識らない人は全く知らないであろうが、すこしでも日本の有機農業に関する歴史をかじったひとなら出会っている名前。それが藤本敏夫さんだ。
藤本さんは学生運動のトップに立つひとだった。獄中で歌手の加藤登紀子さんと結婚。出所後、大地を守る会を立ち上げ、初代会長となる。その後、大地を守る会を辞して鴨川に自然王国と名付けた拠点を立ち上げ、みずから有機農業を実践しつつ、さまざまな運動の源流となる活動を断続的に行っていた。
その一つが「青果物流通研究会」の立ち上げだ。略称GLS(グルスと読む)というこの会は、有機農業は生産者だけではなく、農産物の流通システム全体で変えていかなければならないという思いのもとに立ち上げた組織だ。だから会員は全国の仲卸や卸、生産者団体という、流通に携わるプロである。実はいま、僕がここの事務局をしている。
しかし、僕やGLSの若手会員は、藤本さんを識らない。僕はかろうじて藤本さんが亡くなる前、そのお話ししている姿を見たことがあるけれども、それいじょうの深いところまでは識らない。
そこでGLSで、彼が晩節を過ごした鴨川自然王国で、藤本さんの足跡を勉強しようということになったのである。
東京からバスをチャーターして2時間強、最寄り駅からだと1時間以上タクシーでかかるロケーションは、その名の通り自然王国である。
近くには大山千枚田という、日本では珍しく水路をもたず天水(雨のことね)のみに頼った水田がある。
藤本さんのことを話して下さいとお願いすると快諾してくださった、藤本さんの妻であり最大の協力者である加藤登紀子さん。そして、「インサイダー」主宰者であるジャーナリストの高野孟さん。高野さんはこの自然王国のすぐ近くに居を構えている。
この素敵に寺子屋的な空間で、藤本さんの足跡を学ぶ会を開催したのである。
もうひとりのゲストが、京大の助教であり僕の大学院時代からのダチである大石。
このブログでは、賀茂ナスやすぐきのエントリでお世話になっている田鶴さんを紹介してくれている存在として、何度も出てきている。
なんと大石は日本の農業界の思想をリードしてきた人達を研究していて、藤本さんもその一人なのである。すでにこの自然王国に数回足を運び、多くの人にインタビューをしている。
彼は藤本敏夫さんの年表を作っている。もし昔のことをよく識っていて、協力してくれる人がいればぜひ連絡してあげて欲しい。
夜はもちろん、宴会。
登紀子さんを囲んで、遅くまで話が盛り上がったのでした。
日本の農業界には歴史の流れがある。その流れを「そんなの昔の話だよ」と切って捨てることは簡単だ。しかしちゃんと理解したうえで次に進むことで、肝心かなめの「人」との関係がつながることがある。
結局、人と人との関係ですからね。今回、僕自身がとても勉強になりました。おときさん、高野さん、大石、そして自然王国のみなさん、ありがとうございました!