香川県の有力精肉業者さんであるカワイさんより、香川県の銘柄豚である讃岐夢豚(ゆめぶた)が届いた。夢豚は、バークシャー(いわゆる黒豚)の血が50%入った、肉質・脂質ともに優秀な豚なのだけれども、今回届いたのはこんな2種類。
通常の夢豚と、もうひとつはなんと「オリーブ夢豚」!
そう、オリーブオイルの粕を給餌した豚なのである。前にも書いたと思うが、香川県では小豆島を中心に、100年以上に渡るオリーブ栽培をしている。。
採れたオリーブをこんなふうにグジュグジュにペースト状にしたのを絞って油を採る。
この粕にはまだ2割程度のオイルが残っているのだそうだ。この粕は普通ならそのまま捨てたり堆肥にするしかなかったようなのだが、これを牛の餌にしよう!と思い立った人がいて、その人の努力で「オリーブ牛」が誕生した。いま、大人気である。
そのオリーブ牛があまりにショッキングに普通の牛肉と違うので、これはもしかして他の畜種でも応用できるのではないか?オリーブ粕はまだまだあるぞい!ということで、豚にも食べさせようということになったわけだ。
これが、オリーブ搾油粕を加熱乾燥したもの。オイル粕そのままだと、激烈に渋くて食べられない。加熱することでメイラード反応になるのか、甘くなって渋みも気にならなくなるのだ。
さて、これを牛ではなくて豚に食べさせるという実験を続けていたらしくて、「ぜひやまけんさんにも食べて欲しいんです」ということで、前回の小豆島で食べた。
うーーーーーーーーん、これはどう評価していいものか! と悩んだ。というのは、美味しく料理されているのでわかりにくい~!というかんじだったのだ。
で、とりあえず評価できるように、通常の夢豚とオリーブ与えたの2種を送って下さいとお願いしておいたのである。そうしたらきましたご覧のように立派な肩ロース。
どちらがオリーブ粕を与えたものかわかりますか?観たらわかるよねきっと。上は通常の夢豚、下がオリーブ夢豚。油脂飼料を与えると、やはりカロリーも高いので、肉にサシが入るのです。カブリの部分やリブの芯に細かなサシが入っているのがわかると思う。
これに塩をして(こういう際に美味しすぎるゲランドの塩とかはダメ)、二枚のフライパンで同じ火加減で焼いていきます。めんどくさがって同じフライパンで焼くひとがいるけど、それじゃあ脂が干渉するので食べ比べになりませんので、気をつけて。
一回目の焼き、これで5分ほど休めて余熱で火を入れます。これを3回繰り返し(結構分厚かったのよ)。
焼き上がりました。この段階で、肉に明らかな違いが。上が通常夢豚、下がオリーブ夢豚なんだけど、トングで持って観ると、オリーブのほうがパンパンに膨らんでいる。内部の水分が膨張しているのだ。
カットしてみました。こちら↓がオリーブ夢豚。
こちらは通常の夢豚。
なんとなく、見た目も違いますね。
さっき、オリーブの方はパンパンに膨らんでるという書き方をしたが、切り口をみるとあきらかに水分がひたひたと含まれているのがわかる。
さて食べてみてなるほど!と手を打つ。あきらかにこの二つの豚の肉はべつものです。どうちがうか。オリーブ粕を与えると、豚に関しても脂質からくどさが消え、また臭み物質もかなり消えていくようだ。これはオリーブ牛も同じ傾向で、黒毛がもっているシツコサが一切なくなるのである。
ただ、それがいいことなのかどうかというのは難しい。というのは、オリーブ夢豚、旨味も淡く感じてしまう。通常の夢豚は、さまざまな匂いやコク、旨味が感じられて美味しい。そしてオリーブ夢豚はその辺の雑味成分がなくて、いってみれば高音域だけがきこえる透明な味。ノイズがなくなったことで、厚みが消えてしまった感があるのだ。
これは某県で一緒に取り組んでいる銘柄豚の開発でも感じたことで、臭みをとりさっぱり系の豚肉にする副次飼料がいろいろあるんだけど、それをやり過ぎると、旨さも消えてしまうのだ。
オリーブ夢豚はそのギリギリ線上にあると思う。というのは、塩だけで食べるとその繊細で清浄な味わいがきわだつが、醤油やBBQソースのごとき、複雑系の調味料をあわせたが最後、調味料の味わいしか感じなくなってしまうのである。
だから、このオリーブ夢豚は使い手が料理の仕方をよほど考えてくれないと、取扱の難しい肉になるな、と感じた。いや、とってもさっぱりあっさりした味の豚肉が好きだったらいいんだけどね。サッパリ系の豚肉としてはかなりその頂点といえる肉質にはなっているから。
特筆すべきなのは、さっきも書いたが保水力がハンパじゃないと言うことだ。下の写真を見て欲しい。
上が通常、下がオリーブ。言いたいことがわかるだろうか?通常豚のほうは脂だけでなく血の混ざった肉の水分が皿に漏れているのだが、下のオリーブ夢豚の方の皿は、油分と表面ににじみでた焼き汁以外の溶脱がみられない。
つまり、オリーブ粕飼料によって細胞が健全になるのか、細胞が水分を抱き込む力がハンパないのだ。ということは、この肉は長期熟成にとても向いているはずだ。
豚のドライエージングは、牛のようにナッツのような香りこそつかないが、脂肪が溶けやすく透明感のある味わいになり、肉質は絹の繊維のような柔らかさに変化する。そして、牛の例で考えると、水分の多い牛で細胞の健全な個体は、エイジングで劇的に変化することが多い。
オリーブ夢豚を、きちんとした熟成庫で2週間ほどエイジングしてみてはどうだろうか、と不と思ったのであった。関係者各位、いかがでしょうかね?
ともあれ、ご馳走様でした! 通常夢豚もとても美味しかった。トンカツにするならこっちだね。