日本橋で開催されている味百選に足を運んだ。お目当ては「やまつ辻田」の七味唐辛子だ。
やまつ辻田は大阪は堺市の、薬味問屋といえばいいのだろうか、唐辛子や山椒といった和のスパイス原料の商売を代々しておられる。代表の辻田浩之さんの名前はもちろん、その絶品の山椒はいつも飯尾醸造のお酢を購入すると「やまけんさんこれも味わって」と飯尾君が着けてくれたりするので、我が家の山椒は辻田さんとこのである。
ただ、七味はそういえば一度買わせてもらったくらいだなあと思い、今回は辻田さんに直接会おうということもあって行ったのである。そう、じつは初対面。
高島屋、10時半開店で10時45分くらいに行ったら、もう「今日の午前中の分、45人待ちなんです」といわれてビビる! そう、全国の優良メーカーが並び、数日間でおどろくような売上をたたき出す味百選の中でも、リピーターが多いのが辻田さんの七味なのである。まあ、それはそうだ、だって目の前で調合していくんだもの。
「ちょっと間があるから、やまけんさんにお話ししましょうか」と材料の口上を述べてくれる。今回驚いたのは、その唐辛子のことだ。
「日本の唐辛子を鷹の爪っていうでしょう?でもね、純粋な品種としての鷹の爪ってほとんどありません。みなさん、三鷹とか本鷹とかの品種もひっくるめてぜんぶ「鷹の爪」っていってますよね。ほんとうの鷹の爪ってこんなんです。」
といってみせてくれたのが、タイのピッキーヌーとまではいわないが、小ぶりな唐辛子である。これが鷹の爪?
「じつはですね、あの平賀源内も「食べるなら鷹の爪が一番」と言ってるんです。」
マジか!? そう、あの平賀源内が72種の唐辛子について、絵入りで解説している「蕃椒譜(ばんしょうふ)」という書物があるらしいのだが、そのなかで鷹の爪について「はなはだ小さくして、愛すべき風情」そして「食するには、これを第一とすべし」と書いているという。それって「食べるんだったら、鷹の爪が一番!」てことでしょ!
そんな本物の鷹の爪、昭和30年代まではやまつ辻田のある大阪の堺市も主産地のひとつで、収穫期になると当時は辻田商店と名乗っていた辻田さんの生家に農家が売りに来ていたという。一升一銭で取引されていたそうだ。でも、その鷹の爪栽培はどんどん廃れていく。それは、本鷹や三鷹にくらべ小ぶりなこと、そして一株あたりの生り数が少ないということで、農家が離れていってしまったそうだ。
「でもね、鷹の爪は本鷹や三鷹と比べて辛みが強く、これでないとでない味わいがあるんですよ」
たしかに、この七味はビリッと辛みが強い! だから、辛い物好きなら辻田さんとこの七味を食べてみるといい。
他にも、山椒がたんなる朝倉山椒ではなく、山朝倉山椒と「山」がつくものであり、とても香りが高いこと。この日の目玉はユズ皮を使った柚子七味だったのだが、そのユズこそ、高知県の中岡慎太郎の生家の裏手に生えている、実生のユズのものであること、ゴマは国産のものをそうざらえしたけれども、結果的にトルコ産のものが大粒で香りがよく、採用していること、スジアオノリは四万十川で獲れなくなっていることもあり、仁淀川で養殖してもらい香りがよく、細かい形状になるものを仕入れていることなど、とにかくうんちくの宝庫であった!
そんな話をしながら、ミルに原料を入れてその場で挽いて、ふるいにかけて調合していく。実生のユズ皮を乾燥させたものを挽いたときは、マスクをしているにも関わらず、あたり二メートル四方にお花畑か?と思わんばかりのフレグランスが漂った!
はい、できあがり!
ユズ皮の含量がおおいこともあって、七味とはわからない色合いだが、これがまた絶品ですわ。
これを辻田さん、その場で接客しながら詰めて(きちんと軽量してます!)、封をしていく。
七味ってミックススパイスですからね、鮮度が大事! もうね、ぜんぜん別物だから!
それにしても安い。味百撰にでてるものはかなり高価なものが多いのだけれども、500円前後とかで買える商品ばかり取りそろえている辻田さん、こういうところでふっかけないのは素晴らしいなあ、と思う。
実生ユズの柚子ごしょうも買いました。
「これ、ステーキに乗せたら最高なんです」ていわれたら買っちゃうよね!
粉山椒はぜったいマスト。缶に入った七味は会場で調合したものではないけれども購入。
「あのね、家に持って帰ったら、すぐに冷凍庫に入れて下さい。使う時以外はずーーっと冷凍庫。柚子胡椒も塩分濃度の関係で凍りませんから。香りが保つからね」
とのことなので、みなさんご記憶下さい。
月曜日まで開催されているので、ぜひ買い求められることを薦める。ただし、注文入れて二時間待ちになるかもしれないので、どこかでお茶をして再度とりに行く覚悟と余裕を持って行って下さい。山椒は今年不作だそうで、現物があるだけなので、まだ残ってたら買うといいですよ、他の製品とぜんぜん違うから。
さて、味百選の会場の奥の、そこからまた奥に入ったところに(わかりにくい!)、飯尾醸造の飯尾君も参加しているHANDREDという、100年以上続く食の優良メーカー集団のブースがしつらえてある。
飯尾醸造はもちろん、白扇酒造の本みりん、鈴廣のかまぼこ、三つ星醤油、そして加賀棒茶の丸八さんが並んでいる。
丸八の新商品である紅茶、美味しいね!あと、この缶がかわいくて、僕の干支のイノシシだったので、買っちゃった。
ということで、みるもの、買うものの多い日本橋高島屋の味百選、混むのは必須なので余裕を持って参戦を!