料理プロデューサー、というのが最近の肩書きとして落ち着いているようだが、狐野扶実子さんといえば料理界では「こんな人がいるんだねぇ、、、」と驚くべき奇跡の存在だ。
ご結婚を機にフランスでコルドンブルーに入学し、首席で卒業。あのアラン・パッサールのアルページュに見習いとして入り、最初は掃除をしていたそうだが、パイナップルのグリルから始まり煮込み料理、肉焼きと段位をあげ、最終的にはスーシェフに。その後、あのフォションのエグゼクティブシェフに就任し、ゆうに1000を超えるレシピを生み出す。日本に帰国後、JAL国際線の機内食を手がけるなど、その活躍をみればスーパーウーマンとしか思えない。
しかしですね、、、
こーんなに素敵なヒトなのですよ!
で、じつは「専門料理」2020年2月号の僕の連載「やまけんが聞く!」にて、狐野さんにおいでいただいて、こうしたご経歴から、最近なにをされているのかということを突っ込んで聞いたのだ。
そうしたら、なんと僕の母校である慶應義塾大学の大学院SDM(システムデザイン・マネジメント研究科)の修士に入られたと。そんで、飛行機の機内食のフードロス削減や、機内での食体験を通じて食の問題についての啓発をする研究などをされていると。
それってエシカル問題じゃん!
ということで意気投合したわけである。
そしたら後日、狐野さんからお呼びがかかり、、、
「やまけんさんがおっしゃってた倫理的消費の問題、あれからとても興味が湧きました。論文のテーマもそこに関連するので、いろいろお話をしたくて」
ということで、「はいはいなんでも、僕が識ってることならなーんでもお教えしますよ!」とぴょんぴょん跳ねながらランチをご一緒したりしたのでした。
狐野さんが慶應SDMに入学されたのは9月度。ということで、先日その修士論文を無事、提出し終えたとのこと。おめでとうございます!
「それで、お世話になった方にお礼もかねて、ホームパーティーをしたくて。おいでいただけますか?」とお誘いいただいたのであります。
ということで、、、
行って参りました!
ちなみにここは、狐野さんのご自宅があるマンションのゲストルーム。
「ここでよくお客さんに料理を食べていただいているんですよ」
とのことでした。まあなんと素敵な、、、という眺望だったのだけど、外の景色を撮るのをすっかり忘れてしまいました。
ちなみに、ご一緒したのはお二人、映像プロデューサーの原田泉さん(左)と、ミツカンの高取順さん。
原田さんはここしばらく狐野さんを映像で追っかけているそうだ。作品観るのが楽しみです!
高取さんは、ミツカンの中で唯一、全国の美味しいものを公務で食べて廻るというのがお仕事という稀有な存在!いやー面白かった!
さて、前菜はやはり出ました、アルページュ・エッグと呼ばれる、タマゴのショーフロア。
クリームとシェリービネガーを泡立てたソースで半熟たまごを食べるこの料理だけど、詳しいこと聞かなかったけどもしかしたらクリームではなく牛乳だったかも。羽毛のように軽い舌触りで、シブレットが利いてとても美味しいものでした。
こんなふうに、目の前で調理してるんだぜ。この瞬間をみられるなんて最高だね!
アカザエビのカルパッチョ仕立て、、、でも「まだ完成じゃないんですよ」と。
キャビアと泡立てた牛乳を合わせたソースを周りに、、、
アカザエビは食感と繊維がきちんと残るように長く細くカットされている。キャビアをつけずにエシャロットとともにいただいても甘く美味しいけれども、キャビアをまとわせることで穏やかな塩気と、ひかえめな乳成分のうまみでエビの美味しさが増幅される!
