さて今日の昼はどこで食べようかなと思っていたら、さる友人から「ここがいいですよ」と連絡をいただいた。京都で何を食べるかについては色んな人に聞くけれども、日本料理についてはもっぱらその人に「どこにいったら勉強できます?」と尋ねている。そのときどきの僕の関心ごとといっしょに聞くと、「それならここでいかがでしょう」とズバッと候補を教えてくれる。彼の立場だと京都中の店と付き合いがあり、ここを薦めたという話しが出ると差し障りもあるかもしれないので名前は出さない。が、今回もズバッと「萬亀楼さんはいかがですか」と教えてくれた。
僕は基本、一人の人にしか店情報は尋ねない。よく「今度●●にいくんですけど、おいしいお店ありますか?」と訊いてくる人がいるが、せっかく考えてお薦めした店情報を「今回は誰それさんがお薦めしてたこっちにします~」なんて風にする人が多いけど、そういう人には次から「うーん、特にいい店、識らないんです」ということにしている。経験と時間をもらうんだから当然だと思う。
ということで速攻で連絡。当日の昼ごはんだから難しいかと思ったのだが、「お弁当でしたら今日はご用意できます」とのことなので、そうさせていただくことに。
堀川通り沿いの親水公園を散歩しながら、てくてくと。
街中に川が流れているのって、とてもよいですよね。東京にももっと川があるといいな、と思いつつ、ここしばらくの豪雨もあるし、そうもいかないか。
Googleマップを見ながら入った路地は、「ほんとにここに料亭があるの?」という、ふつうの裏通りという風情だったのだが、角を曲がった瞬間に空気がサッと清浄なものに変わった!
有職料理 萬亀楼である。創業が享保7年(1722年)だからほぼ300年の歴史を持つ由緒正しきお店。式包丁の家元でもある。
竹篭弁当は、その名の通り竹篭にお弁当を盛り込んだもの、なので、ささっとその竹篭弁当がでてそそくさといただいて帰るものだと思うだろう。僕もそう思ってた(汗)
そうではないのですよ、弁当といっても、きちんとお部屋でしっかりと座っていただくもので、お造りやお椀もいただけるものなのですよ、、、
この日は中秋の名月。なんだかんだいって暑い夏もこれで一区切りですよ、という日。菊の着綿(きせわた)で目を楽しませてくれる。下にはおいしい胡麻豆腐。
つづいてお椀、、、えっ お椀!?しかも、、、
なんと美しく、おいしいお椀なのでしょうか。菊花の切り込みの入ったかぶらには、白子が鋳込まれている!
出汁のしみ通った甘いかぶらに、白子のとろんとして強いうま味の相性。この白子の甘さが少しずつ椀に溶け込む。
椀の蓋を閉じた形で写真を撮ろうとしたら女将さんに「あ、このお椀、こっちがわにすすきがね」と教えていただく。ススキと月が美しい!
なんか、お弁当をささっといただくだけかと思っていたのに、すごいなあと思っていたら、なんと!
お造りまで出てきてしまいましたよ、、、
しかも、お鯛さんのおいしかったこと、おいしかったこと。
そしていよいよ、竹篭が運ばれてきました。女将さんによれば、竹篭弁当という様式はいまでこそ色んなお店で出されているものだが、その発端となった動きはこの萬亀楼でもあったとのこと。とくに、この竹篭の蓋は、往時の当主が「蓋つけたらいいね」と竹篭あみの職人さんに作ってもらい、萬亀楼でデビューさせたそうだ。だから、萬亀楼こそこの竹篭弁当のオリジネーターというわけだ。
蓋を開ければ、だれもが「わあっ」と声を上げたくなるだろう、綺麗、美味しいが少しずつ、ぎっしりと!
もうね、ひとつひとつをどうこう言っても野暮なだけでしょう。どの料理も神経の行き届いた、一分のすきも無いおいしいものばかり。
ごはんと香の物は最後になさいますか?と聞いてもらったが、我慢できず先にだしていただく。もち米をムッチリと蒸したおこわ。
枡に綺麗に入って、コンパクトだがもち米なので腹持ちがいい。
なんたる幸せ。この後も歩くことにしていたので酒をいただかなかったが、これは日本酒で一献すべきところだった!
黒蜜で葛粉を練り、ゆり根を入れたお餅でお茶を楽しみ、、、
水菓子は梨とブドウ、白ワインのジュレをかけて。
いや、本当にもう、感動しました。気軽に来てスミマセン。今度はきちんと有職料理を勉強しにいこう。
右端が料理を担当する若旦那の小西雄大さん。重責だけど、頑張ってね! 女将さん(中)のきどらぬ、客をリラックスさせるお話し、最高でした。ごちそうさまでした、勉強させていただきました!