いやもう、本当にビックリしたわけですよ。七面鳥という家禽は、日本ではあまりなじみがない。もちろん七面鳥またはターキーという言葉を聞いたことはあるだろうけれども、「よく食べますか?」と聞けば、ほとんどの人がしっかり食べた記憶が無いと答えるのではないだろうか。
僕もその一人で、もちろんアメリカに行った時に、鶏ハム状のターキーブレストを具にしたサンドイッチを食べた記憶はあるが、かといって「これぞ七面鳥!」という記憶があるわけではない。コストコのようなアメリカ資本の卸小売や、ナショナル麻布やニッシンワールドデリカテッセンのように、欧米の顧客が多いスーパーマーケットでは、冷凍の丸鳥が売られているのをみかける。ただ、それを買って料理するということもなかった。
だから、なんというか、多くの日本人は七面鳥のことをあまりよく識らないわけである。
七面鳥は北米原産とされ、メキシコや北アメリカなどに分布し、食鳥として食べられている。この名前の由来は、だらんと垂れ下がっている首の皮膚が、興奮することで紫色や青色に変色することから名付けられている。
日本で出回っているほとんどが輸入肉で、国内での生産は数カ所あり、北海道の滝上町、石川県の輪島市、そして高知県の中土佐町の三箇所が知られている。
「やまけんさん、中土佐にしまんとターキーを観に行きませんか!?」
と僕に声をかけたのは、高知県庁のカレーおたくである恒石くんだ。
「これがね、地域を巻き込んだ本当にすばらしい取り組みになっているんですよ!しかも、美味しい!!」
というのだが、僕は正直言って半信半疑だった。七面鳥って、あのバサバサッとした、淡白な肉だろう?美味しいって言ったってなあ、、、と思いつつ、恒石君があそこまでいうのなら、もしかすると、という思いをもち、高知へ向かった。
しまんとターキーの重要人物と待ち合わせたのは、久礼・大正町の魚屋さんがならぶ市場だ。
なんでここで?と思ったら、じつはしまんとターキーの生産地である大野見(おおのみ)村とここ久礼大正町は、おなじ中土佐町に属する。広域合併したわけだが、合併後も地域のアイデンティティをどのように維持するかということで、一緒に手を取り合って地域おこしをしているのだという。
右側が大野見七面鳥生産組合の組合長をつとめる松下昇平さんだ。若い!
「まずはご飯を食べましょうか!この店の大将とはいつも地域おこしで協力し合っているんですよ」
というのが、久礼大正町の田中鮮魚店!
「はい、今日の刺身盛り。ハガツオ、カツオ、ブリ、ウツボ、アオリイカね」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
最高! これにご飯と味噌汁セットをつけていただくわけである!
「あ、これ松下君やき、サービスね」と、ハランボの塩焼きまで!
で、松下さんとしまんとターキーである。
「あ、組合長といっても、わたしは生産者ではありません。じつをいいますと、わたしは大阪出身で、体育大学卒のアスリートです。以前、トライアスロンの大会で中土佐町を訪ねたことがきっかけで、この土地に興味を持ちました。移住を視野に入れつつ、数回目に来た時に、しまんとターキーの生産について知りました。これは面白いと思い、地域おこし協力隊として中土佐町に移住したというわけです。」
なんとなんと、アスリート!
「はい、陸上選手です。ご存じの通り、アスリートは高タンパク低カロリーな食品が不可欠です。七面鳥はそのどちらも適合していて、もともとアスリートに適した食材として欧米で認知されているんですよ。自分も、アメリカに滞在していた時があったのですが、ターキーはよく食べていて、馴染みがあったんですね。
よく識られているとおり、鶏にはイミダゾールジペプチドというアミノ酸の一種が含有されており、疲労回復によいとされています。わたしの勘ですが、しまんとターキーにはこのイミダゾールジペプチドの含量がとても高いんじゃないかと思っているんです。これについてはいま、研究機関と共同で分析中で、近いうちに結果を発表できると思います。
この数字がきちんと出せたら、このしまんとターキーを、日本全国のアスリートや、東京オリンピック・パラリンピックで来日するアスリート達に食べてもらえるんじゃないかと思って、いま仕込みをしているんです。」
なるほど、そういうことなのか! ということで、その生産現場へ行くことに。
車で20分ほどで、大野見村へ。
川の流れるすぐよこに、大野見七面鳥生産組合の事務所兼処理施設があった。
「もう処理は終わっている時間なのでなにもありませんが、、、やまけんさんにぜひ七面鳥の肉を観ていただきたいと思いまして。」
と、アイスストッカーが並ぶ事務室へ。
綺麗に処理された肉が冷凍されているのだが、、、
「これが丸鳥です。これでも小型なほうなんですが、、、」
で、でかい!
