「やまけんちゃん、魚はうちで食うからいいだろ、肉食べに行こう。旨い牛タン屋があるんだよ」と、札幌に行くときには必ず足を運ぶ海鮮酒家「またつ」の親父と女将が誘ってくれたのがここ。札幌の隣の「桑園」駅からすぐのところだというが、店構えは本当に路地にぽつんという感じで、仰々しさも何もない。L字型のカウンターで10人も入れば満席だ。
ところがここの牛タンが、まぎれもなくあの、首都圏で牛タン好きなら識ってるでしょう、あそこの熟成牛タンそのものなのだ!
店名を書けばすぐにわかる人はわかるだろう。この店、「札幌たん右衛門」というのである。たん右衛門といえば横浜の名店である。六本木にある「たんや又兵衛」も同じような業態で、冷蔵ケースの中に皮付きのタンをズラリと吊して熟成をかけ、それを削って串に刺して焼いてくれるものだ。どちらも高い店で、ちょっと呑んでちょっと食べて「うおっ」という価格になるので有名だが、そのあまりの旨さにみな文句が言えないという店だ。
よーく考えてみたら、ドライエージングビーフのブームが来るずーっと前から、彼らはやってたんだよなぁ、、、と思ってしまった。頭が下がります。
この方が横浜で修行を積んで札幌で独立した大将。 「あの店」と同じようにキャベツが参ります。
コブクロのお通しも美味しい。
まずは、網脂のような薄さのアスパラ豚肉巻きと、タン筋とタマネギの串。
いや、もうここから美味しい。大産地である地元北海道のアスパラのポテンシャルが高いからということもあるだろうけれども、とにかく何か空気が違う。タン筋も、東京では和牛または国産牛のタンになるが、この店はUSのタンだそうだ。僕はUS好きではないのだけれども、こういうところではそれはいい。とにかく良い処理をしていて、美味しい。ここの牛タン串、マジで旨いんじゃないのか、と期待が持てる。
小さいながらも、牛タンがビッシリ詰まった熟成冷蔵庫。
出ましたこれがこの店の厚切り牛タンだ! 考えてみれば牛タンは、熟成に超絶に向いている食材だ。何も処理していない牛タンをみたことある人ならわかるだろうけど、皮に巻かれていて、最終的にはそれを剥くことになる。ドライエージングすると周りの部分は食べられなくなるが、牛タンは最初から皮を剥くものだから、歩留まりは下がらないのである!
で、この儀式だ。ちょっと真ん中がすり減ってくぼみができているようなまな板に塩がなすってある。そこに牛タンをグッとおしつけて塩を均等にのせていくのだ。
これをじっくり焼き上げて、、、
熟成牛タンの焼き上がりだ!
この光沢感、そして食べる前からじゅくじゅくと香る熟成香。
かぶりつくと、、、あの熟成肉ならではの、アメリカ人の言うところの「ビーフィーBeefy」な味わいが、識るとともに口の中にほとばしる!
ああ、牛タンは本当に熟成に向いた部位なのだ、、、またたくまに食べてしまった。
しかしこの店、牛タンだけが旨いわけではなく、ちゃーんとその脇も固めている。
「これこれ、これが旨いんだよ、豚。」
とマスターが頼んでくれたのが豚リブ。
これがまたいい火入れ。それほど厚みがないのにジュバッと旨汁が弾ける。
なーんと、この豚肉、カナダ産だそうだ。その辺、大将はみんなかる~く教えてくれる。えっでもカナダかよマジで?と驚く美味しさであった。
もう、旨いものは何でもくっちゃうもんね、ということでテールの煮付け。
いやこれもまた、やばいですね、、、ほろっほろで、、、
合鴨つくねと野菜焼き、合鴨がまた味噌ベースの味付けか、白飯が食いたくなる。
あー旨い、けどもう一本牛タン食べたい。
「いっちゃえば!?」
うん、いっちゃうよ!
ということでもう一本単品だ。ちなみに横浜や六本木の名店だと牛タン串の一本が非常にお高いのだが(それだけの価値はあるのだが)、ここは1750円だ。「えっ一本でそれは高い!」と言う人は、価値を分かってない人だから来ちゃダメ。いまUSビーフでも価格は高止まりしているし、第一牛タンは最初から入りにくい。しかも数週間熟成させるから回転は悪く、皮を削ぐので歩留まりも悪い。これが正価なのである。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
旨い! この世にそれ以外の表現はない!
そして〆は、、、テール雑炊!
もう言うことなしである。
ちなみにこの店、どう考えても安い。僕はオプションでテール焼いたのと牛タンをもう一本食べたけれども、下記メニューの上段真ん中の「牛タンコース」が3,300円である。都内じゃちょっと考えられません。しかも税込み価格ですからね。
「またつ」のマスターがこの店に最初に訪れたのは、他の店を目当てにしていて、たまたま休業だったので「ちぇっじゃあその辺で違うもんたべるか」という感じで、ここに来たらしい。そうしたらあまりに旨かったのでぶったまげ、常連になってしまったという。
イヤほんとに、何も知らなかったらのれんくぐらないよ!という感じの佇まい。けれどもこれは絶対的にお薦めできるお店である。
まよわず牛タンコースで行け! そして臆せず牛タンおかわりだ!
マスター、佳い店おしえてくれてありがとうございました!
札幌たん右衛門
〒060-0012 北海道札幌市中央区北12条西16丁目1−33
011-747-0027