ユーゴでの感動的なランチから4時間後にディナー。そう、こっちでは昼食も夕食も時間がかかるのです。だからぜんっぜん腹が減らない! あー、僕はですね、お腹が空いていようがいまいがメシを食べられる体質なので苦ではないのだけれども、ふつうの人には今回の旅程はかなり厳しいと思う。
食の業界あるあるのひとつですよね。よく「たべものの仕事、羨ましいです!」と言われるけれども、中に入るとそれが「仕事」になるので、外の世界から観ていたキラキラ感や魔法の世界ではなくなってしまう。人によっては「苦行」になることもある。
でもね、たべものの仕事はやっぱり楽しいですよ~!僕はまったく苦痛ではありません。
そんなわけで、ホテル近くの小売店にいったりホテル内でまた数時間休んだりした後、ブローニュの「ベルチュ」に集結!
二日連続ってのもなかなかないなあ!
ちなみにソムリエの方(すみません、お名前失念)も日本人だけど、もう長いことフランスで仕事をしているとのことで、「とっさの場合に日本語が出てきにくくなっちゃったんですよね、、、」と。
この店でも、シェフもソムリエも日本人だということはみなわかっているので「ワギュウはないのか!?」と地元のお客さんからきかれることがよくあるそうだ。現在は使っていないが、それはやはり単価が高すぎることに起因する。
「うちのようなスタイル(ステーキをメインとした、町場の小さなレストラン)だと、いまフランスに輸入されている日本の和牛だと高すぎるかと思いますね。なにせ普通に売っている肉の3倍以上ですから。でも、シェフとも話をしていたのですが、たとえば何種類かの肉の食べ比べみたいなコースのなかで、少しだけ和牛を出すとか、そういうやり方はありうると思うんです」
とのこと。また、以前行われた展示会で土佐あかうしを試食したことがあるそうで、「とても美味しいし、脂に香りと味わいがあるのがよかった。フランス人にも喜ばれると思います」と言ってくれていた!
さあ、ディナーだ!
「今日は、ぼくが50日間熟成したガリシア牛のロースを食べていただきます。」と出してくれたのがこの肉だ!
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
この、深い紅色の赤身部分、長く牧草を食べてきたことを物語る脂の色合い。シャンブレ(室温に戻す)してあることからかなり消えてはいるけれども、ほんの少しサシが入った肉質。実に興味深い!
ただ、この店、柳瀬シェフの素晴らしいところは、このメインの肉以外の部分まで手抜かりなく、とても美味しいことだ。
前菜は、前日同様の白いポタージュ。あー、またセロリアックなの?添え物は全部おなじなのかなぁ、と思ったら!
「今日はトピナンプール(菊芋)のポタージュです。」とのこと。トピナンプールは菊芋の名前のようにキク科の植物で、根部にそれほど大きくないさな芋ができるのを食べる。機能性成分が含まれているので、一時、日本でも栽培する人が増えたが、美味しい食べ方があまりないので爆発的には普及しなかった。
フランスではやはりポタージュか!これがまた美味しい。セロリアックはセリ科植物なので、特有の香りがあるけれどもアッサリした味わい。菊芋はトロリと芋っぽい甘さがあって、バツッと食欲喚起してくれる!
ちゃんと前日の仕立てから変えて、しかも「あれっ昨日と同じ?」と思わせてからの驚きを感じさせてくれる、楽しい幕開けとなった!
そして、、、
うわーーーーーーお!
「今日食べていただくガリシア牛をタルタルにもしました。フォアグラと、自家製のアリッサを添えています」
いやもう、このタルタル、今回のフランスの旅のなかで圧倒的ナンバーワン。
熟成によって自由水が飛んだ赤身はとにかくネットリと濃い旨みを舌にまとわりつかせる。その旨みは和牛のサシから発するものとはちがって、純粋に赤身から発しているので、とにかくキレがいい!
そしてその赤身に脂の旨さを与えるのが、、、
このほどよく、品のある香りに仕立てられたフォアグラである!
バゲットも香ばしく、生地に深い味わいがあって旨い! 塩気と辛みのほどよい自家製アリッサとフォアグラの組み合わせ。そして、、、
こうなるわけだ。肝油と赤身、これぞ完全食ではないか!
このタルタルというたべものを、生の完全な形で食べることができなくなった日本という国は、観光資源もかなりロスしている。残念極まりない。旨いタルタルを食べるためにヨーロッパに来るしかないってことか!
それはともかく、このタルタルを食べにブローニュへ来る価値、あり〼! (←〼は「ます」ですからね!)
オリヴィエも「うううむむむ、、、美味しいじゃないかぁ、、、」という感じで、かなりご満悦の様子。
さあ そしてそしてそして!
