山口県の梶岡牧場が面白い。以前あの安愚楽牧場の預託を引き受けていたことから、経営的に危機を迎えるなど大変な思いをしてきたことから、「預託ではなく、自分が最後まで販売しきる牛を創らなければならない」と決意。黒毛和牛を中心に250頭ほどの繁殖・肥育一貫経営を行っている農家だ。
その飼養管理方法も(ここには詳述しないが)興味深く、また糞尿を発酵させた堆肥作りも素晴らしい技術で行い、多くの果樹・野菜農家と組んで循環させている。
その梶岡牧場の秀吉君から「とうとうできました!」と送られてきたのが、ブラウンスイス種の牛のお肉だ。
ブラウンスイスは日本では「そんなに居るわけじゃないけど、無視はできない程度存在する」という品種だ。そのお乳は乳糖成分に優れており、チーズ生産に最適と言われている。みためジャージー種と間違える人も居るが、ジャージーより大型で毛色も、毛分けも違う。島根県では木次乳業が、ブラウンスイス種を放牧して育て、牛乳を製品化している。
ブラウンスイス牛は山にいる。山で草を食べて、乳を出す。柴田書店「専門料理」次号の僕の執筆ページは木次乳業の牛乳について。
https://bit.ly/3gkPJx7
ただ、こうした乳用牛としてのブラウンスイスの影に、自然界の法則上、必ず生まれてしまうオス牛たちの存在がある。近年の酪農技術では、メス優先の産み分け技術がかなり進歩しているのだが、こうした比較的マイナーな牛たちの場合そうした恩恵にあずかっていないことが多い。
で、生まれてしまうオスの子牛はどうなるのか。通常、酪農で供されるホルスタインのオス子牛は、生まれたときからお肉になることが決定されている。乳用種は和牛より短い肥育期間でお肉となり、赤身中心の手頃な価格の牛肉として販売される仕組みが確立されている。ただし、ブラウンスイスやジャージーについては、ホルスタインのように商業的な”仕組み”ができにくく、産肉量もホルスタインに比べ低い。
そうしたことから、ブラウンスイスやジャージーといったマイナー品種を育てる場合、オス子牛を販売した収益をあまり期待することができないということが課題としてある。
そんな中、梶岡君がブラウンスイス種の肥育に取り組んだお相手は、なんとあのチーズで有名な吉田牧場である。詳しくは聞いていないが、吉田牧場としても生まれてくるオス牛の嫁ぎ先(というとおかしいが)を探していたのだろう。
さて、とどいたのは各部位のお肉。ロース、イチボ、トモサンカク、ササニク、フランクだ。
ご覧の通り実に深い色の赤身に仕上がっている。聞いてびっくり、なんと梶岡君、ブラウンスイスを30ヶ月齢も育てたのだ!
というのも、乳用種のホルスタインは通常、20ヶ月齢前後で出荷する。黒毛和牛の高級ラインが35ヶ月齢~40ヶ月齢であることからすると随分と若い段階で出荷する。味わいよりも価格重視ということがある。
ただ、ブラウンスイスを30ヶ月齢、しかも放牧肥育ではなく舎飼いで育てると、どんな肉になるのかということはあまり追求されてこなかったかもしれない。
そして2つ目の「なんと!」は、このブラウンスイス、生体重が1トンを超える増体を見せたと言うことだ。デカい、、、やはり小型のジャージー種よりは、ブラウンスイスはデカくなるんだね。
さて、問題はやっぱりお味でしょ! ということで一気に全部位を焼いていただきました。
なるほどね!とても綺麗な牛肉の味になっている!!!
これは面白い、そして美味しい!
梶岡君の肥育技術によって、ほどよいサシが入っている。脂は硬そうにみえるけれども、指をあてると溶け滲む。サーロインの脂から焼くが、スルスル溶ける脂ではなく、形を保っている。欧州のグラスフェッドビーフでよくみかけるタイプの脂だけど、これグラスフェッドではないんだよなあ、やっぱり品種由来でしょうか?
乳用種らしいスッキリした香りで、黒毛和牛に特有の香りはない。それが欲しい人には物足りないかもしれないが、胃腸がそれほど強くなく、油脂の分解能力が低いうちの妻は「えっ 美味しい! 全部食べられる!」とバクバク食べた。そう、とってもきれいな脂質なのである。
この「きれい」という表現は食べてもらわないとわからないかと思う。食べればわかる!(笑)
梶岡牧場はこのブラウンスイス種の肥育を、スポット的にやっているのではなく、腹を決めて一つの生産ラインとしてガッチリやっていくようだ。今後、この綺麗な仕上がりの肉をドライエイジングするなど、さまざまな取り組みをしていくだろう。実に楽しみだ。
梶岡牧場のオンラインショップでお肉を購入できる。気になる人は是非お買い求め下さい。
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なお、真空冷凍で送付されるが、解凍する際は真空パックを開封して、空気に触れる状態で冷蔵庫解凍してください。そうすると写真のように見事な赤色に発色します。
いろんな牛がいるのだから、多様な牛肉の美味しさがあっていい。梶岡牧場の今後の取り組みを応援します。