さて、京都府福知山市の食材発掘事業で仲良くなった杉本シェフのお店に、ようやく行くことが出来た。溝口さんに声をかけたところ、なんと予定日は溝口さんのお誕生日の前日で、しかも奥様のお誕生日の5日前。そして極めつけは「あら、僕の誕生日の前日でもあるんです」と杉本シェフ!なんじゃそりゃ!?溝口さんと同じ誕生日かよ!
と、そんな奇跡的な夜となったのである。
せっかくだからライティングしたいと言ったところ、メインダイニングではなく、彼らが「避難所」と呼んでいるという個室へ。
なんで上を見上げているかというと、このシャンデリア、とても、とおってもよいものだそうで、吊り下げるのに特殊な金具と、天井に補強が必要になるというものだそうだ。
たしかに、たしかに美しい、、、Z6を持って来てよかった!
「なぜここの部屋が避難所と呼ばれているかといいますと、このシャンデリアを吊すためもあるのですが、とても堅牢な造りになっておりまして、もし大地震や核戦争が起きたとしても、ここはシェルターにもなるぞ!くらいの丈夫さなんですよ!」
そうかそうか、それは安心!(笑)
この日も、杉本くんは料理を作りながらもサービスも行い、ワインの説明から何からしてくれた。
基本的にシャンパーニュやワインはすべて「友達の蔵のものを仕入れています」という。でもきっと、彼が足を運んで「これ美味しいっ」て気に入ったら、きっとニッコニコして友達になってしまうよね。
溝口ご夫妻、おめでとうございまーす。
まずは美しき前菜盛り合わせ。
こういうね、他の用途には一切使えないように作り込まれた什器をみると、一流の店ってそういうことだよねって思うわけです。
みてくださいよこの絶妙なカーブ。
スプーンの柄が載るくぼみもついている、このために設計されたものなのですな。
京都府瑞穂町の丹波シメジのギリシャ風、レモンとにんにく風味。穂先だけだというのに鮮烈に酸味と香り、味わいが交錯する!
ビーツのピリ辛ガスパチョのスフェール。回りはベジタブルゼラチンで固めているが、中はトロッと溶け出す液体。「大きなイクラのような状態を提供したくて。上にちょこんと乗っているのは、僕の友達のピエールオテザのチョリソです。」
うむ、舌の上でトロリと溶け出す中身は、ビーツの甘さと香り主体で、イクラのような油脂にさいなまれる罪悪感がなく、豊かだ!
1年間ラム酒に漬け込んだレーズンの入ったフォアグラのマカロン。
グリーンピースのムースに岐阜県で生産されたキャビアを合わせている。乱獲が懸念される地域のキャビアでないところは、水産資源問題にも配慮しているのだろう。
どれもこれも手が込んでいて、それでいて濁りのない味わい。日本料理の清らかな先付けのように、スーッとこれからの皿に対する興味を湧き上がらせてくれる。
それにしても、杉本シェフは料理だけではなく、とても強い美意識を持っているんだなぁと感動してしまった。だって、すべてがウェルデザインなのだもの!
それもそのはず、彼の実家は福知山市の呉服屋さんなのですよ。そりゃあ、美しきものに対する審美眼が高くなるのも当然だ!
清涼感と適度なミネラル味を感じるワインに合わせるのは、、、
ドンッ!
「はい、これはウニバターです! 今日は最上級のウニを5キロ仕入れたはいいんですが、二人でこれをすべて殻剥きして、これが本当に大変で、果たして仕込みが間に合うのか?ってなりました。そのウニを贅沢にバターと合わせています。」
当日生きてたウニを練り込んだウニバター!
「そして、姿ウニと赤貝をあわせたものに、自家製のバチコ、バゲットにタップリウニを塗って召し上がって下さい。生ウニ食べて、ウニバター味わって、たまにバチコで口をリセットする感じで」
一同、もうボーッとしてしまいます(笑)
このウニバター、買えるなら買って帰りたい(笑)
やばい、激烈ヤヴァイ美味しさです。
個人的に、ウニと生っぽい牛肉を合わせるようなプレゼンテーションが好きでないので避けているが、このウニバターは新鮮なウニのすがすがしさと、上質なバターの香りが相乗効果で、ベストマッチである!
ウニの美味しさはわかりやすいので、とにかくウニをなんかと合わせる提供方法が増えているけれども、いちど鮮度の高いウニを味わってしまうと、んーと思ってしまうこともある。
でもこれ、お店で生きてるウニを割ってくれてますからね、、、それを加熱料理して出してくれるなんて、なんとモッタイナイというか贅沢だと言うべきか、、、とにかく純度の高い、クリアな香りと味わいが限りなく拡がっていく!
ところで溝口さん、この春から徳島の仕事に加えて、さまざまな地域の商品開発と販売を手伝う事業をしていく。今後もご一緒させてください!