出ましたリード・ヴォー! 子牛の胸腺肉、日本ではあまりなじみがないかもしれないけれども、デッカい白子的な感じの味わい。じつはリモージュ市についた夜の晩餐でも食べたのだけれども、細かくばらして火が入りすぎていて、それほど美味しいものではなかった。
柳瀬くんの火入れは抜群! しかも、みてわかるとおり大きさがまちまちなのに、それぞれ最適な火入れがされている!生焼け・焼きすぎがない。ブラヴォーです!
ここでもでましたシュパーゲル(あ、それドイツ語だ)!
そういえばアーティーチョークはこの旅で初めてだな。
噛むとジュッとジュースが湧き出るピチピチのホワイトアスパラガス、味わいがこゆい!ちらされたオレンジピールがよいアクセント。
さあ、そして、、、
出ました!柳瀬くんが50日ねかせたガリシア牛のステーキです。
えー、9人のテーブルでこのクラスが3台。みんな嬉しいけどちょっとビビる(笑)
この肉を仕入れている業者は僕も一緒に行ったところだ。そこで扱われている肉は面白くて、ヨーロッパなのにサシをガツガツといれた肉を得意としているのだ。そうした肉が出てくるものだと思っていたのだが、柳瀬くんはガリスの特性をみとめつつ、サシがおとなしい肉を仕入れていた。
「肉は骨付きでこちらに送ってもらい、熟成は僕がかけています。」
と当たり前のように言う柳瀬くん。日本でも昔から、肉をと畜後早い段階で入手し、お店で自分好みに熟成をかけて仕上げて出すのが本当に佳いお店だった。そして最近、ドライエイジングを自店で施す店も出つつある。フランスでさえも、そうした昔ながらの店は少なくなったと言われているようだが、柳瀬くんは軽々と、自分のキャリアの中でそれを実現している。
さあその肉の仕上げだが、昨日の食べ比べで圧巻だったシンメンタールのような、熟成香バンバン、ハムのようにネットリした仕上げにしてくるかと思いきや、ガリシア牛は瑞々しさを残しつつ、味わいを凝縮させた仕立てである。
おそらく、熟成庫に搬入する前のガリスは、水が滴るくらいに水分の多い状態だったに違いない。と畜後一週間程度で食べていたとしても、リムーザンの若い肉を食べたときのように、フレッシュさは心地よいが、あまり旨みを感じられないという感想になってしまっていただろう。
それが、50日間ねかせたことで、腐敗の元凶となる自由水をほどよく抜かれている。といっても、食べ口の軽快さをのこすために、シンメンタールのハム様のねかせ具合の手前で焼いてくれているのが今日の白眉だ。脱水すればいいというものではないという美学。これぞヨーロッパで勝負する柳瀬流の熟成、なのだろう!
お見事、美味しい!
柳瀬くん、これからフランスでも、そしてすでに日本でもその世界では識られているが、もっと注目が集まること間違いないだろう。
そんな柳瀬くん、土佐あかうしには関心を持ってくれていて、以前も食べたことがあるそうだ。
「展示会で入手した肉を焼きました。サシの入り具合の違うA2とA4を双方焼いたのですが、ぼくはA2が好きでしたね。こちらでA2でも脂が多いという評価になると思います。あかうしの香りは黒毛とも違って、特色がありますね。価格さえあえば、使ってみたいという気持はあります。」
おおおっ そうかいそうかい!
「僕の友人のフランス人シェフも土佐あかうしを試食したことがあるそうです。その時は、A4の肉にオリーブオイルを塗って、炭火で脂を落としながら焼いたそうです。その味は素晴らしいと感じたそうで、常連客にだしたところ『これはとっても美味しい肉じゃないか!』と高評価だったそうですよ。いがいと、フランスでも評価されるんじゃないでしょうか。」
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
脂を落としながらの焼き方とは言え、この赤身の国で、A2の肉が評価されるのはわかるが、A4の肉も美味しいという人がいる! まあそりゃそうだ。「●●人は■■が好き」といったって、それは傾向にすぎず、実際は色んな好みが混在している。日本人だってみんな味噌汁好きやカレー好きではないのだから。
土佐あかうしにとって光明がみえた時間でもあった。
柳瀬くんありがとう。フランスで美味しい肉を食べようと思う人、ぜひユーゴに足を運んで欲しいし、パリからほんの一足伸ばすだけで行ける「ベルチュ」にも来て欲しい。ヨーロッパ中から彼が集めた素晴らしい肉を、かれの熟成の技を味わうことができることを保証する!
柳瀬くん、ますます頑張ってください!