな、渋いひねりの利いた発酵食品だ。これを、沖縄特有の堅い豆腐に載せて食すのが旨い。
スクガラス、こちらの若い人たちはあまり食べないということだが、実に味わい深かった。
■もやしチャンプル
■ゴーヤーチャンプルー
■グルクンの唐揚げ
■ヒラヤーチー
さてこれらを食し、お通りも8人がそれぞれ親になり一巡した後、次の店へと移動。
「やまけん、旨いもん食わせるよ!」
とキッペイが連れて行ってくれたのが、見た目にはイタリアンか?という感じの小さな洋食屋だ。
■洋食味処 こうちゃん
キッペイ、卓らは超・常連という感じ。
奥の座敷に通り、待望のオリオンビール生を早速やる。すると出てきたのはタコスだ!
「ここ、実はタコスが有名なんだよ」
なるほど、沖縄ではタコス屋というのが珍しくない。関東とかではメキシコ料理屋というカテゴリしかないが、沖縄はタコライスもあるし、タコス屋という業態が成り立つわけだ。
このタコス、皮がパリッとしたタイプのものだが、皮の焼き加減といい、ミートのスパイス旨さといい、サルサソース、サワークリームとの相性も抜群で最高な気分になる。タコスにかぶりついて半分くらい頬張り、オリオン生を口蓋に注ぎ込む。オリオンの軽さとタコスのスパイシー感、そして沖縄の夜の空気が混ざり合って、俺はどこにいるのかという浮遊間を味わう。
この後、仔牛肉のソテーにパルミジャーノをかけたモノなどが出てくる。
イタリアンともテックスメックスともつかぬ料理の中に、すごいひと皿が出てきた!
「やまけん、これ、なんだかわかる?」
「わからんよ、、、何だいこれ?」
「これはねぇ、鰻オムライスだよ!」
なんと!凄まじくそそる一品だ!
スプーンで割ると、卵などがまぶされたライスの上に鰻が載ってカリカリにソテーされている。そこにデミグラスっぽいソースがデロッとかかっているのだ。これは度肝を抜かれる。
味は濃厚。米の固さ、まぶされている卵衣、上にかけられたソースが絡み合って、鰻の濃厚さに全く対抗的な全体像になっている。
「う、うめぇなこれ、、、」
「そうだろ?こうちゃんはこの辺じゃ有名なんだよ。」
実に素晴らしい! と、そこにマスターの「こうちゃん」が顔を出す。
そして卓に「お父さんから、何でも俺のおごりで飲んでもいいよってことですよ」と。そう、川端卓の親父は、沖縄ではちょっと知れたテレビ制作関連の大物なのだ。どの店にも顔が利くらしい。さっそく親父さんのおごりでシャンパンを飲む。シャンパンって、一気に酔いが来る。ちょっとフラッと来たが、気を取り直し次ぎの店へと進む。
「次ぎは山羊を食べに行くぞヤマケン!」
永遠に終わりそうにない夜なのであった、、、
さて
沖縄を訪れる観光客をビビらせる食べ物といえば山羊汁だろう。その独特の香りというか獣臭はかなり強い。その山羊汁を食べに行こうと言われたのだが、10分ほど歩いて移動してたどり着いた店はすでに閉まっていた。
「残念! 閉まってたら仕方がないね!でも、旨いステーキハウスならあるよ!」
な、なに?ステーキ?
「やまけん、まだ行けるの?じゃあ行こうか、ジャッキー!」
そういって歩き始めると、同行6人の足が反対方向を向いた。山羊料理店からほどなく、裏路地に「ジャッキーステーキハウス」の電飾があった。
「この辺じゃ有名だね、この店を知らない人はいないよ!」
とキッペイ。
どうも、沖縄といえばジャッキーというくらいに有名らしい。女性陣もかなり食っているのに、「食べよう食べよう」と飛び跳ねながら入っていく。ドアの前にはこんなポスターが。
車をジャッキアップしている絵があり、「力がつきます! ジャッキー」 という凄まじいセンスのコピーだ! そっちのジャッキーかよ!
さて入店すると、素晴らしいアメリカ式のビルボードタイプのメニューがある。
「ハムエグ」 とか 「MISO SIRU ミソ シル」 とか書かれているのが溜まらなくイイ!
筆頭に書かれているのはテンダーロイン。
L 1900円
M 1700円
S 1500円
というラインナップだ。その下のニューヨークステーキが
L 1400円
S 1300円
これにライスとサラダが付いてくるらしい。
「テンダーロインはね、ヒレ肉みたいに脂が乗ってない、サッパリしたヤツ。これが旨いよ」
というキッペイだが、残念ながら俺はギトギト・こってりロース派なので、ニューヨークステーキのLにする。
「え、本当にL食べるの?200gだよ?」
というが、食べてみたいではないか。これに加えてスパゲッティというのも頼んでみた!
ほとんど待たずに出てきたのは、熱々の鉄板の上に盛られたミートソーススパゲッティだ。
スパと言ったら何が出てくるのかと思ったが、ミートソースが主流らしい。チーズをどっぷりかけていただくと、缶詰ではない、きちんと厨房で仕込まれたミートソースだった。
これを半分程度やっつけていると、目の前のNちゃんが頼んだCランチが出てくる。
「夜なのにランチってとこがいいでしょう」
おお、そういえば夜なのにランチ!このパターン、福井県のソースカツ丼の名店「ヨーロッパ軒」と同じだ!夜中でも頼めるランチがあるというこのパターンには何かがあるに違いない。
果たしてCランチは素晴らしい代物だった。ひと皿にトンカツとハンバーグ、サラダとご飯が盛り込まれているのだ。
これがなんと、450円なのだ!うーん 沖縄ってどういう処なんだ!
そうこうしているうちにジューという音と共に、ステーキがやってきた。200gのロース肉がミディアムレアになってやってきたのだ。ちなみに、焼き加減とパンorライスは選ぶことが出来る。
このステーキに「絶対このソースが合う!」といわれたのが、写真左端の「ナンバーワンソース」だ。
ドロリと濃厚で少し赤みがかったこのソースをかける。肉を大きく切り分け、ガフリと頬張り、噛みしめる。
控えめながら豊満な肉汁が口いっぱいに溢れ、ナンバーワンソースの酸味がかったスパイシーな味と香りと混ざって、まさに肉を食っているというパワーがみなぎる。このblogを書いている真夜中現在、また食いたくなってきてしまった!
この肉とスパゲティをやっつけている最中、前にいたNちゃんが食いきれないらしく、トンカツとハンバーグ、白飯の半分ずつを乗っけてくる。こいつもやっつけてガッツリと食い終わった。
俺もほぼ、限界点である。
「よく食ったねぇ やまけん! 沖縄は気に入った?」
まだ一日目だっていうのになんだこの濃さは!最高に気に入ったゾ!どうもありがとう!!
ジャッキーを出て、ビーチサイドホテルへ。部屋につくとたまらずバタンキューなのであった。これが一日目の顛末でした。
一日目の腹一杯加減から立ち直る間もなく起きる。ホテルの朝飯はセルフサービスの珈琲とパン。味気ない食事なので、珈琲だけにしておこうと思ったが、ついついパンも食べてしまう。さて、9時過ぎにキッペイと卓と落ち合い、第2日目の始まりである。
「やまけん、まずはルートビアでも飲んでみる?」
「ルートビアって、、、アメリカとかにある、アルコール無しのビールだっけ?」
「ん、そうだね。まあこれを内地の人が飲んで『美味しい』っていってるの観たことがないけど、沖縄の人たちは普通に飲むよ。」
面白そうじゃないか、、、
「ルートビアはね、A&Wっていうチェーンで出してるんだ。元はアメリカのハンバーガーチェーン」だったみたいだけど、もう資本関係はないみたいだね。日本の企業としてやってる。沖縄の至る所にあるよ!」
と言っている内に1店舗が見え、通り過ぎる。マクドナルドより敷地面積の広そうな店だった。
「またすぐ出てくるからさ、、、ほら、あった!」
。
ずいぶん現代的な造りの店で、古き良きアメリカを想像していた僕はちとがっかりだが、とにかくハンバーガーチェーンなのだ。ハンバーガーもかなり旨いらしいので、頼んでみよう。
「ルートビアと、ベーコンエッグチーズバーガー。」
「ルートビアは初めてですか?」
「そうですね初めてです。」
「お味見されますか?」
え? 味見? そんなのいいのか??
そう、ルートビアは好き嫌いがあるので、味見をしてから、ということらしいのだ。まだ飲んだことがないのでもちろん味見を所望する。ドキドキである。目の前のビアサーバーみたいなのから、お姉ちゃんが小さなジョッキに注いでくれたそれは、褐色のコーラ然とした液体である。違いはビール並みに泡が発生しているところか。
グッと飲むと、、、
あれ?これ、ドクターペッパーみたいな味じゃん!
「そうだね どっちかっていうと似てるよね。僕たちにはこっちのほうが当たり前だけどね。」
気に入った。ルートビア、大ジョッキで所望である。
ハンバーガーが出来る前にまずはこいつが出されてきたのである。ジョッキをつかみ、グビッと大きく一口飲み込む。炭酸の刺激と薬みたいな風味、甘みが舌と喉の味蕾をなでていく。
「旨いじゃん、この飲み物!」
「そうか、旨いか。やまけん、あの店内広告みてみな。ルートビアはお代わり自由なんだよ!」
なんと! このルートビア、お代わり自由であった!どうなっているんだろう、、、
ハンバーガーも運ばれてくる
このハンバーガー、きちんと生タマネギが挟まれており、レタス、トマトもきっちりと入っている。更に間にかけられている白いマヨネーズがソソル。
一口かぶりつく。ちゃんとしたバンズにパティである。
「旨い、、、きちんとしたハンバーガーだな!」
「うん、マクドナルドが安売り路線に走った時も、このチェーンは追随しないで独自路線を歩んだんだよ。」
素晴らしい、、、
バーガーを食い、ルートビアをもう一杯お代わりをする。店のお姉ちゃんが、凍ったジョッキになみなみとルートビアを注いでくれた。二杯以上は飲めないな、、、しかし大満足のチェーンである。
一日の幸先のよいスタートを切ったのであった。そして午後、この日最大のヤマ場が訪れるのである、、、
http://member.blogpeople.net/TB_People/tback.jsp?id=00575
さて朝食後は一路北部へ。この日は名護市に泊まって、沖縄北部を満喫することにしているのである。
「北部編は、高校時代の仲間のチカシちゃんにアテンドしてもらうからさ!」
この沖縄の日々で強く感じるのは、卓と地元の仲間達との付き合いの深さである。卓の高校時代の親友であるキッペイは、卓の「内地からのダチをもてなしたい」という呼びかけに応じて、この旅行プランを作り、そして本当にそのプランが実行可能かどうかを確認するため、車で全コースを廻ってくれたのだという。
「”気持ち”があるかどうかが大事なんだよ」
というのがキッペイの決め言葉だ。気持ちを大事にするのが沖縄なんだよと言うのだ。もう、僕と加賀谷は彼らに参ってしまった。沖縄は、飯が旨いし気候もいいけど、何より人が素晴らしい。
「じゃーやまけん、海洋博みていこうね!」
と、あの有名な水族館でジンベイザメやマンタを観て、園内の熱帯植物園を冷やかした後、昼飯。僕の九州の弟分からコメントがついている、沖縄そばの名店と言われている岸本食堂に行くのだが、残念ながら閉まっている。
「うーん 残念だけど、もう一店、旨いっていう評判の店があるから行ってみようね。鶏そばらしいんだけど、、、」
といって車を走らせること10数分。道脇に「地鶏そば コッコ食堂 あと○○キロ」という、素朴というか稚拙な手書きの看板を便りにするが、「あと2キロメートル」という看板の100メートル先くらいの広場に、「コッコちゃん食堂はここ」というような看板がみえる。
讃岐うどんの名店にこういう秘境系の店が多いが、沖縄でもありそうな予感がしてくる。手書き看板はお世辞にも旨そうなシズル感が皆無である。
大体、「営業中」という看板が雨ざらしで風化しつつあり、常に出ているに違いない風情を漂わせている。このアバウト感、買いである。
車を降り、全く店舗などなさそうな小径を下る。かなり心配になる寂れた道である。歩きながら我々一同、探検でもしている気分になる。
程なく一件の小屋が出てくる。本当に「小屋」である。と思ったら、「地鶏」という看板が出ているので、ここが「コッコ食堂」だとわかる。もうこの時点で我々のワクワク感は頂点に達しつつある。
幼稚園のような下駄箱に履き物を入れ、プレハブ内に足を踏み入れると、そこは畳敷きの食堂であった。
テーブルを囲む若い女性陣が立ち上がり、「いらっしゃいませぇ~」と迎えてくれる。はっきり言って若い女の子が4,5人いるとは思えない環境なのだが、何なんだろう?時間は11時半過ぎで、僕らが最初の客らしい。
壁をみると、当然ながら手書きの切り抜き品書きがある。
黄金そば 600円
地鶏オムレツ丼 2000円
鶏飯 1000円
ん? 地鶏オムレツ丼がなんで飛び抜けて高いんだ?と思ってよく目をこらすと、2~3人前と書いてあった。うーむ フツフツと闘志がみなぎってくる。
キッペイが聴いたという評判は黄金そばだろう、これは旨いらしいというのだから、押さえだ。しかしオムレツ丼ってのは、面白そうである。
「黄金そばとオムレツ丼だな、、、みんなも食べようぜ!」
「いや、、、やまけん、俺たち全然腹減ってないよ、、、」
という卓とキッペイを尻目に、おねーちゃんにオーダーを通す。僕と加賀谷はフルサイズの鶏そば、きっぺいと卓は二人で一つの鶏そば、そしてオムレツ丼を一つである。
、、、さて、、、
ここからが長かった。
待てども
待てども
何も出てこない!
バイトのねーちゃん達は5人くらいいるんだが、食器洗いでもしているのか、一向にそばを持ってくる気配がない。
「パイナップルお食べ下さい!」
とパインを切ったモノを出してくれたが、俺たちはそばとオムレツ丼が食いたいのである。結局、都合20分は待っていただろうか。これも沖縄時間だろうか。
そして他のお客さんも3人くらい入ってきたあたりで、ようやく黄金そばが運ばれてきた!
