その1で書いたように、2009年、2010年のエレゾはまだ、はじまりの章という感じだった。しかしそこから佐々木章太は、有言実行としかいいようのない進撃を開始する。
2016年2月某日、僕は十勝にいた。北十勝ファーム関連で視察をしていたのだが、章太から「久しぶりに工房を観に来て下さいよ。」とお誘いをいただいていたので、訪ねることにしたのだ。そしてまたもや驚いてしまった。7年かけて彼はすさまじいアップグレードをしていたのである。
雪が積もっているのでわかりにくいものの、以前は工房だけだったのが、それだけではなく拡がりがあるのがわかる。そして、敷地内に入るとなにやら雪の中にうごめくものがちらほら。アレは何?
「あ、実はですね、放牧豚を自分達で育てることにしたんです。いま100頭くらいいますね。あとは羊と、肉質のいい軍鶏を飼っています。」
な、なに!?自分達で畜産まで始めちゃったの!?
実は、放牧豚を仕入れていた業者さんがその後、どんどん品質を下げてしまっていたそうだ。そこで「ええい、自分達でやってしまえ!」ということで豚を飼い、他の家畜も育てるようになったのだそうだ。それに伴い、家畜の専任担当者も雇ったとのこと。
事務所兼母屋に入ると、子供達がキャッキャと走り廻っている。そう、2010年には絶賛独身中だった佐々木君、それはそれは美しいひとみちゃんと結婚し、可愛いお子さんを授かった。
のみならず、東京のフレンチレストランで働いていた金子君が片腕として入社し、同じく料理人だったその奥様も合流。
さらに若手女性料理人まで入社して、、、2016年のエレゾ社は8人を雇用する集団になっていたのである。
尾崎さんをはじめとする腕のいいハンターが、エレゾの基準を満たした仕留め方と処理をした鳥獣のみを持ち込む。それを施設で捌いて、塊肉で熟成。
それをスタッフ達が精肉処理をして、東京をはじめとするレストランへジビエの精肉として出荷。
精肉として販売しづらい部位に関しては、ひき肉に加工しシカハンバーグにしたり、パテにしたり、ハム・ソーセージに加工する。
ミンチ機にかけてハンバーグ種を作る姿、迫力である。
真剣な顔で作業をしている若き女性スタッフに、「こんな田舎に来て肉と向き合っていていいの?」などという不躾な質問をしてしまった。すると彼女は、しばし考えた後に「料理人にとっては信じられないほど素晴らしい環境ですよ、ここは」というではないか!なんと、、、
「やまけんさん、そろそろランチにしましょう!」
という佐々木君の声で、母屋にドカドカと皿が並ぶ。
バゲットにハムとチーズを挟んだサンドイッチ、このハムはエレゾのだよね?
「あ、ハムもそうですけど、チーズも金子の嫁さんが手造りしたものですよ」
えええええっ パン以外は何から何まで手造りかよ!?
しかもその美味しさと言ったら、、、都内でこんな完成度の高いバゲットサンド、食べられないでしょう!
放牧豚の脂を混ぜた鹿肉のハンバーグ、なんと深みのある味わい。
エレゾの扱う肉が全て入ったパテ類、ここはレストランですか?そう、だって全員が料理人でもあるんだもの。
そして生ハムの豚肉も、自分達で理想的な環境を追求して育てた豚の後腿を使っている!
本当に、絶品である。
いやはや参りました。
それまでも、十勝には素晴らしい素材があったけれども、その素材をさらに美味しい食材や料理に仕立て上げる人達が足りていなかった。2016年の段階で、それを見事に成し遂げる魔術師集団が産まれていたのだ。
この年のエレゾはレストランの出店にも意欲的だった。札幌市内に、カマラードサッポロというレストランをオープン(現在は閉店)。
そして、同年8月には、渋谷の松濤にあの紹介制レストラン「エレゾハウス」をオープンしたのである。
エレゾハウスはしばらく前に惜しまれつつ閉店。じつはこれらの店の閉店が、今回のオーベルジュである「エレゾエスプリ」のオープンへとつながっていくのである。
あー 長かった。いよいよ次回、オーベルジュ編です。