当日の参加者にはレシピが配布されたが、わかる範囲で紹介していこう。
まずオーガニックビーフのサーロインだが、丸菱が誇るドライエイジング熟成庫で2週間ほど水分を飛ばす「ショートエイジング」を施している。熟成庫がない場合、真空パックのままで置いておくとドリップはかなりでる場合もあるので、できればさらしを巻いて冷蔵庫内に置いて、水分を飛ばすとよい、ということだった。
食べやすくスライスしての提供なので、2cm程度の厚みに切り出し、エイジングで変色した外側の部分をトリミングする。
サーロイン上部の脂と筋の部分だが、これは残しておく。火入れの際に脂の面から焼くことで、香りを発生させ身にまとわせたいからだが、最終的には脂ごと、スジの部分をカットしてしまう。
カットした肉は、有機本みりんと少量の米酢を合わせたものにくぐらせ(本当にくぐらせるだけだ)、バットに取り置いてしばらく置いておく。
これを、30分おきに3回ほど繰りかえす。
「マリネに近いのですが、ずっと漬け続けてしまうと味が入りすぎたり、表面が硬くなったりしてしまいます。そこで、さっとくぐらせて少し置いて干すということを繰りかえして、みりんの層を乗せていきます。
ここではみりんの作用によってメイラード反応を早く出すことが目的。2cmの厚みは火が通りやすいので、ほどよい焼き目を素早くつけたいのです。ただ、みりんだけだと甘くなりすぎてしまうので、米酢で酸味とうまみをプラスします。
醤油を使わないのは、醤油そのものの味が強すぎて、肉の味わいを感じにくくなってしまうことを避けたいからです。」
漬け込まないマリネ!? 塩分なしでみりんと米酢? などなど、いろんなハテナマークが頭に浮かんでいるもようのお客さんたち。
そしてこれを焼きます。
「火入れは、瓢亭では炭火なのですが、ここでは使えませんので(笑)、フライパンで焼きます。クセのない太白胡麻油を少し垂らして、弱めの中火で焼いていきます。
フライパンに肉を置いて数秒で、ふわあっと得も言われぬ香りが立ちのぼる。それは肉の香り、のように思うが注意深く嗅いでみるとまたちょっと違う。みりんと米酢の糖分と、肉から引き出された、さまざまな夾雑物を含んだ水分が焼けたことでメイラード反応を引き起こし、肉様の香りが立っているのだろう。
ここで肉の両面に塩を振るが、この道具に注目!
なんか格好いい漉し器のようなもので塩の粒の細かいのだけトントンと落としている!
「うちで使う海塩は水分があってほぐれていないので、丁度いいサイズのものを有次さんに作ってもらったんです。有次さんにいけば売ってますよ。」
おおおおおおおおおおおおおっ 今度買っちゃおうっと!(笑)
さて肉はほんの1~2分で引き上げてバットに置いて休ませる。野菜はひすい茄子と水前寺菜を茹でたもの。ひすい茄子は、京都の茄子を揚げて皮を剥き、出汁と淡口醤油の地に漬けて置いたもの。
「出汁は今回、素直な味わいの肉に合わせるので、燻製の匂いなどは必要ないかと思い、鰹節などは使用していません。」
そこで昆布とホタテ貝柱を水で戻した水出汁と、焼きトマトの出汁を合わせ,淡口醤油でアタリをつける。
「トマトはね、うちでは親父の代からよく使うんです。海外へ行くと昆布や鰹節が使えないこともある。その変わりのグルタミン酸として、トマトは世界のどこでも手に入るので、便利なんです。」
と!なるほどねぇ~
トマトを100°のオーブンで水分を飛ばし(100°では灼けついたりしない)て休ませると、汁が滲み出てくる。この汁と水だしを合るわけだ。
茄子を揚げて皮を剥いたひすい茄子、茹でた水前寺菜をこの地に浸して味を含ませておく。(今回はすでに下ごしらえしたものを使用)
そして休ませていた肉を二回目の焼きで仕上げる。中には火が通り過ぎていないタタキ様だが、温まっている状態にする。
これをスライスしてひすい茄子と水前寺菜を配置した上に盛り込み、肉の内部の面には岩塩であたりをつけ、黒胡椒を少し挽く。
「肉の味の付いてない部分に、岩塩でアクセントをつけるように使います。黒胡椒はなくても構いませんが、控えめにすることで落ち着いた味のオージー・オーガニックビーフの味を引き立たせます」
ひすい茄子に含ませた汁を少々かけ回して完成した「炊き合わせ」がこれだ!
