Nikon Z9+24-120mmf4+Profoto A10
日本の佳いお酢の代表格である「富士酢」を醸す飯尾醸造の飯尾君とはずーっと仲良くさせていただいている訳だが、ここしばらくの彼の悩みといえば寿司屋であった。飯尾醸造が在る京都府の宮津市を『サンセバスチャンにする!』ということを彼は標榜しているわけだが、そのために飯尾醸造自ら、地域の佳さを訴えかけるレストランを建立。そこに入ったのが、重シェフ率いるイタリア料理「アチェート」なのだが、もうひとつの寿司屋さんになかなか入る人がいなかった。じつはこの間に一回職人さんが入ったのだが、なかなかうまく行かなかったようで閉店。そこからしばらく空白時間があった。それでも飯尾君、諦めず物件をとっておいた。
半年前、そこにようやく「いいお寿司屋さんに入っていただくことになりました!」と連絡があったのだが、職人さんはなんとポルトガル人と日本人のカップルだというではないか。いや~最高に面白いね。
福知山での仕事を終えた夜、地域商品開発コーディネーターである溝口さんと宮津へ移動して、「西入る(にしいる)」に伺ったのである。
「西入る」は倉づくりを活かした2階建ての店舗。
ごらんの通りカウンター5名のみの小体なお店だが、ゆったりとした時間が流れる美しい空間だ。
リカルドさんとみおさんご夫妻のプロフィールは公式Webをご覧あれ。
https://nishiiru.com/about-us/
ポルトガルで日本食の普及に携わっていたみおさんと、日本料理に魅せられたリカルドが出会い、日本のそうそうたる店で修業を積んできたリカルド。なんつってもすしの修業は「鮨かねさか」だし、「六雁」や「てのしま」林さんのもとでも修業しているので、安心感がある。
みおさんもすしアカデミーで働いていたこともあり、飲食の現場に立つ人だ。この夫婦の息の合ったコンビネーションで、料理と寿司が生まれてくる。
かぶら蒸しのカブは、なんと彼らの菜園で穫れたもの。
一番だしなんだけど、なぜかシイタケの香りのニュアンスが僕には感じられた、おいしい一品。
飲みものはユズ皮を落とした甘酒から始まり、ベルギーから丹後に移り住んだ人が醸すクラフトビールを。
お酒は「伊根満開」がおいしい向井酒造のものなど、丹後のものが並んでいる。そうそう、向井酒造の杜氏と飯尾君は同級生です。
これ、クエだったかな~、ハタ類です、ハタ。トロリと甘い白味噌のポタージュ様の椀に浮かぶハタの肉のうま味がコッテリしていて、芯から温まる。湯気の立った熱いうちに旨い旨いと啜り終わってしまった。
ヒラメとイカにつけるのは、自家製の煎り酒。
柔らかな塩梅で塩味が淡く設定されており、白身の繊細な味わいと香りを引き立たせる最低限のものになっている。こんなギリギリの塩梅で勝負するなんて、リカルドの味覚はもはや日本料理のためにチューニングされている!
おつぎは、この時期僕がなにより大好きなサワラ。寒の時期の脂を蓄えたサワラのとろけるような味わいが最高だよね!
ご覧下さいこのサワラの断面! 口溶けのよい脂が走っている。サワラの霜降りなら大歓迎だな。
口に爽やかなアタリをもたらす粗めの大根おろしのダイコンも、夫婦の営む菜園で穫れたもの。うん、じつに上手だよ!
赤米を使った「伊根満開」のお燗が実に合います。
数の子、あん肝、タコの煮物。
このお店、寿司店で鮨だけ食べるのではなく、日本料理をしっかりいただくことができることに喜びを感じる僕にとっては最高だ。まあいわゆる寿司割烹なわけだけど、きっちり日本料理のオール技術をものにした人が握る寿司を食べたいと思ってしまう。
しかし一方で、リカルドの故郷であるポルトガルの風も感じたいものだなと思っていたら、、、
出ました!
