後編です。おそらく上の、ケビン・グリフィンのF1Wagyu(和牛×アンガス)をみると、和牛関係者は「粗ザシだなあ」とホッとすると思う。そう、サシは粗く、脂の入り方も日本の上位等級から比べれば品が無いというか、そんなにいいもんじゃない、という判断になるだろう。
でも、みためじゃ肉はわからないんだよね、、、ぼくはなんども「これはマズいだろう」と判断された肉が、食べてみた瞬間に「なんじゃこりゃ!」と目を丸くする美味しさだったという逆転をみてきた。今回はどうだろうか。
「おーい、肉を焼くところがみたければ、おいで」
とヘッドウェイターさんが中に入れてくれた。
ステーキはやはり上火の強いサラマンドルタイプの窯で焼くようだ。その脇には、すでに一度目の火入れを終えたにくがベンチタイムで休んでいた。
窯以外にも、この店はさまざまな火入れバリエーションをもっていた。ちょうど、リブ芯を焼くところをシェフが実演してくれた。
ガルニチュールの準備をしながら、となりのフライパンで肉を焼く。かなり大胆な火入れ!
さて肉が焼けてきた!リブの芯部分まで剥いて切り出し、焼いた一皿。
を食べようとしたところに、どどどどんと三種のステーキが焼き上がって到着!まずはこちらから食べ比べなければね!
と、単体で撮影する前に、カットしてくれちゃったので、すみませんカット後の写真のみで、、、
これがジ・アメリカンビーフともいえる、USプライムビーフだ。断面を観ると、マーブリングはそれほど強くないことがわかる。
このプレートの後ろ側(ボケててゴメン)が日本から正規に輸入された神戸ビーフ。そして手前がケビン・グリフィンのF1Wagyuだ。
こうしてみると肉の違いがわかるだろう。一番右手前がUSプライム、真ん中がケビンのWagyu、上の薄めの肉が日本の神戸ビーフだ(一番上の小さな肉片は無視してください)。ケビンの肉の色が実に濃い小豆色であるのがわかる。
USプライムビーフ、といっても日本で食べるものとは違う(船便できてないからね)。ドライエイジングされたもので、ビーフィーな香りと柔らかさが付与されている。うん、USっぽい味です。
次に、日本が誇る神戸ビーフをいただいた。下の写真の左側に盛られた、若干薄めにカットされた肉である。
ご覧の通りサシの噛んだ、肉色というよりは真っ白な肉になっている。
これがですねぇ! 実に美味しいんですよ。ビックリした、、、ベンジャミンのドライエイジングは、一般的なNYのエイジングスタイルとは少し違っていて「とある要素」をカットしている。だから、仕上がりが味気なくなるんじゃないかと思っていたのだけれども、そんなことは全然無かった! 豊かな熟成香(ブンブンと香る!)を身にまとい、脂の融点もかなり低くなっているようで、口の中でチョコレートのように溶ける感じが絶品だった。
ただ、、、一切れ食べたらもういいな、という感じ。食べている時は夢中になるけど、嚥下した後、ズドーンと胸が重くなるあの感じはやはりある。
そして、満を持してケビンのWagyuをいただく。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお 旨い!
