じつは、某書店の今年のお薦め一冊という企画で頼まれていた原稿(無償でね)が、字数制限1000文字だと思っていたら100字であったという間違いをしてしまった。1000字の前提で書いた原稿はボツに。でももったいないので、ここでお届けします。
カレー界のスターとなった水野仁輔くんの本は、「東京カリ~番長」時代から愛読してきた。カレーという料理の美味しさをどう生み出すかについて、技術を細かく分析し、素人にも理解できるように体系立てて「システムカレー学」まで提唱するなど、シェフという立場ではない彼にしかできないことだと思っている。
その水野くんがまたやってくれた、と唸ったのがこの本だ。
幻の黒船カレーを追え | |
水野 仁輔 小学館 2017-08-08 売り上げランキング : 3783 Amazonで詳しく見るby G-Tools |
カレーはインド料理」というけれども、これは日本のカレーにはあてはまらない。日本で愛されるカレーのルーツはイギリスにあるというのは、ちょっと料理が好きであれば知っていることだ。でも、多くはそこで停まっている。イギリスから日本に渡来したカレーは、いまイギリスに存在しているのだろうか?日本に古くから伝わる料理書に書かれたカレーレシピのおおもとはいったい何なのか。それを突き詰めて調べた人は、実は水野君以前には居なかったのではないだろうかと思う。
水野君はこれをあきらかにするために、なんと会社を辞めてイギリスに渡ってしまう。そうそう、この本の面白いところは、学術的なスタイルでもなんでもなく、水野君が疑問を持ってからイギリスに渡ってさまざまな調査をすることになる、その一部始終を軽快な筆致でエッセイ的に書いていることだ。彼はカレーが上手なだけではなく、著述家として一流なのである。そのけれんのない文章からは、彼のカレー活動の中で出会った名シェフの技術や、出会った人々との面白いやり取り、そしてドラマチックに出会う新事実の「そうだったのか!」感がダイレクトに伝わってくる。
そして、、、
この本の結末はとても衝撃的だ。これまで誰も仮説として提起することのなかった「カレー渡来の真実」に彼は肉薄しているように思う。ドラマチックなこの結末に至るまでの3日間の読書で、僕は推理小説を読んでいるようなワクワク感に満たされていた。カレーや、もしくは料理にそれほど興味がないというひとであっても、かならずや楽しめる本であると推薦したい。