ポルトガル名物、ばかでかいタラの干したのを戻して作る大衆料理・バカリャウである!
芋と合わせたバカリャウの、戻した干しタラの繊維がほぐれる食感がとてもイイ!
いやーーーーうれし嬉しい! 寿司の合間に和食仕立てのポルトガル料理も楽しめるなんて最高だ。
まながつおの西京焼き。
アマダイの松笠焼き。
いや~どれも本気でおいしい!
ちなみにすべて宮津や伊根の海で揚がった魚ばかりではなく、なんと三浦半島で揚がったものなども織り交ぜている。なぜかはぜひ直接二人に訊いて下さい。
さてここからいよいよお寿司だ。
あいにく僕は寿司マニアではないので、的確に寿司について表現することは難しい。詳細は「すしログ」の大谷君におまかせしようと思います。が、とにかく酢飯がイイ。意外に酸がバシッと効いているのだけれども、ネタと煮切りと合わせると酢飯単体の印象は消え、全体の印象がくっきり浮かび上がってくる。ほどけ具合もすばらしく、とにかくおいしい!
三浦半島のコロダイ、引き締まった身肉が心地よい食感。
イカのねっとりした旨さを堪能。
それぞれの寿司を、握るのはリカルドだが、その上になにかをかけたり塗ったりというのはみおさんが入り、二人がかりで完成させていく。
釣りアジ、清々しい身の香り、最高だったなあぁ、、、、
そして、リカルドがネタ箱から取り出した分厚い、本当に分厚い〆サバを切り出したときには、心が躍った!
串打ちしてさっと炭火で炙り、、、
出ました!!! 「手巻キング」こと飯尾彰浩君の得意技、手巻き寿司の〆サババージョンである!
えーとですね、これ、おかわりしちゃいました(笑)
本来、客が手巻きする寿司をシグネチャーとはいいたくないだろうが、この一品がシグネチャー!っていってもいいくらいにおいしく魅力的。考えてみれば、海苔が介在する寿司はこの日、これだけだったのだけれども、まあとにかくおいしい!
これで一通り。追加で何貫か頼んだけれども、最後にみおさんにお願いして、酢飯だけいただいてみた。
色からして、飯尾醸造で特別に醸造した赤酢なんだろうな。飯尾醸造では通常販売していないが、ここだけのためにちょっとだけ回しているのかもしれない。うま味と香りのボディの太さを感じる味わいだ。
そういえば、揚げたり、手の込んだ下処理をするのは階下にあるキッチンなんだけど、そこにちょっと降りていったリカルドが持って来たのが、、、
やった!!!!! 本場ポルトガルのカステラである!
自家製ユズのジャムを挟み込んだこいつがすばらしくふんわりして美味しい!
リカルドに「日本のカステラはどう?」と尋ねると、うーんと首をかしげながら「食べると、ちょっと疲れます」という。
リカルドが焼いたカステラはたしかに日本のミッチリみしみししたカステラと違ってふんわりして食べやすい。どちらも好きだが、寿司の仕上げに食べるのはこちらで決まりだ!
それにしてもリカルドとみおさんの寿司、素敵だ。
店に来ればわかるが、とにかくおふたりのホスピタリティが素晴らしい。たしか先週末に関西のテレビに登場したそうなので、しばらく予約がとりにくいかもしれないが、、、でもトライする価値大ありである。
寿司バブルで膨れあがった都心部のカウンター寿司とはまた違った価値を呈する「西入る」、心からお薦めできる店だ。なお、宮津に新しくできたフェアフィールド・バイ・マリオットから歩いて1分の距離なので、泊まりはここにするのがよいでしょう。ただしこのホテルは食事を地元の店でやってくださいという方式。夕食は「西入る」か「アチェート」にするとして、朝食の選択肢がちょっとこころもとない。僕が泊まった月~火にかけて、マクドナルド以外どっこも開いてなかった!ので、朝食は前日中にどっかで調達しておくことをストロングに薦める次第である。