「炊き合わせていない炊き合わせですね(笑) 冷たい野菜と温かな肉の温度差を味わって下さい。最初は肉だけいただいて、次に野菜と合わせて食べていただけるといいと思います。」
このデモンストレーションは試食付きで、参加者めいめいにこの料理が配られる。僕のところにも来たので食べてみる。
いやーーーー驚きましたね!
見た目は、煮野菜に焼いた肉片を乗せただけ。ほんとに見た目は地味!けれども、口の中に拡がる味わいは実に複雑で緻密に計算されているのだ!
みりんを層のようにのせて焼いた表面には、肉だけを焼いただけでは出ない芳ばしい香りが!なんだか醤油のニュアンスがあるのだが、これは酢のアミノ酸も含めたことでメイラード反応が複雑になったことから生まれたものだろうか。でも醤油では強い味付けになってしまうところが、この地にくぐらせて焼いたものは、肉の風味を増幅させつつ、肉の味わいがハッキリクッキリとわかるものになっているのだ!
そして、ヒンヤリ、トロッとしたひすい茄子と肉の組み合わせは実に官能的、ぬめりを伴う水前寺菜のすこし土臭い香りもあわさると、複雑度が増す。含ませた焼きトマト汁+干し貝柱+昆布の出汁に鰹節などの燻製香がない分、心地よいうまみだけが効いて、茄子の香りと肉の香りだけがあるように思える。
また野菜が冷たいことで、肉とのコントラストがクッキリと出ており、口中で噛むことで温度が互いに移行し、馴染んだところで全体の味がくっきりと浮かび上がる。
日本料理の仕立てってすごいな!
お客さんからは質問がとまらない!
日本料理の人は「こんな使い方があるのか」と驚き、フレンチやイタリアンの人達は「みりんの作用と使い方を教えてほしい」と。
大盛り上がりのうちに、午前の部・午後の部ともに終了したのでありました。
終了後は、丸菱やトップトレーディングのえり抜き食材を焼くパーティー(笑)
これは丸菱がいま生産に乗り出しているホロホロ鳥!
に加えて、トップトレーディングがフランスから輸入しているマトン。
なんと、フランスではマトンは食べずにほとんどタダ同然で近隣国に輸出してしまっているらしい。そこに眼をつけて中澤社長が持って来ているのだ。
こいつが実に美味しい。
みんなでわいわいやってたら宮本けんしんシェフも試食に!
「このホロホロ、薪火で焼いてみたいなぁ~」
けんしんさん焼いて下さいっ!
義弘君はこれで帰京するため、ブースを見てまわる。今年も森永商事のチョコレート伝道師・船山君のところで、単一品種のカカオで作ったチョコの産地間の味の違い、製法の違いによる差などをテイスティング!
「いやぁ 面白いなあ!」と唸りながら帰って行ったので、よかったよかった。
それにしても、やっぱり日本料理の肉アプローチはとても面白い。それは、これまでそんなに「日本料理と牛肉」という掘り下げをしていない分、イタリアンやフレンチよりもこれからの伸びしろがあると思えるからだ。
それにしても瓢亭・高橋義弘君には感謝の一言だ。これからも南禅寺の本店と別館、そして東京店をますます盛り上げていって欲しい。
ご来場いただいたみなさまにも感謝!また熊本で来年もお会いしましょう。