OLYMPUS E-M5 MarkⅡ 7-14mmf2.8 14mm f4.5 低照度での手持ち撮影
いま飲食店で「熟成肉」とか「ドライエージング」と書いている店で、じぶんのところで熟成をしているというケースはおそらく1/10以下だろう。正直言って危なっかしいし、信頼できるところから仕入れる方が結果的に安くつくからだ。
ではどこから仕入れるか?ということがとても重要になる。ここから先は一般には一切知られないところだが、飲食店にむけて卸をする業者が「ドライエージングあるよ」と提案する場合も、自社で熟成しているケースはそれほどあるわけではなく、おおもととなっている熟成業者は首都圏ではせいぜい10~15社程度に収斂されてきていると思う。
その中でも、じつは「あそこは、自社って言いながら、実はどこそこに委託してるんですよ」というケースもあったりして、これがまた複雑。一歩業界内に入ると、あんがい錯綜しているのである。
その中で、首都圏をベースに大きな規模でドライエージングに取り組んでいるのが小川畜産興業。どうどうたる大手である小川畜産グループの会社である。ここのところ元気の良い中堅スーパーの精肉コーナーに並ぶドライエイジドビーフ、大手百貨店の中元商戦に投入されたドライエイジドビーフ、それらもそうなのである。
ちなみに「熟成千刻牛」(せんこくぎゅう)というのが小川畜産のDABブランド。入庫してから1000時間以上ねかせるというところからついた名前だ。都内の一部のスーパー「いなげや」、またはイトーヨーカドーの大宮店で小売りしているのは小川畜産のDABである。また、今日きいたのだが、四谷にある「ブロックス」という店では扱っているらしい。僕は行ったことがないので、火入れが上手か、美味しいかは未知数ですが。
僕は小川畜産の熟成技師のトップである高木さんといっしょにニューヨーク視察に行って親しくさせていただいたこともあって熟成庫には入らせていただいたことがあるが、実にコンディションのよい環境だった。そして、実に大きな規模で、入手しうる幅広い肉をエージングしている。
もちろん、日本ドライエージング普及協会の認定取得企業である。
今回はそこに、愛媛県で牛を山に放牧している牧場の牛を熟成してみたいという生産者のコーディネートとしておじゃました。
こーんな芝桜咲き誇る環境のなかで、いっさい配合飼料を給餌せずに牛を放している。その肉をDABにしてみたいというのだ。だれもやったことがないようなものなので、ちょっと興奮する。
しかも今回実験的に投入する牛が、手違いで未経産になってしまった処女牛の34ヶ月齢。写真で見る限り生体重は600kg以下でないの?というくらいに細い。でも、毛艶をみるかぎり体調は良さそう。僕も高木さんも、高木さんといっしょに熟成をてがける水野さんも一様に
「もうすこし太らせようよ~もったいないよ~」
と言ってしまう。けれどもこの山本牧場の生産者は頑として
「いえ、自分達が作れない餌はやらない、そう決めています。この牧場内でできたもので完結したいんです」
という。その意気や良し! 、、、でも牛、太らせたいなぁ、、、と複雑な思いがする。まあ実験だね!
と畜後の搬入などの手順を決めた後、いよいよ熟成庫の見学。といったって、普通は入らせてもらえるものではないよ。山本君、よかったねぇ。
大きな冷蔵倉庫に入った瞬間に、ナッツのような甘い香りが充ち満ちる。ああ、良い状態だ!
国産のホルスタイン、黒毛和牛経産、US、オージーなどさまざまな肉がこの熟成庫の中に入っている。
圧巻の物量である。物量が多いと、庫内環境を安定させるのに時間もかかるけれども、いったんうまく回り始めるとちょっとやそっとでヘンな方に走ることもない、ということかもしれない。いやもちろん日々の管理がちゃんとしてるからだろうけれども。
「やまけんさん、最近は豚も取り組んでるんですよ!」
と高木さんがみせてくれた。
豚肉のDABは実にわかりやすい。2週間~3週間程度で、脂の融点が驚くほどに下がり、そしてシルクのようなやわらかな肉になる。ただしビーフに生じるあのナッティーな香りはあまりしない。肉の中の酵素の種類の問題だろうか。
さて、一巡してトリミングしているところをみせていただく。
骨付きロースから脱骨して、外側の菌がついている部分をはがす(トリミング)するこの手順が実はとても重要である。
というのは、正しくニューヨーク式のドライエイジングを施した場合、肉の表面には微生物がつくわけだが、それを取り除いた内部の肉の一般生菌数を検査すると、菌数が通常よりも大きく下がっているものなのだ。これにはちゃんとした理由があるのだが、それはまたこんど。
で、せっかく肉の内部は菌数が少ないのに、外側の菌がついた包丁やまな板ですべて作業していたら、内部の肉についてしまうので、意味がない。
そこで、まな板や包丁の使い方に工夫が要る。そこはノウハウなので書けないが、しっかりとその手順が職人さんたちにいきわたっていた。
ホルスタインのエイジドビーフのできあがりである。
「本当に不思議なんですけどね、同じ日に入庫した、同じような個体なのに、こうやって表面の状況が全然違うんですよね」
おお、ほんとうだ。上から三枚のサーロイン個体があるが、ぜんぶカビの付き方が違う。面白いものである。
水野さんがお土産にもたせてくれた、熟成肉商品!
こちらが内モモのローストビーフ!
それにハンバーグと、もったいない熟成肉ソーセージ!売るとしたら一本で1200円だな。
それと、豚肉の冷凍をいただきました。
この辺は味見して再度レポートしましょう。
こんな感じで山本牧場の肥育してない牛(笑)をドライエージングにかける算段をしたのでありました。高木さん、水野さん、ご対応ありがとうございました!
山本君、がんばってねーん。
さて、明日はまたドライエージング界の大物達と、いろいろ動いてきます。いま、業界は大いなる激動期にはいりました。