「おまたせしましたぁ~」
なるほど!予想通り、卵がふんわりと麺の上に乗っかっていて、その上には鶏肉を甘辛く煮しめたものが鎮座している。
「うーむ 綺麗なプレゼンテーションだ、、、 いただきますっ!」
スープを啜ると、これはもうきっちりと鶏のスープである。なんだか、沖縄に来てから鶏スープを飲むのは久しぶりな気がする。やはりカツオだし+豚肉だしという組み合わせが多いんだろうか。
鶏肉はジューシーに煮しめられていて、ソーキとはまた違った旨さだ。卵はあらかじめフライパンかなにかで炒められているらしく底に焦げ目が付いている。フンワリとして旨い卵。これを崩しつつ、水面下から麺を引っ張り出すと、コシのある太い麺がお目見えする。音を立ててすすり込み口いっぱいに頬張り噛みしめると、慈愛に満ちた優しい味がする。
「おおお、、、 こういう方向性もアリだなぁ、旨い!」
そう、旨いのである。コッコ食堂、おそらく養鶏業者が直営している店だろう。鶏肉、ガラ、卵は無尽蔵に入手できるに違いない。果たして、バイトの女性に訊いてみたら「マスターの弟さんが養鶏農家さんなんですよ」とのことであった。
と、そうこうしているうちに、本日最大のショッキングひと皿が出てきたのであった!
「オムレツ丼(↓)でーす」
みよ、このスケール感! おそらく使われている卵の量は8玉くらいあるだろう。その下に敷かれたご飯の分量は、たとえて言えばジャポネの「親方」より少し多いくらいであろう。とにかくどでかいオムレツは鶏肉と青菜が混じっており、それがご飯に乗せられた上から中華風の甘辛醤油餡がかかっている。
このあまりの迫力に、我々一同は笑うしかない。
「本当に驚いた時とか、想像を遙かに超えるものに出会った時、人間は笑うしかないんだね(笑)」
というシャープな一言は、卓の言である。
そうこう言っても始まらないのでがっつりといただくことにする。結論からするとこのオムレツ丼、かなりイイ線いっている。大量の卵には、沖縄特有の野菜である「ふーちばー」(よもぎ)が入っていて、くどさやしつこさを緩和している。オムレツの中にはやはり鶏肉が入っていて、これでもかこれでもかと言わんばかりの攻撃である。
「ん~ 旨いからみんなも食え!」
と3人の別皿によそうが、「やまけん、俺、すこしでいいよ!」とキッペイと卓は早々とギブアップしている。
しかし、僕と加賀谷はかなりいい食べっぷりを見せたと思う。とりあえず、これがきっちりと完食させていただいた証拠写真である。
「沢山たべましたねぇ~」
とおねーちゃんが下膳に来る。
「バイトさんなんですか?」
と訊くと、面白い答えが返ってきた。
「うーん 私らは元々は週末にこの店にご飯を食べに来たんです。そうしたらマスターが『手伝いに来い』っていうんで、面白そうだから来てしまいました。」
なんだそりゃ!
どうやらこの店、沖縄内でもちょっと噂になっているらしく、各地から食べに来る人がいるらしい。しかし、客をバイトにハントするあたり、ここの親父はかなりヤルな。
「そんな成り行きで働き始めるなんて、てーげーでしょ?」
はい! 「てーげー」とは「もう、たいがいにしろ!」の「大概」の意らしい。その「てーげー」という口調が何とも素人臭さを感じさせ、佳い。
気に入った! ちなみにあまり触れなかったけど、そばはマジで旨かった。オムレツ丼は、基本的には5人くらいで食べる用だと思う。しかしこの量と味であれば、かなり人気は出るだろう。この絶妙なロケーションも、食い倒れの観点からいえば非常に面白い。
「ごちそうさまでした!」
会計をすませ、来た森の脇の道を歩いて登る中、不思議ワールドを満喫したという充足感で一杯になったのであった。
A&Wのルートビアについて、あまり考えずに書いていたら、今回の水先案内人である卓から補足メールが届いたので掲示しておきます。
blog読みました。ルートビアについてだけど『アルコールなしのビール』という表現がありましたが、それはちょっと誤解を招く恐れがあるかと。原料も製法もビールとは異なるので、ちょっとあるサイトの解説を引用して送ります。
ルートビアの原料は、ハーブです。カフェインレスで保存料無添加のヘルシードリンク。カンゾウ(甘草:リコリスの根。消化を助けたり咳を緩和する)、マシュマロウ(タチアオイ:咳をとめ整腸や不眠解消に効果)、サルサパリラ、バニラ、などなど。
名前は、薬草類の根「ルート」と、1919年当時アメリカで公布された禁酒法により、アルコールを含んだ飲み物の販売が禁止されたため、それに替わる飲み物という歴史的背景に由来するものです。
どなたかがコメントにも書いて下さっている通り、健康的な飲み物なんですなぁ!
安心してたっぷり飲もう!(笑)
そういえばなかなかコメント返事かけませんが、あまりにタイトなスケジュールなんで申し訳ありません。帰ってからまとめます、、、
うーん まだこのblog、2日目までしかかけてないんだなぁ、、、ちょっと飛ばし気味に行こう。
「てーげー」(←分からない人は一つ前のエントリを読むこと)な店、コッコ食堂でそばとオムレツ丼をやっつけた夜は、名護市内で飲むことに。
「やまけん、ひーとぅー食べようね。」
ん?なんだそれ?
「ひーとぅーはね、イルカだよイルカ。」
なんとシュールなことだろうね。今まで僕らは、水族館で愛らしいイルカショーを観ていたのだ。でも、イルカっていうのは実は鯨類だし、鯨肉と思えばどうってことはない。
そういえばいまだに捕鯨に関しては世界的に反対の動きがある。僕はこのblogで政治的なことを書くことは控えているのだが、ことメシに関することだけは声をあげておかねばならないな。僕は捕鯨には賛成。鯨が多くなりすぎて、その内に世界の水産資源が枯渇するぞ。鰯の不漁の遠因もそこにあるのではないだろうか。
ということで、食い倒ラーは日本の文化的料理、鯨肉を積極的に味わおうね。
さて
今夜の一軒目、居酒屋「春海」の前に、チカシが待っていてくれた。
チカシは、やはり卓とキッペイとの高校時代の親友で、名護市役所に勤めるナイスガイだ。
「よくきたねー、blog読んでるよ! こんどオーパに連れて行ってくれ!」
こんなにも遠いところで僕のblogを読み、オーパのカクテルを飲みたいという人にあって、嬉しくなる。やっててよかった、と思う瞬間だ。
店に入り座敷に座り、早速オリオンビールの生で乾杯する。
軽いテイストのオリオンは、沖縄のムワッとくる暑さ、ゆるさの中で飲むと最高である。
「ひーとぅー食べようね、ひーとぅー」
と、メニューに載ってる料理類をあらかた舐めるように頼んでいく。
■ヒートゥー炒め(時価、といっても安い)
ヒートゥーは大量のニンニク、ニラ、モヤシと炒められてくる。脂身であるコロの薄切りと肉の薄切りが双方等量に炒められてくる。味は濃厚、独特の鯨臭があるが、これが旨い。オリオンとはバカに合う。
■マグロの酢みそ和え
この辺では、刺身には酢みそをかけることが多い。マグロのブツにも酢みそで和えるのがよくやる料理法なのだそうだ。これががっちりマッチして旨い!よく考えてみたら「ぬた」そのものなんだが、沖縄のそれは少し違う。しーくわーさーが付いてきたのでこれを絞ると、鮮烈な香気と酸味が湧き出し、食が進むことこの上ない。
■魚(名前ワスレタ!)のバター焼き
ケースにドンドンと並べられていた鮮度の高そうな魚から、バター焼きをしてもらう。衣を薄く着けてカリッと焼かれ、ニンニクが利いたバター焼きは実に美味。やはりその土地なりの調理法が確立されているのだな、と強く感じる。
もうこの辺で相当にいい気分。チカシとはダチである。また、この日は粟国(あわぐに)というキッペイの仲間が来ており、彼が農業改良普及員であることから、相当に専門的な話に入った。翌朝は彼の手引で北部の農場をいくつか見学させて頂けることになって、非常に楽しみなのであった。
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「よし、じゃあ山羊汁食べに行くよー!」
名護市役所のチカシが先頭に立ち、僕らを誘ってくれる。山羊についてはこの北部の名護市周辺でかなり名物となっているらしい。ここに来る前に乗ったタクシーの運ちゃんも、
「この辺だったら名物は山羊だね。勝山っていう地域のが旨いよ。山羊の睾丸はね、言ってみればトロだね。旨いよ。あと、スープが最高なんだけど、飲むと血圧が異様に上がるから、病気の人は呑まない方がいいね。」
など、かなり凄まじいパワーを予感させるようなセリフを連打してきたのだ。すんげぇ楽しみなのであった。
春海から歩くこと10分くらいの間に、チカシは自分の街・名護市礼賛を続けていた。
「名護はね、田舎的な要素と都会的な要素が両方あっていい街なんだよ!もっとここを愛する人を増やしていきたい!」
と厚く語るのであった。卓の友人達は皆、沖縄をよくしていくための最前線の仕事をしている。無論、県職員や市の職員である以上、本音と建て前があるはずだし、うまく自分の意が通せない局面も多いだろう。しかし、自分のクニを語るその口調は例外なく熱い。僕のような、あまり根がない人間にはとてもうらやましくなる瞬間だ。でも僕はこういう「人」が好きだ。沖縄がいいところなのだ、と言うよりは、こいつらが居るから沖縄はいいところなのだと思う。
「さあ、この店だよぉ!」
いやぁ びっくりした!このストレート極まりない店名を観て欲しい。
「名護山羊料理店」
である。ほんと、こういう名前の店があったら、他の店は成り立たないね。
入店すると、いい感じにタガのはずれた感じのおばちゃんが座敷に通してくれる。
「どこで飲んでたの?春海?あそこは鮮度いいから美味しかったでしょ?じゃあ、山羊刺しつまんで、山羊汁飲むかい? 泡盛は?」
と我々につけいるスキを与えずにコトが進む。泡盛の水割りを飲みながら店内を見回すと、シュールなことに山羊の頭部分だけの剥製が我々をつぶらな瞳で見下ろしている。うーむ 食欲減退の気味あり。
大体、この山羊屋に入店したときから、獣臭が凄まじいのだ。なんというか、、、獣の匂いである。しかし、チカシやキッペイは全く動じていない。やはり沖縄の人にとってはこれがソウルフードなのだろう。
と、山羊刺しが運ばれてきた。
「これはね、ショウガを溶かした酢醤油で食べるんだよ。皮の部分と肉の部分があるから、交互に食ったり、一緒に食べてみて。」
と、酢醤油に漬けて皮と肉を頬張ってみる。
コリコリとした皮の部分。思ったより匂いはきつくない。僕にはこれは美味しいな。ただし量はあんまり食べられない。
なぜなら、厨房からこの後に運ばれて来るであろう山羊汁の匂いが辺りに充満し、獣香が鼻孔を攻撃してくるのである。
果たして、おばちゃんによって運ばれてきた山羊汁は、もう見た瞬間にグロッキーになるような盛りであった。
皮身の部分と肉の部分、スペアリブ的な骨付き部分が入っている。汁はドロリと白濁していて、獣臭はかなり漂ってくる。フーチバー(ヨモギ)が入っているが、この香りがかなり獣香を中和してくれている。思い切って肉を口に運んでみる。
、、、ん? 肉自体はあまり臭くないし、味もまろやかだぞ? 脂身はトロトロ。肉自体にはそれほどむかつく獣臭はないような気がする。皮の部分もトロリとしていて、嫌な食感は全く無い。
「あれれ、旨いじゃないの、山羊汁!」
汁を飲むと、ドロリと脂・ゼラチン質が溶け出した中に山羊のエキスが詰まっていて、超濃厚である。これで明日の朝は大変なことに、、、って、男4人の雑魚寝部屋なのだが、、、どうしよう。
山羊汁をガンガン食っていく。肉は全部たいらげた。ただ、汁はちと飲みきれん。飲みきったら大変なことになりそうな予感がする。
「やまけん、この店の山羊汁には、なぜか内臓が入ってないね。本当は内臓が一番旨いんだよ、、、今度は、ホンモノの内臓入りの汁を食べに行こうねぇ」
とキッペイが教えてくれた。そうか、そうなのか、内臓、かなり強烈そうだがぜひ行きたいゾ!
