さて、食材の熟成をマイクロ波で促進する機械、エイジングブースターの使い手を巡る旅はつづく。
実は前日のにくがとうの夜、21時くらいの段階でHAGIの萩ファミリーは福島県のいわき市へ帰宅。なぜなら翌日、僕たちが退去してでかけるんだもの。すみませんね、仕込みもあっただろうに、、、
ということでいわき市到着。震災後、しばらくぶりだな、、、
ここからHAGI店舗までは車での移動が必須。
と、贅沢に駐車スペースを使ったHAGIフランス料理店がみえてきた。
陽光溢れる明るいダイニング!
そして、厨房機器マニアともいえる萩シェフの、ワンオペ動線を支えるキッチン設備に見入るアルベッキオ・ドゥオモ小川シェフ。
この設備が全てだと思ってはいけません、裏手の別室には真空カッター、冷凍機、そして別棟にはパウダー加工用の乾燥機など、いったいここはなにをやろうとしてるの?というくらいの設備が詰まっているのだ。
さて、ニコニコと萩ちゃんがとりだしたのが、お寿司屋さんのようなネタ箱!
ホタテ、ノドグロ、そしてメヒカリ!すべていわき市の近海で獲れたものだ。
そして、表面を観れば、なんとなく水分が飛んでいて、なにやら処理をされているということがわかるだろう。すべての素材が、エイジング/ブースターで処理を施されている!
とにかくこの萩ちゃんこそは、エイジング・ブースターを運び込まれてからと言うもの、「あれっ これもエイジングできるんじゃない?あれもこれもそれも!!!」といろんなものを突っ込んで、熟成していた人なのである。
この、ぶっといモルタデッラも、、、
なんと、このモルタデッラに使った肉は、福島の麓山高原豚の肉をエイジングブースターで内部10℃、表面0℃で3日間の熟成促進をかけたもの。
表面のガビガビを削らねばならないので、歩留まりは落ちるが、味わいはまったく違うという。
まあみてくださいこの嬉しそうな萩ちゃんの笑顔。
このままだと料理が始まる前に1時間以上過ぎちゃうよ!
それはともかく、HAGIってこんなお店です。
メニューを開いてのけぞった。14品!?
いやー これは、ディナー時間に食い込んじゃうんじゃないの?と思いながらもニヤリ。やっぱり萩ちゃん、突き詰めてるね。こういう料理人大好きだ。
厨房は萩ちゃんのワンオペ、サービスは妻のめぐみさんが担当されている。ワインのペアリングはすべておまかせで。
ちなみにわたしはこの日ノンアルでお願いした。快く、ノンアルでも県産のさまざまなドリンクを提案してくれて楽しめる!ノンアルに対して烏龍茶やオレンジジュースといった旧態依然の提案しかできないレストランは、今後いかんよねぇ~、と思う。
さて、注目の一品目は、、、
■エイジングブーストした素材のコンソメとウニ
エイジングブーストして熟成を進めた福島牛のスネ肉を挽肉にして、エイジングで乾燥した外皮ごと煮出したコンソメと、ウニを塊のまま表面0℃内部10℃で5日間エイジングブーストしたもの!
使用前・使用後がないとわかりにくいのだけれども(笑)この料理については「旨い!」の一言である。コンソメの透き通った風味ながら一本骨のとおった強い味わい。そしてウニはとろんと溶けほぐれやすくなっていて、旨みを湛えている。旨み×旨みでくどくなりそうなところに豆の青臭さがいい役をしていて、素晴らしいバランス!
■エイジングブーストしたスイートコーンとジュンサイ
しぼりたてのジャージー牛の乳になごりのスイートコーンを混ぜてスープにしたものを4時間エイジングブーストして、まろやかさをひきだしたものだという。
そう、熟成はなにも肉だけのものではない。液体であれば調味料も酒も、熟成によって角が取れてまろやかになるという作用がある。
そーなんです、エイジング・ブースターは肉などのたんぱく質だけじゃなくて、食材全般を熟成促進できるんですよ、、、それをわからしめてくれたのが萩くんなのです。
ジュンサイとコンソメジュレは、そのまま楽しんだ後はコーンスープにいれてまぜて楽しむ!
