僕の実家では、母が愛媛出身だったこともあって、関西いや愛媛風の料理が出てくることが多かった。うどんも甘めの煮干しベースのつゆで、白いうどんを柔らかめに似たもの、具にはこれまた甘辛く煮た牛肉が乗ってくることが多かった。しかし、小中高と育った埼玉県のうどん文化はまったく違うものだ。とくに武蔵野といわれる川越から東京の府中にかけての畑作地域では、野菜と小麦の組み合わせで農業をしていたこともあってか、独自のうどん文化があった。それが今日では武蔵野うどんと呼ばれるものだ。小麦の外皮がかなり混ざった粉で打たれた黄色みの強いうどん麺も特徴的だが、個人的にもっとも「これだよな」と思うのは野菜、それもナスなどが入ったつゆにつけて食べるというもの。
年に一回、そば屋さんやうどん屋さんのために発刊される「そばうどん」(柴田書店)に連載をもっていることもあって、古い時代のそばやうどんについての本を読むと出てくるのは、江戸時代から明治・大正時代にかけても、地方では醤油や魚介でとった出汁を使うなどということは贅沢というもの。味噌を煮て漉した汁を「すまし」と呼ぶが、それをベースにしたつゆで食べたり、また大根をおろして絞った「おしぼり」とよばれるつゆに味噌を加えて食べたりというのが、庶民のうどんの食べ方だったわけだ。
武蔵野のうどん文化でよく出てくるのも、すり鉢で味噌やいりごまを摺って、そこにナスやミョウガ、キュウリに大葉といった野菜を入れて崩し、井戸水を混ぜた冷や汁をつくって、うどんを食べたというものだ。最近では埼玉でも讃岐系のツルシコ純白うどんがよく見かけられるけれども、まだまだ武蔵野うどんの文化も頑張っている。
某プロジェクトのために坂戸方面に出ることになったので、鶴ヶ島インターから20分ほどのところにある「手打ちうどん庄司」へ。なんかマツコでも紹介されたようですね、しらんかったけど。
12時になるちょっと前に入ったのだが、もう駐車場は満杯!外からはわからないけど、店の中も待合がではじめる頃合いだった。やばいやばい。
越辺(おっぺ)川沿いの街道のロードサイドにある店で、都市部の感覚だと「こんな立地で旨いの!?」となるだろうが、地域・地方ではロードサイドである程度の大きな店というのは、意味があって残っているのです。旨い店が多いものです。
と、じつはこの浦にも駐車場があることが判明!
しっかし大人気店だな、これ。ごらんのように店内はアクリル板で仕切りがされており、待合も人数制限があるので、ある程度以上は外で待つシステムだ。
いやそれにしても品書きがまたいい。もり、鬼おろし、とろろ、きのこ汁、田舎汁などいろいろあるけれども、この店の、というか武蔵野うどんの人気メニューといえば肉汁うどん。
ほぼみんながこれを食べているので、間違いない(笑)。
肉汁は豚肉がたっぷりと長ねぎが入っている、醤油ベースの濃ゆく熱いものだ。そして注目はうどんで、これぞ武蔵野うどんという感じの、容赦なくフスマの入りまくった茶色いうどんである。
これだけストロングな感じのうどん麺だと、汁のほうもパンチが効いていなければ美味しく食べられないものだが、肉汁はその辺、安心できる。
うううううう 旨い!
うどん麺はもちろん風味豊かで香ばしく噛みしめごとに甘く、そこにからみついた肉汁がまたストロングで麺の味を拡張してくれる。
このように並みのうどんをつけてもあまりある濃ゆいあじわいで美味しく食べられるし、、、
この、幅広のうどん耳(誰にでもついてくるわけではないみたい)でもしっかり濃く味付けされる!
さて、しかしこの肉汁うどんという文化は、むかーしむかしからあったわけではないはずだ。だって豚肉をこんなふうに食べられるようになったのって、そりゃあ昭和に入ってからでしょう。
文化的にもうすこし古い時代にもあったであろう武蔵野うどんをたべたいなら、こちらを選ぶといい。夏限定メニューだが、「すったて」うどんだ。
「すったて」は「すりたて」がなまったものといわれている。ゴマと味噌を擦って野菜を入れ、水で割ったのがすったて。もちろん今日風に出汁でのばされ、野菜類はごらんのように麺の上に乗っているスタイルだ。
いやーーー こいつが実に味わい深く美味しい! 個人的にはすったての方が好きかもしれない。もちろん「庄司」で食べられるのは現代風すったてとも言うべきで、素朴に野菜と味噌の風味だけで食べるようなものではなく、強い個性の麺を食べきるだけの味がついた汁だ。でも、やっぱりすったてならではの、野菜の香りでうどんを食べるというのが存分に発揮されている。
すっばらしく美味しかった!
ガッツリ系を選ぶなら肉汁がいいと思うけど、3人以上いるならすったても一皿頼んで、つつくといいのではないだろうか。あ、コロナもあるしいまはそういうコトしない方がいいのか?ならば、肉汁とすったて両方食べればイイよ。このブログ読者ならそれでOKでしょう?(笑)
帰りがけに麺打ち場を覗くと、捏ねてねかされたうどん玉の数に驚く。マジで繁盛店だな、、、でもそれが納得できる、勢いのある美味しさでした。
「本手打ちうどん庄司」川島町にいったら寄る価値アリ!
■本手打ちうどん庄司
〒350-0152 埼玉県比企郡川島町上伊草743-9
http://www.m-macs.com/33661/shoji/