昨年のことだが、かのヴィラ・アイーダへ行くことがかなった。色んな人から素晴らしい店だと聞かされていたものの、予約がなかなかとれないということだったので、軽く諦めていた。そうしたら、富士酢の飯尾醸造・飯尾君が「やまけんさん、丹後の料理人達といくんですが、参加されませんか?」とお誘いが。もちろん行く!ということで初アイーダとなったのでした。飯尾君に感謝!
せっかくなので和歌山の友のところにも行こうということで、この日は泊まり。和歌山市駅に直結でカンデオホテルができていて、新しくて綺麗。なぜかツインのいい部屋にしてくれていて、無駄にリッチな気分に。
さて、ヴィラ・アイーダは岩出市なので、和歌山駅・和歌山市駅からはちょっと離れています。飯尾君とつるんでタクシーで20分ほど。
ここがヴィラ・アイーダ。まだ丹後組は来ていない模様。
エントランスでマダムの有巳さんとご挨拶。彼女も名のある料理人だったわけだが、惜しげ無くそのキャリアを脱ぎ去って、ヴィラ・アイーダを成立させていらっしゃる。
そうこうしているうちに丹後の若き料理人達が到着。まずはヴィラ・アイーダをヴィラ・アイーダたらしめている農園にご案内いただいた。
じつはこの日10月中旬、意外と端境期で、畑はみどり豊かという感じではない。冬に向けた播種をしているところだった。
でも、一般誌向けの物書きを家庭菜園家向け雑誌からスタートした身としては、畑探訪は半分仕事モードの眼になってしまう(笑)実に興味深い品目、品種が植えられていた。
これは黒大豆。マダムと小林シェフが一緒に農作業をしているわけだが、とにかくこの、店の裏に畑がある状況であれば、獲り頃のものをそのまま摘んで厨房に盛っていくことが出来る。ファーム・トゥ・テーブルという言葉があるが、ここはそれ以上に農場と食卓が近い。
畝を切ってあるものの、一本の畝に様々な品目・品種を植えているように見受けられた。そもそも彼らの畑は市場出荷用ではないので、出荷用トマトやナスなどの単一作ではない。その作物がほんとうに美味しい時期に、一日MAX10名程度の食卓に上ればよい分量なのだ。その作物が本当に美味しい時期って限られているからね、これは理にかなっている。多品目を少量ずつ生産している様は、これまでJA系統の篤農家の圃場を取材してきた身からするととても面白い。
こちらはパッションフルーツ。なんと実を結んでいるそうで、さすがフルーツ王国の和歌山だ。
花もすべてエディブルフラワーとして、皿の上を飾るものが植えられている。
ここまでが店舗脇の畑で、ここからちょっと歩いたところに、なんと小林シェフのご実家とハウスがあるという。
えーーーーーーー、まさに農家の家だわ、これは。それもそのはず、ご実家は専業農家。さきほどの店舗も、ご実家の農地を転用して建てたものなのだ。
端境期なのでハウス内もミニマムな作物量だが、やはり小林シェフの料理を支えるに必須な多種の野菜が植えられていた。
そんなこんなで陽がだんだんと落ちてきた。ごはんにしましょうかね。
ここでようやく、小林寬司シェフの顔を拝むことが出来ました。
もちろん「専門料理」に一年間連載されていた四季おりおりの料理ページ、そしてそれをまとめた本が出ていることからも、僕はお顔を拝顔していましたよ、シェフ!
この本、本当に良書です。たんなるレシピ集ではない。ていうか、小林シェフの料理は基本的に再現不可。だって、野菜の規格が市場出荷品と違うんだから。その日獲れた野菜を組み合わせて作る料理なので、レシピを真似ても同じものはできない!
でも、ヴィラ・アイーダで食べて、その後に反芻するようにこの本を読むと、「ああ、この料理をベースに、あの材料でこうつくったのか!」というように、シェフの思考の追体験ができてとても楽しいのだ!
