東洋経済オンラインで連載中の記事で、A5肉は必ずしも美味しいとは限らない、ということを書いて、牛肉業界の人達から色んな反響をいただいているところなのだけれども、もちろんA5で美味しい肉があるということもよーく理解しております。
個人的に忘れられないA5の肉を食べた経験は5回ほどある。が、今回それにもう一回が加わった!
築地市場からほどちいかく、日比谷線築地駅の、本願寺とは逆側(デニーズがあるところ)をでて近くの裏路地に、「えっこんなところに?」という古民家が建っている。実はここが、鉄板焼きの名店・築地鉄板焼 Kurosawaである。
9月1日から、いわて牛五ツ星フェアと銘打って、岩手県の黒毛和牛のA5番のものをいろんなレストランで扱っていただくフェアを実施する。その先陣を切っていただくのがこの店なのだ。
それで、岩手県の担当者さん達と一緒に挨拶にいったのだが、じつはこの店のスーシェフはこれまでうちが開催してきた牛肉関連のイベントにかなり参加してくれている人だったということに気づく。お盆前に信頼のおける業者さんを通じて、芝浦のセリで希望の牛を落としてもらったという。その枝肉は昔ながらの吊し熟成を施している。
「まだ寝かせ方が足りないかも知れませんが、ぜひいらしてください」
と、と畜後2週間ちょっとの段階で行っていただいたので、味を見に行ってきた。そしたらぶん殴られるような衝撃的な美味しさだったのだ!
すでに店内には「いわて牛五ツ星」のぼりを立ててくれている!
あの古民家の外観からは想像もつかないほどに店内はシック!心地よい空間です。
トウモロコシのムースと羊肉のスパイス焼きクスクス添え。美味しい、、、鉄板焼きだけではなく正統派フレンチの香り。
前菜として出てきたのが、なんとフォアグラの西京漬け!ガルニは賀茂ナス、熟した満願寺、アスパラなど。
腕を振るってくれるのは芳賀料理長だ。彼の素材を扱う手さばきの流麗さに驚く!
味噌床に漬かったフォアグラが鉄板に載った瞬間、甘く美味しそうな香りの粒子が、空間一杯に霧のように立ちこめる。
フォアグラにそれほど魅力を感じない方だが、これはすばらしく美味しい! 味噌という和のテイスト、発酵味でアクセントをつけてくれたからだ。ソースも味噌ソース。これは味噌が苦手という欧米人にも受けること間違いないだろう。
そうこうしてるまに、本日のお肉がやってまいりました。
えーちなみに、フェア関係者ということもあって、この店のブッチャーコースにプラスアルファしています。通常のコースではないので、内容は確認してください。一番手前は僕に配慮してくれたのか短角牛(笑)。真ん中がヒレ、右手前がシンシン、右奥がイチボ、左奥がリブ芯だ。どれも、よけいな脂をそぎ取り綺麗に掃除されている。そしてモモにもサシが抜けており、そのサシは小ザシで印象がよい。ちなみに、短角牛とヒレは別個体。リブ芯とモモ2部位が、今回のいわて牛五ツ星だ。
ちなみにいわて牛五ツ星というのは、岩手県内の主要6産地で生産される黒毛和種の、肉質等級が5のものをいう。この日食べさせてもらった個体は雫石町産のものだ。
前菜を調理するあたりから、鉄板の上に銅の皿を置いてじんわり室温に戻していた。それをいよいよ鉄板で焼き始める。
じつを言うと鉄板焼きで牛肉を食べて、心の底から「旨いっ!」と思ったことが非常に少ない。だから本音を言うと、この時点ではあまり期待をしていなかったのだ。
たんねんに、丹念に肉を焼いていく芳賀シェフ。
「ではまず、シンシンから食べていただきます」
おっと素晴らしい火入れ断面!
カットされてお皿へ、、、
一口いただいて、ビックリした!
あんなにモモ抜けしてサシが入ったシンシンだが、その脂は水のごとくサラッとしてくどさがまったくない。肉には黒毛特有のブドウのような濃厚な香りもある。
「はい、こちらがイチボです。」
この日一番の衝撃! このイチボが素晴らしかった!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
まさか黒毛のA5を食べてこの「おおおおお」が炸裂するとは思わなかった!
美味しい!
イチボは何もしなくても美味しい部位ではあるけれども、吊し熟成による熟成香がすでについている。しかも、赤身の香りがブワッと鼻に抜ける。これは和牛香と呼ばれる脂の香りではない、赤身の香りだ。素晴らしい!
ヒレ肉は別個体だということで、うん、これはたしかにさきほどのイチボのような感動はないが、それでもおいしい。
短角は岩泉のもので、短角らしい味わい。けれども今回はいわて牛五ツ星に完全に喰われちゃったね。
リブ芯。
モモは食べやすいとして、リブは流石にシツコイんじゃないの、と思ったが、まったくそんなことはない。素晴らしさ、継続。感動してしまった、、、精肉・熟成業者さんも素晴らしいね。ここでは名前を挙げませんが、吊し熟成の定評ある業者さんです。
ガーリックライスは、ご飯にニンニクを先に炒め、、、
醤油を鉄板に垂らして香ばしく「炒める」。
それをガーリックライスにまとわせる。
それとは別におこげを作って、、、
ガーリックライスおこげのせ。このバージョンで半分ほどいただいたら、、、
特製のスープを注いでお茶漬けに!
もうヤバイ美味しさです。完全にノックアウト。しかしあれだけ肉を食べたのに、まったく胃にもたれていない!あまりに脂質のよいA5肉だった。こんな旨い肉ならA5もお薦めしたい。
デザートは上の階で。
壁にはなんと、黒澤明監督ご自身の絵が飾られている。
そう、この店は黒澤監督のお身内がやってらっしゃる店なのだ。
いや、大感動。
まだこの個体が残っているかどうかはわからないが、鉄板焼Kurosawaの築地店、行ってみるといいと思う。いわて牛五ツ星、これなら心の底から推薦できるとホッとした!最近、こんなに旨いと思った肉も珍しい。芳賀シェフ、ありがとうございました!