肉業界の中でドライエージングに関わる人達はまだごく一部。それぞれが、言ってみれば勝手気ままにやっている状況だ。技法についてはさまざまなノウハウがあるので、情報交換するルートを持っている人達はそういったつながりでするけれども、ない人はいろんな伝手を頼って紹介したりされたりということになる。
悪質なところは、評判の高いドライエイジドビーフ業者から肉を買って、その中から香りやうま味を引き出す物質を科学的手法で抽出し、自分のものにしたりしている。そして失敗しているのに、そうと気づかず「これがドライエージング」とうそぶいている輩も多い。
そんな中で、おそらく日本でNY式のドライエージングを初めて成功させたのが「さの萬」の佐野社長なのだが、NY式とはまた違うアプローチで、いわば日本の黒毛和牛に合った手法での熟成を成功させたニュージェネレーションといえば麻布「旬熟成」の跡部美樹雄さんだ。
この二人、まだ会ったことがないというのにビックリ。実は日本ドライエージングビーフ普及協会の会合の時、ぼくが「旬熟成、とてもいいです」と話したところ、佐野さんが「じゃあいまから行ってくる!」と数人引き連れて足を運んだのだ(ちなみにその時すでにたらふくドライエイジドビーフを食べていたんだけど!)。けれどもそこは人気店。いきなりいっても満席で入れなかったんだということ。
跡部さんから「ぜひお会いしてみたい!」と言われていたので、お引き合わせをしたのでありました。
場所は旬熟成にて。
「試食会形式で、うちの肉を食べていただきたいと思ってます!」
と言ってくれた跡部さん。
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旬熟成の二階にて待つ我々の前に、肉料理が並ぶ。
黒毛和牛の生ハムとウチモモ。とても美味しいです。
熟成肉のタルタル。ちゃんと危険の無いよう火入れがされているので安心。
これもまたとっても美味しい!佐野さんも「いいですね!」とおっしゃられていた。
熟成豚のベーコン。実は豚肉も熟成が効くので、牛のドライエージングをしているところは豚も手がけていることが多い。
そして旬熟成の熟成肉盛り合わせ!黒毛和牛のサーロイン、外モモ、熟成豚。
旬熟成でメインに使っているのは黒毛和牛で、A4あたりまでのを平気で使う。「平気で」とわざわざ書いたのは、通常は黒毛の番手の高いものはあまりドライエージングで良い結果を生まないからだ。
実は旬熟成のやっている熟成方式はNY式というよりは、日本で昔から行われていた枝枯らしの手法に近い。そこに、微生物などの知見を付加して、独自の熟成をしている。それが、日本の黒毛和牛に合うものなのだといえるだろう。
ここの熟成方式は、黒毛和牛のくどい味の脂が、丸みを帯びた柔らかくまろやかな味わいに変化させる。結果、とても美味しい。そういうものなのである。
「ホルスタインの長期熟成もやってみたので、食べて下さい!」
ともってきてくれたのがこれだ。
「うん、いいですね、美味しい!」と呟く佐野さん。あまたの「熟成肉」を食べてきているので、この方のいい・悪いはハッキリしている。
ちなみに跡部方式の熟成は水分活性値をグッと下げることはしないので、旬熟成方式のホルスとさの萬スタイルのホルスでは、結果が違う。どう違うかは、ぜひ食べ比べてみて下さい。麻布の旬熟成で食べたあと、少し歩いて西麻布のカルネヤサノマンズにいけばはしごで食べ比べできます(笑)
食べ終わって、二人の会話。熟成をいちから手がけているもの同士の交歓だ。
「あれはどうしてるんですか?え、そういうふうにやってるんですね!」
「あそこの肉はこの時期は下がるんで、多めに買って置いた方がいいですよ」
など、二人の間で秘密情報が飛び交っていた。
もちろん熟成庫もみせていただく。
ん、この冷蔵庫はいいですね!と佐野さん。
この二人を引き合わせるという重責、なんとか果たしました。いえーい!
みなさん、熟成肉は品質の悪いもの食べるとあぶないので、信頼できるところで食べましょうね!