日本を代表する食の雑誌dancyu。1990年創刊だから、僕が大学生の頃にはすでに発刊され、イタメシブームの中でバカ売れしていた。当然僕も夢中になり、毎号のように購入して藤沢の長屋にてみようみまねで掲載されていた料理を造りまくっていた。パスタマシンを買って手打ちもしてて、あの頃が一番、冒険的に料理していた時代だと思う。名店「ラ・ゴーラ」のタコのラグーとか、どこの店か忘れたけどカニのトマトクリームソースのパスタとかが美味しかったのをいまでも身体が記憶している。
そのdancyuとも縁ができて、記事をちょくちょく書かせていただけるようになった。最初は町田成一編集長の頃だったと思う。その頃、母牛を所有することとなった短角牛の取材で岩手県の山形町へ行ってというのがデビュー戦だ。編集担当はS女史で、その後彼女はプレジデント本誌に異動になったものの、現在はdancyu編集部に戻ってきているようでよかったよかった。この時のカメラマンが、蕎麦を撮らせたら天下一と僕が思っている伊藤千晴さん。その帰り道に「あのさあヤマケン、俺の家は埼玉にあるんだけど、君んちって近所じゃない?」と言われて、なんと4軒隔てたド近所であったことが判明。娘さんとうちの妹が同級生だという縁まで生まれた取材で、忘れられない。
その頃、現・錦糸町「井のなか」店主である工藤ちゃんとの縁があったことから、日本酒のテイスターとしても何度も登場させていただいた。dancyu名物である日本酒特集号、編集長は里見美香さんだった頃だ。コロナ禍を経て僕はめっきり酒を呑まなくなってしまったのだけれども、この頃はジャブジャブ呑んでいたのだなあ。
そのdancyuも基本的には文章を書く側として参画していたのが、たま~に、本誌特集記事などの横にある記事で、ちょろちょろと写真を載せていただくようになった。最初は宮崎県随一のご当地グルメであるレタス巻きの元祖・一平寿司だったはず。村岡さんにお願いして、毎日いちから仕込むレタス巻き専用マヨネーズの行程もばっちり撮らせていただいた、最高の取材だった。
その後、江部拓弥さんが編集長に就任されたときは、僕の心の姉である神吉かなこさんが副編集長に就任。この頃だったと思うけど、別冊「料理男子」に「牛を食べるということ」という、僕が所有していた短角牛の母牛「ひつじぐも」と、最初の牛である「さち」のことを記事にさせていただいたのだ。じつはこの記事が、後に新書として出す「炎の牛肉教室!」に繋がっている。短角牛についてはそれ以外にも記事を書かせてもらい、写真もバンバン載せていただいた。
さて、前置きが長くなってしまったけれども、言いたかったのは
こんなに長いお付き合いの中でも、本誌の通常記事に僕の写真が使われることはほぼ無かった、ということ。
写真を撮る者にとって、dancyuに写真が掲載されるってのは、エラいことなのです。私見だけど、この日本でそう思われる雑誌メディアといえば、コンシューマ向け誌であればdancyuにあまから手帳、料理人向け誌であれば専門料理、料理王国、料理通信といったところだろうか。そのなかで筆頭格にあるのがdancyuと言っていいだろう。いまdancyuに載っているカメラマンのクレジットをみれば、ベテランから若手まで当代随一のツワモノが並ぶ。僕はマニアなので、記事を見るとまず撮影者が誰かを確認して「うーんやっぱ合田さんの光の使い方はスゲぇ!」とか「今号の宮濱祐美子ちゃんの写真、階調が素晴らしい!」という読み方をしている。
そんなdancyuの本誌に、、、
とうとう写真&文で掲載された! しかも堂々の8ページ。 やー もうこれで思い残すことはないな(笑)
新・編集長に就任された藤岡鄕子さんから「やまけんさん、最近おいしいと思っている肉ってなんです?」と連絡があった。だいたいこういうときは、ちょっと先の号の記事ネタの探りなので、うーんと考えて4つほどの牛ネタを返信。そこから「これとこれ、気になります!一緒に食べに行きませんか?」と選ばれたのが、今回僕が書き、撮った牛達。北海道は釧路でオーガニックで育てられているアンガス牛と、十勝の北十勝ファームで育てられる、シャロレー×黒毛という、全国でここにしかない掛け合わせの牛だ。
