こめみそしょうゆアカデミーの事務局を務めつつ、さまざまな商品開発をしている堀田さんからお誘いがあって、「ちんや」に伺った。「ちんや」は行ったことはなかったけど以前から識っている、浅草のすき焼き名店だ。大学の先輩にあたる向笠千恵子さんが世話人を務めるすき焼きの会「すきや連」でも活動されていて、数年前に北十勝ファームの短角牛を使ってくれたと聞いた。
その「ちんや」さんが僕の書くもろもろの記事、とくにいまの霜降肉に対する批判を読んでいただいていて、共感してくださっているという。
「こんな宣言をしていらっしゃるんですよ」と教えてもらったのが「適サシ肉宣言」。
■浅草ちんや すき焼き思いでサイト 「適サシ肉宣言」!
http://www.sukiomo.com/topics/%E3%80%8C%E9%81%A9%E3%82%B5%E3%82%B7%E8%82%89%E3%80%8D%E5%AE%A3%E8%A8%80%EF%BC%81/
そう、文春オンラインなどの記事がYahoo!ニュースなどに転載され、すごい勢いで拡散されて話題になってしまったあのちんやさんである。
実はあの記事が話題になるほんの1週間前に伺ったのである。住吉さんの話を直接きいた身としては、ネット上での採り上げ方があまりにステレオタイプであると思ったので、解説的な意味と、そもそもちんやのすき焼きの美味しさについてどこもちゃんと書いてないじゃん、ということで、ここに書いておこうと思う。
雷門の本当にすぐとなり。
この日は、堀田さんが他にもすごい顔ぶれを集めていた。いつも魅力的な会を主催しておられるギリークラブの渡辺幸裕さん!
そして、、、なんとここで会えるとは!鎌倉のスパイス「アナン」といえばカレー好きなら識らぬ者のない「カレーブック」の作り手!そのアナンの三代目のメタ・バラッツさんだ!
カレーブックってなに?っていうひと、こんなのみたことあるでしょ?
■アナンさんのWeb http://www.e-anan.net/
※アナンさん、このWeb、そろそろ新しくした方がいいと思うけど、、、(^_^)
さて、ちんやの六代目・住吉史彦さんがこちらだ。
住吉さんは幼い頃から、この店の厨房を遊び場にして育った。むかしは牛を半丸(一頭を半分に割った、その片方)で仕入れ、それを職人が捌いて精肉にして出していたという。もちろん、今もその職人技は受け継がれていて、肉の目利きとねかせ、捌きをベテランの職人さんがやっている。
さてこれがくだんの「適サシ肉宣言」文書なのだが、これについては変な紹介をしている記事ではなくて、原文をちゃんと読んでみて下さい。先にも挙げたけど、もういちどリンクしておきます。
■浅草ちんや すき焼き思いでサイト 「適サシ肉宣言」!
http://www.sukiomo.com/topics/%E3%80%8C%E9%81%A9%E3%82%B5%E3%82%B7%E8%82%89%E3%80%8D%E5%AE%A3%E8%A8%80%EF%BC%81/
どうも「霜降り完全否定」というように受け取るやからがいるようだけど、そうではない。だって住吉さんが「適サシ」と呼んでいるのはA4ですよ。A4は立派に霜降りの入った肉ですからね。
牛肉格付けにおける肉質の評価は1から5まであるが、その裏にはさらにBMSナンバーというのが1から12まである。12が最も多い。詳しくは日本食肉格付協会のWebで確認すること。←と書いても確認しない人が多いのが、いろんな問題の根本にあるんだよね。
※日本食肉格付協会のWebより
これをみればおわかりのとおり、「A5」の肉質5等級にあたるのはBMSナンバーが8~12まで。僕の感覚からいえば、3等級より下が赤身肉と思えるので、BMSナンバーは4より下が赤身だねといえるような気がする。
ちんやさんが適サシというのは4等級だが、ちんやさんが選んだ肉はだいたいBMS7番の肉が多いはずだ。これは現在の牛肉格付けが導入される以前に「最も特上」とされた肉の霜降り度合いと言えるのではないかと思う。
そのお肉がこれ。
どうですか、ちゃんとサシは入ってるでしょう。部位が、カブリ部分に細かなサシの入りやすいリブロースだから、余計にサシが多く見えるけれども、ロース芯部分をみるとたしかにA4だ。
そして、ちんやが宣言している適サシというのは、霜降り度合いだけではなく、サシの質についても言及している。肥育期間を長くすることで脂肪融点が低くなった、小ザシの肉を言うということだ。
肥育期間は長いほどよい、と僕もずーーーーっと思っているし書いてきた。先般肉にした、自分の短角牛「すみれ」ちゃんも30ヶ月齢引っ張ったのでとても美味しかったし好評だった。さらにいえば経産牛の方が美味しいと思っている。近年、和牛の頭数が少ないこともあって、25ヶ月程度の肥育期間で出荷する事例が多くなっているのだが、本当に味がなくてまずい肉いが多くなったと思う。牛が足りず、出荷を急がせていることもあるので、生産者も中間業者も悪いわけではないのだが。
それにしても、
いい肉色だな、と思います。スーパーに置くならもう少し鮮やかな色が求められるところ。でも美味しい肉はこれ以上に小豆色っぽいもののほうが当たることが多い。
さあて、いただきます。といっても僕らはやることなし。プロの焼き手さんが焼いてくれます。
鉄鍋は南部鉄器! ハート型の脂は、これもちんやさんが色んな部位の脂をいったん溶かして固めた特製。
スーッと溶けてジクジクと葱を焼いていきます。ちなみに葱は「もしや」と思ったらやっぱり千寿葱!
