「完本 檀流クッキング」文豪・檀一雄の料理指南を収録、その内容をご子息の壇太郎・晴子夫妻が完全再現したレシピと写真付き!これは料理を愛する男その他にとって完全保存版といえる名著だ!
檀流クッキングといえば、昭和の文豪・檀一雄氏による、豪快にして繊細な料理指南である。このほど、様々な媒体に書かれた文章を集めた「完本」が出た。編集に関わった、食生活ジャーナリスト仲間の赤塚さんから献本いただいたのだが、あまりに充実した内容で、読み込むのに時間がかかってしまい、紹介するのが遅くなってしまった。
結論として言っておくと、素晴らしい一冊であり、檀流クッキングを愛する人には必須、そうでない方でも各国料理文化の好きな方なら楽しめ、そして料理に明るくないが興味あるという男性にはぜひとも読んで欲しい本である。
檀流クッキングに僕が出会ったのは、たしか高校時代だ。といっても、文豪・檀一雄さんの著作ではない。そのご子息であり、いまでもダンチュウ誌にたびたび登場しておられる檀太郎さんがレシピとエッセイを書き下ろされた文庫本を買ったのだ(※なんて本か思い出した!本文末尾に情報追加しました)。僕は小学生の頃から納戸にしまってあった10年以上分の「きょうの料理」テキストを読んで自分でも料理を楽しむ子どもだったのだが、太郎さんの檀流クッキング本には未知の、そして驚くべき旨そうなものがどかどかと載っていた。
例えば中華食材のハージャン(蝦醤)のことが、オキアミを発酵させたペーストで、こいつを豚バラ肉と一緒に炒めたのがめっぽう旨いと書かれていた一文を読んで、いったいどんな味なんだろうと来る日も来る日も気になってしまい、とうとう池袋西武デパートの地下に当時あった輸入食材コーナー(その頃はいまみたいにカルディみたいな輸入食材店はなかったのですよ)でそれらしきものを見つけ、小躍りして小遣いで買い求めて帰ったものだ。
ちなみにそのハージャンだが、さっそく高校のダチが実家に泊りに来た時に、豚バラ肉と一緒に中華鍋でジャジャッと炒めたところ、魚醤を濃縮したような凄まじい香り、いや匂いが家中に蔓延し、当時まだエスニック料理ブームも来ていなかった頃の我が家ではそのエビ臭はまったく受け入れられず、すげー怒られたりしたのはいい思い出だ。いまなら「すげー旨い!」となるところだが、味覚にはリテラシーが必要なんだよね。
それに、たしかその本の中に書いてあったと思うけど、檀太郎さんはなんと当時から自分で魚醤を作っておられた。それも魚醤に定番のイワシではなく、メヒカリを使うと美味しいんだよと書いてあって、度肝を抜かれたことを思い出す。この人はすごい!という尊敬の念はいまも持ち続けている。
その檀流クッキングはじつをいえば壇太郎さんのお父さんである、文豪・檀一雄さんが開祖なのである。この完本には、その原文の主要部分とレシピがすべて掲載されている。
※本文部分が読めないように画像加工しています。
しかも!
そのレシピ編には、太郎さんと奥様の晴子さんによる、よだれの出そうな料理写真がついている。
ファンにとっては、このパートだけでも買う価値があると断言する! 檀流クッキングというのは、じつはレシピがあるようでない。原文には、料理を構成する材料とプロセス、コツに関してはもちろん書かれているものの、「塩をふたつまみほど」とか「味噌を適量」というように、そのさじ加減は読者に委ねられているのだ。
そして檀流クッキングファンはその完成形のビジュアルをみたいと思うものだけれども、それが体系的に示されたものはなかなかなかったように思う。それが、直系の後継者の手によって示されているというのは、すさまじい資料的価値のある本だと断言する。
しかもその料理写真の旨そうなこと、、、
それにしても、改めて檀一雄氏の原文を読んでみると、こんなに楽しい料理指南書だったのかと感動してしまう。なにせおもしろいのは、各国料理が多いことだ。それも長期にたいざいしたポルトガルはもちろんロシア、インドに中東など、いま読んでも「こんな料理があるんだ!」という新鮮な驚きがある。
また、文豪の書く料理のなんと旨そうで、そそる表現であること! これはいやしくも文章を書く仕事をするものの端くれとして、勉強になる宝石が散りばめられた本である。
またこれはカラーページと白黒ページを混在させるのが大変だというブックデザイン上の制約でもあろうが、文章ページとレシピ&写真ページが分離しているのが、実にいい結果を生んでいる。
というのは、、、檀一雄氏の文章は、まずビジュアルなしで読んだ方が楽しいのだ。どんな味、香りなんだろうなぁ、、、と愉しく想像を働かせ、その後にレシピページを見て、その料理完成形の端正な佇まいに驚きが、シズルあふれる旨そうな姿に心躍らせる。それが愉しくて仕方がない。つまりこの本は、いま主流の「眼で読む」料理本ではなく、真に文章から楽しみ、その後に眼も喜ばせてくれる、二段構えの贅沢本なのだ。
2900円と買うのにためらう向きもあるかもしれないが、この厚さと内容でこの値段は実にお得としかいいようがない。絶対のおすすめである。
赤塚さん、献本ありがとう。それにしても、一度でいいから、檀太郎さんご本人の手料理を味わってみたいものである。サイン会兼試食会とかやってくれないかな、集英社さん。
追伸:
最初の方に書いた、僕が高校時代に買った檀太郎さんの文庫本、これだったと思う。
なんとプレミアム価格がついているようだ。実家にまだあるだろうか、、、今度帰ったら確認してみよう!