日程調整しながら、歴戦のつわものである藤岡さんがどう感じるだろうか、、、とドキドキしながらの会食。だって藤岡さん、楚々としたたたずまいの女性なのだが、それはもう見た目だけの話であって、dancyuすべての編集長の下で働いてきた、まさにはえぬきの編集長なのである。その藤岡さんが、このふたつの牛のお肉を「、、、おいしい! 食べたことがない味です」と言って「この2種でいきましょう!」と即断してくれたのが、本当に嬉しかった。
牛の写真自体はすでに僕が撮っていたものから厳選して使用している。うーん、撮っておいてよかった。レストラン2店については気合いを入れてもらって新規撮影! 驚いたのは、おそらく若い編集部員がついてくれるのだろうと思っていたら、ふつーに藤岡さんが独りで来るのだ。 えっ 編集長と俺だけで!? と、なんとも贅沢な取材となった。といっても現場ではもう汗をかきながら「ああ撮ろうと思ったけど、こりゃ無理だな」「じゃ、こう撮ったらいいかな」という、臨機応変を求められる撮影に。とくに西麻布「プリンチピオ」は、厨房が狭いと聞いてはいたけど、予想をはるかに超える狭さ(根岸さんスミマセン)。角度的にどうやってもフラッシュを立てられないよ! というなかで工夫して厨房内撮影しました(汗)。あ、料理写真は室内だったので大丈夫(笑)
写真の話をすると、この写真は採用されなかったアザーカット。じつはこの写真、フツーに撮っているようで、PC-E85mmという特殊なレンズで、アオリ(ティルト)を入れて撮影している。よく観ると、肉の断面は手前から斜め奥に向かっているのだが、その全面にピントがあっているように見えるはず。この肉の牛は真っ赤な肉になりやすいシャロレーに黒毛を掛け合わせたもので、ヒレに適度なサシが入る。そのさまを見せるため、アオリを入れて撮影したわけだ。こいつが採用になるだろう、と思っていたら、違うレンズ(ニコンのZ105mmMC)で撮影した縦位置写真が採用になった。無論、そっちもいい映りなのだが、編集視点は撮影者のそれとは全然別ものなんだなあと再認識。カメラマンの自己満足エゴは通じないのである(笑)
もうひとつのアンガス牛を料理してくれたFAROの浜本シェフには、事前にいろいろリクエストをしていたことに本当によく応えていただいた。
牛が食べている餌に使われているものをソースに使うというコンセプトを上手に発展させてくれた。その「牛が食べているもの」が驚嘆する内容なので、ぜひこれは料理写真の全貌とともに本誌でご覧いただきたい!
これらがどのような牛で、シェフがどう料理したのかは、ぜひ本誌をご覧いただきたい。ちなみに季刊化されて、一冊がズッシリと分厚い! Dマガジンに配信されたのを観てみたら、特集記事の一部しか載っていない。紙または電子版をちゃんと買わないと全ての記事が読めないので、ぜひ買ってください!
あ、そうそう 一点だけ、痛恨の校正わすれ。僕の肩書きが「農産物流通・ITコンサルタント」という、むかしむかしの肩書きになっている~ おそらくdancyuに書き始めた頃はこのように名乗っていたのだろう。いまはもう「IT」はやってない(笑)藤岡さんゴメン、終盤、気が抜けて校正漏れしました。
藤岡編集長いわく「dancyuは、料理をしたい方に向けた雑誌になりました」と。新店紹介よりも、レシピ中心にもどるということだ。これは嬉しい! 今号の高山君×和知シェフの肉焼き理論と実践対決も最高に面白いし、他の記事もすばらしいものばかり(全部読み切れていない)。季刊化になったことで、ページ数がドカンと増えたのはかえっていいことかも!?ぜひ購入して読みましょう!
藤岡さん、浜本シェフ、根岸シェフ、どうもありがとうございました!