僕も大好きなイタリアン「神楽坂しゅうご」は、廣瀬しゅうごという才能を佐々木利雄さんというオーナーソムリエが発見し、できた店だった。そのしゅうご君が独立を希望したとき、佐々木さんは快く店を彼に渡し、福岡へ渡った。
福岡出身ではない。とくに親しい知己がいたわけでもなく、飲食をやるにあたっての強力なつてがあるわけでもない。けれども、ミクニで腕を磨き、オー・グー・ド・ジュールの博多店で腕をふるっていた新鋭の白水鉄平シェフと出会い、意気投合して一緒にやろうかということになった。という経緯は、僕が関わるホールスクエア福岡で開催している肉のセミナーに足を運んでくれた二人からきいたものだ。そこからずいぶん時間が経ってしまったけれども、ようやく足を運ぶことができた。
朝倉市から戻ったのが12時過ぎ。ランチをやっているならば行けるはずだといきなり電話すると、席を用意できると言うことだったので、キャナルシティから歩いて川沿いの店へ向かった。
博多では高級店やクラブなどが建ち並ぶ一角のビル2Fに店がある。
L'eau Blanche (ローブランシュ)ご覧の通りシックなしつらえの空間だ。ここは女性と来たい店ですね。
昼の日差しが差し込む店内はややカジュアルな印象だが、夜にはまったく印象がかわるという。
じつはこの店、月~金のランチはやっていない。土曜日のみ、ランチをしているのだ。
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「ほんとうはランチはやりたくないんです。けれども、ウィークデーの夜に仕事をしていてどうしても来られない方などもいらっしゃるので、土曜日だけ。」
と佐々木さん。だからこの日僕はラッキーだったわけだ!
福岡で佐々木さんのサービスを受けるなんて、ちょっと新鮮な気分なので、めずらしく昼酒をいただくことにしてしまった。
周りのお客さんは、お誕生日を祝っているらしきカップル、プロだな、という感じの美女お二人、お一人でいらっしゃっているご年配の女性。やはり男の一人客など入ることはないであろうお店なのですな。けど、いいんです。男も一人でフレンチを楽しんでよいのです。みなさん、食事を楽しみましょう。
完全なるオープンキッチンには白水シェフと女性スーシェフが無駄のない動きできびきびと料理をしている。
土曜日のランチは何段階かあるのだが、もちろんめでたい再会なのだ、一番高いの。それでも7000円だという。あのですね、むちゃくちゃお値打ちだと思います。おそらくコースの途中まではみな同じ、メインの肉が変わるだけだと思う。こういう良心的な店では、ちゃんとワインも呑みましょうね。
グジェールとチョコボール。
チョコボール?
はい、いまチョコと言えば太田シェフがもってくるアマゾンカカオ。先日、ホールスクエア福岡でも太田シェフが来て、セミナーをしたばかり。眞貝シェフが太田シェフとダチなのである。フェアトレードをきちんと実行しているこのカカオ、ちゃんと福岡でもきっちり使用する料理人が増えています。
それで、このチョコボールの正体なのだけれども、半熟よりもっとネットリしたギリギリ火入れのウズラの卵を赤ワインソースに漬け込んで味を浸透させ、その廻りにカカオパウダーをまとわせたもの。一発目からやられました。このチョコボールを食べるために来てもいいかもしれない。白水君、これ10粒食べたいです。
シャトージュンの甘めのシャルドネは、次の前菜であるサザエと黒皮カボチャ、黒ニンニクの一皿に合わせたものという。
サザエの身肉に、肝を模しているのか、黒ニンニクのソースが。プルーンのような甘さにニンニクとしての残り香、コクが足されていて美味しい。ヨーロッパのシェフが日本の食材として黒ニンニクをソースに使うことが多いのは識っていたけど、食べて美味しいとは正直思ったことがなかった。けど、これは美味しいな!
キシリア様に伝えてくれ、これはよいものだ、と。
アルザスの白はリンゴのニュアンスが感じられるという。
「つぎはブーダンノワール、血の料理ですが、これにはリンゴを合わせるのが定石です。ワインでもその風味を味わっていただきます。」
でもこの料理は「ブーダン・ノワール」ではなく「ブーダン・ヴィオレ」。店をオープンしてからしばらくして、なんと白水シェフの師匠である三國シェフが来てくれたそうだ。出てきたこの料理を観て、
「ノワール(黒)じゃないじゃないか!紫色じゃないか!だったら、ブーダン・ヴィオレだろう!?」
と言ってもらったのをありがたくいただいて、料理名に冠したという。いい話だ!
紫色のフレーク状の衣はビーツでできているそうだ。このブーダンにつかわれている血だが、豚の血ではなくて、なんと北海道のエレゾ社の鹿血だそうだ。どうりで上品でクリアな味わいのブーダンである。文句なしに美味しい。
魚はキハタ、インカのめざめとうるいの一皿。
てっきり、インカのめざめも北海道の村上農場あたりのものかなと思ったが、違う。福岡に素晴らしい農家さんがいて、白水シェフに力のある野菜を送ってきてくれるそうだ。ピュレ状のインカのめざめ、甘みも風味も十分。
ソースは魚介を煮詰めた、ブイヤベースのようなもので、ペルノーの香りが隠し味に使われている。味わいと香りの構成が多重化されていて、メニューの素っ気ない文言からはまったく想像できない世界が口内に拡がる。
肉焼きの技は、しっかりとカウンターで見せてもらうことにした。
熱源はコンロにオーブン、スチコンまである。小さいながらも全部対応可能な感じだ。火にかかったグリルパンは最後の仕上げで、焼き色をつけるもの。
メインは、白水シェフが仲良くしているという「赤崎牛」。黒毛ではなくF1(ホルスタインと黒毛和種の交雑種)だ。
産地による違いなどがぜんぜん表現されない黒毛ではなく、飼い方で特徴を出そうとしているF1を使うという姿勢を評価したい。
実際、せっかくのタンニンをブラックホールのように吸い込んでしまいなんにも味が残らないサシ入りの肉と違い、赤と実に合う。
ソースや、ちりばめられたお手製パウダーのたぐいが、実にしっかり味わいの濃いもので、肉を飽きさせず彩る。
しかもガルニチュールといえないほどに、野菜がうまい。この紫人参はシェリービネガーに漬け込んでいたというが、肉とタメを張るインパクトの味を持っていた。
デザートがまた秀逸。
そば茶のブラマンジェに塩アイスクリーム、そこへ良質なオリーブオイルがトプトプと。
蕎麦のこうばしい香りがプワッと立ちのぼったかと思うと、塩アイスのしょっぱさを感じて、そののち甘さが舌を落ち着かせる。オリーブオイルはかなり強いものだと思うが、アイスの油脂とブラマンジェの乳成分のおかげで、香りだけが印象を残す。
そしてここにもデザートが。とても美しい印象のリースリング。
実にひさしぶりに、昼酒におぼれてしまったのでありました。
白水シェフの腕前は実に確かだ。まだ若いのに、確信を持って突き進んでいる。その確信をもてるだけの素材や生産者に恵まれ、そして佐々木さんというパートナーを得て、自分の世界をストレートに表現する場ができたということだろう。
福岡のフレンチシーンは、実に活発である。今度は夜に行ってみよう。佐々木さん、遅くなったけど、開店おめでとう!
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