東京で美味しいドライエージングビーフを出す店、どこがお薦め?とよくきかれる。そのたびに「うーん」とうなり、難しいんだよなぁ、、、と詫びることが多かった。数店はあるのだけれども、どこも予約を取りにくいからだ。その最たる店がカルネヤで、牛込神楽坂の中腹、アクセスの悪い場所なのに、連日満員で席が取れない。
シェフの高山君はいっしょにNYにも行った仲で、うちがやっている熟成肉がらみのイベントにもたびたび登場してもらっている。
「はやく新しい店舗だしてよ~」
「そうしたいのはやまやまなんですけど、物件がないんですよ~」
という状態が続いていた。それがやっと、西麻布で居抜き物件を手にすることができたのだ。しかも店名を見れば分かるとおり、NYスタイルのドライエージングビーフのパイオニアである「さの萬」さんのバックアップ。黄金コンビである。
じつはプレオープン初日に顔を出そうと思っていたのだが、佐野さんから「やまけんさん、その日はオペレーションがめちゃくちゃになると思うので、すこし待ってからにしていただけませんか」と。ええええええええええええええ、どうせなら初日がいいのに、、、と思ったんだけど、まあそういうことなら仕方が無い。ということでイブに行って参りました。
高山君、本当におめでとうね!
六本木から西麻布の交差点を左に曲がって60メートルほど。
中2階に上ると、、、
はい、ここがカルネヤサノマンズです!
プレオープンで席数はゆったりめに少なくしているのかな?おそらく詰めれば40~50人くらいは入れそうな店内。
店内入り口には、宮崎県の冷蔵庫メーカーであるフジキンがいま研究中の冷蔵ショーケース。ここはいま、一台で熟成が完結するシステムを開発しようとしているのだけれども、これはおそらくショーケース。高山君は自社熟成を試みて、数百万円分の肉をダメにして「こりゃ無理だ」ということで信頼できる業者さんから仕入れる方向に転換した。それは正しい判断だ。
熟成庫内にはさの萬熟成のドライエージングビーフ(DAB)がずらりとならぶ。ちなみに、この辺の肉の入荷状況は日によって変わるはずなので、あくまでプレオープン試運転中のラインナップと思ってください。
ご覧の通り、骨付きのLボーンDABとモモ肉DABがメインである。
ちなみにLボーンはロースの骨付き。ドライエージング熟成では骨付きであることがとても大事だ。これはNYの熟成業者にもよく言われたことだが、骨があることで水分の余分な蒸散を防ぐだけではなく、熟成の進行上で意味があるということだ。同じことをサカエヤの新保さんも先日のブログに書いておられた。
この"ばん"の大きさからいって、さの萬が誇るサーロインの熟成でしょう。前田牧場からの肉だろうか。
こちらは骨から外したいわゆるサーロイン。
この真ん中のがおそらく北十勝ファームの短角牛のランプだろう。
ランプはもう一種、なんと北海道産の交雑牛(F1)のもあるという。
ところで店の方はホールスタッフが2名、中には3人入っていたと思うんだけど、それに加えて美しき女性が、、、
「あ、やまけんさん、うちの嫁さんです」
おおおおおおおおおおおおおおおお! なんとキューティーなご妻君! プレオープン中、しっかりヘルプに入っているとのこと。これぞ内助の功ですな。
さて、年内はあくまでプレオープンなので、メニューは基本7000円(税別)のコース一つのみ。
前菜三皿にステーキ、デザートというコースだ。物足りないと思う人もいるかもしれないが、あくまでオペレーションを立てている段階なので、いまこの状態を実力として判断はしないようにお願いしますね。ていうか、全然ものたりなくはないんだけど(笑)。基本、年明けのグランドオープンを待って行くことをお薦めします。
それにしてもメニューの最初にクラブケーキが載っているのがまさにNYっぽい。クラブケーキにシーザースサラダ、肉はさの萬Lボーンと、オプションで交雑牛のランプをすこしいただくことにした。
クラブケーキって本当に不思議な料理だ。それほどボリュームがあるわけじゃないし、フワッとしたなんともいえない一皿だけど、美味しい・不味いの差がとても激しい。
もちろん高山君の作るクラブケーキは旨い! カニの身もいっさい臭み無く、スキッとした味だ。ガルニのカブの火入れがまたちょうどよく、瑞々しい。
肉料理ばかりが有名な高山君だけど、実は前菜や煮込みも旨いのである。
イケイケ風のソムリエ君のお薦めワインもビシッと決まっています。この新店のために人材募集しているとき、なかなかいい人が集まらないと悩んでいたけど、結果的にいいスタッフが来たみたいだね!
