筋肉ムキムキでよく「遺伝子操作によって生まれたうし」とかんちがいされている肉牛“ベルジャンブルーは、ゲノム編集でできた牛ではありませんので、かんちがいなさらぬよう。
いま宮崎に向かう飛行機の中。
タイムラインで気になる記事をみつけたが、非常に勘違いしている人が多いので、書いておく。
ゲノム編集技術を活用して生産された食品のことが議論に上るなか、「こんな恐ろしい見た目の筋肉ムキムキにさせられた牛が遺伝子操作で生み出されている」みたいな論調でよく紹介される肉牛品種の写真をみかける。ほら、白い体毛で、ボディビルダーのようにムキムキになった牛の写真。僕が撮ったものがないのでここに表示はしませんが。
あれは、遺伝子組換え技術や、ゲノム編集技術によって生み出された品種ではありません。昔からおこなわれている育種方法で生み出された、ずいぶん歴史のある品種なのです。
ベルジャン・ブルーという品種名が表すとおり、ベルギーで生まれた品種。きっかけは突然変異で、ある時在来の牛の子牛で、ムキムキな筋肉に育つのが生まれた。肉にしてみたら、赤身肉の量が通常の倍ちかくあり、脂があまりつかない体質の牛だということがわかった。これを「ダブルマッスル」形質と呼びます。
「突然変異」というとこれまた、気持ち悪〜と思う人もいるかもしれないけど、じつは日本でもダブルマッスルの牛はよく生まれています。黒毛でも短角でも。だけど、日本では赤身肉多く取れることよりも、サシが入る方が重要視されるので、ダブルマッスルは価値がない。なので、早い段階で淘汰されてしまったりします。
対してヨーロッパは赤身肉が高くなるというにほんとは正反対の食肉格付基準なので、ダブルマッスル
ウェルカムなのです。ということで、ヨーロッパではベルジャンブルーがかなり生産されています。
なんでベルジャンブルーが遺伝子操作されてできた品種と思われているかということですが、そういう言説の元となっているサイトをみると、まず筋肉の肥大を阻害するミオスタチンという因子がベルジャンブルーには存在しない。だから筋肥大がえらいことになって、こんな筋骨隆々になるという説明をしている。その話題に連続して「そこで遺伝子操作でミオスタチンをもたない○○○を生み出しました」というような書き方をしている。これによって、ベルジャンブルー自体も遺伝子操作によって生まれたように見えてしまうという事かと思います。
実際にはベルジャンブルーは、ダブルマッスル形質をもつ牛同士を掛け合わせて、形質を固定化していくという伝統的な育種方法で作出されているはず。すくなくともゲノム編集話題になるはるか前から存在してますからね。
あとね、あの衝撃的な筋骨隆々の写真、あれは去勢をしてないオスですからね。どんな牛でも、去勢をしないでオスを育てれば、3年もすればボディビルダーのようなマッチョ牛になります。もちろんベルジャンブルーは格別だけども。ベルジャンブルーもメスはあそこまで筋肉質ではありません。
ということで、ゲノム編集反対の気持ちもよくわかるのですが、キャンペーン用に衝撃的なイメージを与えるためにベルジャンブルーの写真を使うのは、可愛そうだし事実ではないので、やめといたほうがいいですよ。
もちろんこれはゲノム編集技術によるしょくひんをどうこういっているわけではありません。その問題はあまりに難しい話なのでまた別の機会に。