さて、この日のメニュー。
ヴィラ・アイーダの料理については、ここまで有名になる前から追いかけていた料理ジャーナリストの方も何人かいらっしゃるし、そうした方々の文章を読まれた方がいいと思うので、私ごときは多くを語りません。
泡とカッペリでしずやかに始まり。
先ほど畑にあったエディブルフラワーが華やかな、ドライトマトのタルトレット。
そして、これまた説明されないとわからないが、野菜のパウダーや灰(おそらく)がまぶされたピクルス。
おもしろいよね、食べるだけでは正体が分からない色とりどりの香りに味。これらは小林シェフの「できるだけ野菜を捨てたくない」という思いから発想された、パウダー加工のたまもののようだ。
おもしろいことに、マダムは「さらっ」としか説明しない。本を読むと「あまり説明が長いと、自分でも「はやく料理食べたい!」と思っちゃうから、ほどほどにしています」とあるので、食べてウーンこれは何の香りか、、、と唸る(笑)
丹後の若き料理人達、みな神妙な顔つきで食べております(笑)
■黒豆枝豆
これが、さきほどの畑にあった黒大豆の枝豆。茹でた枝豆に黒胡椒とフェンネルシード、粒状の塩が合わせられている。シンプルだが複雑な香りになって、塩で食べる枝豆と違ってハッとする味わいだ。
■イノシシ えのきたけ 里芋
イノシシのスープに干したえのきだろうか、のうま味が染み出している。里芋はいわゆる煮物になっているわけではなくサクリと爽やかな食感。
芋を覆っている柿色の薄膜がなんだったのか、いまとなっては思い出せない、、、うまいうまいとすすり込んでいただけなので思考停止してました、スマン。
■ほうれん草 牡蠣
この一皿が一番心に残っているなあ、、、ほうれん草と牡蠣を合わせた料理がシェフの定番らしい。
この料理、牡蠣の姿はどこにもない。ピュレ状になり隠されている。ちなみに上にかかっている白いごく細切りのものは、なんとフェンネルの根っこのピクルス。たしかにセリ科特有の香りが立って、ほうれん草のどちらかというと緩い風味に鋭さを加えている。
絶品だ、、、この一皿が僕にはこの日の一番でした。
■かぶ レタス
みずみずしく甘い西洋カブと、ほんのり苦みが出てきたリーフレタスを泡のソースで和えていただく。
農園で採れる野菜を出し始めた初期の頃、地元のお客さんからすると「こんな野菜ばかりだったら自分の家でも食べられる」と言われていたというが、たしかに食材だけみればそうだろう。ただ、その食材はヴィラ・アイーダでしか出せないもので、このタイミングでないと出てこないものだというのがわかった瞬間、価値ある一皿になる。美味しいです。
■かぼちゃ 鯖
かぼちゃと鯖? どちらかというとデンプン質で鈍重な印象のかぼちゃが青魚と合うか?と思うが、これまた美味しい。どちらも平たいうま味系だが、フェンネルの花をピクルスにしたものだろうか、が見事につなぎ役になっている。
ここで、小林シェフが「どうですか?」と顔色伺いに。
何度もここに足を運んでいる飯尾君から「シェフもワイン、ご一緒に」と声かけ。いいですね、飯尾君のつながり方。
決してしゃべりが上手ではない小林シェフ、だが、聴かれたことには真っ直ぐに答えてくれる。
■烏賊 ネギ
イカとネギといいながら、その他のリーフ類がバサバサと載っており、それらの香りが鮮烈。また黒いパウダーはまた野菜の灰だろう、それがそこはかとないほろ苦みと香りを演出。イカとネギといわれて思い浮かぶ甘やかさではなく、印象が異化されていく。
■栗 セロリ マナカツオ
やー これまた美味しいですね。遠火でじんわり調理されたマナガツオに栗の甘さ、セロリの鮮烈な香り、そしてこれまたなんのパウダーか忘れたけど、香りが付与されて複雑な味わいに。
■真珠豆 サツマイモ 落花生
この一皿もねえ、よくみたら全部、でん粉です。芋、豆、豆ですからね。鈍重になるでしょう、と思いきや、それぞれの個性が生きて鈍重にならない。不思議です。細かく細かく、ハーブや種子スパイスを用いているから、極小の変化が料理に出ているんだろう。
■猪豚 長芋
猪豚は揚げ焼きだろうか、脂の部分もしっかりと焼き目がついている。新ぷりに火入れしてやはり野菜パウダーで変化を出しているようだ。猪豚はやっぱり美味しいねえ、皿数も多く、穏やかな満腹感。
と思ったらなんとここで「メニューには載っていませんけど、パスタはいかがですか?と」という素敵なご提案!
いただくにきまってますなあ、カチョエペペ、美味しゅうございました!
シンプル極まりない、パスタ本来のおいしさがグンと前面に出てくる。これ、家では絶対に作らないね。美味しくできるはずがない(笑)
いや堪能しました。
ここで、先にも紹介した書籍「自然から発想する料理」をお店で買わせていただくことに。ほぼ全員買ってました。
これがですね、いま出ている版と違うんだろうか、amazonとかでみると表紙がラディッキオの写真なんだけど、こちらは純白に文字だけのもの。
なんと嬉しいことに、ここで買った人には、小林シェフからのサインが!!!
いや、うれしいね、この本、本当にいい本なので買った方がいい。でもそれはこの店で食べて、そんでから買った方がいい。
こばかんさん、ありがとう♥!!!!!
ヴィラ・アイーダの料理は、みずから菜園をもつ料理人が作る、その時に美味しさの旬を迎えた素材をつかったガストロノミーだ。農園レストランというカテゴリの店は、いまであれば全国にある。ただ、それでガストロノミーと言えるものを出しているのかどうかというところが違うのだ。
お店で料理を味わったのち、自宅で本をめくり「あっ あの料理はこういうアプローチだったのか!」と追体験をすることで、こばかんシェフのやらんとしていることがわかった。
すばらしいお店であった! 不覚にも、自分でも野菜をまた育ててみたいと思ってしまった(笑)
その後、和歌山市駅の前にあるバーにてみなで歓談。翌日、この面々は神戸に回り、メツゲライクスダへ行ったそうだ。また羨ましい!
飯尾君、すばらしい機会をどうもありがとう!また誘ってネ!