さて、9月に開催された全米Wagyu協会(AWA)の総会と、そこで出会ったさまざまな人達について書いてきた。
これまで書いてきた過去ログはこちらをご参照のこと。
■アメリカのWagyuに関する記事、Yahoo!ニュース掲載。農業ジャーナリスト 山田優さんの記事で、写真はわたくしめが撮影しております。
https://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2018/12/29735.html
この間、中国への和牛精液持ち出し未遂事件があったり、また米国産牛肉の輸入月齢の緩和があったりと、関連する注目すべきニュースも多かった。前者に関して言えば、和牛の精液はいずれどうにかして中国なりどこかに渡ってしまいそうな気がする。いま、日本の関係機関は必死に流出防止策を検討していると思うけれども、蛇の道はなんとかだし、いずれ流出してしまうような気もする。
僕の知る、中国で牛肉生産の指導をしている方が「むこうで『先生、和牛の精液を我が国に持って来てくれたら、VIPにするよ』って言われてさあ。むこうのVIPって人を殺しても罪に問われないくらいな意味らしいんだよね。もちろんぜったいにしないけど!」と言っていたことがある。
その人は信用できる人で、日本の和牛文化を守るために、中国では中国の牛を改良しなさいよという指導をしている方だ。しかし、世の中には大金をちらつかされたらどうにかしちゃう人もいるかもしれない。
そう考えると、どう水際で守るかということだけではなく、いずれ流出するだろうという見込みの中で「それでも日本の和牛の方が最高で美味しいからさ」といえるようにしておくというのが最も重要なことだと思う。
しかし、残念ながらそこの部分こそが、ぼくはとても心配である。
日本の和牛は美味しさで他国をリードすることができるだろうか?
ごく一部の、高級なステーキ店や流通業者と結びついた生産者が、味わいを重視して和牛を生産していることはよーく知っている。けれども日本の和牛生産を概観すると、味を重視した生産方式よりも、霜降りと増体を重視した生産方式を優先している人が大多数だろう。なにせ僕がこれまでお付き合いをしてきた和牛を専門に取り扱う流通業者自身が、「おいしくない和牛が多い、だから選ぶんだ」と言っているのをこの耳で聞いてきたのだから。
そうこうしているうちに、日本の和牛を評価する軸とはまったく違う美味しさが、他国のWagyu肉から生まれるのではないかということを僕は懸念する。アメリカ以外の国でも、日本の和牛とは違うポリシーで、日本の評価を上回る味わいのWagyuを生み出すところが出てくる可能性は、大いにあると思う。
実際、アメリカWagyuはとても美味しかったのだから。
今回の全米和牛協会(AWA)の旅の前に、日本農業新聞の山田さんが「こういう店が、会場近くにあるらしいよ。高いけどねぇ~!」と教えてくれたのがB&B Butchers & Restaurant。
■https://bbbutchers.com/landing/
ヒューストンとフォートワースに店舗を展開しているようで、フォートワース店ならばAWAの会場からほど近い。Webをみればわかるが、ここはテキサスで生産されたWagyuと日本から正式ルートで輸入したA5和牛を提供している。しかもドライエイジングを施しているという。
ここはいかなきゃでしょ!ということで事前に連絡をし、取材撮影をさせて欲しいとお願いをしておいた。広報担当の女性が親切に、写真撮影の許可をくれた。ただし、創業者であるベンジャミン・バーグ氏はその日はヒューストンにいるので、対応はできないが、ということだった。もちろん、食べ比べができて写真を撮れたら問題ない。
ところが!
前日に訪れたWagyu生産者であるケビン・グリフィンと一緒にいるとき、車の中で彼がいうではないか。
「ぼくのWagyuの販売先はいろいろあってね、、、レストランならB&Bっていうところが使っててね。」
えっ いまB&Bって言った!? 俺たち、明日そこに食べに行くんだよ!
「えっ 本当かい? HAHAHAHAHAHAHA、、、、 OK、僕がベンジャミンに電話しておくよ。あのね、B&Bで提供されるアメリカWagyuは僕が生産している、フルブラッドWagyuにアンガスを掛け合わせたF1Wagyuだ。彼の店の壁をみせてもらったらいい。僕の所有する牧場の風景写真が飾られているからね!」
と、愉快そうに言っていたのだ。なんたる偶然、いや必然!こういうことばかり起こるから、人生は楽しい。
そして翌日の昼、フォートワースのホテルをチェックアウトして、レンタカーで20分ほどの高級ショッピングモールの一角に、B&Bを訪ねたのだ。
やあ、約束している者ですけど、と入ると、そこはまさにファインダイニング!
