やまけんの出張食い倒れ日記

僕が好きなポトフは、日本で言われているスープ煮ポトフではない!フランスはモンリュッソンで食べたホテル・ド・ブルボンの煮込みのごときポトフの旨さが忘れられない!

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北海道は音更町の竹中章さんから、素晴らしいリーキと白ニンジン、エシャロットにジャガイモをいただいた。あー、これはポトフが食べたい布陣だな、と思い、冷凍庫に2年以上入れてあった僕の短角牛「すみれ」のスネ肉1kgを引っ張り出した。こういうときに自分の牛の肉をあてにできる、というのはとても嬉しいことである。

自宅に帰り、まずは解凍したスネ肉を真空パックから開封。吊し熟成で水分を抜いてあることもあって、ほとんどドリップが出ていない。ホクホクしながら一片を200g前後にカットし、塩をまぶしてボウルに入れ、冷蔵して就寝。

翌日は土曜日。朝からフライパンで肉の表面にしっかり焼き目をつける。いまだに肉の表面に焼き目をつけることを「焼き固めて旨みが逃げないように」という説明をする人を見かけるが、どんなに焼き固まっているようにみえても、肉の内と外は液体がいったりきたりできる状態。焼き目をつける意味はアミノ・カルボニル反応によって旨みを生じさせることにある。

しっかり焼いた肉をとにかくたっぷり水を張った鍋に入れ、煮込む。何を作っているかというと、ポトフである。といっても、日本で「ポトフ レシピ」とやって検索して出てくるものは一切みない。日本で言われてるポトフって、洋風おでん的なスープたっぷりのやつだよね。それが食べたいわけじゃないんだ。

僕がポトフのリファレンスにしているのは、フランスの中西部、肉牛生産者が多くいる地域の地方都市モンリュッソンで食べたものだ。

モンリュソンには二回行ったことがある。どちらもシャロレー牛の生産をするピュイグルニエ社を訪ねてのものだ。

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モンリュソン駅の目の前20mにホテル・ドゥ・ブルボンと読むのだろうか、伝統的な造りのレストランがある。

「ブルボン家のホテルってこと?」

「ですね、、、ここ、ピュイグルニエの社長であるエルベの親戚のホテルだそうです。彼らはこの辺の名士ですから、、、」

と、道案内をしてくれたトップトレーディングの伊藤ちゃんが言う。

このホテルに併設されているレストランで昼食をとるところからモンリュソンの旅路はスタート。

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レストランはかなりの本格派。

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エルベや、彼の右腕、トップトレーディングと一緒に仕事をしているオリヴィエ達とともにテーブルを囲む。もちろん昼間からワインが供される。そんな中、運ばれてきた料理が、、、

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えーと、これ、なんでしょう?

「これ、ポトフだそうです。」

ええええええっ!?

肉はもちろんピュイグルニエのシャロレー牛なのだそうだが、ちょっとビックリするよね。日本でわれわれが「ポトフ」と認知しているものとは全然違い、ご覧のようにスープがほとんど入って無い!まったく汁がないわけじゃなくて、底の方に濃厚な液体が湛えられてはいるのだけれども、日本でいうスープのようなサラサラなもんじゃなく、ネットリしたソース様になっている。

ちょっと興奮して、いろいろ聴いてしまった。これがポトフなの!? 日本でポトフといえば、コンソメキューブを溶かした汁で野菜や肉を煮たものと捉えがちだが、、、

「ノン!それはまったくもってポトフじゃない!」とのこと。

フランスでも色んなポトフがあるらしいが、こちらで本格的なポトフといえば、日本でいう「煮込み」のようなもの、汁ではなく具材を美味しく食べるものなのだそうだ!

ちなみに、作り方はまったくもってシンプル。シャロレー牛の頬肉(チークミート)とテール(尻尾ですね)を塩と白ワインで煮込む。そこへニンジン、カブ、ルタバガを入れて、火が通ったら一緒に食べる。

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ゼラチン質豊富なチークミートから溶け出た汁をまとわせながら食べる。ホロッと崩れるが食感がちゃんとある。そして、日本の穀物飼育の牛肉では出てこない、欧州特有のコクのある肉の味わいと香りが感じられる。旨い、、、

なにより、このポトフの鍋の中で僕が心を打たれたのは、ルタバガだ。西洋カブとも呼ばれる、カブの近縁種であるルタバガ、日本特有の「生で食べて美味しい」野菜ではない。でも、このポトフに入っていたルタバガは、カブよりオレンジみが強く、煮込んでいるのに食感がしっかり残っており、シャロレー牛の濃厚な出汁を吸い込んでもなお、そのルタバガ特有のネットリあまい香りが強く前面に出るという素晴らしい味わいだった。

じつを言うとこの旅の中で一番美味しく心に残ったのは実はこの一皿だった、、、ああ、また食べたい。

すみれちゃんの頬肉とテールは売ってしまったので、在庫に残っているので一番近いスネ肉を煮込み、エシャロットをバターで炒めたものと白ワインを加えてまた煮詰め、肉の食感はのこるくらいの時点で一旦肉を引き上げる。

白ニンジン、リーキと玉ねぎ、ジャガイモ、そして大地を守る会のおいしい西洋カブを崩れないように別々に鍋に投入して、最後にすべてを合わせて加熱。

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なんとか満足いくものができた。すみれちゃんのお肉の美味しさと、竹中さんの本格的な西洋野菜の味に助けられた。チークミートとテールに比べるとゼラチン質が足りず、ネトネト具合があまりなかったけれども、それはそれでよし。鍋一杯にできたので、翌日はコリアンダーにクミン、ターメリックにチリ、クローブにココアパウダーを加えて濃厚なカレーに。おいしかった!!!

ただ、やっぱり心はフランスへ飛ぶ。あのポトフがまた食べたい。旅が出来る日を、待ちわびる日々なのだ。