なんだこの大きさは! 国内で流通する若鶏が2.5kg~3.5kg程度だが、これは優に4.5kg程度はあるだろう。
「あ、これはあくまで小さい方です。メスですね、、、ただ、メスもだいたい8~9キロにはなります。それでオスはですね、10kg以上、でかいのは13キロくらいになるんですよ、、、」
マジか!
「それで、お見せしたかったのはこちらです。」
ん? なんですかこれ、七面鳥の胸肉?
「いえいえ、これがササミです。」
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
でけえっ!
弊社柿本の顔と同じくらい!
「どうですか、この規格外のササミ! オスのササミは全部こうです。メスのは一回り小さくなりますが、それでも鶏と比べたら巨大ですよ! これが個人的にはものっすごいアスリートメシです! このササミは運動する人にはすごくよいです。これをタタキにして食べるのが、大野見の昔ながらの食べ方なんですよ。美味しいですよ~」
タタキ食いたい! ちなみに、ササミがデカいと言うことは、砂肝やレバーなどの内臓も、それに比例してでっかいのである!
「レバーは200gです。血が出ませんので鶏より調理しやすいですね。このように、良性のタンパク質がとにかく大きくとれるというところを活かして、何か面白いことができないかと考えているわけなんです。」
いや、ビックリしました。ただ、デカいというだけでは、あのバサバサッとした淡白な肉という印象は覆せない。そう僕が言うと、松下さんは「ん?」という顔。
「バサバサして淡白、、、そうですかね?まあそれでは、生産者さんのところにいって、お肉も食べさせていただきましょう。」
と、生産者の石川さんの鶏舎へ。
思った通り山深い大野見村!
昨今、鳥インフル等の脅威も多いため、完全防護服で入らせていただきます。
こんにちは~! これが、成鳥の七面鳥(オス)の集団である。僕らがはいると「カロカロカロカロカロカロカロ~!」という鳴き声でみんなが鳴く。
「七面鳥は大きいけど、臆病なんですよ。オスとメスで表情が違いますね。こちらのオスは首回りにベロベロがあるのが特徴です。」
「あっこのオス、赤色が強くなっていますね、これが興奮気味ということです。これが青など様々な色に変わることから「七面鳥」つまり七つの面を持つという名前になっています。防疫服を着ている人は普段、なかなかこないので興奮しているんでしょう。」
現在ここで600羽(300羽×2棟)の飼養羽数だ。昨年まではもう一軒あったそうだが、もう辞められてしまったそうだ。
「七面鳥はキジ目キジ科の鳥で、夜は目が見えません。ですから出荷の時は、まだ夜が明けない朝方に中に入って、七面鳥の足を捕まえて処理場に持って行く。その時が一番修羅場です(笑)かなり暴れますよ!」
それは、大変だろう!だってでかいもん!
「はい、この子達は全員15キロ超えなので!足がしっかりしていて、爪もしっかりしているんですよ。足、よくみるとまさに恐竜ですよ。羽もめちゃくちゃ硬いので、ビンタされるとすっげー痛いんです(笑)この子達が、ちょうど飼養期間は1年くらいですね。」
飼養期間1年、、、365日! 若鶏(ブロイラー)は45日で3kgになることが想定されている。そして、地鶏と呼ばれる、在来種鶏が50%混じった鶏は120日で3kg程度といったところだろう。七面鳥の増体の良さと、骨格の丈夫さがみてとれる。というのも、ブロイラー品種だと、5kgを越すと足を折ってしまうことがあるらしい。七面鳥は10キロオーバーでもちゃんとガッシリ身体を支えられるようになっているのだ。
「そうですね、土佐清水でブロイラーのチャンキーを長期肥育してますが、それでも9キロまでと聞いています。こっちは10キロを余裕で超えますので!
さて、こちらがメスの七面鳥です。」
あっ たしかになんか、お顔も女性的!
