丹後から戻ったら、谷芳農園の岡田君から、メロンが届いていた。我が家は、僕がメロン派、嫁さんは圧倒的なスイカ派。けれども、切って食べたら嫁さんも「これは美味しいね」と言ってくれた。
個人的に色んなメロンを各地でいただいてきたけれども、これは別格。というのは、現代の日本で主流の、アールスメロン(いわゆるマスクメロン)の美味しさとはまったく違う系統の、どちらかといえばマクワウリの美味しさ、香りのよさを伸ばしたメロンなのだ。
「そうそう、古い品種だから、どっちか言ったらマクワウリのほうに似てるな」と、ちょっと悪そうな岡田君の叔父さんも言っていた。
新芳露メロンはむか~しむかしの品種なので、栽培するのも難しく、そして収獲適期がとても短いそうだ。だから1週間ずつずらして種をまき、定植するのだが、収穫時には1週間の差はなくなり、3~5日間程度の差にしかならない。収穫適期を一日超えるともう商品価値はなくなってしまうので、7月の収穫期は作業がほんとうに大変だ。
昔の固定種にはそういうのが多い。っていうか、そういう短所を農家のためになくしたのが現代的な育種をされた品種で、F1もその技術である。
ただ、農家はかならずしも美味しさを求めない。といってしまうと「えっ?」と思うかも知れないが、農家にとって重要なのはなによりも「安定して穫れること」なので、多少の味わいの差よりも、耐病性や収量の方に目がいく。だから種苗会社もそうした部分に優秀なものを優先する。それはそれで正義だ。
ただ、美味しいという理由で古い品種を採用し続ける生産者もいる。面白いことに、この丹後の一角では、新芳露メロンを作り続ける農家さんもある程度は居るそうだ。「もちろん減ってますけどね。なんていっても難しいから」とのことだが、車で走っているだけで何カ所か新芳露メロンの直売をしている農家さんをみかけた。そうしたところは、市場出荷する余裕などなく、直接の販売で売り切ってしまうそうだ。まだまだこのメロンを愛する文化が、生産と消費の双方で残っているのは感動的だ。
とにかく美味しい。現代的なメロンの美味しさではない。
メロンを割ると、あたりにとても上品な香りが漂う。アールス系のメロンとはまったく違う、花のような香りだ。果肉はマクワウリのように白っぽい。果肉の食感もそうだ。
どちらかというと粉質。その粉質な果肉が熟して食べ頃になると絶妙な、歯がス、ス、スーッと通っていく快感になる。そして口いっぱいにほとばしるクリアな果汁。香水を呑んでいるかのようだ。
「甘さは12度くらいしかありませんよ」というが、数値状の糖度なんてどーでもいい。やっぱり香りだ!甘い香りがあると、糖度を超える甘さを脳が感じる。しかし食べた後に速やかに、その甘さは消えていく。こんなにキレのあるメロン、もう出てこないだろうなあ。
まだ間に合うよ。ぜひ食べてみて欲しい。ぜったいのお薦めだ。