写真は、クアラルンプール中心部のツインタワー横にあるビルにオープンした高級デパート「ロビンソンズ」のグルメストリートの肉屋のディスプレイだ。肉屋といってもここで量り売りするだけではなく、選んだ肉を隣のフードコートで好きなように料理をしてもらい、食べることができるという寸法。
値段の付け方がなかなかに興味深い。
全容はこんな感じだ。
基本的に高級肉ばかりなのだけれども、そのラインナップの中核はやはりオーストラリアのビーフ、またはニュージーランドのビーフだ。
例えばこちらはオージーWagyu。
100gで47.90リンギット(およそ1300円)。日本の消費者がスーパーで買う和牛肉の価格帯より少し高めという感じ。
対して日本の和牛は?
おわかりだろうか、A5の宮崎牛(個体識別番号をみたところ本当に宮崎の牛だった(ただし徳島県の業者さんのところに搬出されてシンガポールに入っているようだ)。
面白いことにMB12と書いてある。MBとはマーブリング、つまり霜降り度合いのことだ。日本の規格ではBMSと称するが、幅は1~12で12が最上である。こんな日本型の表記を表記をマレーシア・シンガポールでするんだな。
一番上がテンダーロインで、100gが139リンギット(3779円)、中段左がリブロースで132リンギット(3588円)、下段がサーロインで129リンギット(3507円)だ。マレーシアでこの値段で売れるの!?とちょっと心配してしまうところである。ちなみにロビンソンズはシンガポール資本なので、おそらくシンガポールではもすこし高い値付けをしているのだろう。
これ、どうなの!?と店舗のジェネラルマネージャー(ドイツ人)に尋ねたところ、うーんと首をかしげながら「僕にはちょっとリッチすぎるけど」と笑いながら、けれども好きな人は好きみたい、という。リッチとは値段のことではなく(笑)、もちろん脂が多いということである。
対して、オーストラリアのWagyuはMB7。僕が黒毛和牛のBMSでこれくらいが美味しいラインだと思うのがおおむね7なんだよなあ。ただ、オーストラリアのWagyuは、生産者にもよるが普通は麦類主体で肥育しているので、テイストはだいぶ日本の和牛とは違うのだけれども。
そんなことはおかまいなしに、マレーシアとシンガポールではオージー、ニュージーの牛が多いようだ。それは当たり前のことで、地理的にも海ASEANでニュージー、オーストはとても近いのである。
色々考えてしまった。というのは、さきの宮崎県産のA5黒毛のほぼ真っ白に近い肉、そこそこは売れているようだけれども、売りこみ方を考えるべきだよなと思うのだ。
こちらの肉の買い方は欧米と同じく、通常はブロックだそうだ。シンスライス、つまりいわゆる日本で普通の薄切り肉という形態は存在していない。だからこういうところで売る場合でも、厚めに切ってステーキとなる。
でもね、BMS12の黒毛和牛肉を厚切りにしたステーキって、、、大柄なドイツ人男性マネージャーでも「僕にはちょっとリッチすぎる」というくらいだし、誰が食べてもくどくてキツイと思う。
霜降り肉は食べ方によって印象がだいぶ違う。しゃぶしゃぶして脂を落として食べれば「おおっ!」となるかもしれないところを、厚切りステーキにしてしまうと「うわっ食べられない」となってしまう。ああいった霜降り肉はごく薄くスライスしてすき焼きかしゃぶしゃぶでのリコメンドすべきなのだ。実際、ドイツ人GMも「しゃぶしゃぶならいいんだけどね」と漏らしていた。
といって、こちらには薄切り肉の文化はほとんどない。また、しゃぶしゃぶという食べ方も、いまようやくスーパーにPOPなどの形で浸透が始まっている状況だ。
きけば、群馬県がシンガポールで、食のセレクトショップのオープンテラスを借り切って、群馬県産品だけですき焼きのプロモーションパーティーを行うそうだ。そういうこと、していった方がいいよね。
そんなことを思いつつ、オーストWagyuの棚を複雑な気持で眺める僕でありました。