さて、福岡は博多の酒呑めbisとろタカギの夜である。この日は眞貝シェフの宮崎フェアの料理もいただいたので、ステーキを食べたらもうそれほど入らない、という感じだったのだが、メニューを見ていてちょっと気になるものが。
それが「熟成肉とキャベツの蒸し焼き、アメリケーヌソース(bisとろタカギ風お好み焼)」というメニューだ!
上から二番目のメニューの説明をご覧いただきたい。なんと「脱構築」! ジャック・デリダか! 90年代に大学で現代思想をかじったものとしては見逃せないキーワードである。しかもアメリケーヌ! じゃあこれお願いしますと言ったら、店のオーナーの森さんが笑った。
「さすがのお目のつけどころ、、、これはかなり面白いメニューなんですよ!」
そうしたら高木シェフが、なにやら泡立て器を使って卵白を泡立て始めた。それもけっこうな時間、執拗に、、、ていうか、ハンドミキサー使わないのね!? その辺にフレンチの技法を叩き込まれたシェフの気持ちをみてしまった!
メレンゲに卵黄を混ぜたものを、先に火にかけていたココットに投入! そして、上からはバーナーで炙る!
しゅぼぼばわわわーっと!
「はい、これがbisとろタカギ風お好み焼です。」
大ぶりのスプーンをここに入れると!
お
おおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
フワッとな!
そう来たかぁ~!
スフレのような作り。そしてココット下方にはお好み焼き様の具材がタップリ詰め込まれている。なあるほど!
口に運ぶと、思わず笑いがこみ上げてしまう。だって、、、すっげー下世話な、大阪の町場の名も無き店で食べるようなお好み焼きそのものなんだもん!
いや、ちがう。タコやイカが入ってないにも関わらず、なんかそれ系の味がする。
「あ、それがアメリケーヌソースなんですよ」
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
そういうことか!
「ええ、それと紅ショウガ。」
そう、アメリケーヌと、よく泡立てたスフレ様のたまごの上質感が、すさまじく下世話な場末のお好み焼き感と混ざり合っていて、とてつもなく不思議な感じなのである。たしかに脱構築がルプレゼンタシオンしてるよ! リゾームリゾーム!
それと、森さんからもひとつお薦めがあるという。
「じつはわたし九州大学の卒業生なんですけど、九大生が必ずお世話になったメニューがありまして、それを再現しているんです。
名付けて"九大の人が泣いて喜ぶパスタ"。これは大学生協が運営している食堂のメニュー『ジロー風スパゲティ』が元ネタになっています。わたしはあまり真面目な学生でなかったので、そんなに頻繁に食堂を利用してはいなかったのですが、5回に4回は、『ジロー風』を食べておりました。中毒性抜群の料理です。
九大が移転するのに伴い、学食が外部委託になり『ジロー風スパゲティ』は消え行く運命だと知って、九大生協の理事である某教授に非公式に打診し (=一杯奢って) レシピの使用を認めて頂きました。それで万が一にも教授にご迷惑がかからないようにと、名前をイニシャル表記にしました。
流石に学食そのままのレシピでは出せないだろうと、改良の努力をしたのですが、な、何と、レシピがあまりに完璧過ぎて、材料の改変どころか、分量の変更すら不可能で、歴史ある料理の奥深さに感動しきりでした。唯一変えたのは、上にグリンピースを乗せるところを、パセリにしただけです。(グリンピースは転がって皿に落ちて最後まで口に入らないので)
高木の名誉のためと、お値段の違いを説明するために言い訳を致しますと、学食のおばちゃんが作るものよりは、手間隙をかけて、調理技術を凝らし、「安定して美味しい」料理に仕上げています。学食では、少なくない頻度で "炒り卵スパゲティ" になってましたから...まあ、それも魅力の1つなのですが。(^皿^;)