そして驚いたことに、このカウンター席に、、、
オーナーであるベンジャミン・バーグ氏(つまりB&Bだ)が来ていると!(左のメガネをかけた人物です)
えっ だって所要で来られないんじゃなかったの?
「昨日、ケビンから電話をもらってね。ぜったいに会っといた方がいいと言われたんで、ダラスから4時間かけてやってきたよ。なんでも訊いて、何でも食べてくれ!」
まじかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ありがとう、ケビン、、、そしてホントすみませんねベンジャミン。
「ケビンの牧場の写真を観るかい?」
と案内してくれたのは、店の二階だ。
「この壁面の写真はケビンの牧場だよ。」
ああ、いいね、、、前日に僕らが立ち寄ったのは、ケビンの家の周りにある繁殖場で、こちらの写真の牧場は肥育をしているところだろう。いつか遊びに行きたいものだ。
「数年前にケビンの生産するWagyuと出会ってね、衝撃を受けたんだ。旨い!ってね。僕はそれまでNYで、飲食店でキャリアを積んできた。ドライエイジングをするステーキハウスもね。ここテキサスは畜産の盛んな地域だから、ステーキは日常食だ。けれども、ドライエイジングをした肉はあまりみかけない。フレッシュな肉を食べる文化なんだよ。その故郷に、ドライエイジドビーフの旨さを広めようと思って、2016年にB&Bをオープンしたんだ。」
という。
「熟成庫、みるだろう?」
もちろん! レストランに隣接してブッチャー、つまり肉屋併設されている。そのガラス奥にみえるのが熟成庫だ。
あれ、と思ったのだが、庫内には、NYで熟成庫内に入れてもらったマスター・パーベイヤーズ(ピーター・ルーガーに卸している中間業者だ)や、日本のドライエイジング業者の熟成庫でみられる「甘いカスタードのような香り」はあまりしない。
じつは、香り成分のもととなる要素(僕の本を読んでいるひとならおわかりのはず)が発生しないように、ある仕掛けをしているというのだ。それにはちょっと驚いた。
「日本から輸入したA5和牛は、どれも骨を抜いてきてしまうから、使いにくいんだ。なぜ骨付きで送ってくれないんだ!」とベンジャミンが言っていた。だから、ロース一本を真空を剥いて熟成庫に入れているという。
B&Bでは、USビーフのプライム等級の肉とケビンのWagyu、そして日本から輸入した和牛を提供している。そのどれもが、ドライエイジドで出されている。
そのすべての肉を、この併設ブッチャーで購入することが可能だ。
「じゃあ、Wagyu食べ比べをしよう。日本から輸入した神戸ビーフとケビンのWagyu、そしてアメリカンビーフの最上級であるプライム格付の肉の三種類を焼いてみよう。」
そう言って持って来てくれたのが、こんな贅沢なプレートだ。
もちろんこんなの全部食べられません! B&Bで扱っている肉をとにかく見せますよということで持って来てくれたのだ。
ちなみに、右側上のTボーンとその下のLボーンはUSプライム、一番下にあるのが神戸ビーフ、どれもドライエイジドをトリミングしたものだ。
それにしても、みておわかりのように、アメリカでも一流店ではかなり霜降りの入った肉を好むのだ。
よく「アメリカは赤身肉の文化」と言う人がいるが、たしかに安い肉は真っ赤であることはたしかだが、逆に霜降り度合いの高い肉が高価だということは、そちらの方が人気があるということだ。
僕の感覚では、ヨーロッパは真っ赤な肉を好む(そうばかりとも言えない地域もあるが)が、アメリカはむしろ霜降り好きが多い様に感じる。
あれ、ケビンのWAGYUは?
「あ、忘れてた。ちょっと持って来て!」
と、シェフが真空パックを解いてだしてくれたのがこれだ。
こちらがケビンのF1Wagyu(和牛×アンガス)である!
ベンジャミンが、シェフに「こいつはこうやって焼いて、こう出してくれ」と指示をしている。
長くなっちゃったのでいったんアップします。