さて実はこの翌日、チカシは誕生日なのであった。なので、この山羊料理店で0時を越すまで飲む。0時になり、チカシを皆で祝福する。嫁さんのさつきちゃんもかなりいい感じに飲み、みんなとワイワイやっている。
嬉しいなあ、、、こういうの。日々、いい仲間が一杯出来ていく。今日はコッコ食堂で驚きのドンブリも食ったし、イルカも食ったし山羊も食った。イイ一日だった。明日は何が食べられるだろう?と思いながら、ホテルに帰還。皆より先にバタンQのやまけんであった。
朝、名護のホテルで目が覚めると、少し雨が降っているが穏やかな天気だ。僕は昔から晴れ男で、だいたい何かのイベントの時には天気予報を覆すことが多いのだが、今回も外に出る時は雨があがることが多い。今回もそれを期待したいと思いながらホテルの玄関を出ると、昨晩初めて会って意気投合した粟国(あわぐに)が手を挙げて挨拶を寄越した。
粟国は農業改良普及員という役職に就いている。県の職員として、各市町村の農業者への各種支援・指導をするのがその業務だ。いわゆる農協にも営農指導員というのが居るが、普及員は県職員なので、栽培技術の指導もする一方、役所の裏方的仕事も回ってくる。また、全国各地で農業の形態や政治性も違うので、普及員と農業者の関係は様々だ。今回、この沖縄の地での普及事業がどのようになっているのかを観ることも関心の一つなのであった。
「今日は大宜見村の方にいって、クリームパインを食べましょう。ピーチパインはもう季節が終わってしまっているので無理なんですけど、、、」
大宜見村は名護からまた北部にある村で、「シークヮーサー」を特産としている。
■大宜見村Webサイト
http://www.vill.ogimi.okinawa.jp/top.asp
彼が今、情熱を燃やしているのは、この大宜見村周辺で栽培されている「クリームパイン」などの差別化品種をもっと売っていきたいということなのだ。
「知ってましたか、パインにも色んな品種があるんですよ!通常の品種だけでも最盛期に食べたら凄く美味しいのに、クリームパインというまろやかな品種と、ピーチパインという桃みたいな味がする品種があって、奥が深いんですよ。」
全く知らなかった! パインは熱帯作物なので、九州までしか足を踏み入れていなかった僕には未知の世界だったのだ。
「実は沖縄でもパインにはちょっと寒い環境です。だから、熱帯~亜熱帯に比べると、一本の株から獲れるパインの量は少ないんですよ。収穫期が毎年ずれ込むのが難しい作物ではあります。作ること自体はそれほど難しくないんですけどね。」
ステアリングを握りながら粟国は熱を込めて語ってくれた。街道から山道に入ると、背の低い、アロエベラの葉が茂ったようなパインの畑が観られるようになる。
「最近、パインは樹にいくつも成ってると思っているコが多いんですよね、、、修学旅行生とか来ると必ず数人はいます。パインはご覧の通り背の低い株の先にニョキっと実が付きます。パインの株自体は一度植えると数年は実をつけてくれます。この辺ではだいたい4年は保たせます。台風なんかにも強い品種があるので、農家は重宝しているんです。僕はこのパイナップルの育種を試験場でやっていたことがありますけど、毎日食べていたけど飽きませんでしたね。メロンなんかとはまた違う美味しさだし、すごく安いし、なんでもっと人気が出ないんだろうって思います。」
「そうだねぇ、本州ではあまり国産パインを食べるっていう習慣がないよ。認知自体がないよね。スーパーで並んでいるのは輸入物ばかりで、すじばっていて美味しくないのが多い。」
「ドールとかデルモンテは、自社選抜したいい品種を持っているんです。けど、日本で熟したパインを食べる方が絶対に美味しいですよ!あ、着きましたね、ここです。」
山の中腹に、農家直販所のような小屋が建っている。数人の農家さんが中で商品を売りながらくつろいでいる、選果場を兼ねた小屋だ。コンテナ詰めされたパインが並んでいる。こんなに多くのパインを観たのは僕も初めてだ。
「あら、粟国さんどうもぉ~」
「すみません、クリームパインを食べさせて頂きたくて、、、」
「はいはい、一つ割りましょうねぇ」
と、世間話をしながら奥様がパインを刻んでくれる。もうクリームパインも収穫の末期にさしかかっているということで、タイミングがまにあってよかったとホッとする。
通常のパインは熟すると外皮が茶色くなるが、クリームパインは濃い緑色のままだ。なので、熟しているかどうかを判断するのは結構難しいらしい。果たしてこの断面はどのような色なのだろうか。
「はい、これがクリームパインですよ。」
なるほど!確かにクリームのような乳白色だ。画像では比較対照がないとわからないだろう、こちらが通常のパインだ。
雨の日の暗い画像でこれだけ差があるのだから、眼で見たらかなりインパクトのある違いである。
葉付きのままで縦に綺麗に剥かれた(この農園オリジナルの剥き方らしい)クリームパインを一本口に運ぶ。持つ前からジュースが滴り出しているのにかぶりつく。「シュクッ」とかみ切ると、果肉が弾け、ジュースと鮮烈なトロピカル芳香が一気に口腔から鼻孔に抜けていく。
「おおぉ~ お? 酸が押さえられていて、本当にクリームっぽい!」
これはびっくりである。パインの酸は強烈で、タンパク質分解酵素を多量に含むため、口の中での刺激が強い。しかし、このクリームパインはまろやかな味で、ゆっくりと味わうコトが出来る。果肉の柔らかさとジュースの量はハンパではない。香りもまろやかながら、強烈な印象を残す味だ。
通常のパインを食べる。もっと鮮烈な香りと酸味。こちらはあの慣れ親しんだパインそのものの、上質ゴージャスバージョンである。
「やっぱり通常の品種もムチャクチャ旨いなぁ、、、これ、本州では全然お目にかかれないよぉ。輸入品とは全く違うじゃん。」
「そうでしょう?なんでもっと食べられないのか?って思いますよ。いま、贈答用の化粧箱も作っていて、来年からは本州向けにも販売していきたいんで、ぜひ協力してくださいよ!」
当然当然、了解なのである。こんなに旨いパイン、しかも品種違いでピーチ、クリーム、そして通常のパインが一玉ずつあれば、とんでもなく楽しめるデザート群になること間違いない。
問題は価格だ。沖縄から東京に送ると、送料だけで1500円くらいになってしまう。パインは一玉500円未満なのに、、、やはり、本州の卸が引き受けて、分散していくのが一番なのだが、沖縄は台風県だけに収穫量や時期が大きくぶれることが多い。そうなるとスーパーなどでは扱いにくいということで、安定供給可能な輸入物が扱われている現状だ。
「粟国君、俺も宣伝するからこれ、ぜひ軌道に乗せようよ!」
「ぜひぜひ!」
ということで、食い倒れ日記は沖縄パインを応援する。来年の時期には、パインの共同購入でもやってみるか?
生まれて初めてというくらいにパインを沢山たべて、口の中のタンパク質が分解酵素のおかげで少し溶けたようで、ひりひりする。帰り道、ドラゴンフルーツ(ピタヤ)農家の畑に寄ってもらう。あいにく農家さんは留守だったが、農業改良普及員というのは、農家と付き合いが深い場合は、留守宅でも畑にどんどん入っていく。
「あ、これ、パッションフルーツですね」
おおお、、、樹になっているパッションは初めてだ。
で、こっちがドラゴンフルーツ農園だ。これが実なので、見たことがある人は多いだろう。
この実が付いている樹と、その畑がかなりシュールだ。ドラゴンフルーツ、実はサボテンの実なのだ。
どうだ?結構シュールでしょう、、、サボテンがうねうねとくねり立ち、ショッキングピンクの実がそこここに成っている。このドラゴンにも、白と赤以外にクリーム色の品種があって、「これも凄く美味しい。」ということであった。うーん奥が深いぞ熱帯フルーツ。
これだけ見たところでタイムオーバー。一路、11時からの約束であるオリオンビール工場に向かう。
「パインは情熱を持てる作物です。こんなに美味しくて安いんだから、もっと沖縄県民にも食べて欲しい。実はそんなにパインを意識して食べている県民って少ないんです。」
熱を込めて語る粟国君は、僕が観てきた改良普及員の中でも実に好感の持てる人だった。パインを食べながら観ていたのだが、農家からの信頼も厚く、誠実だ。
「でも、あんまり人と付き合うのは苦手なんですよ。本当は一人で釣りでもしていたい。」
という粟国だが、そんなこと言うな!沖縄パインをもっと打ち出していこうじゃないか!協力は惜しみません。
いつのまにかスコールが去って乾きかけた路麺を、4駆が疾走する。日本は狭いと言うが、自分はまだしらぬ農業があったことを、痛感するのであった。
さて、昨晩世話になったチカシいわく、「名護市の最大の名物はオリオンビール!名護に工場があるから、名護で飲むのが一番旨い!」ということだ。そのオリオンビールには無料で見学ができる。見学後にはなんと、工場できたてのビールを試飲できるのだ。
「昔は飲み放題だったらしいんだけど、飲み過ぎて車運転した人が事故を起こしたみたいで、一杯しか飲めなくなってしまった」
ということだ。一杯で十分!是非飲んでみたい!
オリオンの工場入り口で粟国に別れを告げ、キッペイと卓と一緒に工場に入る。女性が説明をしてくれながら工場見学。本州にいるとオリオンの名前はほとんどきかないが、沖縄ではこれがなければ始まらないという銘ビールである。
たしかに初日からオリオンの生を飲む機会が多いが、実に最高に爽快で旨い!どこで飲んでもギンギンに凍りついたジョッキに生が注がれ、ジョッキのあまりの冷たさにビールが少しシャーベット状になりながら口に流れ込んでくる。癖のない軽いアタリは、軽快な喉ごしと相まって、一気に極楽感を現出させるのだ。
ビールも醸造なので発酵させる。オリオンでは40日間の発酵を経て、市場に出回ることになる。発酵が済んでボトリングした後は、あとは鮮度がものをいう。近ければ近いほど旨いのは当然。だからこのお膝元で飲むのが最高ということだ。
見学コースを一巡し、試飲コーナーで女性が生ビールを注いでくれる。つまみもオリオンオリジナルのナッツだ。
透明感あるビールをググッと飲む。
「おおっ! なんだか香ばしい感じがするぞ!」
そう、ホップの香りが、居酒屋で飲む生より強く香る感じがするのだ!工場で飲むビールが違うというのは、真実であった。
運転をしてくれる卓は残念ながら飲めない。悔しい顔をしていた。スマン!
すっかりご機嫌になって、次なる聖地へと向かう。
それは、、、
「タコライスのキングタコス」
である。
「よし、やまけん、キングタコスでタコライス食べようねぇ」
キッペイがニヤリとしながら次なる聖地巡礼の宣言をする。そう、かなり期待度満点のタコライスである。
実は僕は、メキシコ料理があまり好きではない。「あまり」というところがポイントで、嫌いな訳でもない。今まで行ったメキシコ料理店では、いくら食べても味覚に満足感を感じないのだ。量的な満足ではない、舌で感じる旨味のストッパーがないというのだろうか。昆布に含まれる旨味成分であるグルタミン酸が全く入っていない味なのだろうか。
それでも、この和洋折衷の極みと言えるタコライスには興味があった。タコライスは、タコスに使われる具(レタス、チーズ、スパイスで炒めた挽肉)をご飯にかけたものである。これがめっぽうイケルという。東京でも各所で食べられるので体験をしてはいるが、どれもそんなに言うほどのものではなかった。しかし沖縄県人はみな「タコライス」と言うのだ!その違いを知りたい!
「やまけんをキングタコスに連れて行ったらどのくらいたべるかねぇー」
「チーズ野菜大盛り食わせようか?メニューには大盛り無いけど、やってくれるからね。」
「チキンバラバラもつけて欲しいね!」
等々、キッペイと卓、加賀谷が話しをしている。その顔がまた満面の笑みである。これほどまでに彼らを幸顔にするキンタコとは一体どういう店なのか!
「ここから歩くよー」
米軍基地横の駐車場に停めて、繁華街となっている中を少し歩く。米兵向けの歓楽街で、横文字の看板ばかりだ。昼間なのでどの店も開いていないのがまた更に旅情をそそる。
「あー 来た来た、ここだよヤマケン。」
店自体は、色々と言われてきたので大きな店なのかと思ったら、路地裏の小さな店構えであった。実はさきほど店の前に車を停めに来たら無理だったので駐車場に車を回した。その間にお客さんが入ったようで、僕らが入る余地がない。店内を伺うと、テーブル席が3つしかないのだ!
「えええ 有名店なのにこれしかテーブルが無いのかぁ」
「ちょっと待とうね~」
窓から覗くと、おねーさん二人が談笑している。あの駐車場までの短時間に3組の客に料理を出したのだろうから、相当な早業処理であることがうかがい知れる。
これが店の外に出ているメニューだ!沖縄の店ってなんでこんなに安いんだろう、、、
「やまけんはタコライスとチーズバーガーと、チキンバラバラを食べようね!」
うーん それ、食いきれる量なの?とかなり不安にはなるが、受けて立とうじゃないか。程なく手前側のお客さんが食べ終わり、テーブルが空いたので入店。
「やまけん、そういえばここにもルートビアがあるよ!」
おおお!この旅ですっかり好きになったルートビアがあるではないか!あれはA&Wの専売特許だと思っていたのだが、他の店にも供給されているんだな。
「じゃあ、一番大きなサイズで飲もう!」
「うそっ スゴイ量入ってるけど飲みきれるの?」
そう、昔マクドナルドで羨望の的だった、コーラが一番沢山入るバッグ(カップではない)いっぱいに入ってくるらしいのだ。
そうこうしているうちにまずチキンバラバラ(500円)がすぐに供される。すでに揚げているものを出すからだが、500円とは思えないほど肉が多い!
ていうか、これはほぼ鶏の半身分くらいはあるだろう。加賀谷がこれをみてゲラゲラ笑っている。
「やまけん、これ食ってくれ~」
いやしかしこの量を一人では無理だし、みんなで分け合う(ちなみに最終的には僕は二切れ食べた)。割とあっさりした味のチキンで、尖った味がするわけではないが旨い。
と、このチキンをやっている間に、カウンターに凄まじいモノが置かれた。
「チーズバーガー出来ましたよ」
デカイ! バーガーもいろいろ観てきたが、これほどデカイのは初めてである。2メートル先のカウンターに置かれた瞬間に、そのでかさにヤラレタ。
今回思ったのだが、写真だとこの迫力は伝わりにくい。食べ物から出ている圧倒的なオーラというか、空間を占有している位置エネルギーが迫ってこないのである。けど、とにかくデカイのだ。横に置いてある卓の携帯電話のスケールで考えて欲しい。
とにかくこれには燃えた!食ってやる!
バーガーバンズは信じられないほどの大きさだが、フカフカした生パンで、それほどみっしりと詰まっている訳ではない。これなら最後まで行けるだろう。ただしそれはタコライスの量による、、、と思ったら、出てきたタコライス!
もう笑うしかない。凄まじい量のライス、ミート、チーズそして雲に届かんばかりのレタスである。卓、キッペイ、加賀谷は大笑いである。心から幸せを感じているような笑顔である。
「やまけん、これタップリかけてね」
と、サルサソースがなみなみと入ったケチャップ入れが回される。そうか!タコライスにはソースがかかるんだった!レタスの上にソースをぶっかけ、雪崩が起きないようにスプーンでガッツリとタコライスを頬張る。
驚いた! すんげー辛い!
サルサソースがハンパじゃなく辛い。トウガラシが効いている!しかし、その辛みが味蕾に直撃した後は、チーズのまろやかさとレタスの爽快なシャキシャキ感、そしてミートの旨さとご飯の甘さが一挙に口に拡がる。
「旨い! 旨いよこれ! 生まれて初めて美味しいタコライスを食べたよ!」
これは素晴らしい。今まで食べていたのは非タコライスであったとはっきり言える。キンタコ、実に旨いのだ。とにかくサルサソースの辛さと酸味が食欲をかき立てる。サルサがなければ、チーズ、ミートと、平板な二次元的味覚で終始してしまうところだろう。そこにサルサが介在することで、味世界が完結している。無論、サルサも辛さがなければ二次元的味空間に留まるのだが、この辛さと酸味の配合は絶妙と言うほか無い。
とにかく天を衝く量である。ガンガンと食べ進む。2口ごとにサルサソースをぶっかけていたら、すぐにソースが無くなってしまう。
「ソースもっと入れて!」
とキッペイが取り替える。ソースはバカ辛い!なので、火を鎮めるためにルートビアを補給する。そうそう、ルートビアはこんなバッグいっぱいに入ってくるのだ!