そして、九大移転先の外部委託の学食でも、このレガシーというかレジェンドというか、この料理の素晴らしい価値に気付いたのか、中毒患者たる学生からの強い要望に圧されたのかは不明ですが、見事に復活を果たしたというオチがつきました。これからも九大で食べられます。拙店で出す意義は失われましたが、美味しいので止められないのです。もはや自家中毒です。(^_^;)」
この九大生が泣いて喜ぶジロー風スパゲティ、旨い! 東京のジャポネに代表されるロメスパとはまた違うものの、適度にジャンクで、旨すぎない旨さ! みてのとおりたまごがポロポロと絡み、またかなり味が濃いので、ビール(またはワイン?いや泡が合うと思う)が進んでしまうのである。
九大の卒業生さん、ここでも食べられますよ、ということで。
さて、、、
さきから、このキリッとした濃い顔立ちのお兄さんが、森さんの横に居るのが映り込んでいて、いったい誰これ?と気になっている人も居たと思う。
「じつはこの方、ぼく(森さん)の友人で、尊敬するお菓子屋さんの十三代目なんですよ。やまけんさん、識ってますか、福岡が誇る『鶏卵そうめん』を。」
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
鶏卵素麺! この伝統的なお菓子のことは、尊敬する檀流キングの檀太郎さんの著作で知ったのである。うろおぼえだが、鶏卵の黄身と砂糖を混ぜ合わせて、麺状にしたもので、とてつもなく美味しいものだ、、、と。
高校生時代に読んだ文庫本で、どんな味だろうと想像を膨らませていた。そして、社会人になってお金を好きなことに使えるようになり、何かの機会で福岡に行った際、鶏卵素麺をとうとう買った!
そして、、、失望してしまった。たまごの黄身と砂糖でできたその長くてネッチリ手にまとわりつく麺状の物体は、ただただくどい甘さだけのものだったのだ。どこのメーカーのものだったかはわからない。
その後、メーカーを変えて何回かリトライして、最初の印象はなくなったのだが、それでも極めつけに旨いといえるものはないなあ、などと思っていたのだ。
「やまけんさん、この松屋利右衛門の鶏卵素麺こそが本当のオリジナルで、しかも伝統をひとつ先に進めて、味を美味しく変えたんですよ!」
というではないか!
それがこの鶏卵素麺「たばね」と「ひねり」である。なーんとこれ、bisとろタカギのメニューには載っていないものの、常にデザートとして常備しているという!
■松屋利右衛門
http://www.rakuten.ne.jp/gold/hanamaru-sealer/matsuya/
「たばね」は鶏卵素麺を食べやすい長さにカットして、求肥昆布で巻いたもの。口に入れると、、、
「カスタードだ!」
そう、和風カスタードです!黄身の快い香りがプワンと漂い、そして甘さが拡がって解けていく。でも、僕がいやだいやだとおもったあのべたつき感をまったくといっていいほど感じない!
「そうなんですよ、シツコサがないでしょう?これが彼の変革なんです!」
そしてこの「ひねり」は、だれでも食べやすいように一口大にまとめた鶏卵素麺を捻り上げ、形状を保っているものだ。
そう、鶏卵素麺って、とにかくカットして一口大にするのが大変なんだよね。というのを、あらかじめ解消したのがこの製品なのである!
これがまた、素晴らしく美味しい!
ちなみにあの氷川きよしか!と見間違えた濃い顔の十三代目さんの話しがあまりに濃くてあまりに波瀾万丈であまりに長かったので、ここではカット! いずれ取材に行くことにしたので、その際にまとめてアップすることにしたい。
空港でも販売されているけど、鶏卵素麺買うならこのパッケージ!
ということで、長い夜が終わった。
この店は本当にお薦めである。福岡といえば屋台とかイカとかもつ鍋とか、活きたいところはいろいろあるけれども、二日目の夜とか、または軽く食べて二軒目にここに来るというのも手だと思う。
僕もこの店の魅力的なメニューのうち、わずかしか食べていない。近いうちに再訪したいと思っている。その時のために、メニュー画像(森さんに送ってもらった)を掲載しておきます。
森さん、高木さん、美味しかった!十三代目もお会いできてたのしかった!
また行きまーす。