フランスはどの地方にいっても、朝ご飯にハム数種とチーズ数種が並んでいる。これをフルーツ、バターコーヒーであたまをシャキッと。
ちなみにゆで卵はセルフ茹でサービス。卵茹で機みたいな、卵が固まる高温でお湯を貯めておく槽があって、そこに卵を好きな時間落としておくというやりかた。
なかなか固ゆでになるまで時間がかかります。
カラーファンは10~11くらいかなあ。それほど日本と大差なく、食べた感じもコーン食べさせた鶏の卵っぽい。
ロビーに出るとオリヴィエが来ていた!久しぶりだねぇ。日本に何度も来て、ヨーロッパ全土に日本の佳いものを販売している重要人物です。
高知県庁と僕から、四万十ドラマの地栗の紙袋に入れて、いいものお土産色々(笑)畦地さん、きんとん喜んでもらえましたよ!遠忠食品の柚子ごしょうも「東京で柚子ごしょう!?」と驚いていた。
今日はピュイグルニエ社で畜産とドライエイジングのお勉強。
フランスにも超大手から中小までいろんな肉関連業者がいるが、ピュイグルニエは独自の地位を保つ、中規模の地方メーカーだ。モンリュッソンを中心に半径150km県内に契約生産農家を多数抱え、と畜~最終製品の製造まで自社加工場で完結することができる強みを持っている。
2014年に来たときと変わらない、社長のエルベが迎えてくれた。
ピュイグルニエは1976年にエルベのお父さんが設立した会社だ。
ご覧の通り、年間と畜頭数は45000頭。そこから22000トンの最終製品を作っている。単純計算で一日123頭の処理をしているわけだ。
取り扱う肉牛品種はシャロレー、サレアス、リムーザン、オーブラック。それぞれに特徴が分かれている。
中でもメインはシャロレー牛だ。ちなみにシャロレーはこのモンリュソンからそう遠くない地域で生まれた品種。この地にとっては伝統品種なのだ。
オリヴィエが言う。
「いっぱんてきなフランス人が好む肉の赤さはこうだ。」
「そして、最近になって一部の肉愛好家が好み始めたのがこの程度のマーブリング(霜降り)だ。」
で、ピュイグルニエ社が出荷するシャロレーはこれくらいのマーブリング。
つまり、以外とサシ入り傾向にしているのがピュイグルニエの特徴というわけだ。これは面白い。
「あくまでフランスは赤身が好きな文化だけどね。ただ、海外輸出がここのところ増えていて、日本や中国、アジア向けの輸出ではこうしたマーブリングの肉が好まれる傾向にある。われわれはお客さんのニーズによって肉質をコントロールすることができるから」
ということだった。
ちなみに、フランス全体で肉牛となるのは経産牛が最も多く45%程度、次に去勢をしないオス牛(!)が25%。未経産牛が10%、去勢牛が5%程度となっている。日本とはまったく違う構成比率に驚いてしまうだろう。
日本では去勢牛、未経産牛がほとんどで、乳用繁殖牛と和牛の経産牛は挽き肉材である。去勢をしないオスなんて日本では種牛しかありえないが、フランスでは「増体がいいから」という理由で肥育する。そしてその肉を自分達で食べたりはせず、ギリシャなどに売ってしまうという。なんちゅうこった、という文化の違いである。
「なんで日本では未経産牛を食べちゃうの?」
と聴かれた。加えてオリビエから「なんで1~2産させた経産牛を肥育する方式にしないわけ?その方が赤身の味はぜったいによくなるし、脂の質も融点が低くなって美味しくなるのに」という、至極まっとうで、わかっている人ならば「そうだよなあ」と思う質問が出てしまう。
高知組、答える。日本ではどうしても未経産牛の価値が高いという価値観がある。ついで去勢牛も人気があるが、それは和牛の頭数が減少しつつあるので、すこしでもたくさん肉をとりたい。去勢していてもオスなので未経産メスよりはでかくなるので、昨今ではよいとされることが多くなっている。
経産牛をなぜとらないかというと、いま日本では子牛価格がとんでもなく高くなっているので、繁殖メス牛として導入して、2~3産子牛を産んですぐに肉にしてしまうと、採算が合わない。少なくとも6産はして欲しい、できれば9産くらいまでは飼いたいところ。そこからの経産だとどう?
