北大の研究に来ている。北大農学部・農学院には興味深い研究をしている人がけっこういるのだが、そのなかで突出しているのが特任助教の三谷朋弘さんだ。
彼の専門は酪農なのだが、僕が前から牛乳に関して持っていた疑問にフルに応えてくれるような研究をしている。例えば、「牛乳は餌と飼養管理によって味が変わる」というのは当たり前のことなんだけども、何人もの酪農家の生乳が混ざってしまい、超高温殺菌されてしまうことで個性のない牛乳になってしまうので、そんなことを言っても意味がないとされてしまう。
しかし、牛乳がミネラルウォーターより安くても売れなくなった現在、牛乳の価値を再定義するとき、その「美味しさ」というテーマは一番のキーになるものだと思う。
三谷さんは、牧草などの粗飼料を中心に給餌している酪農家と、穀物飼料中心の酪農家、またその中間など、さまざまな条件分けをしながら生乳の味を調査している。
「やっぱりね、草を食べた牛の乳が美味しいんですよ!それに、穀物与えるよりはるかにコストが安くなりますし、その方が牛の健康にもいいですからね。これからの日本の酪農は、草を与えて乳を搾るということをもっと考えなければいけないと思うんです。」
いやもう100%賛成!
その三谷さんがいるのは札幌の北大キャンパス。じつはこの広大な面積を誇る学内で、その最先端(?)の研究がなされているということで、見学させていただいたのだ。
航空写真で撮ったキャンパス。建物が建っていないところは農場だ。そのうちの20ヘクタール程度が、畜産学科のための粗飼料生産や放牧のためのスペースである。
ここが、牛の搾乳施設である!
中に入ると、20頭の搾乳牛がのんびりとデントコーンサイレージをハムハムと食べている。
彼らが食べているのは、学内で生産されたデントコーンのサイレージ(トウモロコシの茎や葉を細かく粉砕して乳酸発酵させたもの。)だ。
つまんで食べてみたけれども、実によい味。塩のない糠漬けのあじわいである。
ここで搾乳された生乳はバルククーラーで冷却され、ちゃんと乳業会社に出荷されている。でも、量が少ないので他の酪農家さんの生乳と混ぜて製品になるので、北大牛乳の味にはならない。これが超残念!
「以前は牛乳瓶に充填する設備もあったらしいんですが、売却しちゃったんですよね。それに、対外的に販売するとなると、責任をどこがとるかとかそういう問題でなかなか許可も下りないんですよ」
というのだが、これは残念だね!いま大学ブランドって素晴らしく受け入れられる世の中なのに。「北大牛乳」って呑みたくなるでしょ!
外に出ると、ここが札幌駅から徒歩8分で着く距離にあるキャンパスとは思えない光景が拡がる!
これこれ、これなんですよみせたかった風景は!
北大の敷地を出るといきなり都市部。この背景とのギャップがすごいでしょう!?
楽園ですよ、いや酪園というべきか!?
うれしいのは、粗飼料しか食べさせていない牛たちが、実にいい体つきをしていること。
「今年は草の状態がめっちゃイイんですよ!だから牛たちもいい身体してます。もちろん牛乳も旨いっすよ!」
とのことだが、もともと草食動物の牛だけに、穀物をあまり食べさせないでいると本当に調子が良さそうだ。
都府県では草地が足りないので仕方が無いが、北海道では草資源が多いのだから、思い切った差別化のためにも牧草牛乳という方向に舵を切ってもいいんじゃないかと思ってしまう。
OLYMPUS E-M1 ZDマクロ50mmf2.0
で、、、
牛乳だ!
他機関からの視察受け入れのため、低温殺菌設備があるそうで、USDA認定の低温殺菌方式を採用しているという。
ミルカーをあけてみると、クリームが分離しつつある。よく見るとおわかりだろうが、草を食べているので脂肪分が黄色い!これを看護とカシャカシャふると、、、
こんな感じで混ざってくれる。
さあ、その味は、、、
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
旨い!
今年のんだ牛乳の中でぶっちぎりに一番美味しい!
いやーーーーーびっくりしましたね。春のそよ風のように爽やかな飲み口、自然な、しかしはっきりと感じる甘さ、そして心地よい香り。
「草の香りがします!」
と同行の萌ちゃんがいうが、本当に素晴らしい草の香りだ。日本では草の香りがする肉や牛乳を「臭い」という輩がいるが、それは単にリッチな草を与えた牛の肉や牛乳を口にしたことがないだけだろう。
良い状態の草を与えた畜産物は素晴らしく美味しい。それを識らずにけなす人が多いのが、実に悲しいことである。カロリーの高い穀物を与えれば、それはもうリッチな味の畜産物になる。けれども、それは本来的な味わいとは違う、工業的な生産物である。そういうものがあってもいいけれども、もともと動物用に穀物を栽培する面積の余裕がない日本で穀物中心になるのは少しおかしい。
もっと草、粗飼料の可能性を世間が理解しなければならないと思う。いや、理解する必要はあまりなくて、口にすればわかるはずだ。「こっちのほうが快くて美味しい!」と。
牛が草を食べて出してくれたお乳って本当に美味しい。その魅力を証明する研究に、三谷さんには邁進していただきたい。
三谷先生、ありがとうございました!