まあしかし本当に美男美女ご夫妻なのです。
「次は、、、えー 京都に福知山市というところがありまして~」
と、みんなで爆笑! いよいよ福知山産の食材が!
ドドーン!
「福知山は丹波ですので、タケノコがとても美味しいのです!これを特上のアワビと共に蒸しています!」
広角で撮っているからわかりづらいかもしれないけれども、でかーい!
袋の中に閉じ込められたアワビとタケノコの若い香りが、ぷわーんと漂い出す!
「そこにですね、これまた福知山の山椒の木の芽を練り込んだバターを作りましたので、これを溶かし込んで食べていただくという趣向です。」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
アワビとタケノコという、どちらかというと開放性の旨みを持つ素材に、山椒のツンとした香りが一本たての軸として立つことで完成する味わいの世界観!
福知山のタケノコ、シャクリ、ジュワッと食感と汁気の相乗コンボ。
その芳醇なスープの素晴らしい清々しさ! 味香りに一点の曇りもなし!
パンには、また練り込みバターを合わせて。
「これは、セップ茸のソースバターです。バターなんですが、旨味を濃厚にしたブイヨンもたくさん入ってて、それのゼラチン質で固まるので、実は普通のバターと比べて、入ってるバターは半分。軽いのです(笑)」
ほんとうに軽い!そしてセップって、こうすると甘い香りなんだね!!!さきほどからバターが多いが、良質なものを使用しているのだろう、まったく重さがありません。
そもそも、近年のフレンチで「バターを多用した重いものを避け、、、」というようなことをよく言われるけれども、よいバターは重い脂ではない。むしろ、フォンなどいろんなものを煮詰めて凝縮しすぎる行為に重さが生まれる要因があるように感じる。
杉本シェフの作る料理にはバターが多用されているのに、このけだるくなる重さをまったく感じない!
ネットリ凝縮した感のある、リースリングのごとき香りのするワインに合わせるのは、、、
ん?岡持ちもってきたの?という桐の箱を持ってきた杉本シェフ。
「えーとですね、野菜料理、というよりは僕としてはスープのつもりの料理をお出ししたいのですが、うちがとても大切にしている器で提供したいと思います。」
「うちで一番高価な皿となります。銀の皿なんですが、この作家さんの個展を見に行って一瞬で惚れて、このお店用につくってくださいと頼み込んで、怒られながら作っていただいたものです。」
そこに盛り込まれていたのは、、、
宝石か!といわんばかりの美しい野菜たち。イクラのようにみえる粒は、ゼラチン質に味をしみこませることができる素材を使ったオリジナルのソース味のものだ。
その銀器と中身のあまりの美しさに、しばし凝視。
スプーンもこれに合わせた特注。とてもじゃないがこの銀器セットの値段、きけません。いやゴメン、訊いたけど、とても書けません!
「これ、野菜に目がいくと思いますが、ジュレの部分は鶏からとった出汁ですので、私としては鶏料理ということになります。スープ料理、としてご賞味下さい。」
たしかにジュレの味わいは、透き通った、鶏臭さなどはどこにもない、旨みの凝縮体!
「あ、ぜひ箸を使ってお食べいただければ。」
ん? 箸!?
これか!!!!!
これまた、彼の超こだわりで製作された逸品。断面は三角形で握りやすい。そうとはみえないが、木の肌にウレタンをしみこませて硬度を高めているそうだ。
ところで、この料理の四方に、イクラのような赤い球と濃い紫色の球が乗っているのがみえるだろう。
これはもしや、、、と思って尋ねると!
「これ、みずたまごっていうやつです!」
やっぱり!みずたまごだあ!
実はこれ、元は透明な球体。味付けしたい液体に浸しておくと、その液体がしみこんで、味と色がつくというものだ。
■みずたまご
http://mr-orange.net/?mode=f6
これじつは、何度か足を運んでいる熊本県芦北町のMr.Orangeという柑橘農家さんのプロダクト!まさかここで使われているとは、おどろいた!
「濃い色のほうは10年もののバルサミコ酢に浸して翌日、お酢だけ捨ててもう一度2回浸すとこの色に。紅いのは梅酢なんですが、これも2回浸さないとキレイな色になりません。」
目がくらむようなひととき。やっぱり、フレンチレストランというのは、料理の美味しさだけじゃないんだよね。こうした器やみための美しさと、味や食感と繋がる連続的な喜びがあってこそ、楽しみが拡がる。
お次は、なんとフグと白子とモリーユ!!!!!
贅沢にフグとモリーユの具材が盛り込まれています。
もう、うまさの許容度が上限に達してきて、形容詞が乏しくなってきた、、、(笑)
ここまでのワインはすべて白、そしてここであかが出てきた、と思ったら、、、
なにやら面白い装置をセット。
ウィーンンンンという音とともにとぽとぽと注がれるワイン。
これが、コルクを抜染せずにワインだけを抽出できる優れもののシステムだそうだ。
しかも、その造型が美しいですな。杉本シェフが使いたくなりそう!
