また一人、偉大な生産者が逝ってしまった。
築地勝美さんのことは、ブログではあまり書いていないようだが、この辺をみてもらえると僕の関係がわかると思う。築地さん、いやカッちゃんに初めてであったのは1995年のこと(!)だから、なんともう19年か。そのお茶の姿と味の素晴らしさに感動し、これが本当の煎茶なのかと開眼するきっかけとなった人だ。
あまりに豪快で、ガキ大将がそのまま大きくなったような人だった。僕は彼の家に泊まりに行ったことがあって、その晩、夕食で出してくれたのが、乾しシイタケ用の椎茸をフライにしてくれたもの。これがあまりに旨くて、いまでもその味が記憶に残っている。
そのカッちゃんが亡くなった。身体を悪くしていたのは前からだったが、前兆はなかったようだ。ゆったりできる趣味の日、その出先でひっそり息を引き取ったらしい。苦しまずに、趣味の世界で逝けたのはなんともカッちゃんらしい。
カッちゃんの訃報を知らせてくれたのは、僕が信頼するお茶販売の「錦園」を率いる石部健太郎さんだ。彼の錦園でのイチオシ商品がカッちゃんのお茶なのである。石部さんと僕はかつてカッちゃんの持っている畑の一番高いところにある東頭(とうべっとう)という茶園に一緒にのぼらせてもらった。
ちょうど石部さんは三越本店の催事で、茶を販売にきていたのだ。
「え、じゃあカッちゃんのお茶、あるんですか?」
「ああ、ありますよ。取り置いておきましょう。」
なんたる幸運。これからカッちゃんを識っている人の間で、彼の茶の争奪戦が始まると思うので、とりあえず買えるものは買ってしまおうと思ったのである。ちなみに築地勝美の東頭の茶は、100gで1万円が通常価格である。そういう評価の茶なのである。
「催事だから笑顔を作らないといけないのが、辛い」
と漏らしていた石部さん。そうだよね、お客さんの前で悲しめないよね。
せっかくだから呑んでいきなよ、と彼の素晴らしい茶芸を味わせていただく。
東頭の最上級茶を惜しげなく特製の急須にいれ、お湯を注ぐかと思いきや、なんと水出しである。それもあまり抽出に時間をかけない。
この茶が、、、もう言葉にできない。超絶に上品で深みのある出汁である。二煎目は温度の高いお湯でいただき、5煎目くらいまで美味しく味わった。
水で出すというのはタンニンの出ない、甘いお茶をだす技法だが、それを愉しむ茶器がいろいろあって実に工夫されていた。
さて、これが大人買いした茶だ。
もったいないけど、東頭(とうべっとう)をいただく。品種はヤブキタとオオムネが6:4程度。
今回は水出しではなく、ゆるゆるにゆるめた湯で抽出した。うちの部下にも飲ませたが、なにもいわないのに「お出汁みたいですね!」とビックリしていた。
彼の茶は、飲み終わると針金のようなビンとした茶葉がゆるんで、一枚の葉に展開する。深蒸し茶では味わうことのできない、本来の茶の味がするのである。
カッちゃん、あなたに会うことができなくなって本当に寂しい。でも、あなたの技を受け継ぐ後継者ができて本当によかったね。しばらく、あなたの遺した茶を味わい、偲ばせてもらいます。
心からご冥福をお祈りします。