以前このブログで、高知県の川添ヤギ牧場とひまわり乳業が共同でチャレンジしているやぎミルクの話題を書いた。おかげさまで川添君のやぎミルクは大好評でシーズンを終えたのだが、、、ん?シーズン!?と思われるかもしれないが、じつは今の時期、ヤギはミルクを出さない。なぜかというと、いまが繁殖期なのだ。
ヤギはいまのところ自然交配で子を増やすのが普通のやり方で、しかも季節繁殖といってある一シーズンに交尾をする。それが冬なのだ。したがってその期間はミルクがとれないことになる。これはヤギミルクにトライする産地に共通する悩ましい問題。
そしてもう一点、オスをどうするのか問題というのがある。オスは成長してもミルクを出してくれませんからね。じゃあ、そのオスは生まれてすぐ間引いてしまうの!?
そこを川添君は考えた。 ヤギ肉を美味しく活用できないだろうか? と。そんで、生まれたオスヤギは自家飼料で育て、肥育(つまり肉用に育てる!)をしたのである。
そうしてそのオスヤギの肉を、秋から春にかけて、ミルクをとることができない時期の目玉にするなんてことはできないだろうか!?ということを発想したのだ。
「よし、じゃあその肉を食べる会をバーンとやろうよ!」
と春に遊びに行った際に言ってたのだけれども、それが実現したのである!
さーてこのオスヤギちゃん達を肥育したのが肉になるよっということで、試食会を実施することにしたのだ。会場は、こういうイベントの際には最近ヘビロテでお願いをしている「ス・ルラクセ」。
一番の繁華街である帯屋町のアーケード内。
ここはじつは一階、二階、三階建てになっている。その三階にス・ルラクセがあります。
店に入ると山本シェフが満面の笑みで出迎えてくれます。あ、テンパってるときはこんなににこやかではないかもね(笑)
この日は、ス・ルラクセ単体ではなく、コラボディナー。なんと、青山「ランベリー」で腕を磨き、六本木で「ル・グランソワール」を営んでいた松原君が、なにを考えたか高知へ来てしまった(笑)その松原君が今回シャルキュトリなどを担当。
それに、今回のヤギ肉が出てくるきっかけとなった高知なのにエーゲ海って感じの「ヴィラ・サントリーニ」井原シェフ(下写真の真ん中)が参戦!ああ、ヴィラ・サントリーニまた行きたいなぁ、、、
じつはこの井原シェフが、川添君に「ミルクだけじゃなくて、肉も食べてみたい」と言ってくれたことが、こうした取り組みの直接のきっかけになっているそうだ。
「本日はご多忙のなか、試食会にきていただいてありがとうございました。ヤギを飼い始めて7年、ミルクを生産・販売するなかで井原シェフからも肉を食べてみたいと二年前に言っていただきました。やっとこのような形でお披露目をすることができます。」
そして料理には一皿ずつペアリングで、お酒が出てくるという。これをプロデュースしてくださったのが地元の酒屋さん。
そして、もちろんひまわり乳業の吉澤社長。この人がいなかったらミルクの殺菌・充填と販売ができていないわけです。
という面々のご挨拶のあと、さっそくに試食会が開始!以下、料理名のあとに()で囲んだのが、作ったシェフです。
■小さなビティヴィエ マッシュルームのクリームソース(松原)
ヤギ脂を折り込んだパイに、肉とスジ、脂とマッシュルームをミンチにした具を包んだもの。
この時点では、各方面からの参加者のみなさんは、「ヤギって臭いんじゃないの?」っていう感じのおそるおそるな印象をもっているのだが、、、
食べてビックリしたに違いない! まったくくさみなんてない。むしろまろやかな味わいと香り、さっぱりした油脂の舌触りで、「なんと上品な!」と思ったはずなのだ。松原君、いい仕事してる。
■ロースとフィレ肉のカルパッチョ シュンギクのサラダ添え(山本)
その肉の美味しい、上品な印象を強めるのがこのカルパッチョだろう。これがまた、実にストレートな味わいに、程よい香り。
白ワインとの相性も抜群、ですが、いつものごとく銘柄等は失念しております。ワインは詳しくなる予定がないので、すみませぬ!
まわりの、食関係でもない一般の人にも感想をきいたが、「ぜんっぜん臭くないです。ヤギってこんなに柔らかいんですね~!」とのこと。うん、本当にヒレ肉部分のミルクっぽい感じ、柔らかさ、とてもいい感じ。
■シャルキュトリ 三種盛り合わせ(松原)
さて肉変態・松原君らしい力の入ったシャルキュトリである!
●ガランティーヌ
赤身の内臓とうま味の強いすね肉をナスで包んだ。結着のよいヤギ肉の特性を活かして、ミンチにせずナイフで角切りにして食感を残す。つなぎの補助と味の余興、色出しのためにシカの血液を少量加えているが、将来的にはヤギの血液を使ってみたい。あんぽ柿のマリネを合わせて。
たしかにみるからにネチッと結着している感じがする!内臓はハツとかだろうけど、血のなまなましい匂いなどせず、またもや上品な仕上げ。さすがはフレンチの一流店で腕を磨いた松原君である。ナスやあんぽ柿との相性もバッチリ。
そしてまた驚かされたのがこの一品だ!
