このシューマイ、冷凍食品である。
拙著「激安食品の落とし穴」にも書いているように、多くの場合、シューマイやギョーザといった挽き肉を使うことがなんとなく想起される食品においては、安くするために大豆や小麦由来の植物性蛋白質が多量に使われる。それ自体は特に悪いものだというつもりはまったくないけれども、肉ではないので、風味が悪くなる。そこで、不自然なエキス類やアミノ酸、タンパク加水分解物などで味を添加することが必要になってしまうことが多い。
激安食品の落とし穴 | |
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このシューマイはちょっと違う。製造しているのは神奈川県にあるニッコーという会社だ。それこそこの会社は肉まんやシューマイを生協向けに製造するところから始まった。生協や大地を守る会、らでぃっしゅぼーやといった、素材に一般以上の厳しい基準をもつ団体からの要請に応じて、製品を供給してきたメーカーだ。
いまの社長は二代目の山崎さんなのだが(先代は会長に就任されてお元気)、二代目といって想起されるしょーもないボンボンではまったくない。それどころか、「うま味調味料?美味しくないから使いません。」と平然とした顔でおっしゃる胆力を持った、素晴らしい人である。
ニッコーの商品は通常のスーパーには並んでいないので、買おうと思ったらニッコー製品を扱っている生協組織(もちろん扱っている生協は一部だが)や大地を守る会、らでぃっしゅぼーやなどで買うしかない。大手冷凍食品メーカーの価格に比べれば高いと感じる価格帯だ。でもそんなのは当たり前。だって、中身が違うんだもの。
そして、なにより驚くのは「美味しい!」ということだ。僕はふだん、冷凍食品を買うことはほとんどない。その僕がこの会社と出会ったのは、数年前に大地を守る会の入会者に配付されるブックレットの記事を書いて欲しいと依頼され、取材をした時だ。
神奈川県の高座渋谷駅から少し離れたところにある社屋&工場につくと、笑顔の社員さんがすでに出迎えてくれていた。よくあることだけれども、この時の社員さんたちの顔の輝きが「新興宗教か!?」と思ってしまうくらいにぴっかぴかな笑顔だったのだ。
ぼくもこういう仕事をしているから、食品製造工場にはよく出入りをしている。自分たちが本当に胸を張れるものを作っているという誇りをもった会社だと、みなこういう顔をしている。そして、すこし後ろめたいという意識がある会社だと、こんな笑顔にはならないものなのだ。
そして、階段を上がってこのウェルカムボードの扉を開いて、迎えてくれた面々。
あー、工場のひとから事務系の方、営業系のみなさんまで出てきて下さったんですね、ありがとうございます!
と思っていたら、、、
この方が山崎社長さんでした(笑)製造してる方だと思いましたよ(スミマセン)。
で、さきごろこのニッコーの創立記念会に講演をして欲しいといわれて行ってきた。謝礼は少々でいいから冷凍食品を何回かに分けて送ってくれと頼んで、第一陣でやってきたのが冒頭のシューマイとギョーザだ。
この時いろいろ話したのだけれども、これから真面目で高品質なものをつくるメーカーは、どんどん減っていくんだろうな、と思ってしまった。というのは、このご時世、人材確保が本当に大変なのだ。そして、佳い製品を作るメーカーは零細な事業者が多いので、大手のような経営のしなやかさを持つことができない。だから、経営的にも黒字だし、取引先から続けて欲しいといわれているのに廃業すると言うケースが出始めているのだ。
実際、このニッコーは、専門流通団体と呼ばれている、農薬や化学肥料を使用しない農産物や、NonGMO原料のみを使用するというような基準を持つ組織からの注文が殺到している。というのも、昔はそうした組織は、野菜や卵、肉などの素材を中心に販売していて、加工食品はおまけていどだったのだ。
けれども、いまの世の中は完全に加工食品や半加工食品ばかりが売れる時代に突入してしまっている。だから、そうした商品のシェアが拡大している分けなのだが、その拡大分に、メーカーの規模が追いついていないのだ。
これは各所で聴く話で、別の冷凍食品流通事業者さんからも「やまけんさん、いいメーカーがあったら紹介して欲しい」といわれるのだが、この世界は本当に狭いので、どこももうキャパ一杯という状況なのである。
そして、人材不足と人件費の高騰、それに加えて人材レベルの低下が事態をより困難にしている。これからの日本は、ほんとうに買いたいものが買えないという事態が普通にやってくると思わざるを得ないのだ。
ともあれ、ニッコーという冷凍食品会社のことをすこし書いていきたいと思う。 つづく。