「七面鳥はオスだけ尾をあげるんですよ。小さい時は見分け方が難しいけれど、育ったら尾っぽを上げた方で判断します。見分けるプロがいないんで、大変ですけど。」
もうひとつマジか!と思う七面鳥のこと。
「七面鳥は一夫多妻なんです。20羽に1羽の割合でオスを入れ、メスに卵を産ませます。卵の大きさは鶏とほぼ同じです。できるだけ育ててお肉にしたいので、卵だけの販売はしていません。卵の孵化率は7〜8割ていどですかね。」
そうなのか、七面鳥、一夫多妻なんだね。放牧中の短角牛は40頭くらいの群に一頭のオスを入れて自然交配させるけど、七面鳥も強いオスに種付けさせるのね。
「ちなみに、七面鳥には旬があります。というのも、卵を産むのが1〜3月に限定されるんですよ。以前、12月に産んだこともあったんですが、結局、その季節は日本では寒すぎて、ヒナが生き延びられないんです。1~3月に生まれて、それを一年かけて育てて、出荷します。出荷は10ヶ月~12ヶ月齢の間ですね。」
あああっ なんと、現時点では七面鳥も生まれる期間が決まっている、いわば季節生産なのだ。
ちなみに、、、
ずっと気になっていたのがこの餌箱。高知名産のニラが突っ込んであるんだよね!
「そうなんですよ!!! もちろん配合飼料も与えますが、ニラがここの生産のポイントです。というのも、昔の文献に、七面鳥の飼育には青野菜がとてもよいという記述がありまして!この辺ではニラを作っている人が何人もいるので、出荷できない残渣を肥育後期に食べさせるんです。ずっとこの方式でニラをあげているので、あげるのとあげないのとの違いは正直、わかんないんですけど、うちの七面鳥にイミダペプチドが高濃度に含まれているというのは、ニラの給餌が作用している可能性があるのかもしれません。というのも、本来の七面鳥の肉は、イミダペプチドの含有量がそんなに高くないはずなんですよ、文献としては。アメリカでもそんな数値はない。だから、高知特産のニラが作用している可能性はゼロではなさそうです。」
高知特産のニラがしまんとターキーの成分に一役かっているとするなら、地域性がある畜産だということになり、とても面白い。ちなみに水は、豊かな川の流れからパイプで引いており、ヒノキのかんなくずを下に敷いているため、匂いがほとんど無い。ヒノキの屑って豪華だね!
「じつは、この小屋を造った生産者さんの本業が大工さんなんです(笑)」
またもやマジか!
「さて、そろそろ七面鳥を食べていただきましょう。」
ということで、この鳥舎の持ち主である石川さんがあつらえた座敷スペースへ!ふつう、飼育している現場の近くで肉を食べられるなんて滅多にないんだけど、なんとここはそこまでセットにパッケージしてあったのだ!
うわっ 焼き台があるじゃん!
「そうなんです、しまんとターキーの肉串を商品化していまして、、、素人焼きで恐縮ですが!」
なんかですね、、、
すっげー脂がジュバジュバジュバジュバと落ちるんですよ!
そんで、肉片がいちいちデカいっす。串の長さは30センチある特製サイズですからね(笑)
「モモ肉と皮、そしてムネの全部を刺した串です。だいたい一串に90gの肉を刺してます。ですので、一本500円と、そう安くはないんですけど、おそらくこの迫力をみてもらえたら値段も納得していただけるかなと。」
はい、納得します!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
旨い!
なんだこりゃ、ホントにこれが七面鳥なの!?
ぜんっぜんバサバサしてません!
それどころかかじり付くはしから脂がボトボトとしたたり落ちるのですよ。また、360日以上育てていると、地鶏よりも長いので、肉がとにかく硬くなるのではないかと思っていたけれども、ぜんぜん硬くない!もちろんしっかりした食感はあるけれども、これは「硬さ」ではないね!
いや~ マジで驚愕。これはイミダゾールジペプチドとかアスリート食とか抜かしても、食材としてすばらしいじゃないか!だって、塩しなくても美味しいもん。ためしにいっさい塩もしていない串をそのまま食べさせてもらったのだが、アミノ酸の濃度が高いのだろう、肉の味わいだけで一本まるごと食べられてしまう!
いやビックリである!
「じつはですね、このしまんとターキー、地元にも愛されてるんですよ。このままちょっと、大野見の給食センターに向かいましょう。」
えっ 給食でこんな素材、使えるの!?と思いつつ向かったのである。(つづく)