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佳いメーカーに残って欲しい、この先もずっと操業し続けて欲しいと願うなら、考えなければならないのは「事業の持続性」だ。持続性=サステナビリティという言葉がよく使われるが、日本では環境保護の文脈で登場することが多い。だが、EUなどにいくとサステナビリティはむしろ、製品やサービス自体、そしてその事業を存続させるためのもろもろに関して言われるのだ。
さて、前のエントリにも書いたが、神奈川県大和市に株式会社ニッコーという、主に冷凍食品を作る会社がある。通常品ではなく、生協や大地を守る会など、有機・無添加系の食品を製造する企業だ。僕はあまり冷凍食品のお世話にならないようにしているが、ニッコーの製品はとても美味しいと思うし、これなら常備してもいい、と思っている。
同社の大ヒット商品といえるのが、冒頭の写真に示す豆腐入りの鶏肉団子だ。ふわふわした食感で、余計な添加物、グルソーやたんぱく加水分解物を一切使わずに美味しい食品に仕上げている。
この製品は取り扱い団体によって名称が変わる。生協や大地を守る会、らでぃっしゅぼーやそれぞれで、その団体の生産者の作った素材を原料にして欲しい、とか、こちらの団体ではこれは使ってよし、こちらはダメというように少しずつ違いがあるからだ。
これが、実は中小規模の工場にとっては大変なことである。今回はニッコーを例にしているが、その他のメーカーでもよくきく話だ。というのは、工場のスペースには限りがあるから、違う製品を作る場合にはライン全体を組み替える必要がある。使用する機械や人の動線、オペレーション全体をそのたびに買えていかなければならない。シューマイとギョーザ、鶏肉団子にナス味噌炒めというように製品自体が変わっていけば、作業が変わるのは想像できるだろう。
この商品ごとに変わるというのはわかりやすいが、そこにもう一つ、同じような商品だが取引先の基準による違いが加わる。生協向けはこちらの調味料にこちらの鶏肉、大地を守る会向けにはこちらのNon-GMO原料、というように変えていく。これで複雑度が増す。似たような原料だが中身が違うものを切り替えていかなければならない。もし使用する原料をひとつでも間違えていたら、その製造単位はどこにも出荷することができないものとなってしまう。
もちろんコンタミ防止のためにいちいち機械を洗浄しなければならないので、ライン切り替えには時間がかかる。この時間は非生産的なのでコストにしかならない。
山崎社長と話しをしていると、これからは注文をとってくることよりも、断ることのほうが大事かも知れないという言葉が出てきた。工場に無理がかかり、社員の健康を損ねては一大事だということなのだ。また、調理パートのベテランさんと新人さんの意思疎通がうまくいくように心を砕いたりと、昭和の時代にはまったく問題として浮上してこなかった事柄が、大問題になってきつつあると感じた。
やはり重要になるのは「持続性」だな、と思った。僕は今まで「持続性を担保できる価格」を重要視してきたが、ことはもはやお金では解決しえないものになってきつつある。
――佳い食べ物を得ようとおもったらお金を払えばいい――
そんなに簡単なことではないような気がしてきた今日この頃なのである。
ちなみに、とある専門流通団体の人と話をしていて「そろそろ異なる団体間で調整をして、大きな連合としてのPB商品みたいな感じで注文をまとめて、メーカーさんが切り返せず3団体に向けた共通商品を作れるというような企画を考えているんです」という話になった。とてもいいことだと思う。要はそれがその辺の志のないスーパー・量販店に流れなければいいのだ。
さて、それはともかくニッコー。
以前、ここの取材記事をある媒体に書くために工場内に入れてもらったのだが、見事なまでに無添加系で、僕の意地悪な眼で食材置き場までみてインチキがないかを探したが、実にまっとうなものであった。と書くと「法律で使用が許された添加物を使うことの何が悪い。無添加のほうが安全性に不安がある」という人も多いが、それは好みの問題でしょう。無添加がよいという人もいるから、こういうメーカーに注文が集まるのだ。
ちなみにこの会社では、野菜の洗浄に次亜塩素酸水を使わない。
「えっ?」
と思ったのだが、通常の流水で行っている。もちろんそのために保健所からは厳しいチェックが入るのだが、それをクリアしているのだ。
「どうやってるんですか?」と山崎社長に問うと一言、「掃除を徹底してます」という返事が返ってきた。実にシンプルな答えだが、厳格な衛生基準をつくり、社内各部署の菌数などを計測するためのチームを作り、抜き打ち検査を行うようにした。そんな努力を積み重ねて、次亜塩を使用しなくてもOKと許可が出る製造ラインを保っているのである。
ひととおり工場見学を終えると、社内の企画開発の場で、商品をいただくこととなった。
豆腐肉団子だけではなく、ナゲットやハンバーグを食べる。
こうした加工肉製品を食べ過ぎると「うっ 気持ち悪い」となるのだが、まったくもってそんなことがない。スッキリ、いやな後味の残らない味わいだ。
同社がチャレンジしている「美味しいナポリタン」の試作品もいただいた。「美味しいナポリタンの店、教えて下さい」といわれたので、2つほど教えておいたが、反映されているかなあ。
こんなふうにひととおり視察を終えた後、山崎さんがふと口にしたのが「農場をぜひみていっていただきたいんですよ」ということだった。実はニッコーは、2011年より隣接する綾瀬市の耕作放棄地を借り受け、原材料用の野菜生産に乗り出したのだ。
工場から車で20分ほど走ると、都心から1時間半で来られる距離の地域にもかかわらず「いやこれは産地だわ」という呈の畑地が拡がっていた。夏の終わりの端境期に行ったので作物は限られていたが、モロヘイヤに冬どり用のニンジン、収穫後期のナス、そして大量のバジルが植えられていた。
「もちろん原材料として使用しています。キャベツなどかならず使用する野菜に関してはどんどん生産を伸ばしていきたいと思います。」
この農場は、新たに農業経験者を雇用して管理している。もちろん今後、面積を拡大していく意欲を持っているという。実際に、いま神奈川県内では耕作放棄地を借りて欲しいという依頼が殺到しているそうだ。この企業なら、口先だけの参入ではなく、ちゃんと持続的に生産をしていってくれるという期待があるのだろう。
ニッコーのような真面目な企業が、これから100年先まで続いていけるように。その持続性を担保できるのは、どういう社会なのか。もっと考えていきたいと思う。
ニッコーの製品を食べたいという方は、同社のWebサイトから購入ができるようなので、取り寄せてみて欲しい。
■ニッコー スマイルクック
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