とにかく旨い!ハンバーガーは皆が一口ずつ食べた後は全部僕がやっつける。これにもサルサをぶっかけ、食いきった。加賀谷が最初のチキンで飛ばしすぎたか、「満腹になってきた」と言う。皆ペースが落ちるが、僕はかなり快調。
実は僕は
「米には強い」
のである。肉のごときタンパク質の塊だとこうはいかないが、米はいくらでも食べられる。タコライスチーズ野菜、チキンバラバラ2ピース、バーガー
5分の4をしっかり食べきった。
「ヤマケン、、、食ったねぇ、、、」
食べたよキッペイ!旨かった!
これだけ食べても、タコライスチーズ野菜600円、チーズバーガー350円、チキンバラバラ500円だ。安い!
しかも、ここのサルサソースは最高に旨い。
「他の店も美味しいトコあるけど、キングタコスの味はオリジナルなんだよね。」
是非とも、東京に進出して頂きたいと思うのだがなんとかならないか? 満腹な腹をさすりながら車に移動する。その道すがら、ぼんやりとした意識の中で考えた。
タコライスにしてもなんにしても、米国駐留によりもたらされた食文化は、やはり平面的、二次元的な味覚世界が多い。肉中心のイノシン酸により築かれた世界と言えるだろう。これが日本的味覚の代表であるご飯と結びつけられ生まれたのがタコライスである。これは文句なしに旨い。おそらく人間の快楽中枢にそのまま刺激として突き刺さってくる要素がタップリと混入されているのだ。そして、これもポイントだが、非常に安い。
初日から食べてきて、この二次元的空間を楽しみまくっているわけだが、沖縄の郷土に伝わる3次元的な味空間にはいつ出会えるのだろうか。若干の不安を感じている僕が居た。
そしてその答えは、明日第4日目に、僕らの眼前に提示されることになったのだ。
沖縄にいる最中に、このblogではおなじみの長島農園の勝美君からメールが来た。
「島豚のアグーを絶対食べてきて! 黒豚っていうのはバークシャー種のことを指しているけど、本物の黒豚は沖縄のアーグ。沖縄行ってるんだったら食べてきて!」
おお、アグー! それは、沖縄に存在した混じりけのない在来種。ルーツは当然ながら中国。ということは、このblogでも登場した金華豚の血の入った豚のような、中国系の豚である。
アグーについてはこのページがきちんとした情報を載せていた。
■九州沖縄農業研究センター
沖縄在来豚「アグー」
http://konarc.naro.affrc.go.jp/okinawa/letter/topic3/sub2topic3.html
戦後、ランドレースやバークシャーといった西洋種が流入してくる一方でアグーが絶滅寸前になっていたのを、少数のアグーを交配させて増やしてきたという歴史がある。それでも現在、100頭余りしか純血種が存在していないらしい。このため、「戻し交配」という技術を用いて、純粋なアグーの遺伝子を持った豚に近づけていく努力も続けられているということだ。
このアグーが食べられる店があるのか?とキッペイに訊いたところ、
「アグー食べたいの?じゃあ夜にいこうかね!」
と、力強い返事をもらったのである。キングタコスの残滓が胃袋や直腸でその存在感を誇示している最中で、皆の表情は暗かった(笑)ものの、これは食べておこうということで即決。キングタコスから約4時間でアグー詣でになったのだ。
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■炭火焼と泡盛 GeN
沖縄県那覇市久茂地2-6-23
Tel:098-861-0429
http://www.wagyu-gen.com/
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座敷に上がって品書きを開き、とにかくアグーばかりを注文する。内地の感覚からすれば普通の価格もしくは割安だが、沖縄では高い水準だろう。
あぐーかるび 780円
あぐーロース 880円
あぐー豚トロ 680円
といった感じである。
何だか沖縄にきて初めて、「通常の店」に来た感じだ。というのは、店員のお兄ちゃんがバイト慣れしていないのか、オーダー時の会話の反応が鈍く、かなり気が利かない。でも、後から来たおねーちゃんは乗りがよかったので、個人差だな。
「うん、ここはサービス的には沖縄っぽくないね、でも肉は美味しいから!」
まさしく肉は旨かった!
アグーは中国系、ということは、肉に含まれる旨味成分量はハンパではないはずだ。また、脂はきめ細かく甘い、香りのよいものだろう。そう思っていたら、予想以上の肉質だった。
カルビを網に拡げると、脂がジュワッと滲み出てくるが、脂が溶けて流乏してしまうわけではなく、きちんと固体が残っている。
焦げ目が軽く付いたのを口に運ぶと、臭みのないが独自の綺麗な癖を持つ香りが拡がった。
「おお! 旨いじゃないの、アグー!」
カルビも旨かったが、あごの下肉である豚トロも旨かった。肉の旨味は本当に濃い。これは素晴らしい豚だ、、、こいつのラフテーは極上に旨いだろうな。
カルビを3人前追加して、泡盛と一緒につつく。気づいたのだが、泡盛の水割りは、豚の癖と脂をさっと流してくれる。沖縄文化は実に簡潔!
「旨かったね! じゃ、山登りと川下りに行こうかね!」
と、キッペイの案内を頼りつつ、僕らは夜なのに、山と川に行軍し、そして堪能したのであった。
沖縄や鹿児島に行ったことがある人ならよくご存じだろうが、その食卓には「ポーク」いわゆるランチョンミートが多用されている。僕なんか、沖縄は今回が初めてなのに、ランチョンミートの代表格である「SPAM」が大好きで、しょっちゅう買い込んで焼いて醤油をからめてご飯にのせて食べていた。
このSPAM、東京で買うと、450円くらいするのが普通だ。しかし、なんと沖縄ではこの半額以下が普通なのだ! ということで、今回はこのポーク缶をしこたま買って帰るというのが、もう一つの目的であった。
キッペイと卓にお願いしてスーパーに連れて行ってもらう。
「やまけん、今日はちょうど安売りやってるよ。一人3缶までだけどね。」
とみてみると、、、なんと!一缶198円ではないか!
重いのもなんなので6缶をとりあえず購入。素晴らしいぞ沖縄! しかし、ポーク缶はSPAMだけではない。観たことないメーカーのものが多数ある。例えば沖縄ではもう一つ、チューリップというブランドが有名らしい。
また、あまりにそそられるのが、業務用の缶詰だ。ムチャクチャにデカイ!
思わず買ってしまいそうになったが、食いきれない内に悪くしてしまうこと必至なのであきらめた。
さて、このポーク缶を使った沖縄料理に、「ポーク玉子」がある。なんのことはない、ポークの薄切りを炒め、卵焼きに添えるだけなのだが、これが沖縄料理の本にも載っていることもある。つまりハムエッグとかベーコンエッグと同じようなカテゴリなのだろう。それに驚いていたら、もっと感動したのは、
「ポーク玉子おにぎり」
なるものが、どこのコンビニに入っても必ずあったことだ。
これがそのポーク玉子おにぎりだ。これはローソンに売っていたものだ。
みておわかりのように、四角いおにぎりになっている。比較対象がないので分かりにくいだろうが、通常のおにぎりの1.5倍くらいはある、大型おにぎりである。値段も190円程度で、ちょっと高め。
早速買った。通常のポーク玉子だけではなく、「ポーク玉子あぶら味噌」というのがあったので、こいつを購入。あぶら味噌とは、沖縄特有の肉みそと思えばいい。滅法旨いご飯の友だ。大ぶりのおにぎりにかぶりつくと、こんな断面になっていた。
うーんこいつは食い応えがある、、、ちなみにこのポークは「チューリップ」ブランドのものであった。割とあっさり風味で、これも旨いと思った。
この夜以降、僕は必ず一日1つはポークおにぎりを食べた。下の画像は、港の売店に売っていたもので、やはりあぶら味噌入りのおにぎりだ。
ちなみに表示カロリーもかなり高めであったため、さすがに一度に1つしか食べなかった。これ、かなり旨いのよ。
セブンイレブンの超・名作おにぎりである「照り焼きソーセージ」は、このスパムおにぎりをモチーフにしたものだというのは有名な話だ。しかし、どうせならモロにこのポーク玉子おにぎりを本州でも出して欲しい。よく朝のコンビニにどどっと入るガテン系労働者をみかけるが、彼らに人気がでること間違いない。少なくとも、俺は買う。
ちなみに、SPAM缶を198円で買ってホクホクしていたら、最終日に加賀谷と立ち寄ったスーパーでは、150円で売っていた! うわーん 観なければよかった、、、
さて、話はいよいよ、最大のクライマックスである4日目に突入する、、、
ようやく沖縄4日目である。かつてこれほどに濃密な食い倒れ旅行をしたことがないので、書く方も大変なのだが、どうか読者さんもついてきて頂きたい。何せこの4日目が大本番だったのだから。コメントにレスつける余裕もないのだがご理解頂きたい。
4日目の日中は、加賀谷と二人でフリータイムだ。卓とキッペイも、ほぼ僕にフルアテンドしてくれているので、そのままだと自分や家族とのの時間が持てないからだ。ただしこの夜は、卓の親父さんが懇意にしているという琉球澱伝統料理の店に連れて行って頂ける。
「ヤマケンがイラブーを食べたいっていうので、地元でも評判の店を予約しておいたよ。レンタカーで行っておいで!」
イラブーとは、猛毒を持つエラブウミヘビのことだ。古来、沖縄ではこのイラブーの燻製を珍重し、滋養強壮のために食べてきたという。ということなんだが、別に滋養強壮とかが目的じゃなくて、とにかく旨いらしい。以前、敬愛する東京農業大学の小泉武夫先生が、
「これこれ、このイラブー汁は、日本の宝ですよぉ!」
と叫びながら汁を飲み、滝のような汗をしたたらせていたのをみて、「いつか絶対に食うゾ」と決意していたのである。
卓がコーディネートしてくれたのは、「カナ」という店だ。
「すんごく小さな店で、わかりにくいところにあるみたいだから、レンタカーを借りてカーナビをセットするところまでは僕がやるから。」
と、卓は朝、親父さんとともにレンタカー屋まで同行してくれる。どこまでもいいヤツなのだ、卓は。沖縄での卓は、本州でみるビジネスバリバリ系の彼と全く違って、空気がゆったりとする。なんだよ、これが本来の卓なんじゃないか、と思いホッとするのであった。
「じゃ、いくよ~ん」
加賀谷が運転する車で県庁前の「パレットタウンくもじ」を出て、一路北へ。沖縄の幹線道路は今回の旅で大体巡ったので、理解できた。今日の道程も、2日目の名護へ通じる道だ。やはり沖縄は車社会で、旅にも車がないと十二分に楽しむことが出来なさそうだ。僕は諸般の事情で数年前に免許取消しになってしまったので、誰かと来なければいかんなぁ。
さて カーナビと格闘しながら、青い空の下、快適なドライブをしばし楽しむ。道が空いていたので、1時間しない内に目的地近辺に到着。しかし、幹線道路から一本入ったらただの田舎道で、どこに店があるのか全くわからない!勘で探したら、やっと小さな看板を見つけた。
「ふうぅ~ やっとついたね、、、」
しかし、車を停めた道からさらに奥に入っていくようだ。ほんとに店があるのかよぉ~と不安になる。
そういえば加賀谷はこの旅にDVカメラを借りてきて、僕が食い倒れる様を撮りまくっている。この写真でもカメラを構えている彼が居る。加賀谷は常々、「やまけん、食い倒れは動画に残すべきだ!」と言っているのだが、なかなかそうしない僕に業を煮やしたようである。
どんどんと道を歩いていくと、行き止まりになって民家があり、覗いてみると、店の玄関があった。
■カナ
沖縄県北中城村字屋宜原515・5
098・930・3792
月・日曜日休
玄関をあけると、予想通り民家のつくりで、居間と座敷にそのままテーブルを置いてあるという風情だ。お客さんが2組居たが、店の人は見えない。靴を脱いで上がると、厨房に親父さんがいらっしゃったので、「予約していたものです」と伝え、座敷に座らせてもらった。しかし、ちゃんとオーダーが通っているのかどうかが全くわからないのでまた厨房を覗くと、オバアがいた。
「あ、予約してきた方ね。うん、ごめんね、まだもう一人の店の人がきてないもんだから、忙しくてねぇ。イラブー汁定食でいいのね。待っててね」
というようなことを琉球の言葉で、そしてかなり沖縄時間で話してくれる。このオバアが実に力が抜けていていい感じだ。
さてそこからがまた長かった。コッコ食堂もそうだが、沖縄の飯屋では待つことが嫌いな人は楽しめないかも知れない。我々が入店した後も数組の客がきたのだが、皆不安になるらしく、おばあに色々確認しにいっている。その内に店の手伝いさんが到着。どうやらこの店では基本、おじい&おばあは料理に徹し、仲居さんが上げ膳下げ膳をやるということらしい。ちょっとホッとする。
このエントリを読んでカナに行こうという人は、ゆめゆめ焦らぬよう。沖縄時間を心に持って行動されたい。
なんてことを言いながら、僕は昨晩に抱いた疑問を消化できぬままでいた。その疑問とは、「アメリカからの流入による2次元的平面味空間ではない沖縄料理はどこへいっちゃったの?」ということだ。いや誤解しないでいただきたいのだが、この二次元空間は大好きである。A&Wなんか毎日通いたくなったし、キングタコス万歳だ。しかし、この沖縄には、それらが流入してくる遙か以前から存在していた伝統料理があるはずだ。それを、味わいたいと思っていた。このイラブーは完全な郷土食だから期待していいのだろうけど、どうなんだろう?
そんなことを考えながら、待ち時間、全く手持ち無沙汰で、外の景色を見たりしながらなんとなくやり過ごす。加賀谷もあまり話をせず、数日間の沖縄でのテンションを調整するような、静かな時間、、、
それが、一気に破られることになった!
「おまちどおさま!イラブー汁定食ね!」
おおおおおおお
これがイラブーかぁ! 写真でみるよりも映像でみるよりも、ショッキングな見た目である。スープは濃く濁った茶色で、見るからにゼラチン質豊富だ。昆布の巻いたヤツがドスドスと入っており、この写真では見えないがテビチ(豚足)も豪快なのが2塊入っている。そして上部に見える黒い棒状の物体がイラブーである。
特に、このイラブーの皮の見た目はちょっとグロいなぁと思ってしまいがち。お世辞にも食欲をそそるとはいえない外観だ。これは、イラブーを乾燥させ燻製にしているからなのだろうが、なんだかゴムホースみたいな見た目である。
「おおお、、、よっしゃ、食ってみるか、イラブー!」
まずはイラブーの肉をつまむ。加賀谷、DVカメラを構えた。緊張の一瞬!
びっくりした。想像できないほどに柔らかい!