ノンアルペアリングのほうは五ヶ瀬のボトル茶に。
これがまた実に素晴らしい。
そして、三皿目のために出てきた手袋、、、はて!?
■エイジングブーストしたモルタデッラと栗
先の、エイジングブーストした豚肉でつくったモルタデッラに合わせるのは、これまたエイジングブーストで熟成した栗!
モルタデッラの出来も申しぶんない。というのも、彼のもっている技術もだが、機材もとにかく一流メーカーのものばかりなので、エマルジョンの質など素晴らしい仕上がりなのだ。
そして、栗!
カンカンに熱く焼いているので、手袋をしてねということであった!
イヤ栗って美しいですね。そして、デンプン質というのはこれまた熟成というか、温度変化によって味わいを変容させるものである。
栗に関していえば、でん粉がその大きな構成要素なので、温めるより冷やして質を変容させる方法がよく採られる。冷温に置くことによって、栗が「あっ ダメダメ凍っちゃダメ!」と自分のでん粉を糖質に変化させて、凍結しにくくするのだ。
エイジングブーストは内部温度を上げるという処理だから、どういう意味があるのだろう、と思ったのだが、、、
なるほどね、もっとホクホクして粉質状の栗を想定していたら、思いのほかシットリした栗の果肉である。これ、エイジングブーストの効用でしょうか?
どちらにしても、上品に仕上がったモルタデッラとの愛用は抜群!栗の香りと穀物感が、モルタデッラの油脂油脂した食べ口を中和してくれる。美味しいです!
もう嬉しそうにそのへんの技術的な話しをしまくる萩ちゃん。なんか嬉しそうな仔犬ちゃんみたいだよね。
ペアリングは日本酒へ。山田錦の純米吟醸。どこの酒造家は失念、スミマセン。
■ポルチーニ茸とエイジングブーストしたホタテ
フランス産のフレッシュポルチーニに、エイジングブースト0℃/5℃風速90%でかけたもの。
ホタテは鮮度が良いと生だとサクサクという食感がして、口の中で泡立つような、そんな感じの印象があるが、エイジングブーストをすることで、肉質はやはり細胞がやわらかくなっている。旨みも上昇。ただし、ホタテに関しては、もともと旨みも強い素材なので、フレッシュ感を前面に出した方がいいかもしれないね。
と、なにかキッチンでは泡立ってます。
こ、この素材は、、、
先ほどの泡立ちフライパンの中身は、、、
飴(アメ)だった!でも、真っ黒だぞ!?どうやら竹炭のような黒い粉末を混ぜた模様、、、
それらが仕上がると、、、
■エイジングブーストした湯葉とあん肝
いやーーーーーーーーー
美しい!この料理が出てきた瞬間にちょっとビビってきましたね。ちなみに手前と奥にちらされているエンドウマメの豆苗のようなやつは、スプラウトで有名な村上農園が販売しているマイクロハーブ「クレイジーピー」ですね。
それにしても、湯葉って熟成できるの?
「やまけんさん、湯葉はスゴいことになるんですよ、ホント、、、1日エイジングブーストしたものですが、旨みが凝縮されて、、、」
という。
一口いただきました。そうしたら!
トロッ
ではなく
ロロッ
とした舌触り!
つまり、表面の皮膜がトロントロンに、その組織結合が緩くなっているのだ!そうなると、ただでさえ大豆製品として湯葉が内包しているイノシン酸系の旨みが、もうダイレクトになんの障壁もなく下にまとわりついてくる!
しかもそこにあん肝の油脂分、トマトなどの酸味、クレイジーピーの青臭さが加わると、強烈に美味しい!