一昨日のAWA記念式典で食べた、AWAの会員生産者のWagyuステーキもとても美味しかったのだけれども、このケビンの肉の、赤身部分から発する奥深いうま味と香り、そしてほどよいサシによって柔らかくかみ切れる肉質。サシの組成も、20ヶ月以上をグラスフェッドで育てているせいか、風味豊かなのに軽い。これなら、ずっと食べ続けられる!と思ってしまった。
またまたやまけん、オーバーに言ってるでしょ、と思うだろうが、同行の山田さんも「うん、日本の和牛は一口で十分だけど、こっちのWagyuは美味しいし、食べてももたれないね!」と言っている。
しかし、食べ続けられる、もたれない、ということ以上に感じたのは味わいがとても豊かだと言うことだ。なんというのか、サシの味ではなく赤身部分の濃いうま味を感じる。また、香りがとてもよい。この点ではUSプライムビーフとの対比がクッキリしていて、ケビンのWagyuを食べた後にUSプライムを食べても、味がほとんど感じられない。「薄っ!」と思ってしまうのだ。
そして、徹底的にコーンフェッドで育てられた牛特有の、コックリ香ばしい風味がない。あれを食べ過ぎるとイヤになってしまうのだけれども、ケビンのWagyuはほんとうに嫌味がまったくないのだ。恐れ入った、、、
「俺たちが日常的に食べたいのはやっぱりUSプライムだよ。だけどね、ケビンのWagyuは美味しいだろう?まず、ほぼグラスフェッドで育ててもらってるんだ。ステーキにはグラスフェッドが最高さ!」
というので、ちょっと驚いた。アメリカのステーキ関係者は「やっぱ牛肉はコーンでしょ!」というかと思ったのだが、まったく逆の話が出てきた!
「とくにサーロインを食べるステーキの肉は、グラスフェッドのものが好ましいね。もちろんケビンの牧場では仕上げにすこし穀物を食べさせるけど、ほぼグラスだよ。うちの店で出しているビーフは基本的にUSプライムもナチュラル(ノンホルモン、グラスフェッド中心)を選んでいる。でも、グラスフェッドでも十分、プライム格付を超える霜降りになるんだよ。神戸ビーフは僕らにはやっぱりくどいので、一ヶ月に一度食べればいいかな、というかんじだね。だから、神戸ビーフだけはうすくカットして焼いている。味が濃すぎるから、それくらいでちょうどいいんだ。」
そうか、、、それで、この店で日本の和牛を食べる人はどんな人なの?
「うん、日本に行ったことがあるという人が、懐かしいなといいながら食べたり、ステイタスのある人が頼むケースが多いね。やっぱり多くのアメリカ人はケビンのWagyuを好むよ。ケビンの牧場からはたまにフルブラッド(純血)のWagyuも出るけど、F1でも十分な品質だよ。」
ということだった。
ベンジャミンの話しを聞いていて印象的だったのは、「日本で食べられているような焼肉スタイルをアメリカでしたくない」という言葉だった。
それは「肉を薄切りにして出すのはアメリカでは受けない」と言うことだと思う。アメリカ人にとって、牛肉とはすくなくとも2センチ以上の厚みを持って焼かれるものであって、薄切りをタレを揉み込んで、客が焼くというものはまったく別ジャンルであるということ。
つまり、日本のA5牛肉もアメリカの肉と同じように分厚くカットされ、ステーキに焼かれて提供されるということだ。そうなると、いかに肉好きのアメリカ人であっても、一口目はいいとして、三口食べることには「もういいわ」となってしまうことも多いだろう。
以前、ある会で僕がA5牛肉をステーキにして試食させたところ、出席されていた精肉卸の社長さんが「やまけんさん、A5でBMS12の和牛は、ステーキで出すことを想定していませんよ。しゃぶしゃぶかすき焼きにして美味しい肉なのだから、ステーキで試食させたら、思わしい評価がでないのは当然です」と言われたことがある。確かにそうかもしれない。
ただ、アメリカを含む海外ではそんな忖度はしてくれるわけもなく、厚切りステーキで供されてしまうだろう。そのときにどんな評価がなされるか。まあ、B&Bでは継続的に出す中で「ちょっと薄切りがちょうどいい」ということを経験的に判断してくれたわけだが、スポット的に扱う店ではそうした最適解がみつからないうちに「ステーキに向かない」と判断されないだろうか、心配なところである。
この三種類の肉をいきつもどりつ食べているうちにかなり満腹中枢がやられてしまったんだけれども、攻撃の手は緩まらなかった(笑)
こちらは肩ロースのカブリ部分を剥がして巻いたものをバタータップリにソテー。美味しゅうございました。それにくわえて、、、
「こいつはうちのスペシャリテだから絶対に食べろ!」と目の前で焼いてくれるのが、Wagyuフィレ肉のヒマラヤ岩塩焼きだ。
「俺は日本の焼肉スタイルのようなうすい肉が好きじゃ無いんだけど、このフィレミニョンだけはこうやって薄切りにして、熱した岩塩でサッと焼くのが好きなんだ。遠赤外線の効果か、冷めにくくて、味もほどよくつくんだ。」
もう満腹ですメッセージは発しているんだけど、ぜんっぜん訊いてくれません。みてくださいこのやんちゃ三人の顔!
