いろんな意味で忘れられない夜だった。台風21号の吹き荒れた日、僕らは朝から徳島に飛んでいるはずだったのだ。
うちが事務局をしている青果物流通研究会で(全国の仲卸や生産者が参加している会だ)年に一度、一泊二日の産地ツアーをしている。今年は、徳島県の地域商社「阿波ふうど」の溝口さんにアテンドをお願いしての徳島ツアー。
そこに台風である。
以前も10月中に大分ツアーを実施の予定だったのに、台風直撃の予報となり、早めに中止の決定を下した。しかし実際には進路がやや逸れて、「催行にしておけば良かった!」と悔やまれる結果となった。その悔恨もあり、今回は「決行にならない限り催行する!」という判断をした。
東京・羽田からの参加が多いものの、関西組(京都・和歌山)はフェリーや車移動。福岡からは航空便だ。これが、前日夕方の時点でフェリーや福岡便は欠航が決まる。また、関西組はバッチリ台風進路上に自社があり、経営に関わることでもあり、キャンセルとなった。致し方ないことである。泣く泣くのことだったろう。弊社の事務局を務めた柿本も眠れない一夜を過ごしたことと思う。
明けて朝、一便目(8時台)と二便目(13時台)の欠航が決まった。実はこの時点で、午後便までに乗れなかったら全行程をあきらめようと決めていた。のだが、柿本が「いえ、その後の16時の便はまだ飛ぶ可能性があります!」という。
まじか?着いたらすぐ夕食じゃん。でも実はその夕食こそが大事だったのだ。というのは、、、
徳島で食べるならここ!という虎屋 壺中庵(こちゅうあん)を予約していたからなのである。しかも、そこに素晴らしいゲストを呼ぶことになっていたからである。
そして、16時の便は「飛ぶけど、羽田に戻るか福岡に着陸する可能性もあります」との但し書きつきで飛んだ。さてどうなることかと思ったが、、、
台風一過後の徳島空港に無事着陸できた!
じつに感慨深いランディングと青空だった。ただ、この時点では関西でのひどい損害のことまで思いを寄せられなかったのだが、、、
空港で無事、阿波ふうどの溝口さんと合流!結果的に参加者は15名から6名へと大幅に減ったが、結束力固し!
すんごい人口密度の薄くなった中型バスで一路、佐那河内村(さなごうちそん)へと向かう。
徳島は河川の多い県。水不足に悩まされる香川とはまったく違う。
台風での増水もあったろうが、吉野川の豊かな流れが美しい。
1時間たたないうちに佐那河内村の中腹にある壺中庵へ到着!
壺中庵さんにも迷惑をかけた。20人で予約を取っていたのに、大幅に減って9名となってしまったからだ。それでも、全キャンセルということだけはしたくないと思っていたのだが、実はこちらでも予想外の出来事が起こっていた。
というのは、壺中庵のある佐那河内村でも、台風の被害で長時間の停電が起きていて、「もうこれ以上停電が続くようだと、今晩は断らなければならないかも」という状況だったそうだ。幸いなことにすんでのところで通電し、準備ができたとのこと。
何重かのミラクルである、、、
席に座ると、この日のビッグゲストが来て下さっていた。
徳島の「葉っぱビジネス」で有名な「いろどり」を立ち上げた横石さんである。
実はこの日、いろどりを視察させていただく予定だったのだが、飛行機が飛ばず叶わなかった。ただ、もしお時間があるなら食事をご一緒できないかとお願いしたところ、ご快諾いただいたのだ。感謝、感謝である。
マジシャンのような語り口。横石さんのおかげでメンバー一同、大きな気付きをいただいた。
それと共に、素晴らしい宴も始まる。
先付けは有名な蒸しアワビ。
大ぶりにカットされたアワビの食感の心地よさ。ほどの良い塩梅。
しっとり歯に絡みつく肝もすばらしい。食欲がググンと増しました。
そして、、、
お椀がじつに素晴らしかった!
鱧しんじょに蟹、これってもくずがにかな?のほぐした身がいっぱい!
京都の料亭でいただくよりギリギリの塩梅!?という汁に、しんじょを崩していくうちに、そちらの塩が溶け出し、のみ終わる頃にしっかりとした印象が下に蓄積していく。素晴らしい、、、今年一番のお椀でした。
お造り、鳴門の鯛に鱧、車エビ、どれもじつに素晴らしい。
クルマエビの、造り醤油での刺身がまた最高に美味しい!
横石さんとのディスカッションも白熱!
さあ、アユです。
この日は岐阜の長良川のもの。
いや、最高でしたねぇ、、、なにがって、アユが最高なのはもちろん、たっぷりかけていただくタデ酢がじつに美味しい。みな口々に「こんな美味しいタデ酢初めてだ」と!
面白い一皿。
トマト餡に浮かんでいる揚げ物は、、、
タコ!?
たこ焼き!????
これがじつに意表を突く美味しさ! 驚きましたがかなり場を砕けさせてくれる一品。
そして僕的に「これ大好きだ!」と唸ったのが、白ウリの白和え。
徳島県は白ウリの大産地です。そのほとんどが、関西に出荷されて奈良漬けになります。その白ウリをこんなに美味しい一品に昇華するとは。細かく刻んで塩でしんなりさせ、よいアタリのついたウリと豆腐の相性がすばらしく美味しいのだ。シャクシャク感とネットリ感の同居。
お食事の椀を開けて、また感動。
資源のこともあり日頃積極的にウナギは食べないことにしている僕だが、これはいただいてしまおう。
「まさか、地物のウナギですか?」
「そのまさか、の地物でございます」
というより、この店の主が釣っているものらしい!
ご飯もこの辺のキヌヒカリ。早場米はすでに収穫されているそうで、みずみずしかったこのご飯も新米だろう。いや、美味しい。
食べたもの全てが記憶に残る美味しさだった。横石さんの素敵さも強く印象に残った。やはりパラダイムを帰る人というのはとてつもない魅力を持っておられる。
この日はこれにて〆。クレメントホテルにチェックインしたのが23時過ぎ。さすがにみんな、バタンキューしたのでありました。