新潟は十日町での撮影に行った際に、布海苔そばの名店の誉れ高い二店に訪れた。撮影ネタはいまが盛りのこれ↓なのだが、それはまた別の機会に。
布海苔(フノリ)は海藻で、刺身のツマにも使われることもあって、水で戻した状態の赤っぽいものをみれば「ああこれか」と思うはずだ。そのフノリは、乾燥させたものを煮るとトロトロの糊(ノリ)状になる性質があり、実際に繊維を保護する糊として織物などに使われてきた。
この布海苔の糊を、そばを打つときのつなぎにしたものが布海苔そばである。新潟県十日町市がその本場で、織物の町であったことから布海苔を日常的に使っており、それをそばのつなぎにしたという来歴が語られている。
写真にあるような木製の器に盛り込まれたものを「へぎそば」と呼ばれるが、これは布海苔そばをへぎという器(以前は養蚕に使っていたそうだ)に並べたものをいうのであって、普通のせいろや丼に盛られたものはへぎそばと呼ばずに布海苔そばと呼ぶのがよいのだろう。
布海苔そばは日本そばのなかでもかなり異色の存在だと思う。というのも、食べたことがある人はよくわかるだろうが、表面のテクスチャがツルツルになり、あきらかに小麦をつなぎにしたそばとは別ものなのだ。が、この十日町スタイルの布海苔そばは、東京であれば食べさせる店がけっこうある。茅場町や三田に出店する「がんぎそば」は立ち食いで本格的な布海苔そばを気軽に食べさせる店だし、僕の事務所近くに上野御徒町の「金剛庵」があり、これも新潟名物であるタレカツ丼とのセットは周りのサラリーマンから絶大な支持を集める定番だ。
でもやはり、ひさりぶりにじっくり食べた本場の味は最高だった、、、
まずは、撮影した生産者さんが「そば食べるならここだよ~」とお薦めとのこの店。
名代生そば 由屋(よしや) だ。
入り口の壁にはダダーッとアート関連、それも藝術は爆発だ!の岡本太郎さんのポスターや万博関連の雑誌や本が並んでいる。十日町はアートに力を入れている町で、その関係で芸術家達にこの店は愛されてきたそうだ。
ここで頼むべきものといえばそばと天ぷら。連れはうら若き女性二人なので逡巡したが、せっかくなので一番大きな一升盛りを頼む。
カブとナスの漬物で凌いでいると、参りました!
ツヤツヤと輝く麺線、表面をみるだけで小麦粉つなぎのそばとまったく違う。
綺麗に並べられたそば麺は独特のひねりを入れられていて、それをヒョイとつまむとこのように一口分(というには若干多めだが)がつゆに入る。すすると表面の滑らかさから、トゥルンと喉にひんやり、心地よさを残しながら通っていく。麺を噛み込むと、布海苔ゆらいのぷるんとした食感も感じるが、強すぎずそば感と風味がしっかり感じられる。これがとても重要なポイントで、ぼくは布海苔を使い過ぎてツルンツルンな麺線が好きでない。じつを言えば東京で食べられるがんぎそばや金剛庵の麺線は布海苔が強すぎると想っている。由屋のそばは実に好みだ。
またつゆが出色のできばえ。江戸前だと鰹節や鯖節で出汁を濃くとって、カエシを合わせたものが基調だが、ここのつゆはなんと煮干しを使っているらしい。シイタケ出汁の香りもうっすらと感じた気がする。つまり四国のうどんつゆのような要素が入ったつゆで、愛媛の今治で生まれ落ちた僕には実に水の合う味わいだった。
それにしても同行の女性二名プラス僕に一升盛りはちょっと多かった。天ぷらもつけてしまった(特に写真には撮ってない)のでお腹いっぱい。
さて取材はバッチリに終わり、二日目の昼。どうせならもう一件、本家本元を廻ろうかと、小嶋屋総本店へ。「小嶋屋」には何度か足を運んでいるが、じつは小嶋屋にもいろいろあるそうですな。色んな人から「行くなら田んぼの中にある総本店へ」と言われてきた。とはいえ「小嶋屋なんだからそう変わらないだろう」と思いながら足を運んだが、、、
田んぼの中に発見!
ドライブインレストラン的なかなりの大店であります。
店のエントランスには、布海苔そばの歴史や、織物に使われていた布海苔などが展示されていて、これは実に楽しい。
席でへぎそば(2合盛り)を頼むと、ゴマがすり鉢で出てくる。そう、十日町そばの特徴といえばすりゴマが薬味につくところ。
もうひとつはわさびではなく洋ガラシがついてくることだ。
僕はタレカツ丼(ロース使用)とそばのセット。
由屋よりも色が濃いめの麺線。
メニューは由屋より豊富で、栃尾油揚げも。
ちゃんと半分に切り込みを入れ、ネギ味噌を挟んでくれていて、至極旨し!
そしてへぎそば、、、
さすがに本家だけあっておいしい。ただ、布海苔感はやや強めで、江戸前寄りのつゆだ。そばに関する僕の好みは由屋の方だった。昔、ジャスコ内の小嶋屋で食べた時と印象はあまり変わらない。もう何度か足を運んでみないといけないな、、、
好みは好みとして、とてもおいしかった。そして、布海苔そばの個人的最適解を知るためにも、もう少しこの地に足を運びたいなあ、と思ったのであった。ちなみに六本木のフレンチ リューズの飯塚シェフがこの地のご出身。今度、お薦め店をしっかり聞いてから出立するぞと誓ったのである。