やまけんの出張食い倒れ日記

岩手県北のそば文化振興の一翼を担った名店「きんじ」が12日に閉店する。地域の特色あるそば屋がなくなっていくのがとても残念だ。そばはもちろん、ニンニク味噌であいただくそばかっけが最高だった!

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いやもう、ただ悲しい。

僕の短角牛がいる里である岩手県二戸市の二戸駅前にある、おそばの名店「きんじ」が12月12日でその歴史に幕を閉じる。これまでこのブログでもなんどか紹介してきたが、季節風「やませ」の影響下にある岩手県は米が作りにくく、それ以外の穀物を食べて来た文化を持つこともあって、そば文化圏だ。東北のソバ文化といえば山形県が有名だが、青森県や岩手県でも独特の蕎麦文化があった。この「きんじ」もその文化の担い手だった。

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おそらく二戸駅から出ていちばん近くにある飲食店が「きんじ」である。

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画面右手ののぼりにあるように「岩手中生(いわてなかて)」という蕎麦の在来品種を特に好んで使っていたのが、この店なのである。

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これ、「そばうどん」のページを当時のご主人がコピーしていたもの(笑)。岩手県で中生と早生の二種が知られているということだ。

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「うちは、岩手の在来種の中でも岩手中生を大切にしています。ものの本をみると岩手中生は岩手早生とあまり変わらないなどと書かれていますが、私たち使う側からすると、粒が大きく味わいも非常によい。志を同じくする人達と生産者を支えながら使わせてもらっています。」

とおっしゃっていた。ご主人、昆俊顕(こん・としあき)さんは、この取材をした数年後にお亡くなりになった。元気な頃、いいお顔をしておられるなあ。懐かしい。

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岩手中生は、もりそばで食べたときの喉の奥に残る風味がとてもよいのだが、蕎麦品種としては残念なことに数量がとれない。農家からすれば作りたくない品種ということになるので、誰かが買い支えない限り消えていってしまう。

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そこで、手打ち蕎麦を愛する同士を募って「二戸御法度の会」を設立し、買い支えをしているわけだ。6枚前の店の玄関の写真左側に「御法度の会」ののぼりがあるのがわかるだろう。

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岩手県北部の山間地では、そばのつなぎに堅い豆腐を練り込むものがあったり、卵をつかったりというように、山の文化が色濃く反映されている。ただ、里に下りてくると意外と洗練されてきて、二八そばや十割の生粉うちに、江戸前のつゆという組み合わせもよくみうけられる。

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ここ「きんじ」は、打ち方は江戸前だ。

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ダイナミックに五合盛りで出してもらったそばはビンと角が立ち、きゅっと締まった麺肌だが、なにもつけずにすすり込むと、北国らしくそばのしめやかな香りがじんわり舌に溶け出す。

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つゆはこの地らしく少し甘めだ。寒い地域のそばはやはり、ほんのり甘さがあるほうがおいしいと感じるものだ。

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そして盛岡以北ではこれまた標準なのだが、ワサビよりももみじおろしを薬味として重用する。大根おろしも重要だが、トウガラシの辛みが口の中をカッとさせるのがよいのだろう。つゆにつけこみズッと啜ると、文句なしの旨さの世界が拡がる。

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さて、「きんじ」ではもうひとつ、この岩手県北部ならではの味わいを楽しむことができた。それが「かっけ」だ。

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かっけとは、そばを伸したものを三角形に切ったもの。昆布にきのこやねぎが入った鍋の湯を沸かしておき、そこに生のかっけをいれて煮る。

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ゆだったら鍋から引き出して食べるのだが、、、このとき使うのがポン酢やそばつゆではない。なんと、バリバリに匂う、ニンニク味噌!

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二戸市の役場に務める親友・杉澤君に模範演技をしてもらいました。

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これがですね、もう信じられないほどにおいしい!

県内の土産物屋で生のかっけが売っている(餃子の皮みたいな感じで売ってる)ところも多いのだけど、その横にあるニンニク味噌も買わないといけませんよ!

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泣いても笑ってもこの「きんじ」が12日で幕を閉じてしまう。仕事が詰まっていて、ちょいと行って食べに行くというわけにも行かず、とても残念だ。

ご主人がお亡くなりになったあと、右の昆清美さんが店をもり立ててこられた。さぞかし大変だったでしょう。今まで本当にお疲れ様でした。

近くにいる方はぜひ、僕の分もそばを食べに行ってください。