あー、怒濤の日々だった。先々週のことになるのだが、弾丸日程で岩手へ行って来た。なんでかというと僕の所有する短角牛「大嵐」くんが出荷となるからだ。コロナ過でバタバタして、牛を預けてある久慈市山形町にもほとんど行けていないうちに、「もう出荷かよ!」というタイミングになってしまったのだ。
と畜日は6月23日予定。その直前の週末を使って、岩手へ行って来た。当日朝、抗原検査キットで唾液を測って、陰性表示になったのを確認して東北新幹線に飛び乗り、いわて沼宮内(ぬまくない)駅へ。
いわて沼宮内駅で降りる人はとても少ないと思うが、なかなかによい場所です。山形町へ行くバスが1時間以上待たねば来ないので、その辺をお散歩。昨日まで豪雨だったのが嘘のようないい天気である。
メシ食いたいなーと思ったのだけれども、なんと沼宮内駅内にあったはずの飲食店、ダイニングYayaが閉店していた!(涙) なんだよ~ キャベツたっぷりの岩手町焼きうどんを食べて腹ごしらえをしてから行こうと思っていたのに、、、地方あるあるだが、繁華街が駅とはまったく関係のない場所に集中していることが多く、駅前には喫茶店もなにもない。駅舎2Fに物産を売っているコーナーがあるのだが、そこに土産物に並んでなんと、沼宮内を代表する精肉店・肉の府金(ふがね)の手羽先が売っていた!それ以外はみんな乾き物! おお~、これで腹を満たそう、と手羽先購入。また、スタミナ源たれ味の南部せんべいを、炭水化物として購入(笑)
この間、ちょっと焼きうどんが食べられずやけくそ気分だったので写真撮ってません。食べ終わって手羽先のタレまみれの手を洗おうと席を立ったところ、なんか向こうからでっかい男がやってくる。ん?こいつどこかでみたことがあるぞ、、、と思ったら、なんと川崎市場の仲卸のW山君であった!
「あれっやまけんさんなにやってんすか~」
いやそれはこちらの台詞だよ、東京でも滅多に会わないのになんでここで!?
じつはこの地域は高原野菜の大産地。有力農家さんの圃場に視察にいっていたそう。農家さんも呼び寄せていただき、ごあいさつ。いやー本当に変なもんだね、運命とは。入れ違いに東京へ帰って行くW山君にスタミナ源たれせんべいを渡して、僕は久慈市方面へ向かうバスに乗り込んだ。
「白樺号」というこの長距離バスが、盛岡から久慈市までを結んでいる公共交通機関だ。車内は快適で、途中の道の駅で止まってくれるのでトイレ休憩もありますよ。沼宮内駅を過ぎると、どんどん山の風景になっていき、途中、ソフトバンクの電波も入らない山中を抜けて、1時間ちょっとで「平庭高原」に到着。
この一つ先の停留所が「陸中山形」で、山形町の中心部に最も近い。しかし今日は平庭高原で降りる。なぜかというと、、、
そう、この平庭高原名物の闘牛大会が開催されているのである!
ご存じの方も多いと思うが、山形町は闘牛の有力産地でもある。有名な新潟県の山古志村の闘牛も、短角牛が「南部牛」と呼ばれて闘っていることが多い。塩のつまった俵を海辺から山へと運ぶ役牛としてムキムキに鍛えられた南部牛を親に持つ短角牛は、闘牛用として理想的だそうで、沖縄にもよく買われているそうだ。
久慈市山形町内では、ご存じカッキーこと柿木君や、僕が今回出荷となる大嵐くんを預けている下館進さんらが、牛舎で闘牛用のオスを育てているのだ。
停留所から10分ほど歩くうちに、ワーッという歓声が聞こえてくる。あっ ノボリがみえてきた!
会場内に入ると、そこは静かな興奮のるつぼ! うおーーーーー山形町にこんなに人がいるなんて、初めてみたぞ、、、
県内外から集まった人達が、闘牛場を囲んで取り組みを見守っているのだ。
あっ、カッキーが牛を引いている。スペインの闘牛とはまったく違って、ここで行われる闘牛は人と牛が闘うのではなく、牛同士が角を突き合わせるものだ。
牛は群れる動物だ。群を形成する際に、オス同士は序列を決めるために、角を突き合わせて勝ち負けを決める本能的な衝動があるという。その昔、塩を運ぶ前にそのようにするオス達の姿をみた人達が「だったら、これを勝負としてみてみよう」ということで闘牛が始まったらしい。
もともとオス牛は、飼っていると大木に身体をこすりつけたりして自分を鍛えている。群れの中での自分の力の誇示を本能的にするものらしい。その習性を利用して、全国的に闘牛が行われている。
といっても、山形町の闘牛は牛を可能な限り傷つけない工夫がなされている。勢子(せこ)と呼ばれる人達が4人着いて、闘牛一頭に二人ずつついて縄をかけておく。牛たちが闘牛場に入ってくると、もう二頭の牛は「おれはやるもんね」とばかり、ブフー、ブフーと息を挙げ、蹄で地面をける。そして、、、
ゴッ
と鈍い音が場内に響き、900kg以上の巨体がぶつかり合う。
ご覧の通り、勢子は至近距離でこの巨大な肉塊のぶつかり合いに寄り添う。危険極まりない。
そうして牛が激しくぶつかり合い、勝負が決まりそうになったその瞬間、勢子同士が合図を送り合い、牛をえいやっと引き離す。
「山形町の闘牛は、勝負を最後までつけないんで引き分けに終わらせるんです。そうでないと、牛が「俺は負けた!」と認識してしまい、次から闘う気が無くなってしまうんですね。ですから、勝負が決まりそうになる見極めを勢子がつけて、縄を引っ張って引き離すことが大事なんですよ。」
というのだ。マジでそんなことできるの!?と驚くのだけれども、勢子に着いた堂々たる体躯の男達は、それをやっている。すげえ、、、
観客もみんな、取組中は身を乗り出して「おおおおっ」と固唾を呑んで見守り、勝負が終わると拍手を送り、ワイワイガヤガヤと楽しんでいる。
コロナ過ということでみなマスク着用し、ベンチも間隔を空けて「ここには座らないで下さい」の張り紙できちんと対策。あ、受付で体温を測るなど万全でしたよ。
取り組みの中で、「あれっ」と思った牛が。
なんか、白い?熊本系の褐毛和種かな!?