さてお肉投入!
じゅわりぃいいいいいいと音を立てて焼けていくところに、、、
しゅばばばばやーーーーっと割り下が注がれます。そう、関東風ですね。
肉が焼けている間に玉子の手入れ。
この玉子もたいへんに吟味したものなのだけれども、今回はまあそれはいいや、同店で確認して下さい。
さて焼けた!
E-M1markⅡ 12-100mmf4
いや、美味しいですねぇ! この牛の個体は宮城県で、血統まではわからなかったけれども、いい脂でした。硬くない、ギンッとぎらついていない、融点の低い品のいい脂。そして赤身部分のブドウっぽい香りが効いています。美味しい!
その後は野菜を入れて、各自で箸をのばして楽しみます。
でもね、ここからが今回の本番なんですよ。適サシ肉宣言はとてもいい宣言でエポックメイキングなんだけど、それ以上に住吉さんの遊び心が効いたすき焼きの食べ方が二種類あるのだ。
これみてください。
えっ 仲居さんがもっているのは、、、
ブルガリアヨーグルト!?
「じつはですね、ヨーグルトとすき焼きって合うんですよ!」
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
そして一方で住吉さんが入れているのが、、、
特製のカレーオイル!
カレーのスパイスをオイルに溶かしたもので、これを玉子に入れていただくのが素晴らしく美味しいという。
いってみましょう!
まずはヨーグルト玉子をかきまぜたものに肉を投入。
「ヨーグルトはね、けっこう入れないとそれとわからないかもしれない。それくらい、合うんです」
マジ?? と思いながら食べてビックリ!
本当に「ヨーグルト味」はしない! というより、酸味が玉子と肉の油脂に相殺されるのだろう。サッパリと肉をいただくことができる。その分、玉子の濃厚さも消えているので、好き嫌いはあるかもしれないが、少なくともおかしな風味は何もない。というより、美味しい!
「カレーオイルも試してみて下さい!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
旨い!
これは文句なしの旨さである!約束の地といえる美味しさである!
「あー 美味しいですね!」とバラッツさんも唸る!
いやヨーグルトもカレーも、アンマッチな感じがするけど、まったく違和感なくすき焼きを魅力的にしてくれる。
そしてもちろん、残ったカレー玉子はごはんにインするわけだ!
もう言うことありませ~ん!
ちなみにバラッツさんと堀田さんとで、とても面白い商品を開発したという。
いいね!化学調味料・エキス無添加のカレーだし濃縮タイプ!
これをすこし湯呑みに入れてお湯を注ぐだけで、、、
スパイシーだが和風のあじわいという不思議な飲み口の吸い物に!
なかなかいい製品です。横浜のクイーンズ伊勢丹で売ってるそうな。今度買いに行こうっと。
この後、住吉さんにバックヤードを案内していただいた。
この写真の天井部に、半丸を吊っていたレールがある。そのむかしの味も食べてみたかったなぁ(笑)
このあとは、住吉さんに連れられて、ちんやの真裏にあるこのお店へ。
有名な揉んじゃ・お好み焼きの店だが、夜は茨城の日本酒を中心に呑ませてくれるカウンターバーに。
目についたのがこれ。
グレープフルーツをホワイトリカーでつけたやつ。
やばい、これうまい!そしてホワイトリカーは直線的に酔う!
ということで、適サシ肉宣言ばかりが採り上げられるけど、「ちんや」は実に楽しいすき焼きを食べられる店です。まずは言って食べてからいろいろ言ってみることをお薦めする。ちなみに僕は今夜、要人との会合でまたちんやに行きます。カレー玉子楽しみだ!