●アンデュイエット
白身の内臓をバラ肉のミンチで繋いだソーセージ。胃腸の独特な風味にカレーの香りをまとわせ、パクチーのタブレを合わせたオリエンタルな一品。ケーシングは豚の直腸だが、これもヤギの直腸が使えると嬉しい。
いやー これ最高にうまかった!
いやなアンデュイエットだと、ほんとに●ンチ臭いだけのものにぶち当たることが多いのだけれども、下処理が抜群なので、ヤギの内臓ってこんなに魅惑的な食感とコクがあるの?っという肯定的な印象しか残りません。パクチータブレが上品でこれまた一緒に食べると美味しい。
●シャンボン・ブラン
ハーブと海塩でマリネした骨付きモモ肉の加熱ハム。フレッシュハーブ添え。
おだやかな味のモモ肉をハムにするのだ、これまた実にじんわりと美味しい。写真から肉の筋繊維が綺麗に見える。本当にたべていて健全な肉の食感がして、なんだか元気が出る感じがする。そう、屠畜してあまり時間が経っていない肉を食べると、味は無いけど元気になりそうな感じがあるけど、そんな感じ。ただ、このヤギはほどよくねかせてあります。
つまりヤギって沖縄では強精剤といわれてきたけど、本当にそうなのかもね、、、
●ヤギクリームのディップ
厨房では三人がコラボで動いている!
川添君、次から次へと美味しい料理がくるので「美味しいですね、、、ホントに美味しい!」とご満悦の模様。
■肝臓を使った茶碗蒸し ヤギのコンソメを流して(井原)
ヤギの内臓の匂いに柑橘系を思わせる香りを感じた。そこで、川添さんがエサにしている乳酸発酵した藁の香りをやぎミルクに移しそのミルクでレバーをマリネ。茶碗蒸しの上にはコンソメにカブをすり流しにしています。乳製品には、アレルゲンにならないといわれるやぎミルクと豆乳クリームのみを使用。
いやーーーー 素晴らしいね!
藁の香りまではよくわからなかったけど、レバーの風味はまったくもってヤギが健全・健康に育ったことをうかがわせる、清々しい香りと味わいだ。
そして井原君からもう一品。
■アニョロッティ・ダル・プリン ワラ焼きした首と肩肉のラグー(井原)
ヤギのエサになっている藁で首・肩の肉を焼き、京葱と共にヤギの出汁で煮てラグーに。ソースの香り付けにエストラゴンを用いたが、これは沖縄でヒージャー汁を食べる際にフーチバー(よもぎ)を入れるのをヒントに。
イ・ルンガの堀江純一郎の得意技アニョロッティ・ダル・プリンだが、これはまた美味しいね!エストラゴンがほんのり効いているので、ヤギの香りを消すと言うよりは引き立てている。肉の香りがないのはつまらないものだ。でもこの料理では、ヤギ肉の程よい香りと油脂分ふくんだブロードが、皮に歯を立てた瞬間に染み出してきて、実に佳い!
井原君、素晴らしいよ!
松原君、肉変態度、また上がったね!
そして山本シェフ、番長の仕事・メイン料理が最後に待ってます。
■モモ肉のロースト バルサミコソース ラタトゥイユ添え(山本)
酸味・甘み・凝縮感を煮詰めたバルサミコで表現。シンプルな組み合わせでヤギ肉の味をダイレクトに。
この人、むかしむかしに僕が初めて店に行ったとき、あか牛を出してくれたんだけど、その際に僕が「肉焼きをもっと勉強した方がいいヨ」なんて偉そうに言ってしまったのを真に受けて、猛勉強。県庁のあかうし担当に、大阪や東京の火入れ上手なレストランのことをきいて、自分で足を運んで食べて、話をきいてとやったのだ。そして、高知県内では有数のニクヤキストになった!
このヤギ肉、直径が小さいこともあって火入れは大変だったろう(それに量も少ないから試作用の肉がちょびっとしかなかったはず)。それなのにこんなに攻めた火入れをしてくれて、感無量です。
お味の方はもう、美味しいに決まってる!
デザートまであるんですよ。
■ヤギミルクのズッパ(井原)
あえてすこし獣臭さの出たヤギミルクでリコッタチーズをつくり、それをヤギミルクで伸ばし、スープにしてあります。いっしょに、ビラ・サントリーニ特製のグラッパで作った梅酒を入れたパンナコッタを添えました。
おいおいおいおいおい
これ、素晴らしく美味しいんですけど!?
ヤギミルクズッパ、手がかかるけど最高です。ぜひ定番化して欲しい。
いい仕事してくれた三人のシェフ、ありがとう!
こんなに爽やかに笑う松原君は初めてみたぞ!
井原シェフ、またヴィラ・サントリーニへいくよ!
さあ、そんな感じで素晴らしかったんだけど、このヤギ肉プロジェクトは今年はすでに終了。ていうか、、、7頭くらいのヤギ肉が今回の試食会でぜーんぶ無くなりました。そう、ヤギって肉がホントにちょびっとしかとれないんですよ。歩留まりは当然悪い。ので、単価はかなり高いです。
あなた、それでも食べますか!? というのがこれからのヤギ肉の主テーマとなるだろう。この部分には次年度、さらに掘り下げて取り組んでいくしかない。
今年の秋には、一般の人にも食べてもらう機会を作れればいいのだが。それには川添君の頑張りが必要です。みなさんもぜひあたたかく川添ヤギ牧場を見守ってやってください。高知に来たら、やぎミルクかプリンをぜひ購入してあげて下さいませ!