皮目の部分はトロリと溶け、中からホックリとした茶色の身がでてくる。この身のホコホコ感を感じながら噛みしめると、実に豊かな味わいのダシが、肉ジュースが、口の中に拡がった!
これは 旨い! これだ! これに出会いたかったんだ!
スープを啜る。 加賀谷と顔を見合わせる。
「おおぉっ、、、 なんだよこのスープ!」
正直、こんな奥深い、旨味の強いスープを飲んだことがない。昆布やカツオ出汁も入っているだろうが、圧倒的な味わいを出しているのはイラブーから滲み出るエキスである。その旨味はこれまでに味わったことがないものなので、何とも表現できない。僕は初めて自分のボキャブラリーを恥じようとしている。
しかし本当に、このイラブーの肉ほど、見た目と食味のギャップがあるものはないだろう。ほとんどの人が、この黒い鱗片が見える肌を見るだけで、ゴムホースのような食感を想像するはずだ。しかし、事実は全く正反対で、柔らかく香ばしく、まさしく肉である。滋味がこんこんと湧き出る泉である。
以降、ほとんど加賀谷とも会話をせず、とにかく汁を啜り、オカズを食べる。
てびち(豚足)が多量に入っているので、二人とも口に含み、骨をとってコツコツと皿に空けていく。この豚足にイラブーの汁が染みこみ、とろけるような絶妙な味になっている。
ちなみに、イラブー汁定食は3500円で、イラブー汁とオカラ、じゅうしい(炊き込みご飯)、じーまみー豆腐、漬け物がつく。このサイドディッシュ類がまた、絶品揃いなのだ。
ジーマミー(地豆=落花生)豆腐は抜けるような白い肌。舌の上でまさしくとろける食感と落花生の風味が最高だ。
おからのひと皿は、モヤシなどと炒められていて、しっとりポロポロと実に地味ながら味わいが深かった。大根の漬け物もきちんとしたもので、変な調味料はこの店には皆無であった。
そして一番感動したのは炊き込みご飯である「じゅうしい」だ。
沖縄料理に多用される青菜、「ふーちばー」(よもぎ)を細かく刻んだものが入ったこのじゅうしい、初日から何回か食べてきたが、それらを軽く上回る絶品であった。しっとりとした炊き加減、炊く時にさされる油の風味、そしてふーちばーのほろ苦い香り。脱帽である。
嵐のような20分間であった。
この僕が、お代わりをしたら、せっかく円環に完結した世界観が崩れてしまうと、控えるほどだ。それほどの魂の満足感を得ることが出来た。
やはりこれだ!
本当に美味しいものは有り難いもので、適量で心が満腹になる。味に奥行きのないものは、いくら食べても心の満足感を感じないため、これでもかと食べて満腹で気を逸らしてしまうのだ。自分の未明を恥じる僕だった。
イラブー汁定食が運ばれてくる前の加賀谷と僕と、食べ終わってからの二人を観ている人がいたら、他人ではないかと思っただろう。それほどに、我々は細胞レベルで活性化され、良い気に満ちたのである。
「なんかさ、ヤマケン、腹のあたりが暖かくないか?」
「おう、これ、イラブーのパワーだな!」
汁物を食べたからではない。なにかじんわりと下腹部が熱い。それも、内側から小さく照らしてくれているような、暖かな熱である。本当に有り難いものを食べてしまった。カナのイラブー汁は、ホンモノであった。
おばあに御礼を申し伝える。イラブー汁も旨かったし、じゅうしいにも感激した旨を伝えると、素晴らしい言葉を下さった。
「あのね、じゅうしいの命はふーちばー。おからの命はもやしの使い方なのよ。」
その心は分からずとも、このおばあとおじいは、信念を貫く料理を出し続けてきたのだなと実感する。
ごちそうさまでした! 本当に感動した。この店を教えてくれた卓にも大感謝である。食い倒ラーの沖縄巡礼に「カナ」は絶対に欠かせないコースであるとする。そして、この店に行く時はかならず、
「すくなくても前日予約をしてから来てくださいねぇ。それと人数が増えると困るわねぇ。減る分には大歓迎よ。そして、うちなー時間でゆっくり来てくださいねぇ、、、」
そう、イラブーは下処理に時間がかかる。最低でも前日からだ。当日いきなり行っても、ものが無く食べられないこともあるので注意されたい。
いや、本当に素晴らしかった! 加賀谷ともども幸福な気分になりながら、一路南下する。これから加賀谷ご推薦の沖縄のスピリチュアルスポットに巡礼し、返す刀でグリーンカレーを食べるのである。
「カナ」で味わったイラブーに満ち足りた気分で一路南下する。来る前は、
「イラブーの後にキングタコスかA&Wに入って何か食おうな」
などと言っていたのだが、とんでもない話である。精神的に満ち足りた僕はもうしばらく食わなくてよい。
「じゃー これからいくグリーンカレーの店ってどうすんの?」
「いや、それは行こうよ。せっかく卓がリコメンドしてくれたんだ。」
今回の旅程表(こちらを参照)に、一つだけ「ん?」と思うものがあったのだ。それが「くるくまのグリーンカレー」。卓によれば超絶品らしい。初日のコースに入れはしたのだが、「流れでやっぱ、沖縄チックな味を楽しんでもらおうと思ってさ」ということではずれたのである。
ならば、これから行くコースにこのくるくまは近いので、是非行こうよということになったのである。
そしてこれから行くところとはどこかというと、斎場御嶽(せーふぁうたき)という世界遺産に指定されている、沖縄の伝統的な祭場だ。
僕は、神社仏閣を観光する趣味はあまりない。のだが、今回は加賀谷が強く推すのだ。
「やまけん、ここは絶対にキテル。パワースポットだ。行こう。」
そこまでいうなら、たまには景色を楽しむのもいいな、と行くことにした。でも、景色を楽しむなんてものではなかったのだ。
■斎場御嶽(せーふぁうたき)
http://www.churashima.net/shima/okinawa/isan/20010301/05.html
せーふぁうたきは、琉球時代に女性のシャーマンが修行を積んだ場らしい。本来は男性禁制とのことで、恐縮しながら登っていく。そう、山行なのである。最初の、舗装された観光路から石畳に入っていく斜面で、ズシンと重い足応えがある。いきなり負荷がかかり、息が荒くなる。軽いめまいを覚えながら登っていくとその感覚がだんだんと身体中に平均化され、山のモードに調整される。
山自体は小さいもので、すぐにいくつかあるスポットに到着する。どういうところかというのはリンク先を見て頂ければわかるので詳説しない。他にも老若男女の観光客が来ており、写真をぱちぱちと撮っている。ちなみに僕はこうした霊的な場では写真は撮らない。ここはずいぶんと手の先にピリピリと来る場所なのだ。
「ここがすげーんだよ」
と加賀谷が言う、岩と岩がずれて半三角形に洞穴ができた三庫裏(さんぐーい)という場所の先にある、久高遙拝所(くだかようはいじょ)というスペースに立つ。石の上に立つと、数キロ先に浮かぶ久高島が眼前に見えるようになっている。
「シャーマンはここで島をみながらコンセントレートしたらしいゾ。」
なるほどすごい場所だった。こればかりは文章では伝わらないから何も書かないが、強力な磁場だった。しかし、言葉にしにくいのだが、石場に立ちながら、このうたきにはまだ公開されていない場所があって、そこが本当に重要な意味を持つ場所なのではないかという気がした。
加賀谷と無言で山を下りる。圧倒された後は言葉が出にくいものだ。と、駐車場まであと30メートルという地点で、いきなりピンポン球大の雨粒が叩きつけてきた!
「うおっいきなりきたなぁ!」
加賀谷もびっくりして車に走る。雨は降り始めからわずか5秒で、凄まじいスコールとなった。この車からの写真をみればその凄絶さがおわかりだろう。
山の上にまだ居た人たちがちゃんと雨宿りを出来ているか気になる。しかしこれぞ沖縄である。
こんなコト言う必要もないのだが、僕は極性の晴れ男である。イベントの時に晴れる率が高くなるというのはもちろん、台風には強くて、過去数回進路を変えたことがある(笑)ただし、条件があって、デートとかそういう場合に強いのである。今回だって、上陸が一日ずれていたら台風で欠航になっていた可能性が大きいのだ。
しかしこのスコールについては、どうも せーふぁうたき の場所的な諸力が関係しているようでびびった。というか、そういう解釈をしておこうと思った。
神妙な気持ちになりながら、五分ほどで雨あしが弱くなるのを待って発車。
「じゃ、行くか、グリーンカレー。」
沖縄の南部の海岸沿いの幹線から一気に山の方面に登る道に入り、ひたすら登って開けたところにカフェ「くるくま」はこちらという看板がある。そこを曲がってしばらくいくと、綺麗なリゾート風の建物があった。
■カフェ くるくま
沖縄県島尻郡知念村1190
098・949・1189
http://www.nakazen.co.jp/cafe/cafe.html
ん?ここかよ、、、
なんだか観光客向けっぽい感じがする綺麗な建物だ。本当に旨いのかぁ?と思ったが、卓を信じることにした。
店内も綺麗で、第一、シービューである。珊瑚礁に守られた湾が一望できる。と、海を観ているとまたスコールが始まった。
くるくまは、地元の健康食品関連の企業が経営しているカフェレストランらしい。なんとタイのシェフを招聘し、厨房を仕切ってもらっているので、アジアンテイストのレストランが出来ているらしい。メニューはカレー中心だが、タイ料理ももちろん多い。ここのウリはハーブ類が自家製であることらしい。本州ではあまりつくれないタイ特有のハーブも作られているようだった。
加賀谷は、ここのスペシャルカレーである台風カレー。
「そだね、じゃあ僕はグリーンカレーと、くるくまチャーハン」
と2皿を頼むと、きっちりとした身なりのウェイター君が眉間にしわを寄せながら、
「あの、かなりご飯の盛りがよいので、お一人様一つで十分かと思いますが」
そんなことをこの僕に言うなんて!なんたる愚問!と思い、「全然大丈夫だから持ってきてよ」とお願いする。大体、こんな小綺麗なカフェで出てくるカレー2皿食べられなくてどうするよ、と小馬鹿にしたような笑いをして待ち受けたのだ。
そして、驚愕の瞬間が来た。
■台風カレー
■グリーンカレー
■くるくまチャーハン
で、でけぇ!
どれも超大盛りである。写真に、比較対象物を乗せていないのが悔やまれるが、これはスゴイ量だ。ウェイター君の判断は半ば正しかった。心なしか、彼の目が「ホラ、言ったとおりだろ! ああいった手前、残すなよな!」といっているかの様である。
「お、いい盛りだねぇ。じゃ、いただきまーす」
と軽くいけるゼ感を演出しながら、内心は冷や汗ものだった。イラブー汁によりもたらされた平安な胃袋が、一気に最強食い倒れモードに突入する。
しかしここのカレー、実に絶品であった。
「うぉ、このカレー旨いよやまけん!」
加賀谷が呻く。やつの日本風カレーは確かに旨かった。そして僕が頼んだグリーンカレーだが、これが本当に素晴らしかった。
グリーンカレーは、出来合いのペーストで作ってしまうとどうしても今ひとつだ。やはり当日に石臼でハーブ類を潰して作ったフレッシュなペーストで作るカレーが最高だ。そしてこのくるくまのカレー、タイの鮮やかな色彩感溢れる香りと旨味に、日本ならではの柔らかなコクもプラスされているように感じた。
いや、旨い。チャーハンは、ハーブチキンを乗せたもので割と普通だが、これも旨い。けど、多い!うーんこれは死にそうに多い。
しかし僕は食い倒れ党の党首である。負けるわけにはいかない。
「オレは、米には強いんだよ」
とうそぶきながら、なんとか自分のグリーンカレーとチャーハンを平らげた。加賀谷は、自分の台風カレーのご飯を食いきれず、半分残している。いつもの僕ならその白飯もやっつけるのだが、今回は無理だ、、、
いやしかし
大盛りのイロモノで観てはいけない。このくるくまのカレー料理、実に素晴らしい内容であった。ここだけで夜飯を計画してもいいくらいである。
店の外に出ると、やはりスコールは上がっていた。車でしばらく海沿いの道を走り、市内に戻る。今夜はもう一つのクライマックスが待ち受けているのだ。それは、卓のパパさんが懇意にされている、琉球料理の伝承者、山本彩香さんの店に連れて行って頂くのだ。
そして、この夜は、信じられないほどに深い琉球料理の世界観を見せつけられることになったのである。明日、僕は渾身の力を込めてこれを書く。連休中だけどぜひ読んで頂きたい。
市内に戻り、レンタカーを返すと丁度、卓から連絡がきた。行きと同じパレットタウンくもじで卓とパパ様と落ち合い、タクシーで繁華街を抜ける。夕暮れ時の薄闇の中、小さく品の良い間口の店構えが見えてきた。
「この看板の字、うちの父が書いたんだよ。」
と卓が紹介する横で、川端パパは照れくさそうに斜に向きながらも、この石盤も僕の字なんだよ、と解説してくれた。
この店が、琉球料理の専門家として名高い、山本彩香さんの店だ。
■琉球料理乃 山本彩香
(今回、住所等は記しません。)
実は僕はこの沖縄行きに先立ち、卓から「事前勉強しておいてね」ということで、豆腐ようを手渡された。豆腐ようはご存じだろうか?水切りした豆腐を塩蔵し、麹や泡盛と一緒に漬け込んで発酵させた食べ物だ。中国の調味料である腐乳(フールー)に似ているもので、気の利いた居酒屋で食べることが出来る。卓からもらってなにげなくキュウリと一緒に食べたところ、そのあまりの上品さ、繊細さに驚愕してしまった!