と思ったら!
「これ、短角牛なんですよ」と。マジでか!?
その説明を場内アナウンスでしてくれたのが、山形町の役場に勤務して、短角牛担当をしている新井谷のやっくんではないか!
なんと、彼はこどもの頃から闘牛と触れあっていたこともあり、この平庭高原での闘牛大会の進行役兼実況解説を担っているのだ!かっこいーーーー!
「短角牛は褐色の体毛が普通ですが、むかし交配した系統に白い毛の牛があるようで、たまにこういう牛が生まれるんです。「かすげ」と呼ばれるのですが、そうした牛が高値で取引されることも多いですね」
さてこの一番、動画にしてあるので、どんなふうに戦い、分けられるのかご覧下さい。
いやーーーーーいい勝負だった! でも、ご覧の通り引き分けなんです。
さあ、次はカッキーこと柿木敏由貴くんの牛、柿木チョッパーが出てくる!
ちなみに場内にはカメラおじさんが多数。
ニコン派もキヤノン派もソニー派も居たが、以外にフジフイルム派も多かった気がする。
さあて柿木チョッパー入場!
対する牛は、ちょっと「おれ、あんまり闘いたくないなぁ~」という感じ。なかなか会場にはいらないので、勢子がお尻を押しています(笑)。
序列が闘う前からわかっちゃってる場合、こうなってしまうらしい。
こんなにムキムキで強そうな牛なのだが、強者は強者を知るのだろうか。
この勝負が、一瞬で始まり、一瞬で終わった。
いきなり柿木チョッパーが「ゴンッ」と角を突き合わせる!
そのまま一気に押し込む!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
勝負あり!
なんだけど、でもね、引き分けです。「んー、柿木チョッパーが優勢、ってかんじかな」と。いいですね、勝ち負けをつけない勝負。
優勢だった柿木チョッパーは「まだまだ俺、やれるもんね」とばかりに唸りながら場内を一周。イケイケだぜ。
次は横綱戦。 若獅子と白樺王の対戦だ。
これはねぇ、とにかく写真だけでそのすさまじい迫力が伝わると思います。
はい、取り組み終了!
いやーーーーーいい勝負でした!さすが横綱戦、とても長い時間、二頭の牛は集中力を切らさずに角を突き合わせていた。場内もしばらく興奮が冷めやらない。
横綱がそれぞれ、写真撮りタイムと言うことで繋がれる。こちらは下館進さんが世話している白樺王。
いや、かっこいいなあ、オスの牛。
酪農で飼っているメスや、タマを抜いて去勢した牛とはまったく違う生き物だ。
取り組みが終わり、お客さんが帰ったあとに、出場牛たちのところを覗き込むと、、、
あれ?あのピンク色のシャツ着てるのはもしかして!?
そう、京都の焼肉「きたやま南山」の楠本貞愛さんだ!
「やまけんさん、わたし、闘牛のオーナーなんですよ。この「さとけんりゅう」っていう牛がそうなの。勝負は弱いんだけどね、可愛いのよ~!」と(笑)
まだ2歳のこのさとけんりゅう、今後、横綱になることを期待します!
一大イベントが終わって、みんなホッとしつつゆっくり後片付け。
やっくんもお疲れ様!
彼の実況解説が本当にすばらしくて、場内の人達も「いま、どちらが優勢なんだ」とかよくわかったと思う。
「俺らの親父の代から平庭高原での闘牛は行われてて、こどもの頃から牛たちと触れあっていたんだよね。俺たちは牛たちを傷つけないように細心の注意を払っているし、大切に育ててる。全国の闘牛界から短角牛が求められているのは誇りだよね」
カッキーも、よくがんばってました! そうそう、この日、勢子として入っていた沖縄出身の男の子が柿木畜産で働いていていたのだが、このたび帰郷することになったそうだ。
「働き手、探してます」とのことなので、短角牛の畜産に興味ある人は柿木畜産へどうぞ。もれなく勢子役がついてくると思います。
さて、闘牛大会をあとに、やっくんの車で下館進さんの牛舎を目指します。
つづく