「キャビアも漁獲のしすぎや、雌雄の鑑別が難しくてオスを廃棄してしまうという倫理的な問題があるんですけど、このキャビアは雌雄鑑別を成功させて、魚を無駄にしない捕り方をしているものなんです。それに、塩味も穏やかで、わたしは好きなんですね。」
と。いや、正直これあと三皿食べたかったです。
パンは福岡の八女から取り寄せたもの。
そして、純白のふわっふわのフランでしょうか。
「これね、白い野菜でつくったものなんです。何が入っていると思います?白マイタケ、セロリアック、タマネギ、、、それらをベースに、それぞれ柔らかく火を入れて、クリームではなく牛乳と一緒にミキサーにかけたものなんです。」
この白いふわふわ、味と香りはとても上品ながらしっかりとついており、野菜からの穏やかだけれどもしっかりとしたうま味が軽やかだ。クリームではなく牛乳を使っているのは、たべくちを軽やかにするためだろうが、それがみごとに意図通りになっていて、とても胃が軽い!実に快調である。
さて、本日のメイン料理は、、、
羊!
ニュージーランド産のラムラックとフィレ肉である~! ということはアンズの羊ですね。美味しいに決まっている!
いやーそれにしてもびっくりしたんですけどね、、、
狐野さん、肉焼き技術すげーーーーーーーーーーーーーーーーー!
ラムラックはオーブンで、手前のフィレ肉はフライパンで仕上げているそうだが、グラスフェッドラムの繊細な筋繊維に絡んだ水分が一滴ものがされていないことがわかる火入れだ!
ここに、幸せのソースかけ。
いやーーーーーーーーーもうね、すごい! 素晴らしい!
羊の端肉などを煮た、ソースと言うよりジュなんだけど、これがかかることによって味がまとまり、羊肉の爽やかなうま味がさらに深まる横糸の味わいを付加している!実に軽く、油脂分を感じさせないのにもかかわらず、爽やかで深い満足感を味わえるのだ!
「お肉はおかわりありますよーーーー」
もちろんいただきます、、、
狐野扶実子さんの肉焼き技術、素晴らしいのひと言でした!「野菜の時代」まっただなかのアルページュでのキャリアと聞くと、どうしても野菜中心の料理を想像してしまっていたが、狐野さんはすべての食材に精通しているのであった。そりゃそうだよな、そうじゃなきゃあんな重要な仕事に就けるはずがないのである。
ちなみに料理中、原田さんはソニーα6400で狐野さんの動画を撮影しておられた。うーん、どんな感じで撮れているんだろう!?
「〆はね、そうめんを用意しているんです」
えええっ 素麺!?
はい、普通のそうめんではありませんでした!
わかりますかね、麺は極細のもので、通常の素麺の半分以下の繊細な細さ。
そして、つゆが、、、というよりスープだ! これは、コンソメと日本風出汁の融合!?
「色んな野菜や、さっきの羊の肉なんかも入ってるんです。ぜんぶを無駄にしないでスープにとることで、廃棄も減るでしょう?」
もうね、こういうところで研究の成果がひろうされるわけですよ。
チーズを挟んで「野菜食べたいでしょう?簡単なサラダみたいなのたべます?」
ローメインサラダでぱぱっと作った、かのようにみえるサラダ、美味しゅうございました。
いやー、なんだかね、レストランで食べているクオリティなんだけど、もっと親しみやすく、からだにじんわり、優しくたまっていく料理なのですよ。
「うん、そのじんわりっていうのはたしかに、私がやろうとしている味ですね~。」
そして、デセール!
ここにもソースが!
コーヒーのグラニテにコーヒーゼリー、そして卵ベースのカスタードソース!
ただただ、おいしかったなぁ、、、
狐野さんにとって、大学での学びも「これでようやくスタートライン」だそうだ。うん、いいですね! 狐野さんのようなすごいキャリアの料理人が、料理の倫理について深く学び、研究するというのはとても大きな意味をもっていることだ。狐野さんにしか発想できない、そして狐野さんにしか実行できない、食の倫理を問う試みを、僕は心から期待する。もちろん、僕が投げられるボールがあれば全力で狐野さんに投げてみたいと思っている。なにか面白いプロジェクトを一緒にしようという産地や生産者さんがいたら、ぜひご一緒しましょう。
原田さん、高取さん、楽しい一時をご一緒できてよかったです。
狐野さん、これからも心から応援しております。ごちそうさまでした!