「この店を主宰する山本彩香さんと僕の父は30年来のお付き合いでね。家族ぐるみで仲良くさせてもらっているんだ。」
と聴いた時には、良心的な小さな小料理屋さんなのかと思っていたのだが、とんでもない話であった! 山本彩香さんは、伝統の琉球料理を継承し、また新しい世の流れの中に対応づけをし、琉球料理の現在を創り出している沖縄料理界のキーパーソンだったのだ!まったく自分の不見識を恥じるばかりである。
店内に入ると、数人で調理場と対面できる印象的なカウンタではなく、座敷に通して頂く。山本さんはいらっしゃらないようだが、若いスタッフが対応してくださる。この若いスタッフさん達の所作がびしっと決まっており、押しつけがましくない態度で、素晴らしい。
「そりゃぁそうだ。山本さんはね、琉球舞踊の第一人者だったんだよ。」
パパが教えてくれたところによれば、山本彩香さんは実は琉球舞踊家として名声を獲得した人だ。沖縄タイムス芸術選の大賞を受賞するなど、その活躍は華々しかったらしい。それがある時、「このままでは琉球料理はダメになる」という実感を得、以来、料理の師である母君と料理店を出し、今に至るのだという。この辺は、他のWebでも検索すれば出てくるので、探してみて欲しい。
その彩香さんの舞踊で培われた居住まい、所作が、店のスタッフにも伝承されているのだろう。
「君は内地から働きに来て居るんだよね?」
とパパ様がスタッフさんに訊くと、
「はい、実は広島から来ています。」
とのこと。他にも、横浜から修行に来ている人もいるということだ。この一件からも、この店が沖縄料理の梁山泊的存在であることがうかがい知れる。
イラブー汁で感動をした夜に、また琉球の伝統料理をいただくことができる。これも僥倖というものである。
「さあ、泡盛を飲みながらまずこれだね。」
パパが手ずから水割りを作ってくれた後、運ばれてきたのがこの豆腐ようだ。
■自家製豆腐よう
麹の色だろうか、鮮やかな紅色が皿に一点の存在感を醸す。楊枝で小さく削り、舌の上に載せると、ネットリとした食感に、泡盛がさらに発酵したような濃い芳香と、チーズの数倍もありそうな旨味が拡がる。しかし、とても濃い味と香りなのに、なぜか上品だ。それが市販の豆腐ようと全く違うところだろ感ずる。
「ここの豆腐ようを食べた人が空港に売ってるのをお土産に買って帰ってね、『全然違うじゃないですか!』て文句を言われたことがあったね。当たり前だよ。ここの豆腐よう以上のものはみたことがない。だって大量生産じゃないんだから。」
後に伺うことになった彩香さんによれば、「泡盛と塩の抜き方を少しアレンジしてある。昔は冷蔵ができなかったから塩分が強かったけど、冷蔵庫が普及したことによって、豆腐ようの造り方、味も変えられるようになったのね」
とのことだ。そう、これが「現在」というものだ。時代と技術により、料理は変わっていくものなのだ。その一つの形が、この洗練の極みにある豆腐ようのなかに具現化されている。
「はい、ゴーヤーのしりしりです。」
■ゴーヤーのしりしり
「しりしり」とは、おろし金ですり下ろす音だそうだ。本州では「すりすり」だろうか。生のごーやーをおろし金で擂り、柑橘などのジュースを混ぜたものだ。口に含むと、苦い!しかしその苦さは柔らかで爽やかな苦みだ。苦みは胃液を増進し、味覚をリフレッシュさせる。これを最初の段階に配するあたり、これ以後の味世界に没入させるための絶妙なギミックである。
「おろし金で優しく擦ることで、細胞が壊れず美味しくなるんです」
とスタッフさんが説明してくれた。そういう「気持ち」がこもったドリンクだった。
■ミヌダル
いかにも琉球料理!というものが出てきた。たーむ(田芋)の揚げ物は、沖縄の田んぼでとれる芋で、様々な料理に使われる。これを素揚げにしたものだが、甘くネットリとした、慈愛に満ちた味だ。ゴーヤの天ぷらは、苦みの集中するワタの部分を取らずに揚げ、「粟国の塩」を添えている。口に運ぶと、アクやえぐみなど様々な味が拡がる。
この豚肉料理がミヌダルだ。豚肉の上に黒ゴマのペーストをのせて蒸してある。豚の味つけがシンプルな分、蒸し加減でさらに濃厚になったゴマの風味が際だつ。この料理、ゴマのペーストにしろ、豚肉にしろ、強い個性と旨味を内包する素材なのに、味の印象は非常に奥ゆかしさを感じる淡いものだ。
これらを食べて合点がいった。彩香さんは、非常に複雑性の味世界を構築する人だ。味覚とは、その振幅の広さで価値が決まる。「甘い」とか「辛い」といった、快楽中枢を直接刺激するだけの単純な要素では味は決まらない。サンマや鮎の塩焼きを食べる際に、あの苦みのある肝が入ることでどれだけ旨味の世界が拡がるかはご存じだろう。しかし、肝だけを取り出してみれば、苦いだけで食べられるものではない。そう、「美味しくない要素」を巧妙に絡ませることで、全く予期せぬ旨味の地平が拓かれていくのである。こうした美味しさは、生来インプットされたものではない。学習し、鍛え込んでいかなければ獲得できない、より高次の味覚である。この高次の感覚を磨き、楽しむことが日本の料理の「粋」なのではなかったか。ファーストフードの氾濫は、この高次の感覚を奪うものであり、そこに日本の食を巡る危機があるが、どうやら沖縄も同じ問題に直面しているのだろう。
彩香さんの料理は、この問題に鮮やかな解答を提示している。おそらく彩香さんの店でこの皿を食べることで、目の前を色彩が走るはずだ。食べてみれば分かる。
■ヤマンアーサ入りゆし豆腐
ゆし豆腐という、固めていないほろほろの豆腐にアーサという海藻とヤマン(山芋)を混ぜたものを載せ、カツオだしを張った料理だ。沖縄の豆腐は、大豆をすりつぶし呉汁にした後、生のままで絞りおからを取る。本州では煮てから絞るところが微妙に違う。彩香さんのゆし豆腐は、しっかりと堅い沖縄の豆腐からは想像もつかないふんわりとした口当たりだった。アーサという海藻は磯臭さが無く香りのみが残るものだった。
■イラブチャーの酢みそがけ
「イラブチャー(ブダイ)です。酢みそをかけて味わって下さい。」
これは、キッペイが努めるブセナリゾートの海底で沢山みることのできたブダイの刺身だ。
「よく沖縄の魚は刺身で食えない、なんていうヤツが居るけど、そう言うヤツは旨い店を知らないだけなんだよ。食べればわかるさ」
とパパが言うように、みただけで匂い立つ、いかにも旨味の濃そうな肉である。これに酢みそをタップリとかけていただく。
刺身の切り口は上質の蕎麦の角のごとく立っており、口に含むとなめらかに滑る。酢みその塩梅も最高である。沖縄の暖かい気候ではやや甘めの酢みそになるかと思ったが、さすがに抑制の利いた酢みそで、魚をきりっと食べさせる、背筋の伸びた味だ。
■すーねー(あえもの)
本州の白和えと同じ系統の味だが、じーまーみ(落花生)の風味がする。肝心の青菜がなんという野菜かを訊き損じてしまったのでわからないのが残念だ。フダンソウなどをよく使うらしい。
■(名前失念。)
これは、ネギの一種でイカ(クブシミー)の燻製を巻き、酢みそをかけたものだ。本州でも「野蒜(のびる)のぐるぐる」と言ってよく作るが、クブシミーのしっかりした歯応えがネギのジャッキリ感を引き立てる。クブシミーは鹿児島ではコブシメと呼ぶ大きくなる甲イカだ。
沖縄ではイカが実に旨いのだが、それはこのクブシミーのような味の濃い甲イカが沢山獲れるからだろう。
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と、ここで山本彩香さんその人が、小柄な身体から明るいエネルギーを放散しながら部屋に入ってきたのであった。
「はい、いらっしゃいませ!」
「卓の東京の友達が来たから連れてきたよ。」
「あらまあようこそ、、、」
本当に強いエネルギーを感じるが、とても優しい。そして、とても高貴な誇り高さを感じる。僕はこの店をくぐるまで、ちょっと小粋な小料理屋に連れて行ってもらえるんだろうという程度にしか考えていなかったのだが、全く持ってここまでの料理をいただく中で、居住まいが正されてしまったのだ。そんな僕や加賀谷に対しても、極めて優しく彩香さんは微笑みかけてくれたのであった。
「私はねぇ 卓ちゃんが生まれる前から知ってるのよ!」
と、卓も全く頭が上がらない様子だ。
そうしている内に運ばれてきた料理に、卓が強く反応している。
「やまけん、これ、この料理が一番のお奨めなんだ!」
■どぅるわかしー
「これはね、どぅるわかしーっていう料理なんだけどね。田芋を潰して、色んな具を混ぜたもの。どこに行っても食べられるかもしれないけど、どこにいってもきっと美味しいものには出会えないわね。これは、私が母から受け継いだ料理なの。」
マッシュされた田芋は、しっかりとした硬めの和え食感だ。これに豚バラ、シイタケ、キクラゲ、カステラかまぼこ、グリンピースなどの具を混ぜ込んで作られる。出汁の旨味をタップリと含んだ芋の甘さとそれぞれの具の持ち味と香りが合わさり、懐かしいような味だ。沖縄独特のかまぼこの食感がクニュクニュと楽しい。卓がいかにも旨そうに食べるのが、よっくわかった。
■そーみんの豆腐よう和え
「これはね、豆腐ようを作る中でどうしても形が崩れちゃったりしたものをどうしようかと思って、ささっと素麺に和えてみたらすごく美味しかったから、出すことにしたのよ!」
あの超絶の豆腐ようをあえごろもにしたそーみんが旨くないはずがない!泡盛の香りがふわっと軽く鼻を突くのが、大人の味わいになっている。
「豆腐よう、もっと食べたいでしょ、おかわりもってらっしゃい」
と僕らは豆腐ようを2つたべさせていただいた。ラッキーである。
「さ、これがらふてーよ。」
■らふてー
でた!沖縄料理の代表的存在だ。僕はこれまでらふてーは醤油ベースで味付けするものだと思っていたが、なんと彩香さんのらふてーは、白みそがベースになっている。そのせいか、非常に上品な味わいなのだ。
長時間煮込まれているはずだが、肉の繊維感はしっかりとのこっている。じーまーみ(落花生)をすりつぶしたものが含まれているということで、そのコクがじんわりと味濃いものにしている。
ちなみに彩香さんによれば、「らふてぃー」という表記は間違いで、正しくは「らふてー」だそうだ。気をつけよう!
■じーまーみ豆腐
じーまーみ豆腐は、落花生で作るゴマ豆腐のようなものだと思うのだが、友人の志乃ちゃんから、どこかでレシピを教えてもらってきて欲しい、と頼まれていた。
「彩香さん、じーまーみ豆腐の造り方を教えて欲しいっていう友人がいるんですが、、、」
と僕が恐る恐る切り出したところ、
「あら、いいわよ教えてあげる!」
と、そのまま口述筆記で教えて教えて下さった!
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆①落花生は生のものを使う。殻から出して太陽の光で干し、薄皮をパリパリに乾燥させたら手で揉んで薄皮を取り除く。まだ皮が残るので、ぬるま湯に漬けて最後まで皮を取る。
②豆をふやかしたらミキサーにかける。この時ピーナッツ3カップに水は6カップ。そこに芋のでん粉を1カップ加える。吉野葛などを使うと沖縄の味がでないので注意。必ず芋のでん粉を使うこと。
③②を木綿の布などで漉す。そうしてできた呉汁を鍋に入れ、中火にかける。ここからずっと木べらで掻き混ぜ続ける。電話が鳴っても取らないこと!熱が廻ったら弱火。40分間練り続ける。
④へらで鍋底に「の」の字を書いた時に、鍋底が見えるくらいの固さになったら火から下ろす。バットに流し入れ、上面を綺麗に平らにしたら水を張る。不安な人はガーゼを敷いて、その上から水を張ること。これを冷蔵庫にいれて固めて、できあがり。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
彩香さんのじーまーみ豆腐は、これがまた奥ゆかしい味。芋のでん粉の舌触り、粒状感が少し残るのが、オバアの味という感じである。洗練と土着の狭間の味わいがした。
楽しく話をさせて頂きながら加賀谷をみると、いつの間にかビデオカメラを回している!一瞬、彩香さんのお気に触れないか気になったが、彼女もそれを分かった上で何も言わず微笑んで話をして下さっている。卓のblogを観ると、実はこの時に卓も「大丈夫かな」と思っていたそうだが、彩香さんは我々のような沖縄への闖入者を受け入れて下さったようである。
しかし!
「私はね、気に入らない人は絶対に店に入れたくないの。だから一度ご来店いただいて、嫌な人だと思ったら、次から予約はとらせないのよ。」
これは本当のことらしい。僕と加賀谷で目を見合わせてしまった。
「大丈夫、うちの父さん経由で予約とればね。」
「あら、あなた達ならいいわよぉ。また来なさい」
前にも軽く書いたが、卓のパパ様は、沖縄のテレビ局の重鎮だったキャリアを持つ。今の僕らには実感がわかないのだが、やはりテレビ黎明期から隆盛期にかけて、メディアとしてのテレビの力は絶大だったのだ。その時代、沖縄で包装される番組を作る仕掛け側にいたパパ様の人脈はとてつもないものであったことだろう。
「もうね、川端さんには何から何まで相談に乗ってもらったのよ、、、」
と彩香さんが言う。彩香さんとパパは、実にいい大人の関係を育んでこられたのが、傍目からも分かる。我々余人には入り込む余地のない信頼関係が、そこにあった。
彩香さんの店の看板に始まり、メニュー、お土産用の豆腐ようの箱書きなど、至る所にパパの字がある。パパは書家という訳ではないらしいが、全くの我流で独自のスタイルを創り出した人だ。
「そういえば新しいお品書きも書いてもらわなくちゃ」
と彩香さんのお願いを微笑みながら「うん、どういうのにしようか」と乗っているパパ様はムチャクチャに余裕のあるオトナであった。卓よ、いい親父を持ったなぁ。
「あ、やまけん、これがまた最高に旨いんだよ!」
■とぅんふぁん
運ばれてきたのは、混ぜご飯のようなものだ。てっきりじゅうしいかと思ったら違った。なんとこれに、カツオだしを張るのだった!
ダシを張り、蓋を再度閉めてしばらく蒸らす。彩香さんがお話をされているのでずっと待っていたら、
「あら、もういいわよ。食べて食べて!」
と言われる。待ってましたと開けると、豚肉の脂がきらきらと溶け出した出汁から佳いい香りがする。
さらさらと啜ると、しっかりとした味付けのご飯がまたカツオだしの旨味を吸い、旨い!
