7月某日、駒澤大学の近くにあるイル・ジョットにて、十勝若牛を食べる会。十勝若牛を手がけるのは十勝清水農協だが、元・参事の岡田さんが滋賀県のサカエヤ・新保さんと出会ったことで、新保さんに熟成してもらえないかと定期的に送ってきた。当初、新保さんは「この牛は難しいんですよ」と悩みつつ、どんな熟成加減にすればいいのかをいろいろとトライアンドエラー。
そんな中で「ひとつの解が出ました。」というお披露目会である。
「新保さんがぜひやまけんも呼んでくれっていうから」ということで、行って参りました。十勝の地元からは、JA十勝清水の組合長はじめ主要メンバーがせいぞろい。
そして、食がらみの仕事をしている人達なら「あっ」という方々がまた勢揃い。
新保さんが熟成した肉に群がり、みんなが写真を撮る(笑)
主役は肉です。
おさらいだが、十勝若牛とはホルスタインの去勢牛の肉だが、通常なら20~22ヶ月齢程度まで育てるところ、14ヶ月齢でと畜する、その名の通り「若牛」だ。ただし、その月齢はかなり絶妙なポイントを突いていて、若いと行っても子牛の肉ではまったくなく、しっかり牛肉の味わいがする。一方で、去勢牛の強い牛肉臭というか、クセのようなものはなく、実に食べやすい肉でもある。
適度に食べ応えがあって赤身中心の肉質、そしてくさみがない。生産者側からすれば餌代が1/3程度に圧縮でき、買う側は通常の国産牛肉よりいくばくかは割安に購入できる。三方みな得というお肉である。近年では十勝清水のこのスタイルを真似て他の農協も追随しているという。
ただし若齢だけに、食べ応えという点では一歩たりないという声も多かった。味わいやを深くし香りを付加するためにはドライエイイングが有効だが、果たして十勝若牛のような14ヶ月齢のホルスの肉で、味わい深くなるものだろうか。じつは以前、うちが実施していた赤肉サミットで十勝若牛を出品してもらい、ドライエイジングを施したことがある。
ちゃんとしたドライエイジドビーフになっていて美味しかったけれども、食べ応えという点では、やはり月齢が一回り上の牛たちの方が味の濃さ、香りの強さもあるなという、当然の結果となった。
ただこの時は、同じ時期に熟成庫に入庫して、日本では一般的な45日間の熟成をかけたので、個体のコンディションによって条件を整えたわけではない。もしかすると十勝若牛には違う条件がよかったのかもしれない。そう思いながらも追試できずにいたのだ。
その間、サカエヤ新保さんがいろいろとトライアンドエラーを繰りかえし、「いったんこれが解答!」という状態まで持って来たというわけだ。
肉が焼けるまで、美味しい前菜。
これまた新保さんが手がける愛農ポークのハムを薄ーくうすーく削いだブルスケッタ。質感がフンワリしてとても心地よい。
三重県にある、全寮制で民間の農業高校である愛農学園で生徒が育てる愛農ポーク。全体的にとても柔らかい(食感も味わいも香りに至るまで)豚である。
お次は十勝若牛のレバーペースト。
そう、十勝若牛は内臓も楽しめます。若齢ということもあって、ダメージをほとんど受けていない健全な内臓の味!
その流れで十勝若牛のハツ。
これまたプリンプリンとした肉質でとてもよい。
内臓肉はそれほど好んで食べない僕だが、これなら美味しく食べられます。
こちらはレバカツ。もちろん臭みなく健全なコクの塊。
パスタはなんとマルチョウ!
これまたしっかりと臭み抜きしてあって、クチュクチュした食感、ほどよい脂の風味で美味しい。
さて、 いよいよ主役、サカエヤ新保さんがドライエイジングを施した十勝若牛のサーロインだ。
あああああああ なるほど! こう来ましたか!と納得。
熟成香は浅め、だがちゃんと熟成香だという香りがする。通常ならドライエイジド特有のナッツ香が強く、肉の香りは感じないところだが、ほどよいレベルの熟成香のため、若齢ホルスの赤身肉優性の香りがする。そして、噛むと肉汁がしみ出てくる。つまり自由水が抜けきっていないということ。ドライエイジングの熟成庫にいれておくとどんどん自由水が抜けて、噛んだときにジュワッとはこない。でも、この十勝若牛はみずみずしい。しかも自由水はコンディションの悪い熟成をすると腐敗臭を放つことがあるが、まったくそれがなく、注意深く保管したことがわかる。
これはたしかに、十勝若牛らしさを保ちつつ、ドライエイジングのよい部分を上乗せしたような熟成結果だと言える。
「十勝若牛をしっかりと熟成してしまうと、むちゃくちゃ美味しくなるんですけれども、それが十勝若牛らしいか?といわれると違う気がする。黒毛や他の肉用種と同じ土俵にもってきて熟成するのと、十勝若牛の「若牛」らしさを出すのとどちらがいいか。僕は、後者がいいと思ったんです。それで、ドライエイジングの美味しさもあるけれども、やりすぎない段階で熟成庫から出して、通常の冷蔵庫で寝かせることにしました。」
新保さんの解説にヤンヤの喝采。
「十勝若牛の熟成がどれだけうちの普通の熟成と違うかをしってもらうために」と、比較対照用に新保さんとこ定番の、鹿児島県産黒毛経産をしっかりドライエイジングしたものが。
あ、これはもうしっかりと、中心までエイジングの効果が染み渡った肉。水分は枯れており、うまみが強力に増幅され、香りもバッチリ載っている。黒毛を美味しくエイジングする解答はこれだよなあ、という味だ。
ということで、十勝若牛のような若齢牛には、その肉質に合わせたエイジングをすべきという、当たり前のようだけれどもきちんと検証すべきテーマに、新保さんが一つの解を提示してくれました。
問題は、これを十勝清水農協が商品化して定番で出していけるかということだけれども、どうでしょうか。質のよい国産牛肉が不足している現在、十勝若牛はレストランにも小売店にも、いい解答だと思う。仕入れしたい向きは、JA十勝清水へ連絡して欲しい。新保さんが熟成したものが欲しければ、まずは滋賀県の南草津にあるサカエヤと、併設レストランのセジールに行って食べてから、相談を。