いやーーーー感動した!
この時点で言うのもなんだけど、この料理がこの日の個人的白眉。自分でもエイジングブースターにかけたら美味しくなるだろうと思う食材は想像をしていたが、湯葉のエイジングの結果には本当に、心の底から驚いた。これを多くの人に味わって欲しい!
でも、まだコースの半分にも来ておりません(笑)
さあ、出てきました福島が誇るシーフード。
■伊勢エビとちよこナス
福島のとれたての伊勢エビと、活きた伊勢エビのから作ったソース。これらもエイジングブーストしていす。
それにしても美しい料理だね!
熟成ものはおナスのほう。在来品種の「ちよこ」ナスを揚げて塩をした後にエイジングブーストし、トロトロの食感に。
うーんなるほど、揚げナスを熟成させるってだれもしたことないだろうけど、形をしっかりと保ちながら、食感はトロトロ感がたしかにある。じゃあ、賀茂ナスのような大型丸ナスでやったら面白いかもしれないね!
そして、花が開いたように弾ける伊勢エビのブリンブリンの旨みジューシー天国、これはエイジングによって旨みが引き出されていて、味わいが濃くて美味しい!エビの身肉はエイジングブーストすると溶けちゃいそうにみえるけど、萩シェフによると「身がぷくっとして食感がかわりますね。あと、乳製品にも影響が出るかと思い、ソースもエイジングブーストかけたので、していないものと比べるとまろやかになっていました。」とのこと!
さあてお立ち会い。
これ、メヒカリです。ゼブラのマーカーよりぶっとい!
「これが、いわきが誇るメヒカリなんですよ!とにかく美味しいんで、ぜひ食べてみて下さい!」
これを、一台で何役もこなすといわれる厨房機器(名前何でしたっけ)でフライに。
■エイジングブーストしたメヒカリとマイタケ
福島産のメヒカリのなかからよいものを選別。選別したメヒカリは格別の味!そのメヒカリを0℃/5℃風速90でエイジングブースト。
メヒカリそのままかぶりつく。ホコッと熱い、実に清々しい白身の香りを伴った気体が口中に炸裂。そして、その身肉は儚(はかな)くほぐれていく。小骨が入っているのに、まったくそれを感じさせない!これこそエイジングブースターの効用!!!!
萩シェフ渾身の一撃である!
そうそう、ガス水を、とお願いしたら、なんと福島県産の天然炭酸を出してくれる。
よくみかける国産炭酸の、やわらかーい感じかと思いきや、、、
これが、かなりの強炭酸!美味しいねえ!
小川シェフも「これ、いいなあ」と仕入れたそうにしていたのでありました。
この日ノンアルの私にはあまざけペアリング。
次なる皿は、お楽しみ。
■エイジングブースとした糀とフォアグラ
ええええええええええ~!? なにこれ!???
無農薬無化学肥料で栽培した福島県産の稲で作った麹の甘酒をエイジングブーストしたとのこと。じつはここHAGIでは食材の下処理にこの麹由来の甘酒をよくに使っているそうだ。甘みは砂糖ではなく、甘酒の要領で固形化した糀糖を使用しているものもあると。その糀をエイジングブースト、、、しかもそれを液体窒素でアイス化して、熱々のフォアグラに合わせると!
いや、素晴らしいね、、、ぼくは糀製品は和食にしか合わない、と思っていて、どうしてもフレンチやイタリアンで醤油や味噌などの糀製品を使用すると、テイストが和食に強制変換されてしまうのが好きでない。でも、液体窒素でアイスになった糀甘酒は、フォアグラの油脂分をうまく中和して、香りも和ぽくなく、純粋に美味しさをプラスしてくれる作用にはたらくようだ。いや、とても美味しいです。
次なる料理は魚、、、おいおい、なにやってんの!?
