日本の捕鯨に対する世界の眼は依然として厳しい。アカデミー賞を受賞した「ザ・コーヴ」(2009年)によって、伝統的にクジラを捕獲する和歌山県太地町が批判を集めたが、その余波は大きく、今でも太地町には多くの活動家が訪れ、抗議活動を行っている。「わたしはクジラ食べていないからいいや」と思うのは早計だ。数年間から、大西洋クロマグロやニホンウナギは日本人の獲りすぎで資源が消えようとしていると、海外から批判の声があがっているのをご存知だろう。東京オリンピックを前に多くの海外観光客が来るが、注目が集まれば集まるほど「なぜ日本ではこんな食材を使うのか?」と厳しく問われることも出てくるかも知れない。
いま日本人を「動物愛護精神に乏しく、水産資源問題に関しては野蛮な国民」とみている人達は、少なからずいる。そうした人達に対し、きちんと世界に通じる言語(英語ということではなくて)でメッセージを出している人やメディアは残念ながら、たいへんに少ない。
この映画「おクジラさま」は、世界に対するメッセージとなりうる貴重な作品だ。
日本と世界の文化と意識のギャップを、捕鯨問題を通じて浮き彫りにした作品である。僕は雑誌「専門料理」に連載している記事で昨年、佐々木芽生監督をインタビューさせてもらった。
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その際にこの映画を観て、また同時に発売された佐々木さんの書いた本を読んだのだが、この映画はまず全ての日本人が観るべきだし、その上で海外の人にみてもらうべき映画だと強く感じた。
その「おクジラさま」を、捕鯨問題に厳しい世論一色であるアメリカで上映するためのクラウドファンディングが、佐々木監督自らの手で行われている。現在達成率は70%で、100%にならなければすべては消える。
自分達の文化をドキュメンテーションするのが苦手な日本人にとって、この映画がアメリカ人に届くのはとても意義深いことで、捕鯨問題に対する一方的な風当たりが和らぐ可能性がある。その問題の重要性すら認識していない人が多いのが残念なことだけれども、クラウドファンディングはともかくとして、予告編だけでもみていただきたい。
クラウドファンディングのページはこちらだ。日本語のメッセージはページ下方にある。
映画を観たり、クジラ問題に関する言説や日本のメディアの反応をみていて感じるのは「これは古くからの日本の文化なんだから、よいのだ」という、同じ日本人同士でなければ意味の通じない認識を持っている人が多いことだ。黒か白か議論をしてハッキリさせる欧米人に対してそんなことを言えば「文化であろうとよくないことはしてはならない」と一刀両断されてしまう。
欧米は、文化的問題は積極的に議論し、問題解決をしていく。日本もだんだんSNSが普及してそうした文化も拡がりつつあるけれども、基本的には「まあ、いいよね」と暗黙の了解で乗り切ってきた。でもそれでは欧米社会からは理解されないままだし、バカにされたままである。みっともないと思わないか。
佐々木監督の「おクジラさま」は、欧米人に対して素晴らしいカウンターパンチとなっている。そしてブーメランのように日本人に対するカウンターパンチとなって返ってくる。
ちなみに、映画も素晴らしいのだが、佐々木さんが書いたこちらの本がまた、素晴らしい。映画はドキュメンタリーなので淡々と進むが、本にはこの映画を作るきっかけから、取材地の太地町で起こった出来事が詳細に、また映画の各シーンの裏で起きていた情報などが克明に描かれている。映画をみてから本を読むと、3倍愉しむことができ、またこの問題の奥底までがみえてくる。
ともあれ、まずはクラウドファンディングを応援したいと思う。
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