このフィレミニョン、確かに美味しかった。これはドライエイジでは無かったと思うけど、たしかにヒマラヤ岩塩のほどよい塩気と、じんわり温められた肉の相性はすばらしい。
いや、これで終わりかと思ったら!
「あのな、うちオリジナルの最高に美味しい、ラムのベーコンがあるんだよ!これを食べなきゃ帰さないぞ」
もう絶対に無理だよ~
「一口でいいから食べてみれ!」
うおっ 美味しい!
び、ビックリするほど旨い! ラムのバラ肉をソミュールして、ハチミツやマスタードを塗りながらヒッコリーの木で燻したものだそうだ。燻した香りがブアッと口中に弾けた後、ハチミツの甘やかさとソミュールの塩気、そしてラムの香りとうま味がギュッとしみ出てくる!すばらしく美味しい!
で も げ ん か い で す 、 、 、
「まてまて、もうひとつ、オイスター料理があるんだよ!」
えーと、すみません、味を忘れました(笑)すげーうまかったのは覚えてます。
も う ほ ん と う に げ ん か い で す 、 、 、
「いやいや、なにいってんだ、うちの名物デザートを食べてないだろ?女の子に大うけの一品があるんだよ!」
と出てきたのがメレンゲのタワー!明かりを少し落とすからなにか?と思ったら、着火!
わかりにくいでしょうが、アルコールで青白くメレンゲが燃えてます。それでついた焦げ目ですね。
ナイフをスーッと入れていくと、、、
二層のアイスクリームとチョコレートケーキ!
ありがとうございました、、、アメリカ人の胃袋にバンザイ!絶対に勝てない。
でもすべての料理、デザートが緻密に組み立てられていて、すばらしく美味しかった! なによりベンジャミンがNYからもちこんだドライエイジドの技術は極めて高い。僕がNY、フランス、イタリア、スペイン、日本で見聞きしてきたどの技法とも違う。それなのに口に入れるとDAB特有のフレーバーが拡がり、テンダネスも発現している。
なにより、日本から正規のルートで和牛を仕入れており、またアメリカWagyuとして質のよいケビン・グリフィンの牧場から直接仕入をしているので、日本とアメリカの和牛Wagyu食べ比べを楽しむことができるのだ。B&Bブッチャー&レストラン、心からお勧めできる。
そうそう、最後に書いておかねばならないことがある。
腹一杯になって店を出る前に「お会計をお願いします」と言ったら、みんな薄ら笑いをしている。
「今日はうちのオゴリだ。」
いやいやいや 何枚焼いてもらったと思ってんの!ちゃんとお金を取って下さい。そうお願いしたけれども、ぜんぜん受け取ってくれない。仕方が無いので、テーブルにチップを少し置いて帰ることにした。これも、ケビンの一報によるものだろう。
B&B、ヒューストン、フォートワースの近くに行かれるなら、予約をして足を伸ばすことを強くお勧めしたい。店のホールスタッフには、日本人のお母様がいる女性が居るので、かたことになるかもしれないが、日本語対応が可能かもしれない。
■B&B Butchers & Restaurant FORT WORTH
5212 MARATHON AVE. Fort Worth, TX 76109
https://bbbutchers.com
当初、予定が合ったにもかかわらず、4時間かけてダラスから飛んできてくれたベンジャミン・バーグ氏に心から感謝。温かく迎えてくれたシェフ、ホールスタッフのみなさん、どうもありがとう。そして多大なる便宜を払ってくれたであろうケビン・グリフィンにも心から御礼を言いたい。どうもありがとう!また機会を改めてあなた方と会いたい!
次回、アメリカWagyu編をまとめます。