高価な調理器具のなかでなんと七輪が燃えさかっている(笑)メーカーが観たら泣くぞ!
脂の乗ったノドグロを、、、
なめこと合わせて!
■なめことノドグロ
とれたてのなめこの新鮮な食感はとても素晴らしい!魚の脂の融解温度を狙って焼いたノドグロとともに。
もちろんノドグロは冒頭のネタ箱でみたように、エイジングブーストされています!したがい、旨みマックス、柔らかさもマックス!カットするのがけっこう大変だろうね。
ワインは県産のロゼへ。
これだけ、わたしもいただきました。
赤ではなくロゼ、キリッと筋の通った味わいです。
そこに、、、福島の鶏といえばこれ、川俣シャモ!
と畜3日目、エイジングブースト0℃/5℃で6時間!
■川俣シャモのフライドチキン
川俣シャモは上質な地鶏肉だけど、地鶏はブロイラーより飼養期間が長いので、どうしても肉質が「硬い」といわれがちだ。僕らからすると「よい食感がある」なんだけどね、、、
でもそれが!
エイジングブーストによって、ほぐれ感が強まっている!地鶏肉は、ブロイラーとは別次元の熟成時間が必要だと僕は思っているのだけれども、このエイジングブーストシャモを食べてやはりそうか、と実感した次第だ!
さて、ようやく終盤戦。
ノンアル組には燻したお茶が。
またもや七輪登場(笑)
こうしてみると厨房機器にビルトインされているようにみえる、、、
■福島牛、エイジングブーストの条件違いを味わう
出ました! じつはこの肉、それぞれ熟成の条件が違う。下のメニューの右側をご覧下さい。
同じ個体の福島県産和牛を、ひとつはウェットで60日置いた後エイジングブースター7日間。もうひとつはウェットで90日、エイジングブースターで7日間。日数が変わるので、片方は真空冷凍で保存して置いたものを焼いている。
つまり前段階の真空パック中での熟成期間違いがどのように出るかという実験だ。
えーと これはもうはっきりと、熟成期間が長い90日の方が、脂肪融点が顕著に下がり、クドさもなくなり、かつ旨みも湛えているので、美味しいと感じます。
もちろん60日のほうは、90日の長期熟成では老成して失われてしまった、活き活きした感じの食感が残る。ただし、やはり黒毛の強い油脂感の角が残っているので、最後まで食べると少し重い。黒毛に関しては、濃厚な香りと旨さが素晴らしいものの、脂を摂取した後の疲れる感じをもっと和らげて欲しいと感じることが多い。それでもエイジングブースターをかけたことによって、だいぶ脂の角は取れている。
いやーーーーー店のドアをくぐってからおよそ3時間!
福島の小麦で作ったシェフ自家製パンと福島のジャージー牛から作ったバター。
妻がグルテンアレルギーなので、わたしもつきあって最近、パンを余り食べてないのですが、、、
こいつは美味しかった!また食べたい!
そして、デザートも、、、
■糀とモモとブドウ
先の糀甘酒でつくったアイスクリームと、古山果樹園のモモにブドウを合わせたステキなデザート!
す、すばらしく美味しい!このモモもブドウもエイジングブーストかけてます。モモは、シャキッと感がありながらもほんのり火が通っているような、ふしぎな食感!
長い旅が終了、だけどみんな情報過多で、活性化しちゃった。
「あの食材をああやってエイジングするとこうなるかもしれないね~!」
「これがああなるってことは○○が▲▲に変わってるんだろうね!」
と、、、
終わることのないランチ。走りきりました。それにしてもHAGIフランス料理店、素晴らしいの一言。エイジングブースターがあるなし関係なく、この店は食事のためにわざわざ足を運ぶ価値アリのお店だ。
萩夫妻、どうもごちそうさまでした!
さあそして、今度はいよいよ関東組が、エイジングブースターを生み出した四国計測工業の本拠地である香川県に乗り込むのである、、、