やまけんの出張食い倒れ日記

ブラジル産鶏肉事件の余波は、鶏肉だけではなく牛・豚含めた食肉価格をいっそう押し上げるのだろう。そして消費者には、価格が上がることを理解して受け止めて欲しい。

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本日の朝に放送されたはずのあるテレビ番組で、17日にブラジルの捜査当局が発表したブラジル産食肉の不正摘発事件に関するコメント出演を求められたのだけれども、前日にいわれてもなあってことと、情報があまりに不足しているなかでヘタなことを言いたくないので、お断りした。どんな感じで放送したかな。

ニュースになっているので知っている人も多いと思うけど、ブラジル全土の食肉加工会社70社以上を、衛生管理基準違反として捜査開始したとのこと。ブラジル政府は輸出先国の大使を集めて事態の説明をするという、かなりのおおごとになっている。

まあおそらく安全性問題についてワイワイというテレビ番組が多くなるだろうが、食肉関係者にはかなり心配な出来事である。で、日本の厚労省も今週になって対応の検討が始まったり、鶏肉業界内でもまだ情報が十分でないということなので、ブラジル産鶏肉にどんなことがありうるのか、それはまだ分かりませんよと言っておきます。

ただ、日本のこれまでの小売業者や外食業者はこういうことがあると、ほぼ必ず「消費者が不安になるので」ということで当該国の物品の提供をしなくなる。ただ、そうすることで日本で食べられている鶏肉の価格に影響が出ると思われる。

その影響についてここですこし展望をみておきたい。

平成27年度の国産鶏肉の生産量は1,530,785t(農水省食鳥流通統計)。平成20年あたりからどんどん増産ベースなので、前年比は確実に毎年伸びている。

 

一方、鶏肉の輸入は平成27年度で550,892t(財務省統計表)。国産のおおむね1/3量といっていいだろうか。この輸入肉のうち、なんと77%となる425,930tを占めるのがブラジル産である。

ではブラジル産の鶏肉はどんなところで使われているのかというのが気になる人もいるだろう。「よく買って食べているコンビニの唐揚げがそうなんじゃないか」等々、いろいろ怖く感じるところもあるでしょう。ただ、これはちと判別が難しいところですね。

というのは、惣菜に並んだり、外食チェーンで使用する鶏肉製品の多くは、生または冷凍でくる鶏肉ではなくて、半調理加工ずみの「鶏肉調整品」を選択するユーザーが多いからだ。調整品っていうのは、、、つまりコンビニ店頭で売られているフライドチキン・唐揚げ製品や、サラダチキンみたいなやつですな。これら鶏肉調整品は統計上の分類が生肉とは別となり、平成27年度は409,641tの輸入となっていて、輸入鶏肉の総量に迫る勢いとなっている。

そして、鶏肉調整品を生産するのはブラジルではなく、タイ国が239,817t、中国が167,641tの二強なのである。ブラジルはこの分野では統計にも顔を出さない。

ということで、ほぼスーパー惣菜コーナーに並ぶ安い焼き鳥などについては、調整品を使っているところが多いと思うので、タイや中国産が多いのではないだろうか。ちなみに鶏肉調整品の代表的なものは、唐揚げ・フライドチキン・ナゲット・チキンカツ・焼き鳥・サラダチキン・つくね・ミートボールである。それらが出回っているのは、コンビニ、量販店などであろう。

さてそうなると、鶏肉調整品ではなく、ブラジル産の骨付きモモや骨なしモモやムネの状態で仕入れて出しているところはどこだろうかということになる。いや、もちろんスーパーやコンビニも、調整品以外にブラジル産鶏肉も使うだろうと思うよ。でも、意外に多いのは外食産業なんだろうな。というのは、さすがに焼きたて・揚げたてを提供する飲食店で、いかにもコンビニで並ぶクオリティの調整品唐揚げを出すのはためらわれるということが多いだろうから。冷凍であっても若鶏を解凍して、マリネするなりして焼いたり上げたりと工夫をして美味しいものを作っているというケース、あるでしょう。はっきりとはいえないけど、チキンステーキ(モモ)を5~600円前後で出すような店はブラジル産である可能性は高いだろうなあ。国産の鶏だとそれは原価計算的にぜったい無理だからね。

ただ、それが悪いと言ってるわけではないですよ。飲食店の工夫なんだからそれはそれ。今の状況では、不正が明るみに出たブラジルが悪いんだからね。ただ、これからブラジル産がしばらく忌避される可能性があるとすると、けっこうたいへんだろうな。

というのは、国内のブロイラーメーカーさんに訊いたところ、

「もう生産体制はMAXだから、これ以上の増産なんて無理むり」

とのことだから、すぐさま国産増産はできないわけだ。他の輸出国からの手配をしようとしても、そんなにすぐに輸出を振り向けラレるとは思えない。世界中で鶏肉需要は高まっているので、それなりに取引先が決まっているところばかりだろうからね。

従って、ブラジル産鶏肉の輸入がしばらく止まると、鶏肉需給は逼迫して、鶏肉製品の価格は上がるだろう。

いや、生産側をウォッチする人間としては上がって欲しい。んだけど、小売業者からするといま、食肉の店等価格は牛が超高値で、豚肉もそれに引きずられて高値傾向。そして鶏肉に関してはつい先月の2月に鳥インフルの発生によって供給不足となり、国産・輸入ふくめ相場が急騰していたのだ。

まあこういうときに、ほぼ必ずテレビなどでは

「消費者としては鶏肉が安く買えないのは打撃」

という言い方をするだろうけれども、食肉はこれから生産するのがどんどん大変になっていくのだから、それにみあった対価を支払うという意識をもたなければならないよ。鶏に限らず、食肉生産は大規模化が進んでいるけれども、そうなるとどこか一カ所で伝染病が起きただけで、消費動向に影響が出るくらいの不足が発生する(現に今)。

また、気候変動によって産地が大ダメージを受けたり(昨年の台風4号による東北・北海道の被害)することで、家畜生産はできていても、処理場や物流システムが動かなくなったりするリスクもある。

トウモロコシなど飼料穀物の生産も、今年はいい状況だったとしてもいつまた減産になるかわからない。

消費者として、たべもののコストがこれから少しずつ上がっていくということに理解を示して欲しいな、と思う。そうでないと、佳いものは手に入らなくなってしまうよ。