この骨太な赤に合わせるのは、、、
「メインのお肉は、フランスはピレネー山脈のミルクラムの肩肉の高温長時間ローストです。」
「そして、桑名の蛤と空豆とイタリアン産グリーンアスパラと福知山の高橋さんが作る椎茸のフリカッセをあわせています。」
おお、福知山の高橋さんの干しシイタケがここでも出てきた!
「そこに、徳之島産の無農薬新にんにくのバターソースと、子羊のソースも合わせています。」
いや、、、
すばらしい!
福知山での審査時に高橋さんのシイタケを「クセがないのにうまみと香りは濃い、これは使える」と言っていたのだけれども、どんな風に使うのかと思っていた。
この一皿、ミルクラムのわやわやわとした、モツのようなコラーゲンっぽいタンパク質を三重、四重の旨みがサポートしている。その中に、シイタケの香りと旨みが優しく効いているのだ!
贅沢極まりない一皿。多種の味わいと香りを重ねているのに混乱がなく、濁りも感じない。堂々たるメイン料理である。
いやー食った食った、ここからデセールかなと思っていたら、、、なにやらサービスの男の子がにんまりわらいながら言う。
「じつはもう一皿、〆のたまごご飯をお出しします。みなさま、量はどのくらいにしたら良いでしょうか?」
えっ たまごご飯!?
これが、ラ・フィネスのたまごご飯! お米もたしか福知山産!
ちょっとやり過ぎじゃないの~!?と思いつつ、杉本シェフのバランス感覚で作ったのなら、その辺のただの贅沢食材盛りとは違うだろうな、と!
ウズラのたまごはラーメン用の味玉のように味をしみこませていると!
美味しくないわけありません(笑) 濃厚なだけじゃなく、トリュフの香り、タレの味の効き、すべて計算され尽くしていて「行きすぎ」感がない!ほどよく美しいおいしさをキープしている!
それにしても、この白木の椀にしても、杉本シェフの美意識が垣間見えます。
はあ、これで終了かと思いきや、、、
桃とイチゴとココナッツが出てきた!
ここに、、、
なんか液体窒素で凍らせたイチゴのソルベを!
これはエクセレント・ビューティーだね!
ふんだんに液体窒素を使って遊んでくれました!
こんな、王侯貴族のような贅沢な一時を過ごして、はや3時間超!
やっぱり杉本シェフ、とてつもない料理人だね!子供の頃からの料理おたくなんだろうとは思ったけれども、ほんとうに突き抜けている。極上の食材を全国から集めて、それぞれに適した料理をするということだけれども、全てにおいて「綺麗な味」である。
今回、3時間半かけてコースを楽しんだけれども、フレンチのフルコース、いつもならどこかで「うーん重い」と思うこともあるのだが、この店ではすべて軽やかに胃の腑に収まっていく。
「なんか、酸化したものを一切食べてない気がするなあ」と漏らしたら、杉本シェフ、目をキラリーンとさせて「そうなんですよ!」と。
「酸化臭が嫌いで嫌いで、肉を焼くときはそれこそ全工程の中で5回くらい油を変えてますよ~」
もちろん肉焼きだけではない、コンソメから溶かし込みバターから、なにからなにまでもそうなのだ。どの素材もつみたてのようなフレッシュ感がありつつ、絶妙な火入れで仕上がっている。
「もう、ダイニングのお客さんも帰られましたから、メインダイニングも観に来られませんか?」
こちらはバーカウンターとワインセラー。
こちらがメインダイニングだ。
そのコーナーには例の銀器の入った桐箱が!
それにしてもなんだか、曲線の多い店内。
「曲線と直線が重なり合ってますよね」とうちの妻が言うと、また杉本シェフの目がキラリーンと。
「僕、PCも大好きで、自分でこの店の設計図面の基本的な部分を描いて、設計士さんにお願いしてるんですよ。そこでメインコンセプトにしたのが、曲線と直線のマリアージュなんです。ほら、うちのロゴを見ていただければ。お分かりになると思います。」
あ、本当だ!フィネスのFとS、直線だけで構成されたFと曲線のみのSでできている!そういう意味があったのか、、、
「このロゴも自分で作ったんですよ~」
え、マジか!? 杉本シェフ、どこまでも異才である、、、いや、これこそホントの天才ってやつかね。
「みなさんどうぞ、キッチンもご覧下さい」
おお、いいのかい? 実はこういうこと、よくあります。これ、キッチンを綺麗に使っている自信のあるシェフでないと言えない言葉。
こうして見せられるキッチン、どこもかしこもピカピカ!グリストラップの掃除に関しては自信あり!と言っていたが、本当に作るところだけではなく、片付けメンテナンスに関しても徹底している。
いやー すばらしかった! この翌日も、とても胃が軽かったことを付け加えておきましょう。次回はいつ来られるかな。杉本シェフ、福知山でまたご一緒しましょう!
■ラ・フィネス https://www.la-fins.com/