「うーん おかわり食べたーい」と言いそうになるのをこらえる。彩香さんがずっとハイテンションでお話しされていなければつい言ってしまったかもしれん、、、
■しーくーびー
タピオカを浮かべた、ニッキのような香りのする甘い汁が何から出来ているのかは訊き損じた。甘さをすったタピオカが優しくしたを潤かす。
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「おいヤマケンちゃん、ここのご飯はオレがおごってあげるけど、彩香さんの本は自分で買いなさい。本だけは、自分でお金を出して買わなければいけません。」
とパパが言う。そう、本とは、この山本彩香さんが新聞に連載をしていた沖縄料理の話をまとめた「てぃーあんだ」という本のことだ。
■「てぃ-あんだ」 山本彩香著 沖縄タイムス社刊
http://www.okinawatimes.co.jp/aji/
実に丁寧な作りの、いい本だ。上記リンク先である沖縄タイムス社のWebで内容をみることが出来るようになってはいるが、これは絶対に買い求めるべき本である。
この本には、本日ぼくが食べた料理の作り方ががほとんど載っている。それは彼女のポリシーからくるものだ。
「私はね、沖縄料理を後世に受け継いで欲しい。だから、テレビ取材なんかでもぜーんぶ作り方を教えるの。前、イラブーを食べにいきたいって連絡が来た時なんか、『あら家で作れるわよ、ぜひやってみなさい』って言っちゃったのよ。でもその方が沖縄のためでしょう?」
そんな彼女の本には、作り方や調味料については載っているが、「大さじ一杯」とかそういう記述はない。
「自分で味を見て、自分の味を作って欲しい」
という気持ちがそうさせているのだ。
で、この本にぜひサインを書いて欲しいと思ったのだが、
「そんなのハズカシイからダメよ、だめ。」
と、さっさと封筒に入れて手渡されてしまった。残念!考えてみれば、卓パパという書家の前で筆をもっていただこうとした僕に愚がある。人間修養が全く足りなかったことを恥じるばかりだ。
もちろん我々は最後の客で、スタッフの人たちも片づけをしながらパパと談笑をしている。彩香さんが集めた沖縄の伝統的な布、そして店内にある珍しい置物などを楽しみながらタクシーを待つ。
「ヤマケンちゃんまた食べにいらっしゃい!」
とお言葉をかけて頂き、感動しながら店を出る。
この日、僕は沖縄のいくつかの真実を味わうことが出来た。イラブー汁に驚倒し、山本彩香さんの創り上げた世界観のすごみを感じた。しかしそれらに共通して、とにかく温かな光を感じた。これのじんわりと輝く温かい光こそが沖縄の魂なのだろう。いいものを押し頂いてしまった。
卓パパ! 素晴らしいご馳走を本当にどうもありがとうございました。
満ち足りた気持ちで床につく。明日は、晴れていれば慶良間の海岸でBBQパーティーなのである。
最後に一言。この店については、連絡先などはここには記載しない。本当に食べることに真摯な人でないと、行ってはいけない気がするからだ。読者の方も運良くたどり着けた場合は、心を鎮めてしっかりと味わい、感想をきちんと伝えるといいと思う。
4日目、イラブー汁と山本彩香さんの料理を食べ、その果てしなく奥深い琉球料理の世界を垣間見ることができた。しかし、それも含めたうえで、沖縄での一番のご馳走は何だったろうか?それは、文句なしで「人」であった。出会った人たちとの交歓こそが、大ご馳走だったのだ。
5日目、朝から離島に渡って慶良間の海を満喫する予定だった。しかし、晴男ぶりには自信のある僕と卓がいるにも関わらず、かなり強い雨と風で、フェリーは欠航となる。残念だが島には渡れない。
「仕方がないね、丸一日呑んで過ごそう!」
キッペイの声がかりで太田ちゃんの家に皆で移動。仲間のナガハマちゃんのお姉さんが石垣島から石垣牛を買い込んできてくれているので、これを焼きながらの酒宴と相成った。
チューハイやらビールやらを30本以上買い込んでおり、泡盛は3リットル入りのデカイPETボトルで、これを延々と飲み続ける。沖縄の飲み会は長く、緩く続いていく。この独特の緩さが、暑さと相まって心を溶けさせる。
「沖縄ではね、仕事をしようとすると、人間関係があるかどうかで早さが変わるんだよ。飲み会で一度でも一緒に杯を交わしていると、すごくスムーズにことが進む。だからこれは、とても重要なことなんだよ!」
今回の旅路は、卓と高校時代の親友であるキッペイ、そのネットワークを巡る旅であった。全土にわたりキッペイの仲間ネットワークは張り巡らされ、どこにいっても友人達が杯を持って歓迎してくれた。素晴らしいのは、キッペイの友人達が、
「キッペイの友達は私たちの友達でしょうが!」
と、我々を喜ばせるために様々なことをしてくれたということだ。彼らの仲間意識は余りにも濃密だった。
この日最高に感動したのは、イカ墨汁だ。雨が上がったので、近くの海岸で少し泳ぎ、身体が冷やした後のことだ。
「やまけん、イカ墨汁で沖縄そば食べようね」
と、買い込んできた墨イカを女性陣が捌き、墨袋を取り出し、鰹だしにあわせて、イカと大根がタップリ入ったイカ墨汁を作る。
これを湯通しした沖縄そばにかけてすすり込むのだ。
「おおおお 旨いなぁ、、、」
しみじみと旨い!鰹だしとイカすみの風味が相まって、あっさりしていながらも旨い。冷えた身体に熱が入り込む。この「じんわり感」こそが、沖縄の味だなぁ、、、と思う瞬間だった。
しかし、東京で飲み会をやる時に、こういう風に郷土の旨い料理をささっと作って供するようなことがあるだろうか?イカ墨汁は八重山出身の女性が中心になって作ってくれたのだが、みんなで作って食べるというのがごく当然のような雰囲気だった。これこそが本当のもてなしだ。沖縄の友人達に、本当に脱帽した瞬間だった。
夕方、皆と別れて帰る時に、加賀谷が「オレはちっと呑んでいくから」と歩き出す。それをみたキッペイが「あ、じゃあおれも一杯だけ」といい、さらにその後をヤマコちゃんが追う。果てしなく続く宴。最終的には他の同窓会に出ていた卓も、ホテルでblogを書いていた僕も、そしてすでに3軒ハシゴしてきた卓パパも合流して、「こうちゃん」で呑むのであった。
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9月12日、沖縄での最終日。この日は卓が朝一便で帰京、キッペイが建築士試験の模試ということで、加賀谷と二人で最終の東京行きまで過ごす。
普通の観光客ならば一日目に足を踏み入れるであろう国際通りを、最終日になってようやく散策する。Tシャツを買い、食堂を楽しみ、市場を冷やかした後、手持ちぶさたになる。
「あー、今日が一番天気いいな、、、海でも観に行くかぁ」
そう、この6日間で最高の青空が拡がっていた。空港には5時間後に着けばいい。
「じゃ、路線バスで1時間程度走っていける海でビール呑もうや」
県庁前から、シートに落書きだらけの路線バスに乗り込み、58号線を北へ向かう。この道も見慣れた風景になった。昼寝をしながらガタゴトと揺られ、海浜公園という停留所で降りる。商業施設でビールとポーク玉子おにぎりををしこたま買い込み、海へ向かう。
テトラポッドの上から望む海と青空は、江ノ島のそれの100倍くらいの鮮やか度で迫ってきた。
僕も加賀谷も何も言うことはない。ひたすらビールを呷り、その水平線を眺め、空港に戻る時間まで心ゆくまで沖縄を満喫した。
この日の海が網膜に焼き付いたのか、帰りの飛行機の中では海の残像ばかりが夢に出てきた。きっとこれからもこの残像が残り続けるだろう。
熱く駆け抜け、食べ抜いた5泊6日であった。
旅を終えて1週間以上が経った今でも、あの濃密な日々を思いだしてしまう、、、一年に一回は確実に沖縄へ行くことにしたい。そういう人生を送ることに決めた。
さて
このblogには「食い倒れの殿堂」という、僕が勝手に選ぶランキングがある。今年上半期の殿堂入りが途絶えていたが、沖縄をここに入れることについては、異論ないだろう。特定の店ということではなく、「沖縄」という場所を、謹んで殿堂入りとしたい。
この沖縄編、これまでの食い倒れ日記史上で、一カ所での記事投稿では最多記録の16エントリとなった。実はエントリ化していない食べ物もいくつかある。美味しかったんだけど、書ききれん!ちゅうことで見送りました。ここで言ってしまえば、通堂のラーメンは、キッペイが言うように博多でも勝負できそうな完成度であった。キッペイが買ってくれた「チョコもち」は、カカオと餅米を練って焼いたものなのに、一瞬「洋菓子か?」と間違ってしまうような絶品な味わいだった。あと、クリームパインの旅に連れて行ってくれた粟国がポケットから出してくれたグァバも最高だった。この他にも細々とした面白いものがあったのだけど、それはまたの機会に。加賀谷のblogや、卓のblogをみていただければその一端が分かると思う。
沖縄編のエントリ一覧をここに作成しておこう。
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■第1日目 沖縄上陸編
沖縄そば「淡水」
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000439.html
夜 その1「洋食味処 こうちゃん」
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000441.html
夜 その2 ビーフステーキ「ジャッキー」
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000442.html
■第2日目 一路・名護へ
沖縄のハンバーガーインはココで決まりだ!「A&W」
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000443.html
ルートビアについての補足情報by卓
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000445.html
昼 驚嘆の一撃! コッコ食堂「地鶏ソバとオムレツ丼」
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000444.html
夜 名護の夜は居酒屋から山羊汁へと漂う。
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000446.html
■第3日目 名護から那覇へ
朝 沖縄パイナップル新世紀 驚きのクリームパインを食べた
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000447.html
昼 名護名物といえば実はこれ! オリオンビール工場を見学した!
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000448.html
昼 タコライスチーズ野菜は二次元的味覚の極地か!? 「キングタコス」
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000450.html
夕 伝説の沖縄在来豚・アグーを食べる「Gen」
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000451.html
夜 ポーク玉子おにぎりを首都圏でもぜひ導入して頂きたい!
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000452.html
■第4日目
昼 ついに来た大本命! 沖縄的3次元味空間が眼前に拡がった! イラブー料理「カナ」
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000454.html
おやつ 悶絶の絶品グリーンカレーは食い倒ラー対応であった! カフェくるくま
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000455.html
夕 琉球料理逍遙~未来に繋がる郷土の魂を堪能させていただいた 「琉球料理乃 山本彩香」
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000456.html
■第5日目~第6日目
イカ墨汁そばと沖縄の海とグッドバイ
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000460.html
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あと、最終的な僕らの道程は下記のようになった。機動的な変更で、より楽しめる沖縄行になった。これは、事前にコースの下見までしてくれたキッペイと卓の功績である。本当にありがとう!
この沖縄行では沢山の人たちに温かく迎えて頂いた。
卓、キッペイ、サック、太田ちゃん、オニユリ、ヤマコ、ナガハマちゃん、チカシ、さっきー、粟国、ナガハマ姉、ぐし、そして卓パパ。
皆様に謹んで御礼を申し上げます。どうもありがとうございました!
月曜日の朝、寝ぼけまなこで羽田に到着し、飛行機に乗る。2時間なんてあっという間だ。沖縄空港に到着すると、すでにムワッと暑い!ロビーに出ると、あの懐かしいキッペイの丸っこい身体が見えた!
「キッペイ!」
「ああ やまけんよく来たねー」
心なしかキッペイの顔が以前より丸くなっている、、、俺も同じようなもんなのでどっこいどっこいである。華を紹介して、レンタカーを借りて車に乗り込む。
沖縄に来て最初に行きたい店、、、それはあそこしかない!そう、沖縄最大のハンバーガーチェーン「エンダー」ことA&Wである!
エンダーではまず何はなくともルートビアだ!それと、じつはエンダーのオレンジジュースも旨い。ので、華に頼んでもらう。うーむ夫婦っていいなあ。2つのものが味わえるよ(笑)
このあとすぐに週刊アスキーの連載でフルコース食べる必要があるので、「喰うな食うな」と言われているのについついハンバーガーを頼んでしまう。エンダーのバーガーは旨い!日頃はハンバーガーなんて食べないが、ここでは食べてしまうね。
宜野湾周辺に向けて一路北上する。と、懐かしいブルーシールアイスクリームの大看板が見えて感動!
さて、本日の昼飯はまず、キングタコスである!以前行ったのは本店である金武店だが、キッペイは「おれはこっちの方が皿が丸くて、盛りが多い気がするから好きなんだよねー」という長田店である。
厨房の入り口がすこし開いていて、中にあのレタス山盛りの巨大ボウルが見える!うおー早く喰いたいぜ!
(続く)
さて金武店では入り口にて食券を買うスタイルだ。タコライスチーズ野菜600円也。大盛りっていうオプションはないんだなぁ、、、
「うーん 大盛りにしてっていうとおねーさんが『残しちゃダメよ』って言ってすんごい盛りにしてくれたよ」
とキッペイが言うが、まあ今回は何も言わなくても1.5人前食べることになるはずなので普通盛りにする。
昼のいい時間なので店の回転はすこぶる速い。客層は雑多で、家族連れもいればヤローの一人食いあり、カップルありである。先回行った本店は米軍向け歓楽街の中にひっそりとあったが、この店はロードサイドの目立つ場所にあるため、客足も耐えないという感じだ。しかし、あー待ちきれん!
「7番の方ぁ~」
来たぁ!キッペイと僕が電光石火で盆をとりに行くっ!これが金武店のタコライスだ!
皿にボンと豪快に盛られたライスの上に、独特のスパイスで炒められた挽肉が載り、その上に悩ましい濃い黄色のチェダーチーズと、天を衝かんばかりのレタス千切りが鎮座している!
さて前回の沖縄ではこれを素のまま撮影してしまったのだが、キングタコスをキングたらしめているのは、実はここにかけるサルサソースである!深紅の粘質体、サルサソース。キングタコスのそれは爽やかな激辛!そして後を引かない旨味の絶妙ブレンドなのだ!
ケチャップ入れになみなみと入ったサルサをドビュビュッとかけまくる。機関銃殲滅的に辛いのだが、それが旨いんダ!
ちなみに分量の目安。僕の愛機京ポン※と共に撮りました。まあはっきりいって量は多いのである!
※ウィルコムのPHSです。実は僕はPHSしか使ったことがありません。電磁波の出る量が少ないしねー
さてこの山を突き崩し、ミートとチーズとレタスとライスをサルサまみれにし、スプーン一杯に頬張る!
瞬間、突風のように辛さが爆発する!まあどんな会のなんばん粕漬けのようなヘビーな一撃辛さではなく、本当に強い風が吹きすさび、何事もなかったかのように去っていくような辛さだ。瞬間的に爆発し、消えていく。
「あーーー やっぱり旨いなぁ!!!」
記憶の味と相違ない!スパイシーなミートとチーズの平面的な旨味にサルサの酸味と辛みが加わり多層構造になったところにレタスのシャキシャキ食感が重なり、全く飽きない!ガシガシ食べ進んでしまう!