「うーん、それだとさすがに経産過ぎて肉として美味しいかどうかわからない」とオリビエも言う。やはり畜産を取り巻く事情が違うので、そのまま日本に当てはめるわけにはいかないのだ。
この話、これからも書いていく。
さて、加工施設内へ。
ラベルには品種と経産か未経産かオスかといったことが記載され、肉質等級と歩留まりが表されている。
以前書いたとおり、肉質は赤ければ赤いほどよいのが日本と違う点だ(笑)
肉の断面をカメラで撮影し、歩留まりや肉色を判断させて、データ化する。
これを生産者と共有して、出荷後の格付の指標にするそうだ。なるほど、明快である!
ここは熟成前に、水分を適切な量におとすための熟成前室。
ピュイグルニエ社はADIVという研究機関との共同研究で、ドライエイジングの理想的な環境構築を行っている。上の写真で天井にぶっとい配管のようなものがみえると思うが、これは布製のチューブで、無数の穴が空いており、送風口からやわらかく肉の各所に風を通すためのもの。
ドライエイジングといっても、NYのドライエイジング手法とはまったく違う。なぜなら肉が違うから!アメリカ産の肉はヨーロッパ基準からいえば赤身ではなく霜降り肉(もちろん日本ほどではないが)。サシが入っている肉は、相対的に水分が少ない。対して、フランス基準でよいとされる赤身肉は水分がタップリ。従って、同じ条件で熟成しようとしても腐ってしまう可能性が高くなるわけだ。
フランスでの肉の熟成は、水分をいかにコントロールするかというところが、NYや日本の熟成業者と大きく違うように思う。
詳しくは同社の秘匿事項もあるのでここでは書かないが、どうしても識りたい人は拙著「熟成肉バイブル」に写真付きで紹介しているので読んでいただきたい。
ちなみにごらんのとおり、微生物の活用を積極的には行っていない。
が、カビが皆無というわけでもない。そして、ご神木のような、おそらく1年近い熟成部位が、端っこの方にあった。
熟成庫内でみつけた下の枝肉。オレンジ色のラベルにBioと書かれているのがお分かりだろうか。つまりオーガニック認証を取得した牛の肉だ。そう、ピュイグルニエ扱いの肉の10%程度はオーガニックなのだそうだ。
オーガニックはここ10年でとんでもなく市場が拡がった、と言っていた。
そしてこちらはハラル対応の肉。
以前来たときとはまた違い、熟成プロセスに携わる人達の練度が上がり、精度が増している気がする。
次はトリミング室。
表面の数ミリの層をよく切れるナイフでカットすると、ああ、いい感じに水分が飛んでいる。
これを、EU域内で標準的なカットにおとしこんでいく。
これが、日本と全然流儀が違うのです。
カブリはばさっととってしまって、骨の先端を露出させるこの特徴的なカット。
トリミング済みの肉は、ピュイグルニエ社特製の布袋に詰められて出荷だ。
変色がみられるが、これは問題ないよ、と。日本向けのジェニス(未経産牛)のドライエイジングビーフもこのような形で選別され、出荷されているのだろう。
ちなみにこちら↓が、ストリップロインよりも僕が美味しいと思っているショートリブ。骨付きのこの部位を食べたら、ちょっとクセになりますよ。正直、ロースやモモなどのステーキ部位よりこっちの方が旨いと思う。
そして、、、
ここのひと山は、某世界的なハンバーガーチェーンへ納品される肉だそうだ!
2014年にここに来たとき、まだ古い施設でドライエイジングとトリミングを行っていたが、今回は数年前にリニューアルされた真新しい施設での稼働状態をみせてもらった。フランス国内でドライエイジングをウリにするメーカーはそう多くない(小規模な精肉業者がやっているのが普通)そうで、その中でもピュイグルニエ社は、契約農家から安定した品質の原料を調達でき、自社設備でと畜からドライエイジングまで一貫して作れるのが最大の強みなのだ。
「さあ、それじゃあ食べ比べランチにいこう!」
(つづく)