短角牛の温製カルパッチョ仕立て。
微妙に熱の通された短角和牛のランプ、やはり北十勝ファームの育て方・環境そして餌の特性が反映されていて、とても綺麗な肉質だ。カルパッチョ仕立てはとても合っている。
茶色のソースは、野菜類を200倍に煮詰めて優しい旨みを凝縮したもの。これが実に清らかな短角のランプに合うのである! 文句なしで旨いぜ、、、
さの萬さんお得意の萬幻豚ベーコンを厚く切ったのが乗っているシーザースサラダ。佐野さんが趣味的に作ったベーコンだけあって(笑)、タンパクを加水されていないから実に旨い!
今度はベーコンダブルでお願いします。
さあて、これが本日のお肉。
いや~実に乳用種ですな。手前がホルスタインのLボーンで奥が交雑種のランプである。ちなみに交雑種とは、ホルスタインに黒毛和牛を掛け合わせたもの。最初から母牛が足りている農家は、生まれてくる子牛を肉にすることに決めているので、すこしでも肉の価格を上げるために黒毛の精液をつけるのですね。だからホルスタインよりはサシが入るのだけれども、佐野さんが手がけた交雑は初めて食べるなあ。
ちなみにこの店では日本に輸入されるのが初めてになるロースターを使っているようだ。牛込神楽坂のカルネヤに行ったことがある人ならおわかりのように、高山君は炭火の直火で肉を焼いていた。もちろん彼はどんな熱源でも肉を焼けるのだけれども、炭火焼きが彼の持ち味だったと思う。
それを今回はやらずに、あえてNYのステーキを出そうと決めたのだろう。このロースターによる焼きがどんな感じなのかに興味があったのだ。
彼の後ろにあるのがそのロースター。今度焼いているとこも見せてもらおうと思う。
付け合わせはこれまたNYっぽいマッシュポテト。
奥には特製のガーリックマスタードに塩。
ということで、やってきました!
いや~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
実にいい火入れでないの!
「いや今回導入したロースター、すごく使いやすいんですよ!ちょっと前の店の炭火とはちがう感じに仕上がりますけど」
という。
まずは手前の交雑牛から。ちなみに熟成は40日だ。
肉の特性だろうか部位によるのだろうか、熟成香はあまり立っていない。DAB特有のしっとりかみ切れる柔らかさというよりは、火の入った赤身肉特有のしっかり歯が食い込むような食感だ。
「そうなんですよ、僕もこういう交雑になっているとは思わなかったんですけど、食感が独特で美味しいですよね!」
うん、これはとにかく赤身を食べたい!という人には最適だ。サシの少ないランプなので、油分の代わりに先のガーリックマスタードを少しつけると、旨さが際立つ。
そして、安定のさの萬Lボーン。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
これだね!!!!!!!!!
まさにこれこそがNYスタイルのドライエージングビーフです。ごらんのフォークの根元側、脂というよりはスジの部分なんだけど、グミのようにネットリとした食感に溶けている。香りもほどよく、味わいも深い。
とても美味しいです。
それにしても、たしかに炭火焼きとは全く違う味わいだ。炭だと、高火力ではあるけれども、直線的に熱が入っていく感じで、水分流亡がより少ないのだろうか、今回のロースターはその点、まんべんなく火が回っている感があって、均一性を感じる。つまり、どこのピースを食べてもムラがない感じ。それを起伏がないと感じる人もいるかもしれない。
この辺、グランドオープンまでに調整がかかっていくことだろう。それにしても、導入して一ヶ月もたたないのに、新しい道具でよくここまで焼く。
「やまけんさん、足ります? ラグーのパスタ食べますか?」
えっ あるの!? ちゃーんと隠し球があるのでありました。
高山君の造るパスタは絶品なのだ。しかもこれ、ラグーの肉はぜーんぶDAB。
美味しゅうございます、、、文句なし!
パンナコッタとティラミスをとって、もう何も言うことありません。
ということで、試運転中のカルネヤサノマンズ。1月にはグランドオープンになるので、そこからが本気モードである。
どうしても年内から行きたい!と言う方は予約の電話をね。
「いや~、一週間ほど前に、右手がまったくなにも感じなくなっちゃったんですよ。」
ええええええええええええええええ? 病気?
「いや原因がわからないんですけど、いまは動くようになりました。やっぱり心ですかねぇ、ハンパなく緊張続いてましたから、、、」
そうだよな、と頷くと、横のおくさまがクスッと笑って「もう寝てる間も大変なんですよ、このあいだ『ペルファボーレ!』って叫んでました(笑)」
おおおおおおおおおおおお
高山いさみ39歳、勝負の時だねぇ!大丈夫だよ、みんな応援してるから! なんてったって、ようやく東京に、安心して食べられるドライエージングビーフステーキのレストランができたのだから。
高山君、スタートアップのこの時期、胃がきりきり痛む日々だろうけど、頑張って!
安定の味、ごちそうさまでした!