あっという間に喰いきってしまった!サルサソース、この写真で手にしているのは実は二本目である、、、
「やまけん、かけすぎだよー」
「いや、次にいつ来られるかわかんないしね!」
心おきなく堪能したのであった。いや、マジで最高でした!
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さて満腹中枢が刺激される中、車は一路北部へ。車中で四方山話をしている内に、今回のアスキー取材地であり宿泊地であるブセナテラスホテルに到着だ!
■ザ・ブセナテラス
http://www.terrace.co.jp/
ブセナ、、、一泊4万円はくだらないという超高級リゾート。でもね、入った途端にわかりました。スバラシイですよ、このリゾート感覚。東南アジアとくにタイのサムイ島のビーチリゾートの感じですよ。まじヤバの気持ちよさだ。ま、そういうホテルの良さはきっと旅行ガイドに載ってるだろうからあまり書かないけど、かなり最高でした。
今回は週刊アスキーの「ホテルでご飯」の取材。なのでちょっと安めに留めて頂くのである。あ、今発売されている号には僕の先回取材の記事が載っているから、ぜひ買ってください!こないだブイヤベースを食べたのね。
週アスの編集者I永さんとカメラマンのY澤さんと落ち合い、鉄板焼き「龍潭」に入る。この間、キッペイ&華はぶらりとしてもらうことになっていて、しばしのお別れ。
さて白状しよう。実はブセナのレストラン、リゾートホテルだしなぁ、ということで、あまり期待していなかったのだ。鉄板焼きだし、佳い素材を集めて焼けばいいんだろ?みたいな、不埒な印象を持っていた。いや、愚かでありました。加賀谷風に言えばオロカ・マイセルフ。
実にスバラシイ体験をさせていただいたのだ、、、詳しくは週アスに書くけど、沖縄の豚の在来種である「アグー」の100%純潔種を食べさせてくれたのである。
(続く)
絶品のアグーに舌鼓を打ち、すっかりフルコースを食べたのだけれども、それは僕だけであって、キッペイや華はこれからがメシタイムなのである。ということで合流。ここで、前回沖縄来訪時に名護を案内してくれたチカシ&さっきー夫妻と再会!
「やまけーん いつも日記読んでるよ!」
数多い沖縄のイイヤツ軍団の中でも、このチカシはいつも温厚にこやかな人である。名護市役所勤務ということで、キッペイ軍団はなぜか自治体勤務が多いのであった。で、チカシの妻君であるさっきーのご友人が勤務している居酒屋があるというので、ブセナから1キロほど歩いて移動。
■居酒屋 喜瀬のちんぼーら
折良く陽が沈む直前の美しい海を眺めながら、久方ぶりのオリオンビールで乾杯をする。写真では伝わらない碧い空の色が、キンキンに冷えたオリオン生の刺激と共に心に染みるのダ!
さてこの店でもいろいろな皿をつまんだ。
■ひじきのゴママヨネーズ和え
■海ブドウと海鮮サラダ
■ゴーヤチャンプルー
■テビチ(豚足)の煮物
全部美味しかったのだけど、中でも僕が感動してしまったのがこれである。
■魚のマース煮
マースとは塩のことだ。だからこの料理は、魚を塩で煮たものである。塩だけでは味が出ないので昆布も使っている。実はこの料理を食べるのは初めてだ。そういうものがあるのは知っていたものの、「なんかそそられねぇな」と無視してきたのだ。
でもなんだか気になるので頼んでみたら、びっくりした!極めて旨いのである。昆布を多めに使っているので旨味が強いし、またマース(塩)の使い方もかなり強めなのでインパクトがある。酒蒸しとは全く違い、煮物としてきちんとアタリが出ているのである。醤油のような発酵調味料的アミノ酸ではないため、魚の味と香りがストレートに匂い立つ。これはスバラシイ調理技法だな、と感動した。これ、僕も帰ったらマスターしよう。
■じゅうしい
もうひとつ、「じゅうしい」というこの炊き込みご飯が最高だ。豚肉やひじき、ふーちばー(よもぎ)等を炊き込んだこの料理、どこにいっても出てくるが、どこで食べても旨い。これもまた沖縄のソウルフードと言えよう。豚肉の脂分がご飯に絡んでいる加減がまた最高なのだ。この店のじゅうしいは「ちょっと味が濃い」と沖縄軍団は言っていたが、、、
これがチカシとさっきー夫妻。生まれも育ちも名護市で、この地をこよなく愛する人物だ。また、ひーじゃー(山羊)を食いに行こうな、チカシ!
この後、ブセナに戻り泡盛バーへ。
女性バーテンダーがつくってくれた泡盛とルートビアの入ったカクテルはちょっと甘めだったけれど、なかなかのものだった。
キッペイの父さんが育てた島ラッキョウの塩漬けを囓りながら、僕は意識が朦朧としてくるのだった。そういえばあまり寝ていなかったしな、、、
半分寝てしまったところで華が「はい、帰るよー」と起こしてくれる。皆におやすみを言い、部屋に戻ったところでもう記憶がないのであった。
那覇市内に戻り、ホテルにチェックイン後すぐ、タクシーに乗ってキッペイに教えてもらったとおりの指示をする。キッペイは、居酒屋「こうちゃん」にて沖縄軍団と飲みをしながら、僕らを待ち受けるという寸法なのだ。そして僕と華は「琉球料理乃山本彩香」へ向かう。
実は前回の沖縄行で一番反応が大きかったのがこの店なのだ。
「私が一番行きたいと思っていた店に行ってしまうなんて!」
とか
「あの店は琉球料理では頂点の店なんだからこんなのに出しちゃダメ」
とか色々と言われた。山本彩香さんのなんたるかを全く予備知識無しで行ってしまったのが相当にタワケ者的行為だったらしい。しかもそんなビギナーなのに、彩香さんと家族同然の付き合いをしている川端父子の導きにより、特別個室で彩香さんに歓待を受けてしまったものだから、なおさらなのだろう。いや申し訳ないといいつつ、これも食い倒れ運。
で、その後、僕からはあの千住葱を、一番旨い時期に彩香さんの店にお送りしたのだ。卓にきいたところ「すっごい喜んでいたみたいだよ!」とのこと。よかったよかった。沖縄には長葱はないものね。
さて彩香さんのお店については前回のエントリを参照されたい。
■琉球料理逍遙~未来に繋がる郷土の魂を堪能させていただいた 「琉球料理乃 山本彩香」
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000456.html
前回のが9月だから、ほぼ半年ぶりですな。こんなに早くに再訪できて幸せだ。
ちなみに覚えている人もいるかもしれないが、この山本彩香さんの店で目に付く文字(看板とかメニュー)は、すべて川端パパが書いておられる。そして、ぼくのこのブログの題字を書いて下さっているのも川端パパである!
さて店にはいると、前回同様、現在の一番弟子なのであろう、早苗さんという細身のさっぱりとした女性が迎えてくれる。
「やまけんさんのホームページみましたよ、、、いくつか料理の材料の名前が間違っていて、、、」
ああああああ ごめんなさーい
実は前回の記事で「イラブチャーの酢みそ」と書いているの、イラブチャーではなかったらしい!けど、正しいのが何だったかもう忘れてしまった!うわーん ゴメンナサイ、、、
「いえいえ いいんですよ(笑)」
とにこやかに、彩香さんの店の代表的な先付けである「とうふよう」が運ばれてくる。
いつもながらこのとうふよう、最高である。土産物売り場にあるようなのとは一線を画す上品な風味。チーズのような世界だが、確実に泡盛または日本の酒に合う。
そういえばブセナテラスの鉄板焼き「龍潭」で前菜にいただいたとうふようも非常に旨かった。これはある業者から仕入れているというものだったが、彩香さんの店のより淡い癖のない味わいで、豆腐ようのトップレベルにも様々な味の違いがあるのだなと思った。
さて
この店定番の前菜盛り合わせが出てくる。
手前の黒いのが、豚肉の上に黒ごまのペーストをのせた「みぬだる」、左側のが「たーむ(田芋)」を揚げたもの、そして右上のが、島ラッキョウの天ぷらだ。
「みぬだる」は非常に地味の濃い、極めて伝統料理食の強い一品だ。実に素朴な力強い旨さがある。味付けが最低限に抑えられているので素材の微妙な味がかち合い、噛む毎に複雑性が付加される。
そして今回はたと膝を打ったのがこの島ラッキョウの天ぷらだ。
昨夜、もうろうとした意識の中で、キッペイが持ってきてくれた島ラッキョウの塩漬けをポリポリ食べながら、思っていたのだ。「これは加熱したらまた違った味わいになるだろうなぁ」と。
島ラッキョウの塩漬け、これが少しだけピリッと辛みの効いた、強烈な香りの一品で、たしかに泡盛にベストマッチだ。よく酒肴に出されるエシャレットと少し似ている(ちなみにエシャレットと、フレンチの基本素材である「エシャロット」とは別物である)。タマネギに含まれる硫化アリルを同じく含んでいるのだろう、であれば、加熱するとこの辛み成分が甘さと香り高さに変換され、旨いはずだ、、、と思っていたのだ。
そう思っていたらこの天ぷらが出てきた!嬉しいなぁ
「粟国の塩」につけていただくと、ポリッとした食感はそのままに、やはり気高い香ばしさが立ち上る。すこしシャクッとした感触が残りながらも熱が通っており、官能的な食感だ。旨い!
これをいただきながら、ある相関・相似が頭に浮かんだ。それは北海道~東北で食べられる行者ニンニクだ。北海道ではアイヌネギというが、こちらは5月あたりから山中に自生しており、収穫して生で食べたり醤油漬けにしたり、ジンギスカンに入れたり、または富良野のラーメン富川のように餃子に入れたりする。ジンギスカンに入れて食べると、「3日間くらいは身体中から匂いがして、誰にも会えない」と言われるほどの強烈な香りを持っている。
島ラッキョウの位置づけは北海道のアイヌネギに似ている、というと的はずれだろうか?食材の特性からしてもそうはずれていないような気がするのであった。
さてくだんの魚の酢みそかけが出てきた!早苗さんこれなんて名前でしたっけ?コメントででもおしえてください~
この酢みそは甘めなのだけど、しっかりとした酸味とビリッとした辛みがしこまれていて、実に旨い。この辛みは何かな、と思ったら、なんと沖縄のトウガラシの泡盛漬け「こーれーぐーすー」だとのこと。なるほどねぇ!
というところで、卓パパが登場である!
「やあどうもこんばんは。先客のところから少しだけ抜けてきました。顔を見て、すぐに帰りますよ」
いやしかしいつもながらダンディーである。
沖縄放送など、返還後の沖縄のメディア界で活躍された卓パパ、ほっそりとした身体にすさまじいロゴスが詰まっているのである。華子が着物の仕事をしているということを知るや、琉球や鹿児島の着物事情などをレクチャーして下さる。
「大島紬はねぇ、、、」
という話になった時、僕の無知さ加減が暴露してしまった!「大島紬」は、東京の伊豆大島で織られているものだと勘違いしていたのだが、なんと奄美大島で織られていたのね!ひえええ
「ああ、こりゃ話にならないや。華ちゃん、やまけんを教育してやってよ、、、」
とパパもあきれ顔である。その分、華のことは非常に気に入って頂けたようで佳かった。着物と本の話でよい感じに盛り上がった。
さて
この店で僕が一番好きな料理がでてきた! 「どぅるわかしー」である!
「たーむ(田芋)」をつぶして豚肉やカマボコ、シイタケ、豆などと和えたもので、たーむの甘さと具材の味と旨味、ネットリとした食感が実に色っぽくて美味しいのだ!
じゅうしいもそうだが、油の使い方が絶妙だ。脂っこくないのだけど、料理のネットリ感やコクを出すために様々なところに使われているのだ。
もう一杯食べたいなぁ、、、
と思っていたら、彩香さん登場!
「あら、よく来たわねぇ、新婚さん!」
相変わらず、小柄な身体に凝縮・抑制されたパワーがみなぎったような方である。すぐさま盟友である卓パパとの丁々発止なたのしいお話しが始まる。
どうやら4月のNHK 「食彩浪漫」に、宮本亜門氏の心の料理ということで出演されるらしい。
「一品作ればいいのかと思ったら、『あれもこれも』っていわれて、ほとんど全部の料理を作らされたのよぉ~ 大変だったわ!」
読者さんはぜひ食彩浪漫観るべし! 現在発売中のテキストに掲載されているようだから、チェックを。
どぅるわかしーのおかわりは見事OK。やったぜ!
そしてメインディッシュとも言える、白みそ仕立ての、コッテリしながらも上品な「らふてー」。おそらくピーナツも裏ごしされて入っていると思う。
この他、色とりどり、心づくしの料理が運ばれてきたのである。
最後の締めはトゥンファンという、じゅうしいのような炊き込みご飯にを旨味の濃いダシをかけたもの。これも定番だ。
ダシを回しかけ、、、
蓋をしてしばらく蒸して、一呼吸おいて崩していただくのだ!
コレがもう最高! 琉球料理は実に人の食の欲求を絶妙に刺激し、満足させてくれる!
先回もいただいた大粒のタピオカをショウガ風味とシナモンの効いた甘い蜜でいただき、彩香さんも「ここは美味しい」と認める手作りちんすこうをいただく。
たしかにこのちんすこうは旨い!いままでちんすこうを食べて美味しいと思うことはなかったが、これは実に風味のある、ホロホロと崩れるはかない食感の逸品だった。
しかしこの上、卓パパと彩香さんにはお祝いの品をいただいてしまった。卓パパには琉球ガラスの超一流作家、稲嶺氏のグラスと皿を。彩香さんには店でも使っている琉球柄の湯飲みをいただいた!この上なき大感謝である。
このお二人、本当に仲が佳い。僕もこんな洒脱で洒落た関係というのを、50代以降に築いていけたらいいなぁ、と思った。
それにしても彩香さんの料理はやはり素晴らしい!
「もっとこういう伝統的な料理をきちんと出す店があって欲しいのよ。私のところは3部屋しかないから、お客さんに対応しきれない。」
という彩香さんは、本当に心の底からそう思っているようだった。
沖縄にいったら、ぜひ「琉球料理乃山本彩香」にトライして頂きたい。静かで充実した時間を過ごすことが出来ると思う。
そして、さらに夜は続く。「居酒屋こうちゃん」にてウナギオムレツが僕を待っているのである!
(続く)