アラン・パッサールが「アルページュ」で野菜料理のコースを提供し始めた2000年台初頭から料理における「野菜の時代」が始まったとするなら、ヴィーガン料理が注目される今の時代をなんと称すればいいのだろうか。もちろんヴィーガンな人達はそれ以前からずっといたわけだが、現在起きているのは、ヴィーガニズムを自分の生き方として採り入れている/いないに関わらず、楽しみとしてヴィーガン料理を食べるというスタイルだ。
先週金曜日、銀座の一等地で行われたヴィーガン料理の競演。高良康之シェフが率いるラフィナージュにて、ヴィーガン料理の世界で識られる杉浦シェフとのコラボイベントが行われるという!それは行かなくちゃね!ということで、しばらくぶりに顔を出すことができた。
相変わらず明るくパワフルで陽の気を来客に与えてくれる高良さん。でも、白髪増えたなあ、、、この間、大変だったことでしょう。
このイベント、敏腕PRコーディネータである佐野弥生子さんの声掛けで知ることになった。佐野さんから杉浦シェフ、高良シェフの紹介。
もちろん料理人はマスク着用の元、厳重に注意しての開催だ。
とにかく今日のポイントは、海外でのヴィーガン料理コンクールでも受賞経験を持つ杉浦シェフによるヴィーガン料理の先端と、フレンチの巨匠である高良さんがどんなアプローチをするかということ。
食前酒代わりにと出てきたのは、ハイビスカスのシュラブ!
本日の対面は、専門料理の連載「やまけんが聞く!」の担当編集者であるY女史。ほんとうは編集長がエントリしたのだけど、校了間際でどうしてもいけなくなって「ラッキーでした!」とのこと。
シュラブは、フルーツや野菜などをヴィネガーと糖分で香りを移したシロップにし、炭酸で割るなどしたノンアルコールの飲み物。The BURNでよく飲んでいるけど、さすがは高良さんの手によるもの、爽やかで、ハイビスカスの香りはとても抑えめ、食欲と味覚を喚起するにふさわしい!
■左からカブのブラマンジェ、青ユズの芳香(高良シェフ)、オクラの花と胡桃、豆のコンビネーション(杉浦シェフ)
トロロアオイと近縁種でもあるオクラの花は、観ても綺麗だが食べても美味しい。オクラのみのようにとろみがあって、花の味わいもいいのだ。
ガクの部分はお飾りなのでとりましょう。
そこに、豆のフムスと胡桃が仕込まれている。繊細な塩のアタリで素材の持ち味を前面に出すのが杉浦シェフの持ち味かと推察した。
プチプチと柔らかく花弁がやわらかくひきちぎれていく食感が官能的!
カブのブラマンジェは、ベージュの層がカブの根部、緑のアイスクリーム仕立てが葉の部分という構成。
葉の青いほろ苦味を油脂分(たしか豆乳だったか?)が柔らかく伸ばし、根のブラマンジェは、カブのツンとくるイソチオシアネートの香りを活かした仕立てだ。
いや、おいしいですねぇ、、、
さて、杉浦シェフからキノコのスープが運ばれてくる。
実にコックリ、数種類のキノコを煮詰めてコンソメにしたものか?と思うような奥の深い味わい。
種明かしでみんなビックリ、これは乾燥したエノキダケ単体からとったスープだった!
参加者へのお土産にも手渡されたこの乾燥エノキでみんなニッコリ。
野菜からも濃くおいしいフォンがとれることは識っているけれども、単体キノコでこれだけの強い味が出せることには、可能性を感じる!
この日は、ワインとティーのペアリング。ティーペアリングだけでもOK、ワインとの組み合わせもまたOK。
ローズウォーターと宇治茶をあわせたもの、香りがよく、茶の渋みもわずかながらあるので、飲み応えがある。これに合わせるのが、高良さんの一品。
■ビーツのタルタルとオリーブオイルのソルベ、黒イチジクのサラダ
アカザ科で糖分やベタインの宝庫であるビーツはヴィーガン食には欠かせないと言っていいほど多用される食材だ。その定石を高良さんが打ってくるとは!
しかもですな、ビーツの甘い味わいを引き締めるマスタードシード、そしてオリーブオイルのソルベが実に効いていて、、、ウットリする美味しさ。
杉浦シェフの一皿は、燻製の香るナスと夏野菜の”ピコ・デ・ガヨ”。どんな料理!?
ドーム状のつやっと光るこれ、なに!? と思ったら、特殊な装置でスモークを封じ込めたシャボン玉!
だんだんと皮が薄くなって、、、
パチンと弾けた!
そこに仕掛けられた、トマトと唐辛子ベースのゼリーよせ(ゼラチンは使わず寒天で固めている)に、ほんのりスモーク香がつくろいう仕掛けだ!なるほど、南米・中米の燻製唐辛子の風合いがこれででると言うことか!この料理もおいしいですねぇ。
それにしても色とりどりの野菜は見た目が華やかで、視覚から来る刺激で満足度が高い!
杉浦シェフのスモークシャボン玉の実演。いろんな機械があるものだ、、、
ちなみに厨房は、ラフィナージュ組と杉浦組が混じって作業。人数が増えているのにまったくドタバタしていないのはさすが!
高良シェフのメイン料理は、
■芥子の実をまとった根セロリのフリットとマイタケのロースト、トリュフソース
なんと、、、セロリアックを主役に持って来たという、驚きの一品。
セロリアックは丹念に下味を含ませられた後、プチ感が楽しい芥子の実でコーとされ、フリットに。そして存在感が大きいのが、これまた強くローストされたマイタケだ。
「根セロリにアクセントを出すために、「苦み」の要素を重視しました。マイタケには限界ギリギリのローストをしています。また、ソースにもこがし玉ねぎを煮だしたフォンを使うなどしています。」
という解説のとおり、焦がし風味が利いて、セロリアックの甘さを引き締めている。
白ピュレ状のものは白インゲンのソースで、これが柔らかな味わいなので、セロリアックの甘みとマイタケの苦みとの全体のバランスがとれたところに、チップ状にされたトリュフのゴージャスな香りが襲ってくる。
これぞフレンチの重厚な構成美!
杉浦シェフのメイン料理は、これもヴィーガン料理で欠かせないブロッコリー!
■ブロッコリーのステーキ、ブラックガーリックとデーツのコンディマン
ガシッと火入れしてくるのかと思いきや、おどろくほどに食感の残った柔らかい火入れ。
ブロッコリーの軸の部分を四角く切り出してタルトに仕立てている。美しい!
黒ニンニクとデーツ(!)を合わせたコンディマンがとてもおいしくて、どんな野菜にも合いそうだ。これ、自分でも作ってみたい!
デセールも驚きの「海苔とココナッツ」!
板海苔にみえるが、アオサを茹でこぼして砂糖と一緒に固めなおしたもの。ココナツアイスとアオサのソースがなぜかおいしくて、みんなニコニコ。
いや、楽しいコースでしたね!
料理人、ホールスタッフみんな出てきてくれて拍手、拍手!
それにしてもヴィーガン料理は面白い。これだけ食べて、食後感はスッキリしている。週に1~2回はヴィーガンディナーというのは様式としてアリではないかな。
もちろんそのヴィーガン料理の方法論はとても大事だ。お二人のレシピのアプローチ方法の違いもとても興味深かった。
これからますますヴィーガン料理にチャレンジするシェフが増えるだろう。楽しみだ!
高良さん、杉浦さん、佐野さん、ありがとうございました!