毎年恒例になりつつある、茨城県のコンビニパン製造工場の主にして熱血の食探検家である鳥山さんの茨城ツアー。今回はキャビアである。全国的にチョウザメを養殖し、キャビアを獲ろうという試みはかなり行われている。宮崎で行われている宮崎キャビア1983が有名だが、僕がこれまで廻ってきた産地でいくつか、取り組み初めの頃に出会った。
しかし、多くの事業者が、途中であきらめて辞めてしまう。なぜかというと、、、チョウザメを飼育し始めてから産卵期になり、まんぞくいく収獲ができるまでに7年かかるからだ。しかも、チョウザメは雌雄(オスメス)がわかる状態になるまで4年間かかるという。つまり、ずっと餌を与え、水にエアーを入れてというコストがかかっているのに、約半分はオスだから卵を産まないということがわかるのが4年後なのだ。でも、わからないんだから仕方が無い、飼い続けるしかないのである。
そういうことで、多くの事業者が時の流れの中であきらめてしまう。
「いやいや、こっちはあきらめないよ!」
と鳥山さんが胸を張るのが、有限会社つくばチョウザメ産業である。
この中にチョウザメがいるのだが、暗いしチョウザメも水槽内の色と同化していてよくわからない。
でも目が慣れてくると、、、
おおおおおおおおおおおおおおおおっ
いるかも!
「こっちの水槽には、メスだということがわかって分離した個体ばかりが居ます」という方を覗くと、、、
でかいっ!!!!!!!!!!!!!
水の中の物体はレンズ効果で大きく見えるが、それをさっぴいても1メートル以上にはなっているだろう!
餌は、畜産のように幼少時と産卵に向かう時期で内容を変えている。必要な栄養が、生育ステージごとに違うのだ。
4年経って雌雄の判別ができるようになったあと、オスはフィッシュミートにされるべく、畜産でいえば肥育の段階に入る。それがこちらの水槽だ。
なんか、みてると頭を自ら出すチョウザメがいっぱい。
そういう習性なんですかね?
4本の髭を生やしたユーモラスな姿形、チョウザメといっても実はサメの仲間ではないので、怖くありません。
チョウザメ、持ってみる?というので、うちの嫁さんが代表してチョウザメちゃんを持たせていただく。
これがチョウザメちゃん! くにゃくにゃと動き回るけど、、、
あるじてんでピッ!ととまってくれた、いい子いい子。
筑波山からの伏流水が豊富なこの地は、内水面養殖に向いた場所と言える。
屋外でも飼育中。水と電気と餌があればチョウザメ養殖は可能だが、それでもリスクはある。例えば3.11の際、茨城では場所によって電気が長時間停まってしまったため、エアーを送り込むポンプを作動できず、弱ったチョウザメがぷかぷか浮いて死んでしまったという農家もいたそうだ。
一番手前にいらっしゃるのがプロジェクトを立ち上げた酒井さん。御年80(!)を超えておられるが、茨城県内にベーカリーを多店舗展開したのち、自分はさっさとこのチョウザメの養殖に関わろうとこちらに専念しておられる。
なんでこんなに時間もかかる、だいいちパンとまったく関係ないことをしようとされたのか。もちろん初期投資もドカンと必要だったはずだ。
「うーん もうね、お金を儲けることはどうでもいいんです。それよりね、、、この回りの筑波山をのぞむ里山の風景。あれはね、農家がいるから維持できてるんです。これから第一次産業がダメになってきたら、日本の風景は荒廃してしまうんですよ。だから、農家がくっていく産業をつくらなくちゃいけない」
それがチョウザメなのだという。たしかに、7年間は本当に大変だけれども、そこを抜けて、毎年キャビアがとれるようになり、またオスのフィッシュミートの肉も再生産可能な価格で販売することができたならば、事業として成り立つはずだ。
というのも、キャビアはメスのチョウザメの体重の1割程度、だいたい6kg前後の体重がふつうらしいので、600gとれる。そしてキャビアは、20g缶で安くとも8000円はする。ちなみにさきの宮崎キャビアは1万円だ。ということは、20g缶で換算すれば30缶×8000円=24万円になる。
7年かけて育てて24万円というのが高いのか安いのかは、これをどれだけランニングさせていくかによるだろう。たしかに、短期的なリターンを求められる企業には手を出しづらいビジネスだといえる。
「でもね、酒井さんは本気で茨城の自然と生産者のことを考えて、この事業を立ち上げたんですよ。俺はなにがあっても協力して、成功させたいんだ!」
とまた熱血の鳥山さん。
「さて、それじゃ僕の家でちょっと食べていただこうかな」 とありがたいお言葉。
酒井さんが取り出したのは、キャビア!
、、、、、、、、、、ではありません。残念ながら、まだキャビアは試験的にとっている状況で、量がない。先日つくばで行われたG7科学技術大臣会合で必要ということで、使われたらしい。宮崎キャビアもサミットで使用されたというが、世界的に認められるこの食材が国産であるということは、とても意味があることなのだ。
ではなにを食べるのか?こいつです。
「つくばスタージョン・フィッシュミート」! 識らなかったけど、「スタージョン」ってチョウザメのことらしい。昔、SF作家にシオドア・スタージョンという人が居たけど、あの人はチョウザメっていう名字だったのか、、、(笑)
そう、これこそオスのチョウザメの肉を缶詰にしたものだ。
開けると、トロリとした汁に満たされた綺麗な肉が、、、
そう、チョウザメはいわゆるコラーゲンがとても多く含まれていて、自然に煮こごりができるのだそうだ。
その身肉は実にしっとりと柔らか。ぼくは宮崎でチョウザメの刺身や加熱したものもたべているが、あれは実にうまいものだった。だから、缶詰にしたらそれは美味しいに決まっている。
この製品、茨城でとれる柑橘粉末で香りをつけているそうで、華やかな香りも楽しめる。美味しいです。もとから美味しい素材だから、アミノ酸は使わなくていいと思うけどね。
食べさせていただいたのはハネ品だそうで、ラベルが付いていない。鳥山さんが手作業でラベルをつけます。
これが完成品! 価格は堂々の1000円! でもいいんじゃないかと思います。
TXつくば駅の売店で販売中で、「足りない状況なんです」というから、たいしたものだ!
つくばで仕事をして、秋葉原まで帰るという人が、この缶詰と酒を買い、チョウザメを肴にして酒を呑むというのが限り無く魅力的に思える!だから、TXはもっとボックスシートを増やした方がいいな。
酒井さん、どうもありがとうございました。
「正直言って、この事業がうまくいったときに、わたしが生きてるかどうかわからない。けど、成功させて、後に続く若い人達がいればそれでいいんです。」
という酒井さん、誇り高き武士のような人だった。この事業がうまくいくことを心から祈っています。