先週号の告知をし忘れていました。友人の多い業界のことを書くのは気が引けるんですが、美味しいハムソーを食べたいので、希望を込めて。
この日本には、素晴らしい食文化と郷土のたべものがある一方で、非常に残念なたべものも多く存在する。その一つがハムやベーコン、ソーセージといった豚肉加工品である。日本の食肉業界ではこれらを「ハムソー」と呼ぶ。
僕が中学生の頃、英語塾の先生がカリフォルニア土産に、真円形にパックされたハムをどかーんと買ってきてくれた。それを切り分けて食べて心底驚いた。これ、豚肉と塩の味の味がする!日本のハムのうすぼんやりした味とは違い、ビシッと主張する塩味に、食感からきちんと肉の繊維が感じられる、食べ応えのあるハムだった。その時初めて、ハムやソーセージは豚肉からできているたべものなんだ、という実感が湧いたのだ。
大人になってから海外、とくにヨーロッパへ行くと、ホテルの朝食ブッフェではハムや薄切りにしたソーセージ類がコールドミートで並び、カリカリに焼いたベーコンが並ぶ。それらを食べて「あれ、日本のと違う」と思った経験はないだろうか。何が違うのかを説明するのは難しい、けれども総合的な味わいがどうも違う。一言で言えば明らかに「肉の味がする!」し「肉の食感がある!」のである(もちろん安いホテルでは違うかもしれないけれど)。
9月上旬、僕は調査のために、初めてのイギリスを訪れていた。「イギリスの食事はあまり期待するな」と各所で書かれているからどんなものかと思ったが、意外というかなんというか、滞在中の食事機会のほとんどで美味しい思いをした(むろん、「これが不味いイギリス料理かぁ!」というのもありはした)。中でも「これは日本と比べものにならないほど美味しい」と思ったのがハム・ベーコン・ソーセージである。ハムやベーコンは豚肉を塩漬けし、適度な味になるまで塩を抜き、それを燻製にしたりボイルしたりしたもの、というのがはっきりわかる「豚肉に手をかけたもの」だった。これと比べると日本のベーコンはカマボコか?と思ってしまうものが多い。
これは気のせいではないようだ。古くから肉を長期間保存し、美味しく食べるための知恵を蓄えてきたヨーロピアンのハムソー文化は、やはり今もその美学を持ち続けているのだろう。何より、それを食べる生活者の舌がきちんとしていて、ヘンな製品が出回ることを嫌うのではないだろうか。
対して日本でホンモノのハム、ベーコン、ソーセージに出会うことのなんと少ないことか。例えばスーパーで売られているペラリと薄いハムをサンドイッチにしても、肉を食べているという感覚をあまり感じられない。カリカリのベーコンを焼こうとフライパンで時間をかけて焼いても、縮んでいくばかりでいっこうにカリカリにならない。ウインナーからは、どうにも肉以外の味が強すぎる。日本のハムソーは何か変な味と食感だとしか言いようがないのだ。
だいいち値段がおかしい。国産豚肉の店頭価格は、ロースのスライスが100gで200円はする。もし原料が安価な輸入冷凍肉であったとしても、仮にも豚肉を使い、手をかけて付加価値をつけたはずのハムソー商品が、なぜか国産豚肉のグラム単価と同じくらいの値段で売られているのである。原料にさまざまな加工を施しているということは、値段が上がって然るべきなのに、どうして安く売ることができるのだろう?
実は、日本のハムソー類は、きちんと選ばない限り、買った方が損をする商品になってしまっているのだ。
続きはブロマガより記事購読をお願いします。
■たべもの最前線
http://ch.nicovideo.jp/tabemono