写真のお肉は、正規ルートを通じて輸入されたアメリカ産(US)ビーフである。しかもマルヨシ商事によってドライエージングを施されている。この牛、その辺のいわゆる肉バルなどで出てくる、安価なステーキに使われるUSビーフとはちょっと違う。
なんとこれ、USビーフの99%に使用されているという成長促進ホルモン剤を使用していない肉なのだ。その辺の話しはわたしが東洋経済ONLINEに書いたこの記事をごらんあれ。
■米国産牛肉、「肥育ホルモン」の衝撃的な実態
http://toyokeizai.net/articles/-/124545
成長促進ホルモン不使用の肉なんて本当にあるの?という声が聞こえそうだが、もちろんあります。アメリカ国内でも成長促進ホルモンの使用をイヤだと思う消費者・生産者はいるので、ほんの1%程度だけれども、不使用で育てている生産者はいる。
アメリカはごく一部の牛肉を、EU向けに輸出している。EUは成長促進ホルモンを使用した牛肉の輸入を許していない。それについてアメリカとしては「成長促進ホルモン使用の肉を輸入しないのは、WTO違反である」と提訴し、長きにわたる紛争が繰り広げられてきたのだが、結果的にEUは折れず、アメリカ側が「じゃあホルモン不使用の肉だけは輸入してよ」と折れた形での手打ちとなった。
その辺の事情は上記記事の第2回目に書いたとおりだ。
■ホルモン使用を巡るスタンスが米国とは違う オーストラリア産の牛肉は安全と言えるのか
http://toyokeizai.net/articles/-/125422
ということは、EU向けに出している牛肉を日本に引っ張ってこられるなら、アメリカ産の成長促進ホルモンフリーなお肉を食べることができるというわけだ。
このお肉がじつは、日本に輸入されるようになった。まだ月間に20頭程度なのだが、その全量を千葉のマルヨシ商事が買っている。写真の肉は平井専務から「やまけんさん、これ食べてみて」と送られてきたのだ。
話を聞いてぶったまげた。というのは、なんとロースやモモなどのパーツに分けて真空パックにした状態での輸入ではなく、枝肉そのままの形状での輸入なのだ。しかも、コンテナに枝肉を入れて冷蔵かけて送ってくるので、真空パックのダメージがない。エアー便なので、遅くてもと畜して1週間後には千葉に到着する。そうしたら、枝肉を解体して骨付きロースとモモをドライエージング熟成庫に入れてしまえば、アメリカと同じ程度の条件でDABを作ることができると言うことなのだ。
なんともスゴい時代になったものだ。
はっきりいいますが、日本のと畜場でこういうことをしようとするとけっこう面倒だ。枝肉のまま配送したり、骨付きロースを真空パックにかけないで発送してくれという依頼に対応してくれないと畜業者が多いのだ。きっと裏ルートから頼めばできるんだろうけど、これまでかなり苦労してきた。
それに対して、アメリカから輸入したものがいとも簡単にそれをクリアできてしまうとしたら、、、うーん、と唸ってしまう。
さて、肝心のお肉の話し。
肉をよく触ってきた人なら、冒頭からの写真をみて、「んんん?」と思っただろう。そう、肉色が淡くて、大きさもさほど、、、という感じ。そう、この牛肉、若いのだ。なんと衝撃の20ヶ月齢! 若すぎだぜ。 日本では、肉用種は25ヶ月以上は育てるものだ。それでも若干、若いと思う。20ヶ月はまだまだ、味も香りも乗っていない段階だ。
ドライエイジドビーフになっていたのを焼いてみたのだが、若さもあるだろう、あまりに水分が多く、焼きにくかった。ちょっと失敗したのでここには載せません。
食べてみたら、味わいはやはり薄いものの、これはこれでありだねという感じ。香りも味も薄いが、ドライエージングによって少しは増強されているので、美味しく食べることはできる。
正直な感想を伝えたら、「いまは20ヶ月齢が出てくることもあるんですが、次回ロットからは月齢をすくなくとも24ヶ月齢周辺まではもってこられます。最終的には30ヶ月齢近くまで持っていきたいですね」ということだった。
25ヶ月齢以上のアンガスの肉なら、ぜひ食べてみたい。マルヨシの熟成技術ならば、ヘタするとアメリカの業者が熟成したものより美味しいものとなる可能性もある。
ということで、アメリカ産牛肉に対してはなにかと否定的なわたしですが、こういう肉ならばウェルカムよ、ということでした。ただなあ、これほとんど穀物飼育だから、ほんとは粗飼料中心でそだてたUSも食べてみたいんですけどね。って、望むべくもないか。
以上、ちょっとマニアックな話しでした。